Waseda Weekly早稲田ウィークリー

キャリアコンパス

「絵がヘタでも負けるか! 」で得た仕事 イラストレーター 宮田翔

恐怖と焦りに打ち勝った、自分の「好き」への興味と自信

イラストレーター
宮田 翔(みやた・しょう)

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フリーランスのイラストレーターとして、雑誌やカタログのイラストレーション、Tシャツブランド「BEAMS T」のデザインなどを手掛ける宮田 翔(みやた・しょう)さん。だが、早稲田大学在学中、学部でもサークルでもイラストの理論やテクニックを本格的に学んだことはなかった。文化構想学部出身の宮田さんは、どのようにイラストの道へと進んだのだろうか。

少しずつ「自分の好きなゾーン」が分かっていった日々

170407_055_2高校時代はラグビー部に所属し、体育会系だったという宮田さん。大学では文化的なことに触れてみたい、と選んだ進学先が早稲田大学文化構想学部だった。

「美術の本を読むのは高校時代から好きで、自分とは違う世界だからこそ憧れがありました。その憧れから、文化構想学部では美術史や映像系の授業をたくさん履修していました」

やがてその興味は、「見る・学ぶ」というフェーズから「自分でも作ってみたい」へと変わり、大学2年時、アルバイトでためたお金を学費に充て、ダブルスクールとして服飾専門学校「ESMOD JAPON 東京校」に入学した。

「洋服が好きだから、という単純な理由と、手に職が付けばいいなぁくらいにしか当初は考えていませんでした。でも、先生と馬が合ったのか、結構褒めてくれてたんです。体育会系だと思っていた自分が初めて、『文化系も意外といけるかも』と思えたことで、大学を辞めて、しっかり洋服の道に進んでみようと考えました」

だが、結果的に大学を辞めなかった宮田さん。その理由は、専門学校の先生からの「自分が何を好きでどんなものを作りたいのか。時間がある大学生のうちに固めた方がいいよ」というアドバイスだった。

「あらためて、『僕は何が好きなんだろう?』と考えるきっかけになりました。そこで、授業の時間以外は図書館に入り浸り、大学以外でも本屋や展覧会に通い詰めて、自分のアンテナに引っ掛かりそうなものを探しました。そのうちなんとなく、こういうモノや作家が好き、ということに気付くんです。そして、好きな作家を見つけたら、同じジャンルの作品や関連性がある作家へと興味をスライドさせていくと、少しずつ『自分の好きなゾーン』が分かっていったんです」

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ファッション雑誌などで人気が高い写真家・アーティスト、マーク・ボスウィックの写真集『Not in Fashion』(右)

中でも、宮田さんに大きな影響を与えた“出合い”が、写真家マーク・ボスウィック(Mark Borthwick)の写真集『Not in Fashion』。そして、マーク・ボスウィックの作品がよく掲載されていたフランスのファッション誌『purple(パープル)』を見て知ったアーティスト・五木田智央(ごきた・ともお)だった。

「特に五木田さんに関しては、『こんな人いるんだ!』と衝撃を受けました。それまでは、写真と洋服が自分の興味・関心だったんですけど、『絵も面白そう』と思えたきっかけは五木田さんの作品。まさに、自分がイラストレーターになる上でのターニングポイントでした」

絵はヘタクソでも、ファッション観では負けないように

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少しずつ、イラストへの興味が大きくなっていった宮田さん。大学後半になると自分でもイラストを描き始め、卒業後に選んだ進路は予定していた服飾の学校ではなく、美術学校「セツ・モードセミナー」(2017年4月に閉校)だった。

「『セツ・モードセミナー』には2年間通いました。といっても、イラストについて具体的な指導を受けるわけではなく、みんなで描いてみましょう、というスタイルの学校です。自分の進む道はこれでいいのか。そもそも絵の描き方はこれでいいのか。かえって不安になりました。だって、明らかに一番ヘタクソでしたから。悩みというよりも恐怖と焦り。大学時代の同級生はみんな働いているわけですし、自分はどうなってしまうんだろう、とただただ怖かったのを覚えています」

