Waseda Weekly早稲田ウィークリー

熱狂eスポーツ 夢のプロゲーマー生活 板橋ザンギエフ×浜村弘一

eスポーツ発展の影に「実況」あり 野球や相撲もラジオでメジャーになった

「テレビゲームなんて…」という負のイメージで語られていた時代も今は昔。プレーヤー同士の対戦を見て観客が熱狂する競技「eスポーツ」という言葉が普及し、プレーヤーがプロゲーマーとなれるライセンス制度も確立。高額賞金を獲得するプロゲーマーたちが登場してきたことにより、ゲームに対する世間の注目は高まる一方です。さらに、この盛り上がりを加速させているのが、オリンピック競技採用への議論。すでに2022年の杭州アジア競技大会ではeスポーツが正式競技に採用されることが決定しており、近い将来ゲームで金メダルを獲得する"アスリート"たちが登場する期待も高まっています。

そんなeスポーツの世界において、プロゲーマーとして活躍する板橋ザンギエフさん(2006年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了)は、格闘ゲーム『ストリートファイター』(カプコン)の強豪プレーヤーとして、数々の大会で勝利を収めてきた人物。一方、浜村弘一さん(1985年早稲田大学第一文学部卒業)はゲーム情報誌『週刊ファミ通』(Gzブレイン)の元編集長として30年以上にわたりゲームの世界に携わっており、現在も「一般社団法人日本eスポーツ連合」(JeSU)副会長としてeスポーツの魅力を発信しています。

生まれて間もないeスポーツの世界は、今後どのように発展していくのでしょうか? 二人の対談からは、可能性に満ちあふれたその未来が見えてきました。

左から、板橋ザンギエフさん、浜村弘一さん

近年、テレビゲームの対戦をスポーツとして捉える「eスポーツ」という言葉が、広く聞かれるようになりました。プロゲーマーとして活躍する板橋ザンギエフ(以下、板ザン)さんも、その盛り上がりを実感しているのでしょうか?

板ザン
ここ1〜2年、大会や観客も増え、じわじわと盛り上がってきているのを肌で感じますね。これまでにない新しい世界があるということが、日本でも少しずつ広まりつつある。この状況はプロゲーマーとして、とてもうれしいです。

なぜ、急速にeスポーツが拡大しているのでしょうか?

板ザン
まず、アジア競技大会の競技にチェスや囲碁が加わったことで、日本でもマインドスポーツ(頭脳スポーツ)の認知が広がったと思いますし、今後ほかのマインドスポーツが加えられることは間違いありません。その有力な候補にeスポーツがある、ということだと思います。
また、この急拡大の背景にあるのは、オンライン動画メディアの普及でしょうね。近年、特に若い年代でYouTubeやニコニコ動画、あるいはゲーム動画配信専門サイト「OPENREC.tv(オープンレック)」などで、ゲーム実況を見ることは当たり前になってきています。

野球や相撲の場合でも、メジャースポーツになる過程で、ラジオ放送の開始がとても大きな役割を果たしたと言われています。メディアを通じて拡散されることによって、プロ選手が生まれ、ファンが生まれていった。

それと同じことが、eスポーツでも起こり始めています。オンライン動画メディアを通じてトッププレーヤーたちのかっこよさが伝わり、応援をするファンが増えているんです。

ゲームといえば、もともと自分がプレーをして楽しむというものでした。しかし、動画でゲーム実況を見る文化が根付くことによって、「プレーヤーを応援する」という文化が浸透してきたんですね。

浜村
かつては、自分がプレーするからファンになるという人ばかりでしたが、プロ野球界の「カープ女子」(※プロ野球球団「広島東洋カープ」ファンである女性)のように、選手のかっこよさに魅入られて、自分ではゲームをしないゲームファンも増えています。そんな新たなファン層の拡大によって、eスポーツが市民権を獲得していったんです。

現在、eスポーツは、どれくらいの人々に浸透しているのでしょうか?

(ロイター=共同)
浜村
昨年9月の段階では、eスポーツという言葉を知っている人の割合は国内で14.4%でした(Gzブレイン調べ)。しかし、今年の3月になると、34.6%にまで急増しています。その理由の一つは、今年2月、平昌オリンピックにあわせて五輪公認のeスポーツ大会が行われ、数々のニュース番組で報じられたことです。

しかし、これは決して高い数字ではありません。世界的に見ると、eスポーツの視聴者数は3億8000万人と言われており、2021年には5億人にまで拡大すると推計(Newzoo調べ)されています。

5億人も!?

