Waseda Weekly早稲田ウィークリー

「馬場歩き」発掘マップ

「馬場歩き」発掘マップ

2025年4月14日公開

キャンパスライフがもっと楽しくなる! 早稲田〜高田馬場の名スポット集

JR山手線・西武新宿線・東京メトロ東西線の高田馬場駅~早稲田キャンパス間を歩くことを指す、早大生用語の一つ、“馬場歩き”。およそ2kmの道のりに並ぶ多様な店舗や施設は、キャンパスライフを豊かに彩ってくれます。街の景色や思い出は、歩く人それぞれで異なるもの。本特集では、さまざまなジャンルで活躍する6人の校友(卒業生)や教員から“馬場歩きの名スポット”を3つずつ収集し、オリジナルマップを作成しました。さらに、早稲田や高田馬場周辺の情報を発信する『高田馬場経済新聞』にも、街の魅力についてインタビュー。この記事で馬場歩きの魅力を再発見し、通学だけでなく、散歩やランチタイム、サークル後の帰り道まで楽しみ尽くしてください!

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エピソードとともに紹介! 卒業生の馬場歩きスポット

オススメ
スポット
1
お笑いコンビ・にゃんこスター アンゴラ村長

Profile

アンゴラ村長
お笑い芸人。1994年埼玉県生まれ。2017年文学部卒業。2017年にお笑いコンビ・にゃんこスターを結成し、同年「キングオブコント2017」(TBS系)で決勝に進出。にゃんこスターとしての活動以外では、2019年「女芸人No.1決定戦THE W」(日本テレビ系)で準決勝に進出。
写真:アンゴラ村長

1 NEW YORKER'S Cafe 高田馬場1丁目店

NEW YORKER'S Cafe 高田馬場1丁目店

大学時代に何度も足を運んだカフェです。足を運びすぎて私の靴底が床を何ミリ削ったか計り知れません。ここにはそうして勝手に床にカンナ掛けをするために来ていたわけではなく、ほとんどはネタを書くために来ていました。

在学中、私は早稲田大学お笑い工房LUDO(公認サークル、以下LUDO)に入っていて、大学3年生からはワタナベエンターテインメントに所属しプロの芸人として活動をしていたことから、学生時代とネタを書くという行為は切っても切り離せないものでした。つらいときも面白いネタが書ければドン底からでも這い上がれるし、評価されれば人生で何よりもうれしいし、当時の自分の中の浮き沈みの全てはネタにガッツリ掌握されていました。

そんな学生時代に注力していた大切なものを支えてくれたのが、こちらのカフェです。コーヒーがおいしいのはもちろんのこと、一番のお気に入りポイントは、店内の2面が大きな窓になっていて太陽の光が注ぎまくるところです。自分を海沿いの店だと思ってるんじゃないかというほど、開放的で気分の上がるカフェです。

2 ネパールインド料理 友人 高田馬場店

ネパールインド料理 友人 高田馬場店

大学時代って考えることが多すぎます。全てのエネルギーが脳に集合させられて、頭を使うとそこに造設されているデカい焼却炉が稼働して、チリ一つ残さず燃やし尽くされるイメージです。つまり、むっちゃお腹が空くということです。

こちらのお店にはワンコインセットがあって、カレーとナンを500円という至高のコスパで食べることができます。優しすぎです。どうして見ず知らずの私たちにそんなことをしてくれるんだろう。考えてみれば飲食店って全部そうですね。さらに、800円のセットにするとナンが食べ放題になります。なので、当時は翌日の朝、いや翌日の昼まで「まだおなかいっぱいだよ〜」と笑っている未来を夢見てナンに手を伸ばし続けていました。このように体力がゼロに近づくほど頑張ってからここに来ておなかいっぱい食べ、何度も自分の中に血糖値のジェットコースターを作った思い出があります。ここは、ジェットコースターだけの遊園地を何度も開園させてくれました。

※商品の価格は当時の税抜金額です。変動する場合がございますので、詳細はお店にご確認ください。

3 たんぽぽハウス 高田馬場店

たんぽぽハウス 高田馬場店

こちらは破格の安さで古着が買えるお店で、実はつい先日初めて足を運びました。コントで使うために、スーツにいなり寿司を縫い付けたいタイミングがあったのですが(ちなみに、いなり寿司はフェルトで作ったものです。ここで本物のいなり寿司をスーツに縫い付けると思われて炎上したら人生に変な1ページが追加されちゃうので、一応説明しておきます)、新品のスーツを買うと何万円もします。まだそんな万を超えるスーツに余裕かましていなり寿司を縫い付けられるほど儲けてないぞ…とひるんでいた時、相方で古着マスターのスーパー3助さんから「たんぽぽハウスならスーツも安いよ」との情報をもらったのです。おかげさまでスーツを800円で手に入れることができ、無事にいなり寿司仕様にトランスフォームできました。

