Waseda Weekly早稲田ウィークリー

金田一少年・GTOの生みの親に聞く「世界一の漫画雑誌」のチームワーク術

「書いたものも2割は捨てる」魅力的な物語の作り方とは?

『金田一少年の事件簿』『GTO』『シュート!』『神の雫』(いずれも講談社)など、数多くのヒット漫画を手掛けてきた漫画原作者・編集者の樹林伸さん(1987年早稲田大学政治経済学部卒業)。前編では、就職留年を経て講談社の『週刊少年マガジン』編集部に入り、漫画編集者として才能を発揮するまでのお話を伺いました。新人漫画家たちを育てて同誌の柱となる大ヒット作を連発し、当時発行部数が世界一だった『週刊少年ジャンプ』を1997年ついに打ち破る…。希代のヒットメーカーとなった樹林さんは、出版社から独立し、さらに活躍の幅を広げていきます。後編では、フリーになってからの軌跡をたどるとともに、ヒットの背後にある「樹林流・チームワーク術」に迫っていきましょう。

樹林さんは1999(平成11)年に講談社から独立しますよね。その後、生活はどう変わりましたか?

樹林
独立してからも、ほとんど生活は変わりませんでしたね。講談社の社員だった頃も、会社に行くのは週1、2日だけだったので。漫画の原作を何本も作っていたし、途中からは「金田一のノベライズをしろ」と命じられていたし。小説だと400枚くらい書かないといけない。むちゃくちゃ大変ですよ。そうなると、会社にはあんまり行けないですよね。

忙しすぎて、逆に出社しなかった…!

樹林
フリーになってからの変化と言えば、仕事の幅が広がったことでしょうか。漫画だけでなく、小説、ドラマ、歌舞伎の脚本まで。独立すると、待ってましたとばかりに各方面から大量の依頼をいただいたんです。

当時の依頼で印象に残っているものは?

樹林
一番びっくりしたのは、フジテレビのプロデューサーからの依頼ですね。「ちょっと相談がある」と聞いて会いに行ったら、突然「キムタクの月9の企画を考えてほしい」と。そんな仕事、絶対面白いに決まってますよね。そこで企画を練りながら作り上げたのが、木村拓哉さん主演の連続ドラマ『HERO』(フジテレビ系列)です。

あのドラマは大人気でしたよね。平均視聴率は34.3%。後に製作された劇場版も興行収入81.5億円の大ヒット作となりました。

樹林
もう一つ、市川海老蔵さんからの依頼も印象に残っています。「歌舞伎の脚本を書いてほしい」と知り合いの編集者を介して頼まれたのですが、実は僕は最初、断ろうと思っていたんです。歌舞伎に興味が無かったんですよね。でも間に入っている編集者に、「どうしても市川海老蔵に会ってくれ」と頼まれて…。大好きでお世話になっている人だったから、彼の顔を立てる意味でも、海老蔵さんが出演する歌舞伎に足を運び、会うだけ会ってみようと思いました。

新幹線で向かったのは香川県琴平町。日本最古の芝居小屋「旧金毘羅大芝居『金丸座』」で上演される『こんぴら歌舞伎(※)』を見たんです。いざ目の前で見たら、これが本当にすごかった。歌舞伎の面白さに、すっかり魅了されました。
楽屋で会った海老蔵さんからの一言も効きましたね。「樹林さん、歌舞伎ってすごく不自由だと思っているでしょう? でもそんなことないんです」と。「歌舞伎」という伝統の枠の中には、何でも突っ込める。たくさんの約束事があるからこそ、実はどんなストーリーでもできてしまう、と…。そう聞いて「面白そうだな」と思っちゃったんです。そして新橋演舞場で上演された『石川五右衛門』の脚本を書き上げました。

ジャンルの枠を超えて仕事の幅が広がってきたのですね。ストーリーを作る上で、漫画の原作と何か違いはありますか?

樹林
あまり違いは無いですね。どんなストーリーを作る時も、現地に足を運んだり、人の話を聞いたり、文献を読んだりと、徹底的に取材をしながら書いています。

ストーリー作りのポイントは?