浜村
そのうちのおよそ半分が、中国や韓国といったアジア圏。それらの国に比較すると、日本はまだまだ黎明期(れいめいき)なんです。ただ、これはあくまでビジネス的な規模感の話。特に格闘ゲームでは日本には多くのトッププレーヤーがいますし、そもそもゲーム大国ですから競技人口の厚みが違う。だから逆に言えば、ここから急激に伸びていくポテンシャルを秘めているんです。

eスポーツという概念が生み出され、プロゲーマーたちが活躍するようになると、これまで考えられていた「テレビゲーム」とは全く違う世界が見えてきますね。

浜村
かつてはナムコ、セガ、任天堂といったメーカーの時代でしたが、『ドラゴンクエスト』シリーズ(スクウェア・エニックス)をつくった堀井雄二さん(1978年第一文学部卒業)などゲームクリエイターの時代になっていったのが1980年代後半から90年代にかけて。さらに、2000年代以降は音楽や絵師(主にサブカルチャー分野で絵を描く人)に興味を持ってゲームをプレーするという時代になりました。

これからは、「プレーヤーの時代」が来ると考えています。ゲーム雑誌の表紙を板ザンさんのようなスタープレーヤーが飾り、どのプレーヤーが何のゲームをしているかによって、一般のユーザーが遊ぶタイトルを選ぶ時代となるんです。
世の中にない道をゆく 「プロ」の立場が自覚をつくった


(共同通信社)

かつては、「ゲーム脳」などという言葉が喧伝(けんでん)され、テレビゲームには負のイメージが付きまとっていました。板ザンさんは、親からゲームを止められることはなかったのでしょうか?

板ザン
ファミコン世代なので、小さい頃は『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂)などで遊んでいたのですが「いつまでゲームしているんだ!」と両親から注意されることはしょっちゅうでした。そして、大人になってからもゲームをしている姿を見て、「まだゲームやってるのか?」とあきれられていましたね。けれども、ゲームの大会で賞金100万円を獲ってきたら目の色が一瞬で変わったんです(笑)。

ご両親も、まさかゲームがお金になるなんて夢にも思わなかったでしょうね(笑)。昔からゲームで賞金を稼いでいたのでしょうか?

板ザン
以前から数千円、数万円単位の賞金を出す大会はありましたが、賞金が高額になってきたのは近年の傾向です。日本よりも大会が盛んだった海外ですら、かつてはようやく渡航費が半分捻出できる程度の賞金額でした。ただ当時は賞金なんて考えず、純粋に「ゲームが好き」「大会があるから行ってみよう」という好奇心で動いていましたね。

では、板ザンさんが「プロゲーマー」を意識するようになったのはいつ頃からでしょうか?

板ザン
2012年から企業のスポンサーを受けつつ、サラリーマンと二足のわらじの生活を送っていたのですが、最近はなるべくゲーム1本の生活にできるよう努めています。

もともと世の中にない職業でしたからね。以前はあまりプロであることに自覚的ではなかったのですが、独立してからは自分の意識も変わって、「お客さんの気持ちやチーム、スポンサーを背負っている」「eスポーツに貢献したい」といった自覚も生まれました。

プロという立場が、自覚を促したんですね。それによってプレースタイルも変化しているのでしょうか?

板ザン
プロである以上、自分のプレーにバリューを持たせるために、他人とは違う方法、違う結果を生まなければなりません。競技者としては強くあることが大前提ですが、それだけでは応援しているファンは味気ないですよね。だから、どうやったらファンの方たちがもっとプレーを楽しんで見てくれるのかについて常に考えています。

プロのスポーツ選手であれば、それは当たり前のことだし、例えばマジシャンだって単純に手品を見せるだけではなく、どれだけみんなを笑顔にできるかを考えている。僕らプロゲーマーだって、観客を楽しませる方法を真剣に考えるべきでしょう。

例えば、単純に勝てる技を出すだけでなく、美しく技を決めるといったことも意識されるのでしょうか?

板ザン
そういうこともあります。その一方で「この流れでこの技を決めたらかっこいい」と相手に意識させ、その裏を取って勝つ、といった戦略を使うこともあるんです。

そんな心理戦が展開されているとは!

板ザン
ゲームでの戦いとはいえ、格闘ゲームをしていると「拳で分かり合う」という感覚がよく分かります。対戦をしていると、相手がどんな性格なのかが見えてくるし、人柄もつかめてきます。
(共同通信社)
例えば有名プレーヤーの「ももち」さんなんかは、ポーカーフェースがうまく、何を考えているのか分からない。とてもやりづらい相手ですね。

サッカーなど他のスポーツのように、選手の性格なども対戦に大きく影響してくるんですね。

板ザン
テレビゲームであってもプレーするのは人間です。一つ一つのプレーから人間性が見えてくるのは、サッカーでもゲームでも変わらないんです。
トレーニングは毎日10時間以上 プロゲーマーとして生きるには

そもそも、なぜ板ザンさんはプロゲーマーへの転身を決意したのでしょうか?

