Waseda Weekly早稲田ウィークリー

波動拳で金!? eスポーツは五輪の夢を見るか 板橋ザンギエフ× 浜村弘一

1年引きこもって“ゲーム廃人” でもただでは起きず、覚悟を決めた

近年、破竹の勢いで拡大を続ける「eスポーツ」。アジア競技大会にチェスが採択され、今後さらに拡大していくであろうマインドスポーツ(頭脳スポーツ)の有力候補として、にわかに注目を集めています。

その中心で活躍する、『ストリートファイター』(カプコン)などの格闘ゲームのプロプレーヤー、板橋ザンギエフさん(2006年早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了)と、『週刊ファミ通』元編集長で日本eスポーツ連合(JeSU)副会長の浜村弘一さん(1985年早稲田大学第一文学部卒業)による対談。

eスポーツの現状や、アスリートのような哲学を持って取り組むプロゲーマーの姿勢について語られた前編に続き、後編では廃人寸前までゲームを続けた学生時代の思い出や、海外におけるeスポーツ事情などを伺います!

お二人とも、子どもの頃から大好きだったゲームを生業(なりわい)にしています。好きなゲームを仕事にするからこそのつらさはあるのでしょうか?

浜村
僕の場合は、楽しいことしかないですね。つらいことといえば、先に情報が入ってしまうことくらいかな。某RPGゲームでネタバレ情報を聞いてしまい、「このキャラはこの先死んでしまうのか…」と知りながらプレーしたのはつらかったです。

それはつらい…(笑)。

板ザン
僕も基本的には楽しいことばかりなのですが、競技者として勝てないときはやっぱりしんどいですね。

競技者として、スランプのような状態でしょうか?

板ザン
勝敗には実力だけでなく、運の良さであったりキャラ同士の相性といった要素もつきまといます。けれども、プロとしては言い訳は許されず、勝たなければならない。そんな状況に追い込まれて、行き詰まってしまうことは少なくないんです。

そういうときって対戦していても、ヒットポイントのゲージが少なくなると、本当に心臓が小さくなったように感じるんですよ。それを脱するまでの足踏みの期間はとてもしんどいですね。

そういう状況から脱するにはどうするんですか?

板ザン
難しいところですが、突破口が見つかるまで目をそらさずに取り組むのが大事かなと思ってます。僕はゲーム自体は何時間やっても苦ではないので、とにかくゲームに触れてますね。

お二人ともやはり、学生時代からゲーム漬けの毎日だったのでしょうか?

浜村
僕の場合は、大学3年生の後半で、『ウィザードリィ』(1981年発売)というPCゲームにドハマリし、1年間、今で言う「引きこもり」の生活をしていたんです。食事するか寝るかゲームをするかという毎日…。おかげで、留年してしまいました。

典型的なダメ学生…。

浜村
そうそう(笑)。でも、転んでもただでは起きない。むしろそれで覚悟が決まったというか。もともと物書きになりたかったので、せっかくゲームのせいで1年間を棒に振ったのだからと、在学中にゲームライターとして仕事を始めました。
当時は、ゲーム雑誌が生まれたばかりの時代。編集プロダクションで『コンプティーク』(角川書店)などの媒体で原稿をずっと書いていました。そこから出版社のアスキーに入社して、編集者としての道を歩むようになったんです。

ゲーム廃人から一転、ゲームを職業にしてしまったんですね! 一方、板ザンさんはいかがでしょうか?

板ザン
僕の場合、ゲームはプレーしていましたが、大学生活を棒に振るまでやり込むことはなかったですね。当時やり込んでいたのは『バーチャファイター』(セガ)です。このゲームで本格的に格闘ゲームにのめり込みました。

板ザンさんは、エンジニアとして一般企業に勤めていました。当時は、プロゲーマーになろうとは考えなかったのでしょうか?

板ザン
僕が卒業した当時は、プロゲーマーという発想自体が全然なかった時代です。僕が知る限り「プロゲーマー」と称される人なんて、高橋名人(※ファミコン全盛期にゲームの名人として一世を風靡(ふうび)くらいでした。ただ、イベントとして大会はあったので、積極的に参加していましたよ。
日本はゲーム後進国!? 国内外のeスポーツ事情

今のような姿の「プロゲーマー」は、いつごろから登場したのでしょうか?

