Waseda Weekly早稲田ウィークリー

「自粛中のひとり練」特別な一年が固めた箱根への結束 競走部・千明×中谷

この夏、男子マラソン日本記録保持者の大迫傑選手(2014年スポーツ科学部卒)が主催した「Sugar Elite」の短期キャンプに参加し、世界レベルを肌で感じた競走部所属の千明龍之佑選手と中谷雄飛選手(いずれもスポーツ科学部3年)。来る「第97回東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根駅伝2021)」でも当然、主力としての活躍が期待されています。後編では、過去2年、箱根駅伝を実際に走ったからこそ気付いたこと、コロナ禍でのトレーニング、今大会への意気込みについて語ってもらいました。

※インタビューは11月中旬に行いました。

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コロナ禍で気付いた「自主性」と「チームで走る」重要性

コロナ禍で気付いた「自主性」と「チームで走る」重要性

新型コロナウイルスの影響で4月から6月にかけて競走部合宿所(寮)が一時期閉鎖されたり、夏の合宿が組めなかったりと、異例のシーズンになりました。これまで特に大変だったこと、どんな練習を積んできたかを教えてください。

千明
例年、追い込んだ練習ができる避暑地での合宿が中止になったこともつらかったですが、これまでで 一番大変だったことは、寮の閉鎖により実家に戻って練習するとなったときに、一緒に練習する相手がいなかったこと ですね。練習パートナーがいないとモチベーションも上がりにくく、練習の強度も当初は物足りない部分がありました。

ただ、6月に寮に戻った後、7月の記録会では千明選手は自己ベストを更新。練習量が物足りない中で自己ベストを出せた要因は?

千明
強度が下がった分、負荷を下げてじっくりと長い距離を走る練習に取り組むなど、焦らずベースをつくることができました。6月に寮に戻ってきて以降、そのベースの上に強い負荷の練習が加わったことが自己ベストにつながったのかなと。
地元の群馬県・赤城山の山頂にて。千明選手は活動休止期間中にここで練習をしていたという(写真提供:早稲田大学競走部)

こういう機会だったからこそ伸びた部分、気付けた部分は?

千明
一人で走ることがあまり苦ではなくなった気がします。慣れたというか、寮に戻ってからも一人でジョグする機会が増えました。環境や状況に甘えず、走ることに向き合えるようになったという意味でも、「自主性」は間違いなく向上した と思います。
中谷
僕は長野県の諏訪市出身で、実家近くには諏訪湖があるので、その周りをずっと走って練習していました。走る環境としては申し分ない中、平日のポイント練習は一人でやることが多かったので、いかに強度を上げていくかはやはり大変でしたね。

ただ僕の場合、地元に牛山純一(※)さんという最強の市民ランナーがいたことが助かりました。練習に誘ってくれた牛山さんには、とても感謝しています。母校(佐久長聖高)も大会がない代わりにとタイムトライアルを開催してくださって、そういうところで常に目標を持ち続けることはできました。

結果的に、寮にいるときよりも練習量は確保できていたかもしれないです。いつも以上に陸上に集中することができ、今までで一番走り込みもできました。
活動休止期間中、諏訪湖周辺での中谷選手の練習風景(写真提供:早稲田大学競走部)

※牛山純一氏:愛知工業大学時代、出雲駅伝、全日本大学駅伝に出場。現在は長野県の茅野市役所に勤務しながら、2019年に35歳で2,000メートルの長野県記録を更新。

個人種目である陸上長距離は練習も一人でできるもの、というイメージを持っている人が多いと思います。でも、話を聞いていると、チームとして一緒にやること、誰かと一緒に走ることが重要なんですね。

千明
競技特性的には一人でできる種目ではありますが、練習では常に誰かと競り合って伸びていく、伸ばしていく種目 です。

寮が閉鎖されてみんなバラバラになり、練習環境をつくることが大変だった部員もいたとは思いますが、長距離ブロックでいえば、ミーティングをオンラインで週に一度は実施していましたので、練習や目標の共有はできていました。そういうところで支え合うことはできていたと思います。
中谷
そうですね。Zoomを使って他のみんながどんな練習をやっているかを把握できました し、それぞれの週間・月間の走行距離も共有していました。この選手が頑張っているから自分ももっと頑張らないといけないと、いい意味で支えになったというか、張り合いもありました。「チームっていいな」と思えたことは、コロナ禍になって再確認できたこと だと思います。
3年生の学年会での1枚。寮近くのなじみのお店「マリーナビレッジ」を営むご夫婦と(2019年秋に撮影、2列目中央が千明選手、左から2人目が中谷選手)(写真提供:早稲田大学競走部)