樹林
取材で知ったデータ的な事実にハマり過ぎないこと。そういうのは空気を伝えるため、ほんの少し味付けとして使うくらいでないと、読む人が退屈しちゃいますよね。「知った上であえて書かない」のが基本。あんまり七面倒くさい話はしないようにしています。
だから編集者時代も、漫画家の描いたネーム(絵コンテ)をバンバン削って作品のテンポを良くしていました。自分自身の小説も、重たい文体、繰り返し、冗長な表現、キャラクター像がブレているところを落とします。書いた翌日には1割、多い時は2割ほど削って読みやすくしますね。

作品の魅力は、内容を作り込むだけでなく、削(そ)ぎ落とすことからも生まれると。

樹林
そうです。ただしワインを題材にした『神の雫』の場合、ワインマニアの顔が出て、どうしてもいろいろな話が書きたくなってしまいますね(笑)。でも、そこは編集者の目で、できる限り冷静に見るようにしています。自分の仕事を編集者として客観的に見られるのが、僕の最大の武器ですから。
新人漫画家を育てるには才能を引き出す「雰囲気づくり」

樹林さんは漫画家さんとタッグを組んで作品を作っていますよね。仕事をする際、何か心掛けていることはありますか?

樹林
絶対に「先生」なんて呼ばれないようにします。仕事の成功は、一緒に働く若い子たちの才能を引き出せるかどうか次第。だからこそ自由に意見が言える雰囲気づくりが大切です。彼らのアイデアも積極的に採用しますね。自分と相手のアイデアを比べて同じくらいだったら、相手の方を取ります。

え? 同じくらいの面白さなのに、なぜですか?

樹林
人間、自分のアイデアは何割か増しで面白いと感じるものなんですよ。だから客観的には、相手の方が優れている可能性が高い。それに、自分の案が採用されれば、若い人もやる気が出て、次もいい案を出してくれるようになります。そうなると仕事に好循環が生まれてくるんです。

相手の成長を後押しすることが大切なんですね。

樹林
そう! 僕が付き合ってきた漫画家は、ほぼ新人ばかり。そういう人に一から教えるのは、やっぱり楽しいですよ。みんな、最初はただの素人じゃないですか。ネームだってうまくない。それをどうすれば、面白くできるか。

「ここは要らないよね」「これはテンポが良くない」「これは原作にはなかったけど、すごく面白いから生かそう」と本人の前で赤を入れていく。すると目が輝いてきます。それでストーリーが面白くなって、人気も取れれば、「この人に付いて行こう」と思ってくれる。これを繰り返すうちに、直すところがない素晴らしいネームが自力で描けるようになります。本人に才能があれば、ですけど。
ちなみに、僕が複数のペンネームを使っている(※)のも、常に「新人」として読者と向き合いたいからなんです。読者に「ああ、あの漫画の作者か」と先入観を与えずに読んでもらえるようにね。

(※)『金田一少年の事件簿』では天樹征丸、『サイコメトラーEIJI』(講談社)では安童夕馬、『神の雫』では亜樹直、『GetBackers-奪還屋-』(講談社)では青樹佑夜。この他にも多数のペンネームがある。
樹林流・就活指南「面接ではプレゼンテーションを」

そんな樹林さんにも、原石だった時代があるわけですよね。『東京エイティーズ』(小学館)という作品では1980年代の早稲田大学が舞台。ちょうど樹林さんが在学していた時代と重なります。当時はどんな大学生でしたか?

