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特集

早起きするとパフォーマンスが低下!? 健康に大学生活を送る睡眠法とは

早稲田大学睡眠研究所所長 西多昌規准教授に聞く

「早起きは三文の徳」とは言いますが…。果たしてそれは科学的に正しいのでしょうか? とりわけ大学生にとっては、必ずしも「三文の徳」と言えないようです。というのは、「一般的に10代後半から20代前半ぐらいまでの若者は朝に弱く、夜に強い夜型。朝早く活動することそのものが実は向いていない」から。こう語るのは早稲田大学睡眠研究所所長のスポーツ科学学術院・西多昌規准教授です。最近の早大生は授業やゼミや部活動・サークル活動、アルバイトなどで忙しく、恒常的な睡眠不足に陥っているそうです。では早大生はどのように睡眠をとれば、心身の健康を損なうことなく、またパフォーマンスを落とさずに、複数の活動を続けていけるのでしょうか。西多准教授にその秘訣(ひけつ)を聞きました。

※インタビューは2020年3月18日に行いました。

睡眠不足の学生が多い早稲田大学

健康や日々のパフォーマンスを保つために、「睡眠・食事・運動」の三つが大切だとよく言われます。その中でも、睡眠は特に重要です。食事は一食や二食抜いても生きていけますし、運動を日常的にほとんどしていない人もいます。ですが睡眠は、一日徹夜しただけで、次の日のパフォーマンスは大きく低下します。睡眠不足がたまってくると、心身にさまざまな影響が出てきます。

約1,500名の早大生を対象に行った調査(※後述、学生チーム「Wasenap」による)では、約30%の学生が「授業の半分以上の時間、居眠りしている」とのデータが出ています。授業中に居眠りするのは、授業が退屈だからという理由もあるかもしれませんが、睡眠不足が大きな原因だと考えられます。

必要な睡眠時間には個人差がありますが、理想的には満足感がある質のいい睡眠が7~8時間ほど必要とされています。睡眠時間が短かったり、睡眠の質が悪かったりすると、睡眠不足になるわけです。睡眠不足になると、昼間に強い眠気に襲われる、あるいは休みの日にいつもより何時間も長く寝てしまう人が増えます。授業中に居眠りする学生が多いということは、夜に十分な睡眠がとれていない学生が実は多いのです。

怖いのは、軽い睡眠不足はなかなか自分では気が付けないことです。自覚がないまま、知らない間に心身のパフォーマンスに影響を与えています。それが蓄積すると、単なるパフォーマンス低下には収まらず、心身に不調を来すこともあるので要注意です。普段、周りから「授業中よく寝ている」とか「いつも眠そう」などとよく言われる人は、自分の睡眠習慣を振り返ってみてください。

会社員より忙しい大学生活

西多昌規著『休む技術』(2017年、だいわ文庫)

睡眠不足への注意を促しましたが、今の大学生が睡眠不足になるのも仕方がないと言える現実があります。最近の大学生は、授業の他にも部活動やサークル、アルバイトにインターンシップなどの課外活動が多く大忙しです。会社勤めをしていれば、決められた休日があり、休みの日に普段より長く寝て、慢性的な睡眠不足、すなわち「睡眠負債」を返すことができますが、大学生にとっての土日は授業がないだけで、課外活動があるためにむしろ平日よりも忙しい人もいます。睡眠負債を返す暇もなく、睡眠不足が常態化している恐れがあります。

特に体育各部やサークルの活動で朝練をしている学生は要注意です。早いところでは朝6時から練習が始まります。朝5時半に起きて練習に間に合うとしても、就寝時間が0時なら睡眠時間は5時間半です。個人差があるとはいえ、理想的な睡眠時間には大きく足りていません。

通学時間が長い学生も注意が必要です。中には通学に片道2時間ぐらいかかる学生もいるようで、1時限目の授業に間に合うようにするには、かなり早起きしなければなりません。日常的に睡眠不足になっている可能性があります。

1時限目は詰め込み過ぎない方がいい

問題は睡眠不足だけではありません。というのも、10代後半から20代前半ぐらいまでの若者は、傾向として朝に弱く夜に強い夜型です。つまり朝早く活動することそのものが、実は向いていないのです。お年寄りが早起きするのは、年を重ねるごとに夜型から朝型へと徐々に体質が変わっていくから。若いうちは夜型で、だんだん朝型になることが科学的に実証されています。

ですので科学的に言えば、朝練はあまりお勧めできるものではありません。それでも朝練が続いている理由は、練習場所や時間を変えられない事情などがあるからでしょう。グラウンドを朝しか使えないとか、コーチやスタッフが朝しか集まれないとなると、朝に練習するしかありません。

それよりも本質的な理由は、睡眠に関する研究成果が、世の中に広く認知されていないからかもしれません。また、「朝練はお勧めできない」とまでは言えても、練習時間を夕方に変えれば必ずパフォーマンスが上がると保証できる根拠はありません。起床時間とパフォーマンスの関係については、これからの研究課題と言えるでしょう。

その一つの実例として、アメリカのワシントン大学(※)の研究で、学校の始業時間を遅らせて、日中のパフォーマンスが上がったという報告もあります。大学教員である立場からは言いづらいのですが、本音を言えば、1時限目の授業は毎日詰め込み過ぎない方がいいでしょう。無理して朝早い授業に出ると、心身のパフォーマンスを低下させてしまうかもしれません。1時限目の授業は必修科目やどうしても出たい科目などに絞った方がよいでしょう。