全日本大学駅伝で手にした自信と課題

全日本大学駅伝で手にした自信と課題

第52回全日本駅伝(2020年)を走る中谷選手(写真提供:共同通信)

今年は大学3大駅伝(※)のうち、出雲駅伝は中止に。ただ、11月の全日本大学駅伝は無事に開催されました。その全日本についてお聞きします。中谷選手は3区で区間賞をとり、チームも5区までは1位でしたが最終的には5位。この結果をどう振り返りますか?

※出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝競走)、全日本駅伝(全日本大学駅伝対校選手権大会)、箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)の3大会。

中谷
駅伝での区間賞は大学に入って初めてだったので、ようやく変な呪縛から解き放たれました。「エースなんだから区間賞は取らないとね」という声は聞こえていましたし、自分自身もプレッシャーを感じることも正直あっただけに、今回区間賞を取ったことで肩の荷がすっと下りるというか...。プレッシャーから解放されつつも、ようやくトップで戦えるスタートラインに立てた かな、というのが正直な感想です。

ただ、チーム目標として「3位以内」を掲げた中での5位という結果には物足りなさを感じています。僕は「目標は達成するべきもの」だと思っているので、レースの流れももちろんありますが、5番という順位でゴールして喜んじゃダメだよなと。

千明選手は今回、けがで出場できませんでした。一歩引いた立場で感じた全日本の結果、チーム状況をどう見ましたか?

千明
まずは、例年よりも他チームのレベルが上がっている なと感じました。序盤をトップで走っていたと言っても終盤までもつれたので、あまりトップを走っていた利点を生かせなかったですね。

前半で逃げるというプラン通りのレースの入りができたことには自信を持ちつつ、主力以外の選手がまだまだ他大学とは戦えていない状況です。箱根は全日本よりも2つ区間が伸びるので、そういった部分でより差がついてしまうなと客観的に感じました。
中谷
どの大学も、選手一人一人が活動休止中に意識を高く持って練習していた、ということですよね。だからこそ、大学駅伝のレベルも高くなったのかなと感じます。
千明
そんな中、今回、僕のけがで理想的なオーダーを組めなかった状況でもみんなよく戦ってくれたという感謝もありますし、まだまだいける、伸びしろがあると感じさせてくれるレースだったと思います。

千明選手の言葉からは、チーム全体のことがよく見えている、という印象を受けます。今年1月の箱根駅伝レース中も、千明選手が中谷選手に「来シーズン以降、自分たちの代がもっと中心になって引っ張らないとダメだ」と話し掛けていた、と聞きました。次の駅伝主将になることも決まっている千明選手ですが、チーム全体のことを考える視点はその頃から?

千明
往路が終わって次の日の復路の応援をしながら、確かにそんな話を中谷としていました。それから、全体ミーティングの中でも話したり、こうした方がいいんじゃないかというのは4年生にも相談したりしています。

というのも、今年の箱根ではチームとして7位という成績で、2年ぶりにシード権を獲得したことに満足していた印象があったからです。そこに僕自身は少し焦りを感じて、「このままだと周りに置いていかれる!」 と。実際、これまで3位以内という目標を掲げてきていますが、僕たちが入学してからまだ一度もクリアできていません。そこは今度の箱根で絶対に達成したいと思っています。

そして、自分たちの代は優勝を狙えるチームだし、狙わなくてはいけない。優勝したいという目標があります。それをいかに1年間を通してチームに伝えていけるかが大切です。箱根2021はもちろんのこと、その先も見据えて、高い目標意識をチームに反映できたらと思います。

次期駅伝主将の千明選手を隣で見て、中谷選手はどう思いますか?

