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早大に初の常勤精神科医 「一人で抱え込み過ぎず、まず誰かに相談を」

学生生活を送る中で「最近ちょっとふさぎ込みがちだなぁ」と思うことはありませんか? 心の不調は誰にでも起こります。大切なのは、体の不調と同じように早めに対処することです。早稲田キャンパス25-2号館の保健センターには、5階に「こころの診療室」という場所があり、精神科医が心の病の診療を行っています。2018年12月から、こころの診療室に初めて常勤精神科医として着任し、日々早大生の心に寄り添い治療にあたっている石井映美教授に、精神科医の仕事やこころの診療室についてお話を伺いました。今誰にも言えず一人で悩んでいる学生の皆さん、また周囲に困っている友人などがいたら、ぜひ参考にしてください。

石井映美(いしい・てるみ) 1986年 筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院での2年の研修医期間を経て、1988年4月から2010年6月まで報恩会石崎病院に勤務。2010年6月から2018年11月まで筑波大学医学医療系・保健管理センター助教。2018年12月から早稲田大学教授・保健センター常勤精神科医。精神保健指定医、医学博士。

――石井先生が早稲田大学へ着任された経緯を教えてください。

早稲田大学の「こころの診療室」は、以前は曜日ごとに非常勤の先生方が午後の診療を行っていましたが、それに加え、昨年12月より私が常勤医として診療することになりました。精神疾患を担当するこころの診療室において、早期発見・早期対処を質的・量的に改善するために、常駐する医師が必要ということでお声掛けいただきました。他大学では、一度診療をした後は他の医療機関を紹介するのが一般的ですが、早稲田のように常勤医がいて、継続した治療を行うことができる大学は非常に珍しく、これは大きな利点だと思います。

――そもそも大学内に精神科があり、専門の精神科医がいるのはなせですか?

早稲田に限らず、全国のおそらくどの大学の保健センターにも精神科は設置されています。それは、20歳前後という年齢が心の病を抱えやすい時期であるから、というのが理由の一つです。これには進学・就職などの環境の変化があることに加え、この年代がうつ病など、重大な精神疾患の好発年齢であるという背景があります。また、本学に今回常勤精神科医のポストが新設されたのには、精神障がいを含む障がい者への支援や理解を目指して2016年4月に施行された「障害者差別解消法」の発効も関わっているようです。つまり大学には、身体障がい同様、精神障がい・精神疾患に苦しむ学生を支援する必要があり、それに伴って担当教職員の方々の相談窓口も必要になっているのだと思います。

精神疾患の影響は10代で著しく増加し、20~30歳頃には病気による生活への影響の過半数が精神疾患によることを示している(公益財団法人日本学校保健会Webサイト 東京大学大学院教育学研究科 健康教育学分野 佐々木司教授による特集記事より)

精神疾患に罹患(りかん)した成人の半数は、10代半ば(14歳)までに発症しており、4分の3が20代半ばまでに発症。精神疾患の発症は一般のイメージよりも早いことが分かる(公益財団法人日本学校保健会Webサイト 東京大学大学院教育学研究科 健康教育学分野 佐々木司教授による特集記事より)

――「こころの診療室」とは、どのような施設なのでしょうか?

こころの診療室は、精神科の医療機関です。私を含め、精神科医(精神保健指定医・男女)6名が月〜木曜日の9〜12時、月〜金曜日の13時半〜15時半の時間帯に、予約制で保険診療を行っています。基本的には街中にあるメンタルクリニックと同じなので、診療や検査のための医療費もかかりますし、薬が必要な症状なら処方箋も出ます。ただし、医療費に関しては早稲田大学学生健康増進互助会(学生早健会)より、後日自動的に医療給付を受けることができるので(※)、詳しくは早稲田大学学生健康増進互助会のWebサイトを見てください。

学生健康増進互助会の会員は、学外の医療機関にかかった場合も申請により給付を受けることができます。

――精神科医が行う診療について教えてください。

内科や外科などと比べると、少し分かりにくいかもしれません。しかし、診療内容は明確で、心の病を治療することを目的としています。心の病といってもさまざまですが、とりわけ大学生に多いのは「適応障害」です。これは、もともと持っている認識パターンやものの考え方が環境や課題に適応できず、ストレスを感じて不調につながってしまう病のことを言います。日々の小さな困りごとと大差のないレベルで、徐々に不調に陥ってしまうことが多いので、そうであると気付きにくい場合もあります。私たち精神科医は、そうした心の不調を訴える学生たちのお話を聞き、原因を探りながら解決策を見いだしていきます。

保健センターがある25-2号館には、6階に「学生相談室」があり、心理カウンセラー(臨床心理士)さんたちが、学生生活におけるさまざまな悩みについて相談に乗って多くの学生を助けてくれています。学生相談室とこころの診療室は別部門ですが、お互いに支え合う関係で、精神科診療に抵抗がある方が、まず学生相談室へ立ち寄り、そこでこころの診療室を紹介されて受診に至るというケースもあります。

――大学生と接する中で、具体的にはどのような事例がありましたか?