※ Teens get more sleep, show improved grades and attendance with later school start time, researchers find

特に1年生は注意が必要です。頑張って早稲田に入った学生は、張り切って1時限目に授業を詰め込み過ぎてしまうこともあります。ですが毎日頑張って早起きしていると、若い人はもともと夜型傾向というのもあり、睡眠不足も重なって、日中のパフォーマンスが低下する恐れがあります。

それで済めばまだよい方で、心身に不調を来してしまうリスクもあります。実際、新入生がゴールデンウィークを明けたころから次第に大学に来なくなることはよくあります。いわゆる「五月病」です。これが実は5月に限らず、6月ごろから来なくなる学生もいますし、夏までは頑張ったものの、夏休みが明けたら姿を見せなくなる人もいます。そうならないように、自分の時間割を見直してみましょう。

睡眠不足を避けるために必要なこと

とはいえ、部活・サークルの朝練や早朝のアルバイトなどがあって早起きするしかない人もいるはずです。そういう人は、どうすればよいのでしょうか。

お勧めの対処法は、日中の授業の空き時間などに、1時間半~2時間ぐらい、少し長めの仮眠をとることです。昼寝は一般的に、深い眠りにならない15分~30分程度がよいと言われますが、極端な早起きが日常化して、明らかに睡眠不足が続いている人は話が別です。少し長めの昼寝をとることで、睡眠不足を補う効果が期待できます。

こうした仮眠の効果を訴えて、早稲田の学生が仮眠室の設置を大学側に要求する動きもあります。それが「Wasenap」です。学生が自由な発想で大学改革案を総長に提案する「Waseda Vision 150 Student Competition」に取り組む中で生まれました。

政治経済学部の学生チーム「Wasenap」が「第8回 Waseda Vision 150 Student Competition」に応募した提案「早稲田に仮眠室を!」のプレゼンテーション動画。新型コロナウイルス感染拡大防止のために延期となった決勝大会まで進んでいる

睡眠時間を十分にとり、朝きちんと起きるためには、当たり前ですが、夜更かしをし過ぎないことも大切です。理想的には7~8時間の睡眠が必要なことを考えると、1時か遅くとも2時には寝るようにしましょう。

夜寝る前のスマートフォンも、睡眠を質・量ともに損なうので避けましょう。研究では就寝前にスマートフォンを操作しないことで、翌日のパフォーマンスが向上したという報告もあります。せめて寝る前の1時間ぐらいは、スマートフォンの画面を見ないようにするのがベターです。どうしても見てしまう人は、画面を可能な限り暗くするか、ナイトモードでブルーライトをカットしましょう。

反対に、朝起きたら、強い光を浴びることが重要です。人間の体には「体内時計」があり、周期が24時間より少し長いことが分かっています。何もしないと少しずつ体内時計が後ろにずれて、生活リズムがどんどん夜型になります。その時計のズレが強い光を浴びるとリセットされます。これには室内の照明の光では明るさが足りず、太陽の光を浴びるのが理想的です。

高照度光療法器を使っている様子(医療法人社団docilisすなおクリニック提供)

また、寝起きに強い光を浴びて目覚めを促す「高照度光療法器」という装置があり、市販もされています。早起きをするにしても、夏場はよいけど冬場はつらいという人もいるでしょう。夏場は5時ごろには空が明るくなりますが、冬場の5時台は真っ暗で、体内時計をリセットできないからです。そういうときに高照度光療法器を使うと脳をすっきり覚醒させることができます。朝の強い光は、体内時計の調節の他にも重要な役割があります。朝に光を浴びて15時間ほどした後に、メラトニンという眠りを促すホルモンが分泌されます。朝の光が、夜の睡眠のために必要なのです。

また、かんきつ類には脳を覚醒させる効果があるので、朝にレモンジュースやオレンジジュースを飲むことも良いでしょう。

健康で充実した大学生活を送るために、日々の睡眠を見直してみましょう。

健康に大学生活を送る睡眠 五つのポイント

1. 寝る1時間前にはスマホの画面を見ないようにして、7~8時間ほど睡眠をとる。
2. 目が覚めたら30分以上、太陽光など強い光を浴びる。
3. 朝は脳を覚醒させる効果があるかんきつ系のジュースを飲む。
4. 若い人が朝に弱いのは「怠惰だから」とは言えず、生理的な理由があるということを本人も周囲も理解する。
5.早起きしなければならない学生は日中に10分~30分ほど、朝練があるなど極端な早起きで寝不足が日常化している学生は1時間半~2時間ほどの仮眠を取る。

【プロフィール】西多昌規(にしだ・まさき)。博士(医学) 東京医科歯科大学。早稲田大学スポーツ科学学術院准教授。早稲田大学睡眠研究所所長。睡眠とメンタルや運動との関連性を、脳神経科学・精神医学・心理学など多方面から研究。
1996年 東京医科歯科大学神経精神医学教室入局
1998年 国立精神神経医療研究センター病院精神科レジデント
2005年 ハーバード大学医学部睡眠認知センター Research Fellow
2008年 東京医科歯科大学大学院精神行動医科学分野助教
2011年 自治医科大学精神医学教室講師
2015年 スタンフォード大学医学部 Visitting Assistant Professor
2017年 早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

取材・文:萱原 正嗣

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