
撮影:飯島 裕
早稲田大学総長 田中 愛治(たなか・あいじ)
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
新型コロナウイルス感染症が発生してから2020年度入学式はやむなく中止、2021年度、2022年度は規模を縮小し、新入生のみの対面形式で実施しました。ようやく2023年度は、同時中継会場ではありますが、ご家族の皆さまも大学にお迎えして入学式を挙行できることになりました。共にご入学をお祝いできることを大変うれしく思います。
皆さんは入学式から早稲田大学の一員となり、新たな一歩を踏み出すことになるでしょう。皆さんの人生において大事なこの機会に、早稲田がこれから目指す姿の紹介と、早稲田での学びを通じ、皆さんに身に付けてほしい力についてお伝えします。
目指すのは「世界で輝くWASEDA」
2018年11月に早稲田大学の総長に就任して以来、私が強調しているのは「世界で輝くWASEDA」を目指す、ということです。早稲田は今、世界トップクラスの大学になるという決意を固める中、全学で教育・研究活動を推し進めています。早稲田大学が国際的に見て学術的に意義がある研究を続け、社会に送り出した人材が世界中で高く評価されるようになれば、「世界で輝くWASEDA」が実現すると思います。そこで、学生の力をさらに伸ばすために、学内の施設・サービスを充実させ、学生の目から見て学修効果の高い授業を提供することが重要だと考えています。こうして、新入生の皆さんが将来、グローバル・リーダーに成長するための環境を整備しています。
写真左:2022年12月、アントレプレナーシップセンターにオープンしたWASEDA Startup Lounge。起業活動に取り組む人たちが集まりやすく、新たな出会いがあるように、さらには真剣な討論ができるようにという目的でデザインされており、早稲田大学発ベンチャー創出を加速させる新たな拠点の一つとなる
写真右:2021年10月に開館した国際文学館(村上春樹ライブラリー)。村上春樹さんから寄贈・寄託された資料やレコードなどを所蔵し、村上文学の研究を行うとともに、国際文学、翻訳文学に関する世界の交流拠点となることを目指す。関連するセミナーやイベントも随時開催される(撮影:高橋榮)
ただし、早稲田が目指すグローバル・リーダーとは、必ずしも国際機関や世界的に有名な企業で仕事をする人材だけに限りません。どのような場所・組織で仕事をしようとも、グローバルな視野を持ち、人類社会に貢献しようとしている人は、グローバル・リーダーであると考えています。そんなグローバル・リーダーとして活躍するためのポイントとなるのが、皆さんに身に付けてもらいたい三つの力「たくましい知性」、「しなやかな感性」、「ひびきあう理性」です。
答えのない問題にも解決策を示せる「たくましい知性」
皆さんが感じているように、現在、人類は多くの問題に直面しています。新型コロナウイルス感染症への対応や脱炭素社会の実現、経済格差の是正などがありますが、いずれも「正解」は用意されていません。早稲田大学で、そのような答えのない問題に対する解決策を自分の頭で考え抜く、「たくましい知性」をぜひ育んでください。多くの皆さんがこれまで勉強してきた、知識と論理的推論だけを頼りに、制限時間内で問題を解くことを目的とするような受験勉強とは違い、自分なりの仮説を提案するまでには、数週間、数カ月、もしくは数年といった長い時間がかかるかもしれません。それでも、まずは未知の問題を自分事として捉えてみる。そして、問題に対して自分なりの解決策を立て、根拠を示してその策を検証し、自分の仮説が誤っていれば一からやり直す。このような思考の訓練を通じて、「たくましい知性」を早稲田大学で育んでください。

早稲田キャンパスにある大隈重信像
