Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

障がい学生のオンライン授業事情 山形など各地から遠隔支援も

現在、約130名の障がい学生が利用登録している早稲田大学障がい学生支援室。新型コロナウイルス感染症拡大によるオンライン授業への変更は、障がい学生にも大きな影響を及ぼしています。対面で支援が受けられなくなったことにより、現在どのように授業を受講しているのでしょうか。今回は、今春入学した聴覚障がい学生と、同じくこの春から本格的に障がい学生支援を始めた学生(支援学生)、そして障がい学生支援室の職員に、それぞれの実情や今後の展望について聞きました。

【聴覚障がい学生】

10コマ中8コマでPC通訳を依頼。2画面を交互に見ながら受講

文学部 1年 伊東 碧海(いとう・あおい)

――ご自身の障がいについて、お話しできる範囲で教えてください。

私は、生まれつき重度の聴覚障がいを持っています。高校まではろう学校(現:聴覚特別支援学校)に通っていました。補聴器をつけると多少は聞こえますが、近くで飛んでいる蚊の音など、小さい音は全く聞こえません。また、話し声が聞こえても、言葉として耳に入ってこないことがほとんどです。普段は、手話や口の動きを見て理解したり、筆談したりしながらコミュニケーションを取っています。

――早稲田大学入学への決め手は何だったのでしょうか。

私の場合は、情報保障(※)がないと大学に行く意味があまりないと考えていました。そうした中で、早稲田大学に入学を決めた一番の理由は、その情報保障がしっかりしているところでした。先輩たちからも話は聞いていましたし、夏休みにオープンキャンパスへ行き、自分でも確認することができました。

(※)視覚障がい者や聴覚障がい者など、障がい等によって情報を得ることができない方に対し、代替手段を用いて情報を提供すること。

――入学と同時にオンライン授業となりましたが、現在はどのように授業を受けていますか?

秋学期は週10コマ履修していますが、対面の授業はなく全てオンライン授業です。英語やスペイン語など、語学の授業は基本的にZoomによるリアルタイム授業で、その他に履修している科目のオンデマンド授業を含めた10コマのうち8コマで、支援学生の方々にパソコンによる遠隔通訳(PC通訳)をしてもらっています。

残りの2コマは個別に担当の先生へ相談し、Zoomによる授業の代わりにメールで課題を提出したり、授業の動画の台本を送ってもらったりして勉強しています。

オンライン授業受講の様子。左側のiPadで支援学生がPC通訳する文字を見ながら、右側のPCでWaseda MoodleやZoomなどを開いて、2画面を交互に見ながら受講している

――支援に対して「もっとこうしてほしい」と思うことはありますか?

春学期はオンライン授業が決まって支援室の皆さんもバタバタしている中、支援をつけてもらえるのかといった心配もありましたが、なんとか必要な支援を受けることができてほっとしました。

私はまだ対面の授業を受けたことがないので、これまでの支援との違いを比較することはできません。現在受けている支援に関して、仕方がないのかなと思ってしまうのは、語学の授業のPC通訳です。先生が外国語で話した場合も、PC通訳をしてもらうと日本語の表示になってしまうので、できたら外国語の授業は外国語で受けたいなという気持ちはあります。でも、授業を聞くだけでも大変なのに、支援学生の方々がそれを文字にしてくれていることは本当にありがたいです。

――コロナ禍の日常生活で困っていることはありますか?

秋学期も対面授業はないため、通常は自宅のデスクでオンライン授業を受講

相手の話し方や特徴、声によっても異なりますが、私は読み取りやすい人で7割くらい、口の動きから情報を得ることができます(ほとんど分からない相手もいます)。ですが、みんながマスクをするようになって口の動きが見えなくなり、何を言っているのか分からないという状況がものすごく増えました。また、以前はマスクをしている人に「(話す際は)マスクを外してください」と言えましたが、コロナ禍ではそうしたお願いもできません。「書いてください」と頼んでもなかなか筆談をしてもらえないことが多いので、面倒に感じて我慢してしまうこともあります。

――今後の学生生活で何か伝えたいことがあれば教えてください。

これから対面の授業に戻った際にも情報保障が必要になるので、教室の一番前に座ってPC通訳を受けることになります。また、何か分からないときには周囲の学生にいろいろ教えてもらわないと難しいことも出てくると思うので、その際はぜひフォローをしていただけるとうれしいです。

インタビュー撮影:SJC学生スタッフ 法学部 3年 植田 将暉

【支援学生】

山形の実家から遠隔でPC通訳。支援の楽しさを伝えたい

文化構想学部 2年 田中 文(たなか・あや)

※インタビューはオンラインで行いました。

山形の実家前にて

――障がい学生の支援を始めた時期、始めた理由を教えてください。

支援学生の登録制度があることを知ったのは、所属している「手話さあくる」(公認サークル)の先輩からの紹介がきっかけです。大学入学直前にドラマ『オレンジデイズ』(TBS系)を見たことで、手話に興味を持ちました。

昨年9月に支援学生の登録をし、その年の秋学期は3回ほど対面授業のPC通訳を行いましたが、本格的に活動を始めたのは今年4月からです。新型コロナウイルスの影響で3月末に実家のある山形に帰省し、時間に余裕ができたこともあって支援を始めました。

自宅デスクでのPC通訳の様子。リアルタイム授業は、利用学生(障がい学生)と共にZoomに入って授業を聞き、オンデマンド授業は、利用学生の開いたZoomを画面共有してもらいながら通訳している

――現在はどのような支援を行っていますか?