今、大学でお笑いや演劇をやっている皆さんは御用達のお店だったりするんでしょうか。当時は存在に気付いておらず、100均やセールで売っていた安い服を工夫して理想に近づけていた記憶があります。そういう手作りした記憶も今はもう人生の厚みに変わってしまっていて、なんだか懐かしむというより過ぎた年月の長さが刺さりました。

message ~アンゴラ村長~

記憶が曖昧になるほど、充実した学生生活を

かなりハッキリと大人になってから、ふと思い立って「久しぶりに馬場歩きでもしてみよう」と歩いたことがあります。そのとき「新しくこんなお店ができたんだ…!」とわくわくして調べてみると、意外に当時からあったお店だったりして、記憶の曖昧さに驚きました。
それで気付いたのは、当時の馬場歩きは友達と話しながら歩いたり、次のレポートや発表について考えたり、街を眺める余裕もないほど目の前のことに夢中だったんだな、ということです。振り返ればそれが一番、充実した学生生活だったことを知らしめてくれているのかもと実感しました。歩くことってそのシンプルさゆえに心が前に出てきて、今自分が何に一番向き合っているのか教えてくれますよね。これを読んでくれた皆さんも、街をかすませるほどの学生生活になることを願っています。

オススメ
スポット
2
都市ジャーナリスト 谷頭 和希さん

Profile

谷頭 和希(たにがしら・かずき)
都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年東京都生まれ。2020年文化構想学部卒業、2022年同大学大学院教育学研究科修士課程国語教育専攻修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)の他、ウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。
写真:谷頭 和希さん

4 洋風居酒屋 ロマーノ

洋風居酒屋 ロマーノ

早稲田通りから1本路地を入ったところにある隠れ家的なイタリアン。サークルの飲み会でよく使っていて、大学を卒業した後も何度も訪れている。料理はなんでもおいしいけど、個人的に好きなのは「スモークサーモンと有機野菜サラダ」と「アンチョビピザ」。高級イタリアンだとかそういうわけではないのだが、ここでしか得られない味がある。

お店のママにはすっかり顔を覚えられていて、社会人になってちょっと高いワインを頼んだ時(しかもボトルで!)、「大人になったなあ」と言われたのが良い思い出。

そういえば、コロナ・パンデミックの時もランチだけは提供していて、応援する気持ちで食べに行った。その時の店内は不思議な一体感があった。ここ10年ぐらい本当にずっと通っていて、人生の半分ぐらいの記憶がここに詰まっている。まあ、店を出る時の記憶がないことも多いのだけれど。

5 早稲田奉仕園 スコットホール

早稲田奉仕園 スコットホール

戸山キャンパスの北門から出て早稲田通りに行く途中にある、れんが造りの教会兼ホール。私は文化構想学部だったから、戸山キャンパスからの馬場歩きルート上にあって、何度その前を通ったか分からない。ちなみに、大学時代に私が入っていた早大ピアノの会 (公認サークル)の演奏会でよく使っていたホールでもある。ピアノはドイツの楽器メーカーであるベヒシュタイン。スタインウェイでないところがツウ(どちらも有名なピアノだが、スタインウェイの方が一般的)。

教会だけあって音は美しく響くから、実力2割増しぐらいの演奏ができる。毎年、サークルの新入生はここで「新人演奏会」をやるのだが、他の男子会員がみんなパリッとしたスーツを着ている中、なぜか私は白ズボンに白シャツというトンチキな姿で会場入りした。その前に原宿の別のイベントに出ていて、その時の格好のまま行ったのだ。なぜ着替えなかったのか、と今でも自分に聞きたくなる。スコットホールの白い壁とほとんど一体化していた。ただ、実力2割増しホールのおかげで演奏はうまくいき、結果オーライ、大学デビュー(?)を果たすことになった。そんな思い出を、その前を通る度に思い出す。

6 サイゼリヤ 西早稲田店

サイゼリヤ 西早稲田店

「学生会館 別館」とも呼ばれるサイゼリヤ。学生会館の向かい側にあり、夜になって学生会館が閉まった後、多くの学生が詰めかけていた。少なくとも私が学部生だったコロナ・パンデミック前はそうだった。今はどうなんだろう。