板ザン
僕自身、ゲームばかりやっていてもしょうがないんじゃないか、という時期もあったのですが、ここ数年、業界全体が上向きになっており、ゲーム1本で勝負する価値があると思って飛び込みました。

とはいえ、「絶対にプロゲーマーでなければならない」と狭く考えていたら、すぐに破綻してしまう。実際、僕自身も新作ゲームのアドバイザーのようなこともしていますし、海外では人気のゲーマーがバラエティー番組やCMに出たり、タレントのような活動もしている。なので、状況に応じて臨機応変でいるために「この道がだめだったとしても、違う方法で食べていくことはできる」と柔軟に考えるようにはしています。

ただ、今はもう大会の数も右肩上がりで、毎週毎週大会まみれ…。おかげで今後もしばらくはプロとして活動できそうですけどね(笑)。

そんなに大会数が急増しているんですね。

板ザン
以前は週末のみだったものが、最近は平日にも企画されるようになってきていています。以前のようにコンディションを整えてベストタイミングで大会に出場するというスケジュールを組む余裕はなく、腰を据えて練習する時間が取れなくなりつつあるのが問題ですね。ある程度、取捨選択しながら、最適な大会に出場していかなければならなくなりました。
浜村
eスポーツの持つ市場規模、また先ほどのとおり日本国内のポテンシャルもあり、大会や選手への支援など企業も続々と参入してきているんです。

板ザンさんは、1日にどれくらいゲームをプレーしているのでしょうか?

板ザン
一般的な社会人の仕事時間をゲームに費やしていると思ってもらえたら分かりやすいかと。特にゲームが発売したてのときには、取り組めば取り組むだけ単調増加で実力が上がっていくので、少しでもゲームに触っていたいんです。
毎日触らないと勘は鈍りますし、トレーニングと言えばそうなんですが、そもそも毎日10時間以上ゲームをしていても、全然苦にならないんですよね。昔から、スーパーマリオを半日以上プレーしていましたから(笑)。

ストイックであると同時に、楽しみながら練習に励んでいるんですね。では、板ザンさんがプレーをする上で、大切にしていることは?

板ザン
モチベーションをどれだけ高められるかはとても大切ですね。モチベーションの高さは、実際のパフォーマンスにも関わってくる。

実力が拮抗(きっこう)しているトップクラスの選手と渡り合う場合には、モチベーションの高さで最終的な勝敗が分かれるんです。つまり、あと一発という土壇場で、自分を奮い立たせられなくなる。そういったシチュエーションを常に意識しながら取り組んでいます。
浜村
大会では何時間にも及ぶシビアな闘いに挑みます。当然、最後はメンタルの力がとても重要ですよね。プロ選手が持っている「絶対に諦めずに勝つ」というファイティングスピリットは、アマチュアのものとは比較にならないほど強いと思います。また身体的にも、一流の選手は普段からジムに通って走り込んだり、チームに栄養士がついたりと、まさにアスリートそのものですよね。

身体能力としては、何歳くらいまでプロとして現役でいられるのでしょうか?

板ザン
ゲームの種類によっても違いますが、実は格闘ゲームの場合には、運動能力や反射神経はそれほど必要ではありません。それよりもプレーした経験値や、相手を観察する能力が勝敗を分けることになる。

だから、ストリートファイターにはおっさんのプレーヤーが多いんです(笑)。目をギラつかせた若者がやってきても、経験と洞察力の差によってこてんぱんにやっつけられてしまいます。

一方、FPS(※ファーストパーソン・シューティングゲーム。『Call of Duty』シリーズのようなプレーヤー自身の視点で操作するゲーム)では、反射神経がとても大きく勝敗に影響します。そのため、選手としてのピークは25歳くらいまでと言われているんです。

特に、誰もが憧れるビッグタイトルなどもあるのでしょうか?

板ザン
格闘ゲーム全体としては全世界から1万人以上のプレーヤーが集う『Evolution Championship』という世界大会が、ストリートファイターに限って言えば『Capcom Cup』という大会がとても有名ですね。カプコンカップの優勝賞金は2800万円です。

2800万円!?

浜村
世界のゲーム大会では、賞金総額は34億円にのぼるものもありますよ。

す、すごすぎます…。もはや「わが子をプロゲーマーに」と英才教育を行う親が出てくる日も近いかもしれないですね。

プロフィール
浜村弘一
1961年、大阪府生まれ。株式会社Gzブレイン 取締役会長、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)副会長。1985年早稲田大学第一文学部卒業。1986年、ゲーム総合誌『週刊ファミ通』(当時は『ファミコン通信』)創刊から携わる。『週刊ファミ通』編集長に就任したのち、株式会社エンターブレイン 代表取締役社長、カドカワ株式会社 取締役を経て、現職。現在もファミ通グループ代表として、さまざまな角度からゲーム業界の動向を分析し、コラムの執筆なども手掛ける。
また、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)副会長として、日本におけるeスポーツ産業の普及とさらなる成長・発展に向けても活動。
著書に『ゲームばっかりしてなさい。-12歳の息子を育ててくれたゲームたち-』ほか。
板橋ザンギエフ
1981年、東京都板橋区生まれ。『バーチャファイター』『ストリートファイター』など、2D・3D格闘ゲームをこよなく愛す、プロゲーマー。通称、板ザン。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、2012年米国のゲーム周辺機器メーカーRazer社と契約し、プロゲーマーとなる。2016年に国内トップレベルのeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」に移籍。「Evo 2017 Championship Series」4位、「Capcom Cup 2017」5位など、国内外の大会で優秀な実績を残している。
取材・文:萩原 雄太
1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。
http://www.kamomemachine.com/
撮影:加藤 甫
編集:横田大(Camp)
撮影協力:高田馬場ゲーセン・ミカド


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