浜村
歴史をひもとくと、韓国では1990年代後半にはプロゲーマーという概念があったと言われています。当時から、『スタークラフト』(ブリザード・エンターテイメント)というゲームのプレーを韓国のケーブルテレビが中継していたんです。当時は、まだeスポーツという名称こそありませんでしたが、すでにプロのプレーを楽しむという文化が生まれていたんです。

eスポーツ先進国である韓国には、20年もの歴史があるんですね。

浜村
歴史だけでなく、韓国ではeスポーツの経済圏が出来上がっており、韓国最大手の携帯電話キャリア「SKテレコム」などの大企業がしっかりとスポンサーになっています。また、実業団のような形でeスポーツの対抗戦が行われており、大会の様子も中継されるんです。

なぜ、韓国ではeスポーツに対してそんなにも熱心なのでしょうか?

浜村
一つには、ゲームを基軸として外国人観光客を呼び込もうという国家的な戦略があります。韓国は国土が大きくなく経済的に伸び悩んでいたため、IT振興政策を打ったのですが、その政策の一端ですね。

eスポーツが観光促進に!?

浜村
韓国のeスポーツ団体は教育部(※日本の文部科学省に当たる行政機関)から補助金が支給されているんです。また、eスポーツの中継放送でも韓国語と英語で同時実況が行われており、海外の視聴者を意識したつくりになっています。

日本と韓国では、置かれている環境が全然違うんですね。

浜村
ただし、選手のレベルを比較すると、決して日本が劣っているというわけではありません。『リーグ・オブ・レジェンド』(ライアットゲームズ)や『スタークラフト』のようなオンライン対戦ゲームは韓国が強いのですが、格闘ゲームであれば日本の強さは世界でもナンバーワンですね。

日本と韓国では、eスポーツのファン層も異なるのでしょうか?

浜村
韓国では、ファンの7割が女性と言われていますよね。
板ザン
『スプラトゥーン』(任天堂)あたりには女性ファンが多いイメージがあります。格闘ゲームファンは中年男性が多いんですね(笑)。
浜村
今後は女性ファンも増えていくと思いますよ(笑)。
板ザン
ファンだけでなく、選手層もどんどんと変わってきています。eスポーツという業界がまぶしいと気付き、ギラついた若者が次々と入ってくるようになった。それは、一昔前では考えられなかった現象です。これは、eスポーツが普及してきたからこその話だと思いますね。
『ストリートファイター』で金メダル! 未来のスターを育てるには

浜村さんは「一般社団法人 日本eスポーツ連合」(JeSU)の副会長を務めています。今後、この新しい競技をどのように発展させていこうと考えているのでしょうか?

浜村
eスポーツを普及させていくための方法の一つは、選手がスターとして輝くことです。ゴルフであれば石川遼選手が、将棋には藤井聡太七段が登場して、若者たちが憧れたように、板ザンさんのような選手が活躍してeスポーツを代表するスターにならないといけません。
しかし、日本には法規制があり、これまでゲームの大会に多額の賞金は出せない規制がかけられていました。そこで今年2月、ライセンス制度をスタートし、プロに対する報奨金として高額の賞金を出すことがクリアできたんです。また、プロの認定を受けることによって、選手もスポンサーを見つけやすくなり、スターが生まれやすい環境が整いつつあります。

スター選手をきっかけにeスポーツが話題となり、その裾野が広がっていく、と。ちなみに素朴な疑問なのですが、eスポーツがオリンピック競技として追加された場合、例えば「400m走」と「ストリートファイター」が並行して行われる、ということですよね…?

浜村
そうです。その場合「eスポーツ」は「陸上」と同じくくりになりますよね。競技はいくつかのゲームのタイトルが固定されるとは思いますが、他のスポーツで言うところのルール改定のように、新作が出てタイトルが入れ替わることもあるかもしれません。

8月、インドネシアで行われたアジア競技大会で、eスポーツのデモンストレーションマッチが行われましたが、残念ながら今回、格闘ゲームは競技種目に入りませんでした。でも今後は、格闘ゲームがアジア大会の競技種目になる可能性もあります。
もしもこの先eスポーツがオリンピックの正式競技となれば、格闘ゲームに強い日本から、例えば「『ストリートファイター』で金メダル獲得!」なんてニュースが飛び込んでくることも十分に考えられます。

そのときには、サッカーを知らなくともワールドカップで日本代表を応援する人が大勢いるように、全然ゲームを知らない人も日本の選手を応援するようになるはずです。むしろ格闘ゲームをプレーしたことのある人は、サッカーよりも多い。熱の入り方も尋常じゃないかもしれません。

ゲームで金メダルを取るという未来は、決して夢物語ではないんですね。

(ロイター=共同)
浜村
そんな状況が到来すれば、今以上に選手に対してスポンサーも殺到するでしょうね。それこそタレント的に扱われて、いろんなメディアでの露出も増えていくはずです。韓国では年代・性別を問わず、eスポーツ選手の顔を知っているんですよ。

では、ゲーム業界全体としては、どのような未来になっていくのでしょうか?