こぢんまりとした外観から想像も付かないほど中は広くて、奥には旅館の大宴会場ぐらいのスペースがある。そこには、謎の天使や女神が微笑んでいるルネサンス風絵画が飾ってあって、さながらイタリアの大聖堂のようである。ちなみに、大人数のグループや、見た目からしてうるさそうな学生たちは、この大聖堂に搬入される。ご多分に漏れず、私が所属していたサークルも大聖堂組だった。

ある時何人かで飲んでいたら会計が27,500円になったことがある。「サイゼで…?」と思ったが、何度レシートを見てもそれは寸分の狂いもなく、冷酷なまでに正しい。天使の微笑みが悪魔の微笑みに変わる。なけなしのお金から仕方なく支払いを済ませ(仕方なくねーよ)、そのまま馬場歩きをした。寒い道を歩きながら友人たちと「なんだったんだろうね…」と慰め合う。今となっては幻のような思い出である(預金残高からはちゃんとお金が減っていたので、幻じゃないんですが)。そんないろいろな思い出が、馬場歩きにはある。

message~谷頭 和希~

街の面白さは、関わる私たちが決めるもの

「馬場歩き」について思い返してみて、「散歩とは街を記憶することだ」と思った。じっくり自分の足を使って歩き、景色を目で見て、その空気を吸い、気温や湿度を肌で感じる。そうやって街を歩くと、自ずと街のさまざまな姿が自分の中にインプットされてくる。大学院まで早稲田にいたから、都合6年ほど馬場歩きをしたことになる。ここで挙げたスポット以外にも、もっと取るに足らないけれど自分の中に確かに残る場所の記憶がある。その記憶は背後にあるさまざまなエピソードを芋づる式に引き出してくれる。街を歩くことと、記憶は深くつながっている。

よく「面白い街が減った」という人がいる。しかし、街が面白いかどうかは、街だけが決めるのではない。むしろ、街と関わる私たちもその面白さを決めるのだ。街をじっくりと歩くこと。その街の記憶を集積すること。これが、その街を深く感じられるかを決めると思う。

オススメ
スポット
3
メディアアーティスト 市原 えつこさん

Profile

市原 えつこ(いちはら・えつこ)
1988年愛知県生まれ。2011年文化構想学部卒業、2025年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作。主な作品に『ディストピア・ランド』、『デジタルシャーマン・プロジェクト』、『未来SUSHI』など。
写真:谷頭 和希さん

7 Cafe Cotton Club

Cafe Cotton Club

「早稲田大学からスタートした馬場歩きのゴール付近で登場する、洒落たイルミネーションでキラキラした、学生には少し敷居の高そうなお店」として、在学中は憧れの目で見ていました。卒業時の謝恩会の会場になったり、卒業後は早稲田がらみのアート関係者の集会場所として使うようになったりと、長い時間軸でいろいろとご縁のあるお店です。校友会誌である『早稲田学報』(2024年10月号、早稲田大学校友会発行)の「思い出の酒場特集」では、こちらのお店についてインタビューをしていただきました。もしお手元にある方は、読んでいただけるとうれしいです。

※校友会誌『早稲田学報』は、早稲田大学中央図書館および戸山図書館で過去1年分を読むことができます。

8 Cafe GOTO

Cafe GOTO

看板商品のチーズケーキが絶品。在学中の平日は悪友とこちらに集合し、盛り上がって話し込んでいるうちに授業サボり不可避ルートに突入してしまうなど、いろいろと思い出深いお店です。ずっとこちらのお店のファンで、卒業して社会人になってからも早稲田に用があれば「空いてるかな…」とチェックし、空席があれば喜んで入店して舌鼓を打っています。若い学生さんたちが楽しそうにおしゃべりしているのを眺めて、学生時代の自分たちのことは棚に上げて「授業、サボるなよ」と生暖かく微笑んでいます。

在学中お気に入りだったカフェが次々と閉店してしまう中、こちらのお店は奇跡的にまだ経営を続けてくださっており、早稲田にずっと残ってほしい名店です。

9 Le Cafe RETRO(閉店)

Le Cafe RETRO(閉店)

