
左から蝉谷さん、八木さん。戸山キャンパスにて
早稲田大学出身の小説家、八木詠美さんと蝉谷めぐ実さんの特別対談が実現! 2026年、八木さんは第175回芥川賞候補、蝉谷さんは第175回直木賞候補となりました。現代社会に潜む違和感を独自の視点で描く八木さんと、歴史・時代小説を中心に執筆する蝉谷さん。作風の異なるお二人ですが、話を伺うと、大学時代の読書やさまざまな経験が現在の創作につながっていることなど、意外な共通点も。お二人の経験を基に、今だからこそ大切にしたい“本との付き合い方”を探ります。
また、お二人のご厚意により早大生の皆さんへ、著書にサインをいただきました。八木さんの芥川賞候補作『アンチ・グッドモーニング』、蝉谷さんの直木賞候補作『見えるか保己一』を、計6名の早大生へプレゼントします! ぜひ、応募してください。
※ 応募者多数の場合は抽選となります
INDEX
戸山キャンパスで培った文学の世界
▼読むことが、書くことにつながった
▼読書は「わからない」があってもいい
▼早大生へ サイン本プレゼント!
戸山キャンパスで培った文学の世界
文化構想学部、文学部で学び、それぞれの道を進んできたお二人。今回、作家になるまでの歩みと読書遍歴を基に、読書に対する考えの一端を伝えていただきます。
八木 詠美(やぎ・えみ)

1988年、長野県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2020年『空芯手帳』で第36回太宰治賞を受賞。世界26カ国語での翻訳が進行中で、2022年8月に刊行された英語版(『Diary of a Void』)は、ニューヨーク・タイムズやニューヨーカーが書評を載せ、ニューヨーク公共図書館が今年の収穫として取り上げるなど高い評価を得る。2024年『休館日の彼女たち』で第12回河合隼雄物語賞を受賞。2026年『アンチ・グッドモーニング』で第175回芥川龍之介賞候補となる。他の著書に『ささやかな、あるいは取り返しがつかないもの』エッセイ集『喋る猫はいなくても』がある。
蝉谷 めぐ実(せみたに・めぐみ)

1992年、大阪府生まれ。早稲田大学文学部卒業。演劇映像コースを専攻し、化政期の歌舞伎をテーマに卒論を書く。2020年、『化け者心中』で第11回小説野性時代新人賞を受賞し、デビュー。2021年に同作で第10回日本歴史時代作家協会賞新人賞、第27回中山義秀文学賞を受賞。2022年に刊行した『おんなの女房』で第10回野村胡堂文学賞、第44回吉川英治文学新人賞を受賞。2024年『万両役者の扇』で第15回山田風太郎賞を受賞。2026年、初めて歌舞伎以外を題材に取った長編『見えるか保己一』で第39回山本周五郎賞を受賞、第175回直木三十五賞候補。
読むことが、書くことにつながった
まずは、子どもの頃からの読書遍歴を教えてください。
八木さん:小さい頃から本は好きで、両親が毎週末のように図書館に連れて行ってくれました。ただ、日本の話よりも、『秘密の花園』や『あしながおじさん』といった海外作品が好きでした。幼稚園にも小学校にもあまり馴染(なじ)めず、自分がいる場所とは違う世界の話を求めていたのかもしれません。
中学生の頃は吹奏楽部が忙しくて一度読書から離れましたが、高校時代、電車が止まってたまたま本屋で時間をつぶした時、遅ればせながら文庫本の存在を知ったんです。「この値段なら自分でも買える」と村上春樹さんなどを読み始め、そこから日本の小説も読むようになりました。

蝉谷さん:私は逆で、子どもの頃から日本古来のものというか、妖怪系が好きでした。中学・高校では『キノの旅』などのラノベ系も好きで読んでいましたが、ブームの作品はあえて避ける傾向があり、みんなが『ハリー・ポッター』を読むなら私は『ダレン・シャン』を読もう、といった性格でした(笑)。
写真左:『秘密の花園』上、著・バーネット 訳・山内玲子(岩波書店)、『あしながおじさん』著・ジーン・ウェブスター 訳・遠藤寿子(岩波書店)※出版各社から訳本あり
写真右:『キノの旅1 the Beautiful World』 時雨沢恵一(KADOKAWA)、『ダレン・シャン』1巻、著・ダレン・シャン 訳・橋本恵(小学館)
大学に入って、読書に変化はありましたか?