1882年、大隈重信によって設立された早稲田大学は、「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」という建学の理念を掲げ、140年にわたって、学問を実社会に役立てることを重視する教育をしてきました。それをより体系的に、学部を問わず全学の学生に提供できるように、早稲田大学ではグローバルエデュケーションセンター(GEC)を中心に、全学共通の科目を提供しています。その中でも、基盤教育として位置付けられているのが、論理的な日本語による文章作成方法を学ぶ「アカデミック・ライティング」、話す・聞く・発信する力と論理的な文章作成方法を少人数クラスで身に付ける「英語」、文系の学生も数学的論理思考を学べる「数学」、人工知能を用いてビッグデータを解析する基礎となる「データ科学」、今後のデジタルトランスフォーメーション(DX)に備える「情報」の五つの分野で、これらを体系的に学ぶことができます。基盤教育とは、大学で学問を学ぶために必須で、社会に出ても知的職業に就けば必要になるアカデミック・ツールをマスターするための教育です。
答えのない問題に対する解決策を導くには、人文・社会科学と自然科学とが連携し、文理の枠を超えた知識や思考が重要だと考えているのですが、基盤教育はその要となります。ぜひ積極的に受講してみてください。
多様な価値観に敬意を持って接する「しなやかな感性」と、熟議により思考が共鳴する「ひびきあう理性」
早稲田大学には、多様性を認める創立以来の伝統があります。日本全国から学生が集まり、また外国人学生の通年在籍者数は2014年度以降6,000人を超えています。このため早稲田大学は、人種、エスニシティ、国籍、ジェンダー、セクシュアリティ、障がいの有無、宗教、年齢などにかかわらず、多様な価値観を持つ人々に敬意を持って接し、理解し尊重する「しなやかな感性」を育むことのできる大学です。その上で、他者の考えや意見に耳を傾け、自分の意見も述べて、熟議によりお互いの思考が共鳴する「ひびきあう理性」を高め合ってほしいと思います。
大学内で自分とは異なるバックグラウンドを持つ学生と共に学び、共に活動することで、「しなやかな感性」をぜひとも育んでください。早稲田大学では、多様な授業の他にもたくさんの学生と交流できる場所を用意しています。例えば、ICC(異文化交流センター)やGSセンター(Gender and Sexuality Center)、平山郁夫記念ボランティアセンター(WAVOC)などで、学生主体のイベントが多く実施されています。こういった機会を積極的に活用してください。
写真左:早稲田キャンパス3号館にあるICCでは、学生スタッフリーダーがイベントの企画・運営にあたっている
写真右:2017年4月に発足したGSセンター(早稲田キャンパス10号館)は、セーファースペース/リソースセンターとして、LGBTQ+(性的マイノリティなど)を含む多くの学生を支えている(写真は2022年に実施したWASEDA ALLY WEEKS 「WASEDA PRIDE PARADES ありのままでしあワセダ」の様子)
学生による自由闊達(かったつ)なイニシアチブ
早稲田大学が誇れる特徴の一つは、どのような学生にも居場所があることです。早稲田では、一人一人が対等で自然に交流しています。自分のやりたいことが、必ず学内のどこかにあると思います。もし見つからなければ、自分自身で新しい取り組みを始めることもできますし、大学もそれを奨励しています。新入生の皆さんには在学中に、これだけは自分が打ち込んだと思えるものを、もしくはこういうことにやりがいを感じるだろうなと思うものを、見つけていただきたいと思います。そのことが、将来、人生の中で何らかの形で生きてくると思います。
写真左:早稲田大学が運営する、南門通りに建つ小劇場「早稲田小劇場どらま館」。黒一色の外観が特徴的
写真右:WAVOCが活動を支援する「BAM部」では、放置竹林問題の解決を目指している
早稲田大学は、型にはまった成功への道筋を求めるような大学ではなく、自分でやりたいことを探し出す大学です。在学中に、面白いと思うこと、やりがいを感じることを見つけ出してください。それは、勉強や学問研究かもしれず、ビジネスや、ベンチャーの起業かもしれず、政治や行政に関することかもしれません。あるいは、音楽、演劇、スポーツかもしれません。心の準備ができたら、やりたいことに思い切って挑戦し人生を切り開いていってください。それが早大生らしいといえる生き方です。早稲田でのかけがえのない経験は、今後の人生の大きな糧となり、大きな自信になるはずです。
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