文キャン(戸山キャンパス)に通う女子学生のたまり場といえば、学食か、学生会館前のサイゼリヤか、戸山キャンパス前にあったこのお店だったな…と思い出します(現在は惜しまれつつ閉店)。学生時代は日常的に使っていたわけではなく、留学で旅立つ女友達の送別会などの特別なシーンでご飯に行き、店内地下の隠れ家的な雰囲気も相まって濃密な会話を繰り広げていた記憶があります。卒業後も、早稲田に用事があるときは懐かしさを感じられるお店として、よくオムライスを食べに行っていました。あの地下空間に、早大生のいろいろな思い出が色濃く詰まっていたのだろうなと思います。

※現在は閉店しています。
当時の住所:東京都新宿区西早稲田2-1-18 1F&B1F

message~市原 えつこ~

深めるほど楽しい馬場歩き

「馬場歩きスポット」といいつつ、戸山キャンパスと高田馬場駅付近のスポットのピックアップになったので、なんでだろう? と思い返したところ、そういえば在学中は馬場歩きに疲れ、大学生活の後半に東西線沿いに引っ越して馬場歩きをスキップしてしまうことが多かったのを思い出しました。身もふたもないですが…。

とはいえ、たまに母校を訪問した帰りなど、懐かしさに任せて無駄に馬場歩きを選ぶことも多く、時間が流れても変わらない街並みや、その一方で新しい潮流として生まれた店舗などの変化を楽しんでいます。

近年、東京藝術大学の大学院に入り直し、修了制作・研究をする中で、日本中をくまなく歩いた民俗学者の宮本常一についてリサーチしていたのですが、彼はその土地のことを理解するために、自分の足で歩いて調査するということを何よりも重要視していたそうです。体力・気力的に、彼のスタンスを完全に模倣するのは難しいですが、作品の制作においては自分もなるべく「歩く」ということから創作のヒントを得るようにしています。

オススメ
スポット
4
お笑いコンビ・サスペンダーズ 古川 彰悟さん 依藤 たかゆきさん

Profile

古川 彰悟(ふるかわ・しょうご)
お笑い芸人。1990年神奈川県生まれ。2014年政治経済学部卒業。2014年お笑いコンビ・サスペンダーズを結成。「サスペンダーズのモープッシュ!」(SBSラジオ)などに出演。趣味は銭湯巡り、散歩、一人酒。
依藤 たかゆき(いとう・たかゆき)
お笑い芸人。1990年東京都生まれ。2013年社会科学部卒業。2014年お笑いコンビ・サスペンダーズを結成。「サスペンダーズのモープッシュ!」(SBSラジオ)などに出演。趣味は麻雀、ボードゲーム、ポーカー。
写真:古川 彰悟さん 依藤 たかゆきさん

古川 彰悟オススメスポット

10 武道家本店

武道家本店

「ラーメンといったら、武道家ね。あそこはヤバいよ」。4月に入部したお笑いサークル早稲田寄席演芸研究会(公認サークル)の先輩が新歓で言っていたそのお店は、それほど大きくない店構えでしたが、異様な存在感を放っていました。

うま味が凝縮された黒い濃厚な醤油豚骨スープ。そんなスープがよく絡む太めの縮れ麺。そこにニンニクやショウガをたっぷりと入れて、さらに刺激的な味わいにしたスープに、浸した海苔でおかわり自由の白米をホウレン草やチャーシューと一緒に巻いて、口いっぱいに頰張る。19歳の僕の脳みそに刻み込まれたその瞬間の喜びは、15年たった今も色褪せません。これが…家系ラーメン…! 僕が出先で外食しようと思ったらまず候補に挙げるくらい家系ラーメンが好物になったのは、この武道家との出合いがあまりに衝撃的だったからです。大学時代はよく通いました。

「せぇー!!!」という、「いらっしゃいませ」の原形をギリとどめていない入店時の掛け声にも影響を受け、漫画喫茶の夜勤のバイトの際にまねしてやっていたら、クレームが大量に入りシフトを削られたのも、今となっては良い思い出です。

11 戸山公園

戸山公園

僕の大学生活の思い出の大半を占めるお笑いサークルでの活動と切っても切り離せない場所が、戸山公園です。定期ライブ近くになると、そこかしこでネタ合わせをしている人も多く、ちょっと雑談なんかをするのも楽しかったです。学生会館の閉館時間が過ぎた後には戸山公園に移動して、夜の戸山公園でおしゃべりを続ける人もいました。