「THE 100 STYLISH MOVIES for MEN of ALL TIME」挿絵【HUGE No.101 「HOLY CINEMA」(2013)】

「THE 100 STYLISH MOVIES for MEN of ALL TIME」挿絵『HUgE』No.101 「HOLY CINEMA」(2013)より

そんな恐怖の日々でも一つだけ見失わなかったことがある。自分自身の『好き』に対しての興味と自信だ。

「明らかに僕よりも絵はうまい人が、『いつかファッション誌で仕事できたらいいよね』と会話しているのを耳にする機会がありました。でも、その割にはその人、洋服の興味が薄いんです。だったら、僕はそこだけはしっかり描けるようにしよう、と。絵はヘタクソでも、ファッション観では負けないように。そこだけは譲れない! と思っていました」

学校以外はアルバイトが週5日。毎日、深夜1時頃に帰宅し、そこから朝の5時まで描く。「今同じことをやれといっても、できないですね(笑)」と宮田さん自身が振り返るほど、取りつかれたように描き続ける日々が続いた。そして2年後、「セツ・モードセミナー」ももうすぐ修了、という時期に宮田さんに届いた一通のEメール。雑誌『HUgE』(※)の映画コーナー用の挿絵を描く仕事依頼だった。

※講談社発行の男性向けファッション誌。2003年創刊、2014年休刊。

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初仕事となった『HUgE』の誌面

「学校の終わりが見えてきて、みんなどうやって仕事を見つけてるのかなぁ、ブログとかに作品を載せているなぁと、見よう見まねでブログを立ち上げ、少しずつ描いた作品をアップしていたんです。それをたまたま編集者が見つけてくれて、いきなりメールが来て……。『HUgE』は、僕が中学の頃からずっと好きで見ていた雑誌だったんです」

いつかここで描いてみたい、という、まさに夢の舞台からの初仕事の依頼。「詐欺メールかいたずらじゃないか」と本気で疑ったという。

「指定された打ち合せ場所に行ってみたら編集部があって、『うわっ、本当なんだ!』と。そこで20カット近くイラストの依頼をいただいて、『全くの新人に思い切ったことするなぁ』と思いましたね」

170407_064突然舞い込んだ初仕事から、もう5年。仕事が仕事を呼ぶ形で、宮田さんはイラストレーターとしての地位を確立していった。このまま仕事は途切れないか? もっと横のつながりは持たなくていいのか? といったフリーランスならではの悩みは抱えつつ、現状では仕事で超多忙な日々を過ごしている。恐怖や焦りの時期を経て、目標の仕事と生活を手に入れた宮田さんが、今現在、将来への不安を抱える学生に送るメッセージは何だろうか?

「うっすらとした興味や憧れはありながらも、『自分とは違う世界の話』だと思って、何かを諦めている人は結構多いんじゃないでしょうか。僕自身がそうでした。でも、自分の『好き』や『関心』を意識して生活していると、意外とその方向に行けるもんだなぁ、というのをあらためて感じます。だから、一大決心をする、といった大きなことじゃなく、まず自分の好きなものがある場所に行ってみる。そこから始めてみればいいんじゃないかなと思います。大学生って、不思議な立ち位置なんです。何者でもなく、何にでもなれる。それって、すごいことですよ」

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書籍『デザインが素敵な、ロンドンのショップ』(パイインターナショナル)扉イラスト(2016)

 

170407_068【プロフィール】

宮田 翔(みやた・しょう)
1987年福岡県生まれ。福岡県立修猷館高校を経て、2007年、早稲田大学文化構想学部に入学。在学中にダブルスクールで服飾専門学校「ESMOD JAPON」に通う。2011年、文化構想学部多元文化論系卒業。同年4月から美術学校「セツ・モードセミナー」に通いながら、フリーのイラストレーターの道を歩み始める。現在は雑誌やカタログのイラストレーション、BEAMS TとタイアップしたT シャツのデザインなどを手掛けている。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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