樹林
チャラチャラしてましたね。六本木で楽しく遊んだりするようなチャラチャラチャラ男でした(笑)。音楽は一生懸命やっていたかなぁ。アルバイトで稼いだお金は「多重録音」という、今で言うDTM(Desk Top Music)みたいなものに全部突っ込んで。16チャンネルのデカい卓とか、8トラックのオープンリールとか、多重録音の機械を買ってやっていました。
あとは飲みやマージャンに繰り出しては議論をして、当時はやっていたニューアカ(※)の本も読んでないとカッコ悪いから読んで…。まあ、早稲田の学生は、僕に限らずみんな楽しくやってますよね。つい長く在籍しちゃうやつもいるくらい(笑)。みんな群れなくてバラバラなのに、集まるときは集まる。そこがまた良いところですよね。

(※)「ニュー・アカデミズム」の略語。1980年代にはやった現代思想ブームを指す。

当時の経験は、物語作りに生きていますか?

樹林
もちろん! 早稲田には「人から影響を受けるのは悪いことじゃない」という気風があるじゃないですか。みんなで丁々発止とやり合いながら何かを作り上げる。そういう環境でしか、モノ作りは成立しないと僕は思います。こういう大学って、日本にはもうそんなに残ってないんじゃないかなあ。実はうちの娘も早稲田なんです。楽しそうに通っていますよ。

樹林さんのようにクリエーティブな仕事に就きたい学生は多いと思います。けれど、マスコミは未だに狭き門。人気企業を狙う学生たちに、何かアドバイスをいただけないでしょうか?

樹林
あのね、「どこどこのサークルで幹事長をして…」という自己アピールは、企業側にとってほとんど意味が無いですよ。「あなたの会社にはこれが必要で、自分にはそれが提供できる」というプレゼンテーションをした方がいいです。

もし今、僕が出版社の入社試験を受けるとしたら、出版社の抱える豊富なコンテンツを、次の時代に向けてどう活用していくのかを考えます。日本だけでなく、グローバルにビジネスを展開すれば、何十億もの人々を相手にできる。非常に将来性が高いですよね。それによって今の何十倍ものお金がもうかるとプレゼンテーションすれば、「こいつはよく分かっているな」と思われるはずです。
僕はこういう考え方で入社試験に臨み、講談社だけでなく、当時人気ナンバーワンだったNTTからも内定をもらいました。

ここまでのお話を振り返ると、樹林さんは常にポジティブですね。周囲の人や環境を悪く言わない。

樹林
他人の悪口を言ってもしょうがないですよね。生きていく上で何もいいことがな い。そもそも僕は他人をあまり悪く思わないし、仮にムカつく人がいたとしても付き合わなければいいだけだし。おいしくないワインは紹介しなければいいのと同じです(笑)。

インターネットやSNSには悪口がたくさん投稿されているけど、きっとストレスやフラストレーションがたまると、誰かを悪く言って引きずり下ろしたくなるんでしょうね。でも、 そんなことをしたって自分が上に行けるわけじゃない。みんな嫉妬心からそうするのかなぁ。僕はそういう気持ちを他人に抱いたことがないんですよ。

嫉妬心がない!?

樹林
嫉妬するより先に、感心してしまうんです。ライバルになるような書き手でも「すげー!」と思っちゃうし、「何か盗めるところはないかな?」と探しちゃう。相手に優れたところがあったら、どうして自分がそう感じるのかを分析し、取り入れるようにしています。そう考えた方が、はるかに楽しく生きられますよ。
プロフィール
樹林伸(きばやし・しん)
1962年東京生まれの漫画原作者・編集者。亜樹直、天樹征丸など多くのペンネームを持ち、『金田一少年の事件簿』『GTO』『サイコメトラーEIJI』『神の雫』(いずれも講談社)など数多くのヒット作を手掛ける。『東京ワイン会ピープル』(文藝春秋社刊)、『陽の鳥』(講談社刊)、『リインカーネイション』(光文社)、『ビット・トレーダー』(幻冬舎)、『クラウド』(幻冬舎)など小説も多数。ドラマや歌舞伎の原作・脚本なども担当。漫画アプリ「マンガボックス」(https://www.mangabox.me/)の創刊編集長でもある。
取材・文:萩原 雄太
1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。
http://www.kamomemachine.com/
撮影:加藤 甫
編集:松本香織、横田大(Camp)
デザイン:中屋辰平、PRMO


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