大学を卒業した後、僕はサークルの同級生だった依藤とコンビを組みました。その頃よく戸山公園に集まってネタの練習をしていました。僕たち以外のサークル仲間はほとんど就職していました。もう戸山公園のどこにも友達は見当たりません。みんな就職してしまった。僕たちはまだ事務所のオーディションにも受かっていない。これからどうなるんだろう…。そんな不安を抱えながら過ごした時間も、今では大事な思い出の一つです。

【早稲田大学 学生部学生生活課より】
戸山公園での大音量での楽器練習・ダンス練習、大声を上げての発声練習、深夜・早朝に及ぶ飲酒などの、他の利用者・近隣住民の迷惑行為につながるような団体・個人の活動は厳に慎んでください。

12 早稲田松竹

早稲田松竹

高田馬場駅から早稲田通りを少し歩くと現れる早稲田松竹は、馬場歩きをしていたら自ずと目に入る映画館で、過去の名作などが2本立てで安く見られる、いわゆる名画座というやつです。大学1年生だった19歳の夏に、僕はこの早稲田松竹でアメリカンニューシネマの金字塔『イージー・ライダー』を見ました。「出だし良かったな」と思います。
ですが、それから在学中に僕が早稲田松竹に行くことは一度もありませんでした。馬場歩きの最中にポスターが目に入って「お、見たいな」と思っても、タイミングが合わなかったり忘れていたりしてしまって、何となく、行かなかったのです。ものすごく後悔しています。「大学生」と「名画座」の親和性をもっと自覚すべきだった。あのときもっと自分の青春に自覚的であれば、「早稲田松竹で映画を見あさった青春時代」にすることができたのに。19歳の夏に『イージー・ライダー』を見るという素晴らしい出だしを切れただけに悔やまれます。早稲田松竹は僕にとって思い出の場所というより、思い出にしたかった場所かもしれません。

message~古川 彰悟~

歩いて、考えて、アイデアがひらめくかも

考え事をしたり考えを整理したりするときは、歩くことが多いです。足の筋肉を動かすと脳に良いらしいので、そうしています。

依藤 たかゆきオススメスポット

13 bar moon walk 高田馬場店

bar moon walk 高田馬場店

お酒を飲める年齢になり、金もないのに格好を付けたかった僕は、「全品200円」と書かれたこのバーを見つけた時、震えました。こんな僕でも、大人だけが立ち入ることを許可されているかのようなあの空間“bar”に入ることができそうだぞ! という高揚感と、もしかしたらぼったくりなんじゃないか? という疑念が同時に湧きました。

しかし、早稲田大学に入れたぐらい聡明な僕は、ぼったくりバーが「全品200円」なんて看板出してるわけねえだろ、と考えすぐに店に入ると、当然ぼったくりでも何でもなくめちゃくちゃ安いバーでした。

それからというもの、格好付けたいときに後輩や女の子を連れて行きましたが、2人で飲んで2,000円くらいだったのを、「全然おごるよ」とか言っておごっていたので、全然格好良くなかったんだと思います。今は全品250円になっているみたいですが、皆さんも格好付けなくていいときにぜひ行ってみてください。

14 たんぽぽハウス 高田馬場店

たんぽぽハウス 高田馬場店

僕たちは現在コンビでお笑い芸人をしており、主にコントをやっているのでさまざまな衣装が必要になるのですが、特に芸人を始めたての頃は金がないので安い衣装を求めていました。

そんな時に見つけたのがこの古着屋リサイクルショップたんぽぽハウスで、驚くべきことに服を100円で売っていました。何か裏があるかもしれないと思いましたが、この店もやはり、ただただめっちゃ安い古着屋でした。この店を知ってからは、大学卒業後も僕らは高田馬場に来てこちらで衣装を買い、ネタを作り、芸人仲間には「衣装を買うならたんぽぽハウスだ」と広め回りました。当時、たんぽぽハウスを利用する芸人は結構多かったので、もしかしたら今でも若手芸人の間で使われているのかもしれません。

15 ピカソ 西早稲田店(閉店)

学生会館やどらま館でのお笑いライブ、早稲田祭、お笑いサークルでのネタ見せで急きょ小道具が必要になったときに、早稲田キャンパス西門通り商店街を抜けたところにあったこちらのお店を度々利用させてもらいました。しかし、最後に急いで買い足した安易なボケというのは大抵失敗に終わるもので、僕ら早稲田寄席演芸研究会の人間はピカソにたくさん滑らされていたと思います。きっと今でも、さまざまなサークルで同じような悲劇が起きているのではないでしょうか。