蝉谷さん
蝉谷さん:大学では「文豪」と呼ばれる人たちの小説を意識して読むようになりました。その中でも、三島由紀夫の短編集『真夏の死』で「三島ってすごい!」と気付き、その後に手に取った『春の雪』との出合いは衝撃でした。それまではストーリーを楽しむだけでしたが、『春の雪』の文体の美しさに感銘を受けて、「自分も小説を書いてみたい」と思うようになったんです。
八木さん:私の場合、太宰治と出合い直せたのが大学時代でした。中学・高校の頃は『人間失格』を読んで「なんかダークだな」と思い、『走れメロス』を読んで、「ふざけるんじゃない!」と憤ったくらいなんです(笑)。でも、大学で『トカトントン』や『ヴィヨンの妻』といった短編を読んでみると、思ったよりもポップな人なんだなと(笑)。何をするにしても「トカトントン」という幻聴が聞こえてやる気がそがれてしまう話を通して、小説とは何を書くかという内容だけでなく、どう書くかという表現方法も追求するものなんだ、と気付けました。
写真左:『真夏の死』『春の雪』三島由紀夫(新潮社)※他、各社から出版あり
写真右:『人間失格』『走れメロス』太宰治(岩波文庫)※他、各社から出版あり

『ヴィヨンの妻』『トカトントン』太宰治(岩波文庫)※他、各社から出版あり
大学時代の経験で、現在の創作につながっているものはありますか?

八木さん
蝉谷さん:いろいろな授業を手当たり次第に受講した経験が今、役に立っています。恋愛を学ぶ授業、映画を見ながら心理学を学ぶ授業…本当にいろいろありました。オープン科目の授業で、馬術かカバディかで迷って馬術の授業を取ったんですが、今ちょうど馬の話を書いているので、それもどこかでつながっているのかもしれません。
八木さん:私はとにかく読む経験を重ねたこと。読まなければ書かなかっただろうな、と思います。思い返せば、空き時間があれば戸山図書館に行っていました。授業で名前が出てきて気になった本を探したり、目についたものを読んだり。大学にいると本が好きな人も映画が好きな人もたくさんいるので、周囲からいろいろなものを教えてもらえたのも大きかったですね。
写真左:「私は創作の講義を取ったり小説教室に行ったりしたことがなく、この本を読んで小説を書きました」という、八木さんの大切な一冊。『物語の役割』小川洋子(筑摩書房)
写真右:学生時代の4年間を国際寮で過ごしたという蝉谷さん。誕生日にたくさんのコーラを手に。寮では、いつも夕飯で余ったプリンをもらっていた思い出があるという
今も図書館は利用しますか?
八木さん:使います。資料を探すときは、まず図書館で関連書籍を一通り借りて、その中で必要だと思ったものを購入します。
蝉谷さん:いろんな本を読もうと思うと、やっぱり図書館が効率的ですよね。私も学生時代は戸山図書館に行っては手当たり次第に読んでいました。卒業して一度就職したのですが、執筆活動の時間を捻出するために早稲田大学の嘱託職員になったんです。その時は、仕事終わりに中央図書館に駆け込んで閉館時間まで執筆したり、資料を探したりしていました。古い歌舞伎の資料を探す上では、浮世絵なども重要な資料なんです。例えば人物を調べると、誰の顔が大きいか小さいかもわかって参考になるので、画像資料まで調べられる早稲田のデータベースは重宝しています。

戸山キャンパス戸山図書館にて
八木さん:検索性とは逆に、好きかどうかわからなくても手軽に読めることも図書館の素晴らしい点ですよね。最近は、図書館の棚から順番に一冊ずつ借りる、ということをやっているんです。「前回が50番の棚だったから、今週は51番」みたいな。そうすると、自分なら絶対に選ばなかった本と出合うことができる。水族館の歴史だったり、ロシア文学の次にアラビア語関係の本が来たり。今は「アラビアンナイト」についての本を読んでいます。
蝉谷さん:すごい。終わらない旅ですね(笑)。
読書は「わからない」があってもいい
ご自身の体験も踏まえて、学生に薦めたい本や、読書の楽しみ方はありますか?