中谷
頼りになる同期だと思っていますし、そういう思いがあるからこそ次期駅伝主将として名乗り出てくれたのかなと。もちろん、千明だけでチームを引っ張れるわけではないので、僕も含め、同期でしっかりサポートしてチームをうまく引っ張っていきたい。その結果として、目指しているものが達成できたら一番いいんじゃないかなと思います。

いざ箱根へ。画面越しでも伝わる走りを目指して

いざ箱根へ。画面越しでも伝わる走りを目指して

箱根駅伝2020では1区を走った中谷選手(左)と4区を走った千明選手(右)(写真提供:早稲田大学競走部)

間もなく箱根駅伝です。先ほど、「目標は達成するべきもの」という中谷選手の言葉もありましたが、あらためて今回の箱根の目標と、そこに向けてやっていくべきことを教えてください。

中谷
箱根に対して特別にアプローチするというよりは、1万メートルの延長線上で考えています。11月の全日本までは、スケジュールの中でトラックレースも何本か挟むことができていました。ここから先は、これまで走ってきた部分を土台として、さらに量を追い求めるアプローチをしていこうかなと思っています。
千明
僕は全日本に出られないとなった時点で、もう箱根に合わせようと決めていました。けがもほとんど癒え、地道に少しずつ階段を上ってきている状態です。

また、チームとしても昨年よりレベルが上がり、練習の質も上がって、とてもいい雰囲気があります。そこに僕が加わることでさらに盛り上げて、チームとして3位以内という目標をどれだけリアルにイメージできるかが大切です。ここから練習量もさらに増えていく段階なので、そこでチームをより一つにまとめていけたらと思います。

2人とも1年生のときから箱根駅伝を走っています。実際に走ったからこそ気付いた箱根の魅力、大変さはどんなところでしょうか?

中谷
他の大会と比べると注目度も高いですし、応援もすごい! というのが走ってみた率直な感想です。その 応援の分、他のレース以上に力が発揮できる ような印象があります。
千明
3大駅伝の一つですが、僕はそこまで特別視はしていませんでした。でも、実際に走ってみると他の駅伝とは別格の盛り上がりというか。注目度も違いますし、中谷が言うように、沿道からの声援という部分では本当に特別な大会 です。その声援をうまく自分の波に乗せられれば、自分の力を最大限に発揮できる場所だと思います。

今大会は、その力を与えてくれていた沿道応援の自粛が求められる状況です。それでも、応援したいファンは大勢います。そんなファンに向けて、メッセージをお願いします。

中谷
早稲田大学の競走部としても、長距離ブロックでも、それぞれTwitterのアカウントを持っていて、レース前には「今日はこのメンバーでいきます」といったことを日々発信しています。他大学でも今はそういった情報発信を心掛けて、大学駅伝そのものを盛り上げていこうという機運があります。

また、僕や千明にしても、個人のSNSを持っています。そういったツールを通して応援コメントをいただけると本当にありがたいですし、力になります。僕ら以外にも、個人SNSで情報発信している選手は多いです。コロナ禍ならではの新しい応援スタイルが根付くことにも期待しています。

現地で応援できないことを残念がる方もいらっしゃると思いますが、レース全体の流れを見たり、各選手がどんなペースで走っているのかに注目したりといったテレビでこそ分かる駅伝の魅力を味わっていただきたいです。

競走部長距離ブロックは例年、代ごとにTwitterアカウントを作成して情報を発信している

千明
その中で、僕たちはテレビに少しでも長く映れるように先頭集団を走り続けたい。また、それぞれの区間を任された意味というのがちゃんとありますので、この選手は下りが得意なんだ、上りがすごく速いな、といった区間ごとの選手の走り、レースの展開をじっくり見ていただければ面白い のかなと思います。

今回はぜひ、こたつの中で箱根駅伝を楽しんでいただければ。僕らも、画面越しでも気持ちが伝わる走りをしていきたいと思います。

その意味で、何区を走りたい、という希望はありますか?