調べてみると「ピカソ」はドン・キホーテの小型店舗で、より地域に密着した店作りをしている店だそうで、少なくとも早大生へのマーケティングは大成功だったと思います。

※現在は閉店しています。
当時の住所:東京都新宿区西早稲田3-1-5

message~依藤 たかゆき~

最近は健康のために散歩をしてるけど…

学生の頃には考えもしなかったのですが、最近は「健康」のために散歩をしています。お笑い芸人という仕事は、才能で駆け抜ける短距離走に見えて、体力勝負の長距離走。30歳が超若手、40歳が若手という恐ろしい世界では、いかにメンタル、フィジカルの健康が大事かを痛感している今日この頃です。
さらに恐ろしいことに、お笑い以外の全ての世界も、長距離走でとてつもない健康保持者によって牛耳られています。千鳥の何がすごいって健康なのがすごいし、イチローの何がすごいって健康なのがすごいです。普通ちょっとお金稼いで年取ったら適度に働いて、たくさん休みたくなるはずです。少なくとも僕はそう思えてきています。どんなにいいアイデアを思い付く人も、どんなにパフォーマンス能力が高い人も、健康じゃない人は第一線からはどんどんフェードアウトしていきます。こんな僻(ひが)みにも似た偏屈なことを考えながら「手段」として散歩をしてしまっている私のような健康陰謀論者になる前に、「目的」として散歩できるうちに、たくさん散歩を楽しんでくださいね。

オススメ
スポット
5
地理学者 池 俊介教授

Profile

池 俊介(いけ・しゅんすけ)
教育・総合科学学術院教授。1959年東京都生まれ。静岡大学教授を経て2006年より現職。博士(学術)。専門分野は地誌学(ポルトガル地誌研究)、人文地理学、地理教育論。著書に『ポルトガルを知るための55章』(共編著、明石書店)、『村落共有空間の観光的利用』(風間書房)、『地理教育フィールドワーク実践論』(編著、学文社)などがある。
写真:谷頭 和希さん

16 茶屋町通り

茶屋町通り

早稲田通りの北に並行して走るバイパス的な「茶屋町通り」。1636年(徳川家光将軍の時代)に旗本のための武芸の練習場として、この場所に「高田馬場」が設けられた。馬術の鍛錬のための馬場は、幅は約54mと狭かったが、馬の走路であるため長さは約654mあった。その馬場に当たるのが現在の茶屋町通り。茶屋町通りの名も、近在の農家が武士や見物人たちを相手に茶屋を始めたことに由来する(『江戸名所図会』にも描かれている)。かつて馬場だった茶屋町通りを歩くと、まさに「馬場歩き」が体験できることになる。

私が学生の頃(1980年頃)は、まだ現在の環状第4号線(早稲田通りから新目白通りに抜ける坂道)が開通していなかったため、茶屋町通りから現在の早稲田キャンパス17号館(生協ライフセンター・体育館)のある場所までまっすぐ通り抜けることができた。学生には便利な道だったため、当時はいわゆる馬場歩きに茶屋町通りを利用する学生が多く、学生相手の店も多かった。例えば定食屋の「小春」「勝芳」や雀荘の「かにや」など、今はない 当時の店が懐かしく思い出される。しかし、再開発事業に伴い1994~2003年に甘泉園横の環状第4号線が開通し、ガードレール付きの中央分離帯が設けられたため学生の流れが変わり、茶屋町通りの店はほとんどなくなった。

17 早稲田奉仕園近辺

早稲田キャンパス南門前にあるイタリアンレストラン「Pizzeria TAKATA BOKUSYA(旧 高田牧舎)」は、その名の通りもともと牛の飼育農家がルーツであることで知られている。明治後期の地図を見ると、穴八幡宮の裏手に当たる現在の早稲田奉仕園の辺りに「牧牛場」があったことが確認できる。早稲田キャンパスは武蔵野台地の末端に位置しているが、武蔵野台地上には茶園・畑などの農地があった他、牛の飼育も行われており、まさに江戸(東京)周辺の近郊農村だった。
現在、早稲田通りの南には早稲田大学の各務記念材料技術研究所(旧鋳物研究所)があり、この一帯は住宅地になっているが、かつての農村風景を想像しながら歩いてみるのも面白い。ちなみに、早稲田通り沿いにある老舗居酒屋の「源兵衛」は、所在地が江戸時代の源兵衛村に当たることから命名されたといわれている。