秋学期になり一部では対面授業も始まっているようですが、自分の授業は全てオンラインのため、引き続き山形で暮らしながら、空きコマを利用して週2コマ、固定で支援に入っています。一つは聴覚障がい学生のためのPC通訳で、もう一つは弱視の学生のための代筆支援です。最近は支援が楽しくて、学期内でアサインされた授業科目での支援とは別に、単発でPC通訳や動画の文字起こしなども行っています。

――支援の楽しさ、やりがいをどんなところに感じていますか?

自分が履修していない他学部の授業も支援学生として受けられるので、新しい気付きがたくさんあり、視野が広がるところが楽しいです。90分のPC通訳は長くて心が折れそうになることもありますが(笑)、無我夢中で食らい付きながら毎週続けていくことで、支援を始める前からは考えられないほどタイピング力も上達しました。

支援は有償の学生参画活動ではあるものの、ただお金をもらえるからやっている訳ではありません。支援を通して自分自身も成長でき、そして何より、困っている学生の方が多少でも快適に授業が受けられることで役に立てるという“一石三鳥”なところがうれしいですし、やりがいも感じています。

「複素解析1 A」(教育学部)代筆支援のノート。シグマ記号を使う数式は苦手なものの、オンライン授業を聞いて丁寧にノートを取っている

――今後、どのような支援をしていきたいですか?

対面授業だとキャンパスの異なる他学部の支援をするのは移動時間の関係で難しい反面、利用学生(障がい学生)の隣に座って反応を伺いながら支援できるのがいいところだと思います。オンライン授業が中心の今は、PC通訳でも代筆でも、利用学生の顔や反応が見られません。今後は、何らかの方法で利用学生とコミュニケーションを取って、利用学生が求める適切な支援ができるといいなと思っています。

手話さあくるでの活動の様子(2019年)。手話で文章を作り、グループごとに発表(中央の紺色の服装が田中さん)。伊東さんも今春、同サークルに入会したそう

【障がい学生支援室】

今後はオンライン上で障がい学生と支援学生の交流会開催を予定

職員・言語聴覚士 香川 龍仁(かがわ・りゅうと)

オンライン授業決定後の障がい学生支援室

障がい学生支援室(以下、支援室)には現在、身体障がい学生支援部門・発達障がい学生支援部門合わせて約130名の障がい学生と、約100名の支援学生が登録しています。

そのうち、身体障がい学生支援部門に登録している障がい学生は40名ほどいますが、支援学生によるサポートを受けている学生はうち11名で、支援が必要な授業数にすると合計約60科目になります。この60科目に対して、実働40~50名の支援学生・学外支援者により支援を行っています。

春学期にオンライン授業になることが決定してから、実際の授業開始まで約1カ月ありましたが、これまで教室で障がい学生の隣に座って行っていた支援を、オンライン授業ではどうするべきか、支援室でもすぐに検討を始めました。

支援学生が自宅から遠隔で支援ができる「captiOnline(キャプションライン)」(※)というWebアプリケーションを導入することが決定した一方で、先生方もオンライン授業開始に苦慮している中、授業がどのように展開されるのか(Zoomでのリアルタイムなのか、オンデマンドなのか)、もしくは課題提出がメインの授業なのか、支援室での事前確認は難航しました。実際、5月に開始されるまで形態が分からない授業が多く、一旦手配していた支援が不要になることもありました。春学期はこうした問題をその都度解消していき、走り続けたまま終了した、というのが実情です。

(※)筑波技術大学の若月大輔准教授が開発・無償提供しているPC通訳用Webアプリケーション

captiOnlineを用いた情報保障のイメージ(障がい学生支援室提供)

今後の課題

これまで対面で行っていた支援では、キャンパス間の移動が難しいこともあり、特に所沢キャンパスでは支援学生が足りず、通常は2人で行うPC通訳も1人で行ってもらうなど、支援学生に負担を掛けてしまうこともありました。それがオンラインに変わったことで、どの学部も満遍なく支援ができるようになったのは、支援室にとって大きなメリットとなっています。

2019年度に行った学生交流会の様子。視覚障がいの状況を体験(マスクで目隠し)しながら、学生企画のゲームを行った

その一方で、障がい学生や支援学生と直接顔を合わせる機会がなくなり、ちょっと雑談をしたり、コミュニケーションを取ったりすることができなくなってしまいました。人とのつながりの希薄さが、オンライン支援の課題の一つに挙げられます。学生同士が直接言葉を交わす機会は、交友関係を広げるだけでなく、障がい学生と支援学生間で、支援が適切なものとなっているか確認する上でも重要です。秋学期は、障がい学生や支援学生と、オンライン上で交流できる場を用意する予定です。

また、支援室が把握しきれていない障がい学生のニーズがまだまだあるはずです。春学期にオンライン授業を経験したことで、彼らが何に困っているか少しつかめてきましたので、今後はより密に連絡を取ってニーズを可視化し、対応していきたいと考えています。

障がい学生支援室

2019年秋学期に開催した学生交流会

障がい学生支援室では、障がいなどの理由から、修学上さまざまな困難を抱える学生が、他の学生と同様の環境で学べるよう、各学部・研究科や関係箇所と連携しながら学業上必要な支援を提供しています。

「身体障がい学生支援部門」では、聴覚障がい学生、視覚障がい学生、肢体不自由学生などのサポートに関し、支援学生の協力の下、授業でのPC通訳や記録、代筆、移動支援などの支援活動を行っています。支援が初めての人でも、事前の講座を受けることで活動に参加できますので、ぜひ多くの学生の皆さんのご協力をお願いします。

また、「発達障がい学生支援部門」では、各種資格を持つ専門のコーディネーターが、障がい学生との面談などを通して具体的な支援策を検討し、学内の関係箇所と連携してサポートを行っています。

障がい学生支援室Webサイト

【次回フォーカス予告】12月7日(月)公開「就職活動特集」

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