蝉谷さんの本棚の一部。夢枕獏(ゆめまくらばく)や京極夏彦の著書が並んでいる。「私の妖怪好きはこのお二人の先生の影響です。魂を変えられました」と語る
蝉谷さん:私自身、大学時代はさまざまなジャンルを読みました。その中で意識したのは、あえて得意ではないジャンルでも挑戦しよう、ということです。
SFであれば伊藤計劃(けいかく)さんの『虐殺器官』が大好きなんですが、それまで私はSFというジャンルをほとんど読んでいませんでした。でも、タイトルと表紙の格好良さに惹かれて書店で手に取り、読んでみるとどんどん世界が広がっていく。そんなふうに、不得手なジャンルでもじっくり時間をかけて挑戦できるのは、大学生の特権だと思います。
八木さん:伊藤計劃さんは私も大好きで、遺作の『ハーモニー』をちょうど卒論制作の頃に読みました。大きな災いの後に、高度な医療システムのもとで人々の健康や幸福が義務付けられ、監視される話なんですけど、「本当の自由とは何か」「今の社会は幸福なのか」という視点は私が小説を書く上でも重視していて、その礎になった本だと思っています。
写真左:八木さんの書斎。本棚には自著や掲載誌が置かれている
写真右:八木さんの本棚。小さい頃から好きだった海外文学が多いそう
蝉谷さん:大学時代の読書では「わからなかった本」も心に残っています。例えば、『白鯨』。私が海外文学に慣れていなかったこともあると思いますが、「難しかったなぁ」と感じたことも含めてよく覚えています。今はSNSがあるから、なんでも言語化しよう、という世の中ですが、言葉にできないような感情の起伏を生むことも読書の良さだと思うんです。だから、わからないことを恐れないでほしいですね。
八木さん:その観点でいうと、私はすぐに感想を言わなくても良いと思っています。無理に言葉にまとめると、忘れていいものになってしまう気がするんです。相談事も誰かに話すとスッキリする一方で、自分の中での比重が下がることってあるじゃないですか。でも、腑に落ちなかったこと、わからなかったことも、自分の中に残り続ければ、それは自己を形成する資産にもなり得るわけですから。
写真左:蝉谷さんの卒業式、恩師の児玉竜一先生(文学学術院教授)と。今も小説の監修などでお世話になっているそう
写真右:八木さんの愛猫チャコリさん
写真左:『虐殺器官』『ハーモニー』伊藤計劃(早川書房)
写真右:『白鯨』著・メルヴィル、訳・八木敏雄(岩波文庫)※他、各社から出版あり
「わからない」こと自体も、読書体験の一つとして受け入れていい、と。
蝉谷さん:今の社会は、なんでも「わかろう」とする傾向にありますが、読書では「わからない」があってもいいはず。実際、著者が明確なメッセージを持って書いているかといえば、そうではないことも。私自身、疑問を持ちながら書き進めるスタイルですから。
八木さん:よくインタビューで「この本で言いたいことは?」と聞かれるんですけど、一言で言えるならこんなに何十万字も書きませんって(笑)。
蝉谷さん:全力で肯定します(笑)。

八木さん:自分の本に対して、ネットで感想をアップしてくださる読者の方もいらっしゃいますが、「わからなかったのは自分が悪いのかな?」と申し訳なさそうに書かれていることがあります。それに対して、翻訳本を読んでくださった海外の方の感想を読むと「わからない」という言葉を見かけないのが印象的です。わかることへの欲望みたいなものが文化によって少し違うのかもしれませんが、わかることに重きを置いてしまうと息苦しくなってしまいますし、わからなくても面白いものはたくさんあります。そのくらいの気持ちで小説と向き合っていただけると、書き手としてはうれしいです。
蝉谷さん:AIの影響もあって、より早く答えが欲しい、という時代ではありますが、それに抵抗している部分が小説にはあるのかもしれませんね。
早大生へ サイン本プレゼント!
八木詠美さんからは『アンチ・グッドモーニング』を、蝉谷めぐ実さんからは『見えるか保己一』を、それぞれ3冊ずつ、早大生へサインをいただきました。下記、応募要領を確認の上、ふるって応募してください。
八木詠美さん作『アンチ・グッドモーニング』(河出書房新社)、蝉谷めぐ実さん作『見えるか保己一』(角川書店)のサイン本いずれか1冊を計6名にプレゼントします。
【応募期間】2026年10月12日(月)~10月19日(月)23:59まで
【当選発表】2026年10月20日(火)頃 Wasedaメールにて ※ 当選者のみ
【受け取り方法】戸山キャンパス30号館学生会館学生生活課1階カウンターにて
平日10時~16時の間 ※ 学生証持参
【受け取り期限】2026年10月28日(水)16時まで ※ この期間に受け取りに来られなかった場合は、辞退したものとみなします
※ 学籍番号を所有する早大生に限り、応募できます
※ 記入いただいた個人情報は、今回のプレゼントにのみ使用します
※ 早大生に向けてサインをいただきました。転売などしないようお願いします
※ 読後(受け取り後2週間以内)、簡単な感想文の提出をお願いします。『早稲田ウィークリー』各SNSにて紹介します
▼応募フォームはこちらから!
取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒)
撮影:布川 航太
【次回フォーカス予告】10月19日(月)公開「創立記念」