18 変わりゆく早稲田通り

変わりゆく早稲田通り

馬場歩きに使われる早稲田通りの風景は常に変化している。かつて早稲田は神田に次ぐ古書店街で、私が学生だった1980年頃には優に20軒を超える古書店が軒を連ねていた。私の専門の地理学関係の本は残念ながら少なかったが、文学・歴史学関係の本はかなり充実していたように思う。その後、学生の活字離れ、大手の古書販売店の台頭、ネット販売などの影響から古書店は次第に姿を消すことになる。現在残っている古書店のほとんどは、ビルを建て直して中・上層階をマンションなどとして貸し、そのテナント料収入がある店のようである。もはや古書販売のみで経営を維持するのは難しい時代ということか。

その一方で増えたのはラーメン店であり、東京でも随一のラーメン激戦区として知られるまでになった。1980年頃にはラーメン専門店が「えぞ菊」くらいしかなかったことを思えば、隔世の感がある。これらの店は「集積の利益」のために集中する傾向にあるが、その内容は時代によって大きく変化してきた。これからどんな街に生まれ変わるのか、想像してみるのも楽しい。

また、早稲田通りの高田馬場駅寄りには、学生相手の飲み屋(大手チェーン店以外)も多かった。学生時代には「水車」というローカルなお好み焼きのチェーン店(高田馬場駅の近辺に少なくとも7軒はあったと思う)があり、お好み焼きを食べた後は金がないので安い卵を注文し、それを目玉焼きにしてテーブル上の青のり・けずり節・ソースをたっぷりかけて酒のつまみにしていた。店にとってみれば迷惑な客だったと思う。こうした街の移り変わりは、過去の『ゼンリン住宅地図』(株式会社ゼンリン)を見ることである程度知ることができるので、興味があればぜひ見てほしい。

message 池 俊介教授

上を向いて歩こう

街の景観は常に変化しており、多くは「上書き」されるので、過去の街の状況を知ることが難しい。ただ、今は別の業種の店舗が入っていても、上を見上げると以前の店舗の看板が残っていたりして、過去の景観の残照を見ることができる。景観をじっくり観察することで、こうしたさまざまな「発見」があるところがフィールドワークの楽しさだと思う。

もう一つ着目してほしいのは、ビルの階ごとの利用状況である。普段は道路に面した1階にある店舗しか目に入らないと思うが、特に高田馬場駅近くのビルを見ると、2階よりも上には会社の事務所の他、学習塾や学校(最近は日本語学校が多い)がフロアを占めていることに気付く。さらに上層階に着目すると、マンションなどの住宅に利用されていることが多い。これはアクセシビリティーの高い低層階ほどテナント料が高額となることに起因している。特に学習塾や学校は「飛び込み客」がいるわけではないので、テナント料が高い1階に立地する必要性は少なく、そこそこ便利で目立つ2~3階に立地することが多い。とにかく目線を上に移すことで、普段は気付かない発見が得られる。たまに上を向いて歩けば、歩きスマホをしていると見られない新しい景色が広がるかもしれない。

地域密着型の高田馬場経済新聞・記者が語る!馬場歩きの見どころ

高田馬場経済新聞の記者・田中健一朗さん

高田馬場・早稲田の地域情報を発信する高田馬場経済新聞の記者・田中健一朗さんに、馬場歩きの魅力や近年のトレンドについて、お話を伺いました。

高田馬場経済新聞
高田馬場経済新聞とは?
広域高田馬場圏のビジネス&カルチャーニュースをお届けする、インターネットの情報配信サービス。2018年にウェブサイトを立ち上げ、早稲田大学を含む地域のさまざまな情報を発信し続けている。
「馬場歩き」という言葉は、どこから生まれたのでしょうか?

複数の知人に確認したのですが、現在50歳以上の卒業生は現役時代に「馬場歩き」という言葉を使っていなかったそうで、比較的新しいワードなのかもしれません。

早稲田大学の前身に当たる東京専門学校は、1882年に創立。JR山手線の高田馬場駅は1910年に開業しているので、馬場歩きのルートを歩くカルチャーは、この時代に始まったといえます。その後、西武新宿線、都電荒川線(東京さくらトラム)、東京メトロ東西線の駅が開業し、早大正門と高田馬場駅前を結ぶ都バス「学02系統」も開通。交通網は整備されていくのですが、実際には歩いて移動する学生が多かったようです。文武両道なのか、節約なのか、理由はさまざまだと思いますが、こうした流れが現在の馬場歩きにつながるのでしょう。