中谷
僕は3区か4区。これまで2年連続で1区を走り、前回大会で僕がやりたいレースはできたので、もう悔いはないというか。今度は他の区間で燃え尽きるほど走ってみたいです。
千明
僕は1年のときが3区、前回は4区を走りましたが、希望は前回同様4区です。ただ、実際には7区か8区かもなぁと勝手に想像しています。4・7・8のどれかでチームに貢献できればと考えています。

もしかしたら3区・中谷選手から4区・千明選手へのタスキリレーがあるかもしれないですね。

千明
そうですね、僕ら2人でタスキをつなぐのが理想 です。

タスキを渡す瞬間というのは、どんな気持ちでつないでいるのでしょうか?

千明
声は掛けますけど、それ以上に思いや気持ちが伝わるというか...。掛けられた言葉は覚えてないんですけど、そのときの表情だったりで伝わってくるものがあります。
中谷
僕がタスキをつなぐときに考えるのは「あとは任せた」というか、「自分はやるべきことをやったからあとは頼む」という感じですね。もし、僕個人がやらかしたらやらかしたで「やっちまったな...」と思いながら(笑)、「あとはなんとかしてくれ!!」と託しているはず。

そんなことにはならない走りを目指しますが、そういった表情も含めて、テレビならではの箱根駅伝をぜひ楽しんでいただきたいです。
プロフィール
プロフィール

千明 龍之佑(ちぎら りゅうのすけ)

2000年3月3日生まれ。169センチ。群馬県出身。東京農業大学第二高等学校卒業。スポーツ科学部3年。自己記録は、5,000メートル:13分54秒18。1万メートル:29分03秒19。ハーフマラソン:1時間3分40秒。2019年箱根駅伝3区:1時間3分30秒(区間10位)。2020年箱根駅伝4区:1時間2分25秒(区間7位)。次期駅伝主将になることが決まっている。
Twitter: @chigirun0303

◆日々の練習やレースで頑張れるモチベーションは?

良かったときのことを想像したり、終わった後の帰省を楽しみにしながら練習を頑張ったり。夏は合宿を、冬は駅伝を頑張れば家に帰れる。実家が好きなんです。あとは、周りから注目されていることも、踏ん張れるモチベーションです。何も注目されずにただ競技をしているだけだったら、落ち込んだときに上がれないんじゃないかなと思うときはあります。

◆好きな食べ物や勝負飯、独自のルーティンは?

甘いものが好きです。デザート全般。あとはオムライスも好きです。パンも結構好きなんですけど、試合前はあえて白米をちゃんと食べることがルーティンといえばルーティンです。

中谷 雄飛(なかや ゆうひ)

1999年6月11日生まれ。169センチ。長野県出身。佐久長聖高等学校卒業。スポーツ科学部3年。自己記録は、5,000メートル:13分45秒49。1万メートル:28分50秒77。2019年箱根駅伝1区:1時間2分42秒(区間4位)。2020年箱根駅伝1区:1時間1分30秒(区間6位)。今年の全日本大学駅伝では3区で区間賞獲得。
Twitter: @Yuhi1230saka46

◆日々の練習やレースで頑張れるモチベーションは?

頑張った分だけ実力というか結果に表れる競技です。だからこそ、終わった後の達成感もありますし、喜びもすごく大きい。そういった「頑張ってよかったな」と思える瞬間があるからこそ、ここまで続けてこられたのかなと思います。レース中は...早く終わらないかな、とか、そんなことを考えて走ってますね。あとは、終わったあとの楽しみを考えたり。あまり具体的なことはないですけど、これが終わったら何をしようかなって考えたりすると頑張れるかなと思います。

◆好きな食べ物や勝負飯、独自のルーティンは?

好きな食べものは、最近はモンブラン。スイーツ全般好きですね。あとはサバの味噌煮とか。ルーティンは特にないですが、試合前にはいつもカステラを食べるかも。

取材・文:オグマ ナオト

2002年、早稲田大学第二文学部卒業。『野球太郎』『昭和50年男』などを中心にスポーツコラムや人物インタビューを寄稿。また、スポーツ番組の構成作家としても活動中。執筆・構成した本に『福島のおきて』『ざっくり甲子園100年100ネタ』『爆笑!感動!スポーツ伝説超百科』『甲子園レジェンドランキング』など。近著に『がんばれ! ニッポンの星 オリンピックのスターたち』がある。
Twitter: @oguman1977
撮影:髙橋 榮
編集:早稲田ウィークリー編集室
デザイン:中屋 辰平、林田 隆宏
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