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特集

「性的同意」を取っていますか? 性暴力の被害者/加害者にならないために

「性的同意」という言葉を知っていますか。「何となく意味は分かるけど…」「自分には関係ない」と思っている人も少なくないかもしれません。しかし、性的同意が取られていない性的な行為は、たとえパートナー間であっても「性暴力」に当たり、さまざまな形で皆さんの身近に潜んでいます。

今回は、皆さんが性暴力の被害者/加害者にならないために大切な性的同意について、性暴力救援センター「SARC東京」の理事などを務める、川本瑞紀弁護士に解説していただきました。また、大学生が遭遇しやすい性暴力への対処法について、『性的同意ハンドブック』を制作するなどの啓発活動を行う、学生団体の早大生メンバーが伝授。実際に性暴力に遭遇したときの相談先も併せてご案内します。

▼性的同意を取って自分も相手も大切に:川本 瑞紀弁護士
▼「大学生あるある」な性暴力にはどう対処する?:『性的同意ハンドブック』制作メンバー
◎実際に困ったときの相談先

性的同意を取って自分も相手も大切に

弁護士 川本 瑞紀(かわもと・みずき)

1996年、早稲田大学法学部卒業。第一東京弁護士会所属。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。性暴力救援センター「SARC東京」理事、NPO法人「mimosas」監修弁護士も務める。

――性的同意とは一体どのようなものでしょうか?

性的同意を理解するにあたり、「バウンダリー」「プライベートパーツ」の概念もセットで知ってほしいです。バウンダリーとは自分と人との境界線のことで、プライベートパーツとは水着で隠れる部分と口を指します。性的同意は、プライベートパーツに対して、相手の体や心のバウンダリーを越えて、触れたり見たり、性的な行為をしようとするときに、相手に同意を得ることです。性的同意のない性的な行為は性暴力に当たります。

性的な意味があるのであれば、プライベートパーツでなくとも、例えば手をつなぐなど、体に触れる際には同意が必要です。性的同意を得られないまま触れてしまうと、直ちに性犯罪になるわけではないですが、犯罪ではないから何でもOK…とは考えないですよね。

自分が触れたい相手というのは、きっと仲良くなりたい相手だと思うんです。自分のバウンダリーを守りながらも、その人のバウンダリーも守る。仲良くなりたい人の体や心は守りたいですよね。だからこそ、性的同意はとても大切なんです。

――許可なくバウンダリーを侵害すれば、相手を傷付けてしまいます。どのように性的同意を取ればいいのでしょうか。

一番大切なのは、お互いに「NO」と言える関係を築くこと。「NO」が言えない状況での「YES」には意味がありません。なので、泥酔中や睡眠中はもちろん論外。それと、「NO」と言わないことが「YES」であるとも限りません。立場に上下関係があったり、断ると不利益を被りそうであったり、何らかの理由で「NO」と言えない状況下で行為を強要することも性暴力に当たります

親密な相手なら「今日のお昼、どうする?」みたいな感じで、性的な行為をするかしないか、お互いに意見を言い合える関係になるのがいいですね。そこで意見が違ったときに怒りだすような人とは、早めにお別れした方が良さそうに私は思います。

具体的には、手をつないだりキスしたりといった行為をする前に、相手が「NO」と言える、あるいは「NO」だという態度を示せるタイミングをつくることが大切です。そして、相手から「NO」と言われる可能性があると同時に、逆の場合には自分も「NO」と言う権利があるんだと理解することが大事ですね。それから、一度「YES」と言っても、後で「NO」と気持ちが変わることも当然ありえます。気持ちは変わってもいいし、後から断ってもいいんです。

相手と「YES」が一致したときに盛り上がるのは当たり前。重要なのは、お互いの「NO」を尊重することです。相手を大切にするというのは、相手の「NO」を大切にすること。そして、自分を大切にするというのは、自分は「NO」と言ってもいいんだと信じ続けることです。

――もし性暴力の被害に遭ってしまったら、どうすればいいですか?

一刻も早く、ワンストップ支援センター(#8891)か、警察に相談してください。実際に裁判になると、通報が早ければ早いほど、性的同意が無かった可能性が高いと判断される傾向にあるんです。

性行為を強要されたのであれば、可能な限り手を洗わず、シャワーも浴びず、被害に遭った服装のままで警察に連絡してください。部屋やホテルなど、被害に遭った場所も、証拠となるものが残されているかもしれないので、片付けずにそのままにしておいてください。しっかり対応するので、不安にならずに警察を頼ってもらいたいです。

誰にも相談できず、被害に遭ってから時間がたっている場合には、性暴力に関するSNS相談「Curetime(キュアタイム)」などにアクセスしてみてください。被害者の多くは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)として自責の念を抱いてしまいますが、相談窓口の方は、被害者を責めるようなことは決して言いません。安心して相談してください。悪いのは全て、加害者です。

「Curetime」ではチャットで気軽に安心して、性暴力に関するさまざまな悩みを匿名で相談できる(毎日17~21時)

――最後に、早大生に向けて性的同意に関するアドバイスをお願いします。

大学生にとって、性暴力が起こりやすいシチュエーションは、やはりお酒の席でしょうか。自分が当事者でなくても、例えば泥酔状態の学生が、他の学生に無理やり連れて行かれそうになっている現場に出くわしたりしたら、泥酔している学生を安全な場所に移動させるとか、周りにいる人にも声を掛けるとか、居酒屋など店にいる場合には店員を呼んでもいいと思います。

そして、加害者にならないことも重要です。知らぬ間に大切な相手を傷つけてしまった場合には、自分自身にとっても大きな傷になってしまいます。もしも相手が、いつも以上に酔っ払っていたとしたら、普段以上の行為はしないよう心掛けることが大切です。普段、おしゃべりをする仲であれば、おしゃべりまで。酔った勢いで、相手のバウンダリーを侵害しないように注意しましょう。

取材・文:吉田 けい
撮影:小野 奈那子

『性的同意ハンドブック』制作メンバーに聞きました
「大学生あるある」な性暴力にはどう対処する?

