法学部 3年 南井 耀(みなみい・あきら)= 左
政治経済学部 3年 青木 祐真(あおき・ゆうま)= 右
- 「酒を断ったら場の空気が悪くなる」
- 「男なのだから飲まないと格好悪い」
- 「嫌がっているのだからやめたら、と言いたいけれど…」
サークル新勧活動の時期を迎えると、早稲田大学周辺では多くの「新歓コンパ」が行われますが、このような思いを抱きながらコンパに参加している早大生は多いのではないでしょうか。また、飲酒に対する正しい知識を持って、節度のある楽しみ方をしているでしょうか?
未成年を含む大学生による飲酒に関係した事故は後を絶たず、急性アルコール中毒で死に至るような重大な事故は全国で頻発しています。早稲田大学学生部でも「公認サークル幹部の心得」(2008年度より発行)や新入生向けガイダンスなどで飲酒の危険性を周知し、一気飲みや大量飲酒、飲酒強要の防止に取り組んできましたが、残念ながら学生の尊い命が失われた飲酒事故はこれまでに複数回、起きています。また、重大事故には至らないまでも救急車を呼ぶようなケースは毎年、報告されています。
そんな学生たちのために「飲酒事故は自分にも起こりうること」と考えてその予防に取り組んでもらおうと、早稲田大学生活協同組合は2018年2月、「アルハラ防止アドバイザー」という早大生向けの認定資格を設けました。アルコールの基礎知識や事故予防手段を伝える役目を担った「アルハラ防止アドバイザー」の南井耀さん(法学部3年)と青木祐真さん(政治経済学部3年)に話を聞きました。
「アルハラ防止アドバイザー」の役割はどのようなことですか。
南井
アルハラとは「アルコールハラスメント」の略語です。単純にお酒を無理やり飲ませるようなことだけでなく、断りにくい雰囲気作りや飲むことをはやし立てるような行為もアルハラに当たります。「アルハラ防止アドバイザー」は早稲田大学生活協同組合の認定資格です。私はアルコールや依存性薬物が関連する問題の予防に取り組んでいるNPO法人「アスク(ASK)」(東京都中央区)の協力で実施された「アルハラ防止アドバイザー養成講座」を受け、試験を経て認定されました。学生生活の身近なところで、アルハラをなくしていく活動を行っています。
青木
大学生になると、サークルのコンパ・合宿でお酒を飲む機会があり、一気飲みを強要されることもあります。アルコールの怖さを正しく学んで、自分たちがアルハラの場面に遭遇したとき、また遭遇するかもしれない学生に対して先輩としてアドバイスを送り、飲酒に関連した事故が起きないようにしていく活動をしています。今春も生協の入学準備サポートセンターで、新入生からの相談に応じる中でアルハラについても伝えました。
アルハラ防止アドバイザーとして心掛けていることはどのようなことでしょうか。
青木
新歓コンパやサークル合宿などで、アルハラが起こりやすいという現状があることは、大学生としてよく知っています。また私自身、新入生としてそのような場面に遭遇したこともありましたが、そのときは見て見ぬふりをしてしまいました。「アルハラ防止アドバイザー」となった今は、正しい知識を持って自信や勇気をもって防止に努めようと思っています。もう見て見ぬふりはしたくない、アルハラ防止に一役買いたい、という気持ちが芽生えました。
南井
学生サークルやアルバイト先での飲酒の場には通常、自分の親はいません。飲酒にまつわる事故は、親の見知らぬ場所で起こることですので、学生自身でどうにかして解決していかなければならない問題だと思っています。大学生に飲酒の基礎知識やアルハラとは具体的にどのようなことなのかを伝えるとともに、過去に実際に起きてしまった事故についてもしっかりと知らせる機会を設けるべきだと考えています。
お二人はこれまでアルハラ行為に遭遇したことはありますか。
青木
私は酒がほとんど飲めません。過去に新入生として参加したサークルのコンパでは、飲めない人にまで飲ませようとする団体ではなかったので私は無事でしたが、周囲からけしかけられたこともあって、自ら進んで飲んでいる学生はいました。アルコールに関する知識が乏しいにもかかわらず、盛り上がって「飲め、飲め」という雰囲気を作り出していました。幸い事故は起こりませんでしたが、上級生からは「コンパはこういうものなんだ」ということを聞かされました。危ないとは感じていても、私は何もできませんでした。
南井
アルバイト先で飲み会が開かれたとき、私は未成年者だったので飲酒は断りましたが、先輩が良識のある方ですんなりと認めてくれました。しかし、その場でもし「飲め飲め」と言われていたら、断りにくいので、もしかしたら私も飲酒してしまっていたかもしれません。
「アルハラ防止アドバイザー養成講座」ではどのようなことを学んだのですか。
南井
過去に死を招いたケースの飲み会には、3つの共通の要因があるということです。一つは「断れない空気がある」こと、次に「濃い酒を速く飲ませる」こと、最後に「酔いつぶれた人を放置すること」。養成講座で見たDVDでは、実際に起きたサークルの飲み会での飲酒事故で、大学生の息子さんを亡くされたお母さんがインタビューに応えていました。焼酎の一気飲ませによる死亡事故で、放置して救急車を呼ぶのが遅れたために起きた事故でした。また、「男なのに飲めないのか、男だったら飲め」などの発言は、世間では結構普通に言われていることですが、このような発言はアルハラであり、人権侵害に当たるのだ、ということも知りました。
青木
飲酒を強要する行為だけでなく、周りにいる人も見ているだけ、「嫌だな」と思っているだけではアルハラになるのだ、ということを理解しました。同じDVDで「飲まなきゃいけない、つがなきゃいけない雰囲気があった」「自分たちが新入生のときは嫌だったが、上級生になったらやらなければならなかった」という、アルハラ加害者の証言がありました。そのような“伝統”を続けても誰も幸せになれません。
アルハラ防止アドバイザー養成講座で使用したDVDのダイジェスト版
コンパに向かう早大生へメッセージをください。
南井
新入生であっても、断る勇気を持つことは必要ですが、それよりも大切なことは上級生が目を配ってアルハラをさせないということです。自ら進んで飲み過ぎることも、自分が自分にアルハラしているようなものです。またそのような行為をすることで、周囲にも「もっと飲もう」という空気が生まれてしまいます。未成年は絶対に酒を飲まないことは当然ですが、成人する前にアルコールパッチテストなどで自分の体質を知っておくことが大事です。また、飲める人が過信して飲み過ぎて倒れてしまうこともあるので、上級生はきちんと状況を見ている必要があります。
青木
みんなで盛り上がっている飲み会で嫌がっている人がいたとき、「やめようよ」と声を上げるのは誰だって簡単なことではありません。しかし、お酒が得意でない人、飲めない人、嫌だなと思っている人は少なからずその場にいます。新入生だろうと上級生だろうと、雰囲気を壊すのは難しいと思いますが、アルハラをさせない環境作りであれば簡単にできます。アルハラをやっていいと思っている人はいないと思いますので、幹事は必ず水のポットやソフトドリンクをテーブルに置いておくことなど簡単なところから心掛けていけば、徐々にアルハラ防止の空気が生まれてくると思います。
アスクによるイッキ飲み・アルハラ防止キャンペーン2019
アルコール・薬物・その他の依存問題を予防する活動を行っているNPO法人「アスク」は、1993年から「イッキ飲み防止キャンペーン」を実施しています。同法人のWebサイトでは、2001年以降に起きた大学生の飲酒死亡事故を30件以上具体的に紹介し、遺族の手記なども公開して啓発に取り組んでいます。
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