高田馬場界隈周辺の最新動向を教えてください。

高田馬場駅周辺は、路面店に“ガチ中華”といわれる本格的な中華料理店が増えています。一方、早稲田通りから1本北側の路地裏は“裏馬場”と呼ばれ、日本人が経営する個性的なお店が多いです。

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“裏馬場”と呼ばれるエリア

高田馬場方面から明治通りの交差点を越えると賃料が下がることもあり、一気に個人店が増加します。「らぁ麺やまぐち」「羊のロッヂ」など、他の街からも大人が通うハイレベルな飲食店が魅力です。「源兵衛」「居酒屋もちだ」「Whistle CAFE」のような卒業生に人気のお店でも、凝った料理を楽しめます。

また、早稲田キャンパスの周辺エリアでは、古着屋が増えています。書店「文禄堂」の跡地には「TreFacStyle」がオープンした他、大隈通り商店会には無人の古着屋「SELFURUGI」もできました。書店やレコード店が減っているのは寂しいですが、「サウンドショップ ニッポー」のような老舗が残るのも、学生街ならではと感じます。

そして西早稲田商店会では、現在街路灯がリニューアル工事中です。記事が公開される2025年の春には、暖色のライトが夜の馬場歩きを照らしてくれるでしょう。

写真
西早稲田商店会、リニューアル前の街路灯。同商店会が管理する「源兵衛子育地蔵尊」がモチーフになっている
馬場歩きの注目ポイントを教えてください。

例えば、高田馬場駅のロータリー広場には、かつて噴水があったのを知っていますか? 地下鉄の駅の改修工事で撤去され、やがて広場になったようですが、「水道代が高すぎて払えず、広場になったらしい」という都市伝説など、さまざまなエピソードが伝えられています。

写真
コロナ・パンデミックにより、2021年5月に初めて封鎖された高田馬場駅前ロータリー広場。丸い大きな広場にかつて噴水があった

このロータリー広場は早大生の出会いの場でもありますが、その南側の地区、早稲田通りから諏訪通りにかけては、今後大規模な再開発が予定されています。「BIGBOX高田馬場」をはじめとする象徴的な風景も、変わっていくのかもしれません。何年かすると見られなくなるかもしれないので、今の高田馬場の風景を目に焼き付けておくことをおすすめします。

あまり知られていない情報を探るには、書籍がおすすめです。本橋信宏著『高田馬場アンダーグラウンド』(駒草出版)、ローザ・カーロリ著『土地の記憶から読み解く早稲田: 江戸・東京のなかの小宇宙』(勉誠社)など、発見に満ちた名著がたくさんあります。地理・歴史の資料が豊富なのは、教育・研究機関である早稲田大学があるからでしょう。

地域と早稲田大学の関係性について教えてください。

高田馬場・早稲田地域に、早大生の存在は欠かせないものです。早大生がいなくなったコロナ・パンデミックで多くの店舗が閉店を余儀なくされたのも、そのような関係性の強さを表しています。

「馬場歩き」があると、食事や買い物はもちろん、アルバイトをしたり、お祭りに参加したりと、地域と早大生の関係性は強くなります。高田馬場や早稲田には、オープンな姿勢で学生と接する人が多く、“みんな知り合い”のような街の雰囲気も特徴の一つです。早稲田大学のカフェテリアは、学生数を考えると小規模ですが、それも街に多彩なお店があるからではないでしょうか。そうした環境は、「ワセメシ」という文化も育ててきました。

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2024年6月2日に早稲田通りで行われた、早稲田大学野球部優勝パレードの様子。早稲田周辺地域と早大生の関係性が強いことが感じられる
最後に、「馬場歩き」の魅力を教えてください。

現代は、スマホでさまざまな情報や娯楽が簡単に手に入る、可処分時間の奪い合いのような世の中です。スマホから離れ、何も考えずに歩いたり、友人と話しながら過ごせたりする馬場歩きは、ある意味でぜいたくな時間ではないでしょうか。これが徒歩1時間となると交通機関を使うのでしょうが、約20分という距離感が絶妙ですよね。在学中は強く意識しないかもしれませんが、卒業して数年たつと、何気ないひとときが貴重に思えてくるものです。思い出の種まきをするような感覚で、日々の馬場歩きを存分に楽しんでください。

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耐震工事前の稲門ビル。現在は、外壁の耐震補強を美しく取り付けた壁面デザインになっているので、比較してみると面白い
取材・文
相澤 優太(2010年第一文学部卒)
イラスト
山内 庸資
編集
株式会社KWC
デザイン・コーディング
株式会社shiftkey

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