浜村
これまでメーカーやクリエイター、プラットホームが中心だった時代から、プレーヤーが中心になる時代を迎えることで、産業構造はガラッと変わります。つまり、ゲームで遊ぶゲーマーたちを相手にしていた商売であったのが、ゲームを見る人を含めた産業へと変わっていく。

前編で「野球がメジャースポーツになる過程で、メディアが大きな役割を果たした」という話をしましたが、スポーツが発展する中で起こってきたことは、eスポーツでも起こってきます。メーカーには大会などの放映権収入も入るようになるでしょう。そして、若い世代はプレーヤーたちの活躍を見てファンになり、次世代のeスポーツ選手が育っていくんです。
板ザン
2~3年前に比べてeスポーツの認知が広がってきたのはうれしいのですが、一方で、まだまだゲームに触れてもらうまでには至っていません。僕としてはファンになってくれた人に、実際にゲームをプレーしてほしいんです。
ゲームセンターであれば50円でゲームをできますが、数も減ってきていますし、家庭用ゲーム機はハードを購入しなければならないため、遊ぶハードルも高いですよね。でも海外には、家庭用のゲーム機が気軽に触れる「ゲームカフェ」のような施設があります。

友達とゲームをしてわいわい盛り上がるような感じで、日本にも家庭用ゲーム機がプレーできる場所が身近にできるといいですよね。
浜村
韓国には「PCバー」という施設があり、ゲーム機がズラッと並んでいますよね。学生が学校帰りに寄ったり、サラリーマンが仕事帰りに寄りながらうまいプレーヤーと対戦して実力を高めているんです。

今年4月、池袋にeスポーツ施設「LFS池袋」がオープンしましたが、このような場所をもっと作ることができないかと考えています。こういった場所がもっとできてきて、スタープレーヤーが来て対戦できたり、ゴルフのレッスンプロのようにコーチを受けることができれば、未来のスターを育てることにもつながるはずです。

未来のプレーヤーが育っていけば、さらにeスポーツやゲーム産業も拡大していきますね。

浜村
板ザンさんのようなトッププロのプレーを間近で見ることによって、「あの人のようになりたい。もっとゲームがうまくなりたい」と思う子どもは、きっと増えていきます。

だから僕らの仕事としては、eスポーツの認知をもっと高め、選手たちが活躍する多くの機会をつくっていくことです。また未来のプレーヤーのために環境を整えることによって、ゲームがより身近な存在となり、結果多くのeスポーツ選手が生まれていくことを期待しています。
プロフィール
浜村弘一
1961年、大阪府生まれ。株式会社Gzブレイン 取締役会長、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)副会長。1985年早稲田大学第一文学部卒業。1986年、ゲーム総合誌『週刊ファミ通』(当時は『ファミコン通信』)創刊から携わる。『週刊ファミ通』編集長に就任したのち、株式会社エンターブレイン 代表取締役社長、カドカワ株式会社 取締役を経て、現職。現在もファミ通グループ代表として、さまざまな角度からゲーム業界の動向を分析し、コラムの執筆なども手掛ける。
また、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)副会長として、日本におけるeスポーツ産業の普及とさらなる成長・発展に向けても活動。
著書に『ゲームばっかりしてなさい。-12歳の息子を育ててくれたゲームたち-』ほか。
板橋ザンギエフ
1981年、東京都板橋区生まれ。『バーチャファイター』『ストリートファイター』など、2D・3D格闘ゲームをこよなく愛す、プロゲーマー。通称、板ザン。早稲田大学理工学部卒業後、2012年米国のゲーム周辺機器メーカーRazer社と契約し、プロゲーマーとなる。2016年に国内トップレベルのeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」に移籍。全世界から1万人以上のプレイヤーが集う「Evo 2017 Championship Series」4位、「Capcom Cup 2017」5位など、国内外の大会で優秀な実績を残している。
取材・文:萩原 雄太
1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。
http://www.kamomemachine.com/
撮影:加藤 甫
編集:横田大(Camp)
撮影協力:高田馬場ゲーセン・ミカド


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