(左から)竹田さん、猪又さん

実際に性暴力の現場に遭遇したとき、どうすべきなのでしょうか? 今回、『性的同意ハンドブック』(※)制作メンバーの協力の下、早大生から寄せられた「大学生にありがち」な性暴力への対処法を教えてもらいました。直接被害者が声を上げにくいケースが多いため、被害者・加害者以外の第三者の振る舞いが重要になるといいます。

(※)早稲田大学での性暴力の根絶を目指し、早大生有志によって2022年3月に発行された。性的同意の定義だけでなく、早大生からの声、相談先なども掲載している。

文化構想学部 3年 竹田 彩乃(たけだ・あやの)

Voice Up Japan 早稲田支部」に所属。Voice Up Japanは包括的なキャンパスづくりを目指す一般社団法人で、「生理用品チーム」と「性的同意チーム」に分かれて活動している。

社会科学部 4年 猪又 友理子(いのまた・ゆりこ)

シャベル:早稲田で性暴力の根を切る」に所属。シャベルは早稲田大学における性暴力の根絶と、性についてまじめにオープンに話せる環境を作ることを目的に活動している。

ケース1:
懇親会で勝手に手や太ももなどを触られることがあり、つらいです。

猪又

このような同意のない性的な行為は性暴力に当たります。被害を受けたときに、はっきりと「NO」を伝えられるのが一番良いのですが、相手が先輩だったりと関係性の問題があり、被害を受けている側が「NO」と言いにくい場合も多いと思います。

竹田

そんなときは、周りにいる人がわざと飲み物をこぼしたり、別の話題に切り替えたりして、加害者の気を逸らすのが対応策の一つです。

猪又

例えば、先輩が後輩に性暴力を働いているのを見掛けたときには、その先輩の同期を経由して、「NO」と言ってもらうのも有効ですね。「自分で何とかしなきゃ!」と思いがちですが、加害者以外の先輩やお店にいれば店員など、周りを頼ってみるとスムーズに止めることができると思います。

竹田

私たちが作成した『性的同意ハンドブック』では、周りの人が介入できる方法を大きく5つに分けて紹介しています。そちらもぜひ参考にしてもらえればと思います。

ケース2:
パートナーが同意なしで性行為をしてきてしんどいです。

猪又

付き合っている=いつでも性行為していい、という考えが間違っていると言えそうな関係性であれば、直接「NO」と言ってみましょう。

竹田

「紅茶の動画」を例えに出してみてもいいと思います。紅茶を今日飲んでいるからといって、明日も飲みたいわけではないのは明らかですよね。それと性行為も同じで、気分はいつでも変わるもの。いつでも「YES」ではないと間接的にでも伝えられるようにしたいですね。

性的同意を「紅茶が飲みたいか」に例えた動画は、世界中で1,000万回以上再生されている(Thames Valley PoliceのYouTubeチャンネルより)

猪又

あなたが嫌いだから「NO」と言っているわけではないのだと、理解し合える関係が望ましいです。でも、もし「NO」と言い合える関係性ではないならば、関係を解消するのも検討してほしいです。別れたいけれど、相手が別れてくれないという場合には、デートDVの相談に対応している学内外の相談サービスなどを活用してみてください。

早大生に向けてメッセージをお願いします。

猪又

「性的同意は自分に関係ない」と思わないでほしいです。自分が気付かないうちに相手を傷付けている可能性もあるんです。「恋人いるの?」としつこく聞くことや、そこに「私にも教えてよ!」と便乗するような言動も、無自覚に相手の心を痛めつける場合があると私たちは考えています。性暴力のない早稲田大学を作るために、性的同意の大切さを知ってもらえたらと思います。

竹田

性的同意という言葉を知る前は、性的な言動を受けたときに、なんとなくの違和感があっても何もできない場面が多くありました。友達に相談するにも違和感の正体が分からないから共有できなかった。でも、性的同意の概念を知ったことで、もやもやが何かを把握し、自分の心を整理できるようになりました。この言葉を知ることで、心が救われる人も多いはずです。

 

実際に困ったときの相談先

緊急時には、警察または性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターに連絡しましょう。「#8891」に電話を掛けると、自身の最寄りの支援センターにつながります。東京都では、24時間365日体制で相談を受け付けています。

性暴力に関する悩みを誰かに話したいときには、性暴力に関するSNS相談「Curetime」などを利用しましょう。毎日17~21時まで相談員が待機しており、SNSやメールでの匿名相談が可能です。

また、大学内や併設機関でも相談を受け付けています。

  • コンプライアンス相談窓口
    ハラスメント等の相談を早大生から受け付けています(要事前予約)。
    【Webサイト】https://www.waseda.jp/inst/harassment/counseling/desk
    ●学内窓口(コンプライアンス推進室)
    【メール】[email protected]
    【開室時間】月曜~金曜 10:00~16:00(大学暦に準ずる)
    ●学外窓口 ※英語・中国語対応可
    【電話番号】0120-123-393
    【対応時間】平日 08:30~19:00、土曜日 08:30~17:00(日祝日、年末年始を除く)
  • 弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック
    早大生であれば無料で法律相談が可能です(Webサイトから要申込)。
    【場所】早稲田キャンパス 28号館 4階
    【Webサイト】https://www.waseda-legalclinic.com/

【次回フォーカス予告】7月11日(月)公開「WAVOC20周年特集」

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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