さまざまな事例がありますが、訴えとしては「体の調子が何となく良くない」とか、「大学に来るのがしんどい」であるとか、そうしたぼんやりとした心の不調を抱える学生が多いですね。そこには、他の人よりも少し敏感にものごとを感じ取ってしまったり、対人関係が苦手だったりするという要因があるのですが、まずは自身のつらさを言葉で表現し、誰かに伝えるだけでもものの見方が柔軟になることもあるんですよ。

精神科医としてこれまで大学生と接してきて、とても印象的だった学生がいます。その方は、私の言動に対していつも厳しい言葉を投げてきました。長い間通院してくださってはいたものの、「治療に満足していただけていないのかな?」と不安に思うこともありました。しかし、その学生が卒業する際に、新しい精神科医への紹介状を書いて渡そうとしたら、「僕、これから先生みたいないいお医者さんに出会えるでしょうか?」と泣きながら気持ちを伝えてくださったのです。そんな風に思ってくれていたのだと、感動したことを覚えています。

――石井先生が精神科医になろうと思われた理由を教えてください。

医学生のときに考えていたのが、「私ならではの治療」はどこでできるのだろう、ということでした。大勢いる外科医や内科医より、マイナーな科と呼ばれる場所の方が、私ならではの個性が生きる治療や患者さんとの関わり方ができるのではないかと思いました。そこで浮かび上がってきたのが精神科医という仕事でした。人間丸ごと診療できるところも私にとって魅力でした。私が医学生のころは、医師国家試験を受ける前に専門領域(科)を決めなければならず、大きな決断でしたが、思い立ってからは早く、そこから約30年この仕事に携わっています。

診療はこちらの部屋で行われます

――最後に早大生へメッセージをお願いします。

こころの診療室には、一人で抱え込んで我慢しすぎている学生がよくいらっしゃいます。医療機関の敷居が高ければ、まずは誰かに相談してみてほしいですね。もちろんこころの診療室は、皆さんが相談しに来てくれるのをいつでもお待ちしています。

また、私はグローバルエデュケーションセンター(GEC)で、早大生であれば誰でも受講できる「精神医学概論」という授業も担当していますので、ぜひ聴講してください。日々自分を客観視することで心の健康を維持し、充実した学生生活を送ってほしいと思っています。

取材・文:原 航平
撮影:政治経済学部3年 廣瀬平蔵(公認サークル写真部)

保健センターはこんなところです!

保健センターでは、早大生のかかりつけのクリニックとして利用できるような施設を整えています。また、普段から心身共に健康な状態で学生生活を送ることができるように、生活指導やアドバイスも行っています。

こころの診療室は、早稲田キャンパスの大隈記念講堂と大隈庭園の間の道から25号館を通り抜けた右手、25-2号館5階にあります。電話で予約をしたら、当日は2階の窓口で診療受付を済ませてください。プライバシーは厳守され、学生の皆さんの話を親身に聞いてくれます。何か悩みを抱えたり、心に不安を覚えたら、一人で抱え込まず、まずは気軽に問い合わせてみましょう。

各施設の概要

◆こころの診療室(25-2号館 5階) 直通:03-5286-8743

精神科の医療機関。診療は予約制・有料。
常勤の石井先生と非常勤の精神科医による診療を行っています。
こころの症状や病気を扱う科で、強い不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想など、精神的な症状が強く現れる精神障がいの治療を行います。

以下のようなことで困っていたら相談してみてください。
・気分が落ち込む
・集中力がなくなった
・人の視線が気になる
・眠れない
・不安な気持ち、悲しい気持ちが続く
・物事が気になって仕方がない
・人前で話したり、注目される場面で過度に緊張する
・誰かが自分の噂をしているように思える      など

※初回は保健師がお話を伺います。
※予約受付時間 月~金曜 9:00~17:00

◆診療室(25-2号館 3階) 直通:03-5286-3983

内科、心療内科の医療機関。診療は有料。心療内科は予約制。

心療内科は、さまざまなストレスが原因で、継続的な強い動悸(どうき)、下痢や腹痛、高血圧、ぜんそくなど、主に体に現れる症状や病気を治療する科です。内科を受診していろいろな検査をしても異常はないが、その後も症状がずっと続く場合は、心療内科を受診してみてください。

◆診療受付・会計(25-2号館 2階) 直通:03-3202-0580

診療を受けるために最初に訪れる窓口です。
3階の診療室・5階のこころの診療室を利用する際は、ここで受付を済ませます。

◆学生相談室(25-2号館 6階) 直通:03-3203-4449

学生生活のことなら何でも相談できます。プライバシーもきちんと守られますので安心してください。
・心理カウンセラー(臨床心理士)の相談は予約不要・無料です。
・弁護士による法律相談は月に2回。予約制・無料です。

◆保健センター分室

保健センターでは、5つの各キャンパスに分室を設置しています。
健康相談や応急処置、病院案内などを行っていますので、気軽に利用してください。

分室一覧

早稲田分室 早稲田キャンパス 3号館1F 03-5286-2185(直通)
戸山分室 戸山キャンパス 33号館地下1F 03-3203-3519(直通)
西早稲田分室 西早稲田キャンパス 51号館1F 03-5286-3021(直通)
03-5286-3082(学生相談予約ダイヤル)
所沢分室 所沢キャンパス 100号館3F
(Cゾーン)
04-2947-6706(直通)
本庄分室 本庄キャンパス 93号館1F 0495-24-6244(直通)

【次回特集予告】7月1日(月)公開「ボランティア特集」

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日はほぼ毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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