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YouTube「歌ってみた」や音楽教室論争をどう考える? 独占権から報酬請求権へ 「著作権」の最新事情

ボブ・ディラン氏の歌詞を引用した京都大学総長の入学式式辞が同大Webサイトに掲載されたことや、音楽教室での楽曲使用に著作権料が発生するか否かが大きなニュースとなりました。少し前には2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムについてもデザインの盗用疑惑が問題となり、また、客に人気ゲームキャラクターの格好をさせて「公道カート」で走らせる観光ツアーを行っている会社が著作権侵害行為でゲーム会社から訴訟を起こされています。今週の特集では何かと身近な話題となる「著作権」について、法学学術院の上野達弘教授に最新事情を伺いました。学内でも教員から上野教授に問い合わせがあるぐらい難しい著作権問題について、学生の皆さんも自分で見聞きした事例を念頭に置きながら、著作権はどこまで保護されるべきなのかについて考えてみましょう。

上野 達弘(うえの・たつひろ)。1994年京都大学法学部卒業。1996年同大大学院法学研究科修士課程修了。1999年同博士後期課程単位取得退学。2001年成城大学法学部専任講師、2004年立教大学法学部助教授、2007年同准教授、2011年同教授、2013年早稲田大学法学学術院教授。 著書:『著作権法入門』第2版(島並良・上野達弘・横山久芳著、有斐閣、2016年)、『特許法入門』(島並良・上野達弘・横山久芳著、有斐閣、2014年)など。

判断基準が不明確な著作権

観光ツアーとして営業されている「公道カート」(共同通信)

人気キャラクターの「リラックマ」や「ピカチュウ」、あるいは「ジバニャン」など、他人の著作物をそのままコピーしたり、似たものを公開したりすると著作権侵害になります。しかし、「似ている・似ていない」というのは、明確に線引きできるものではありません。音楽に関しては、「3小節までならまねしてもセーフ」という都市伝説(?)があるようですが、そのような基準はありませんし、あったとしても硬直的に過ぎるでしょう。ルールが明確なのはよいことですが、何でも常に明確であればよいというものではありません。著作権に関する基準は大抵不明確なのですが、それは、著作権が知的な創作物という「無体物」を対象としていることから生じる、むしろ当然のことと言えます。

他人の著作物を無断利用しても、「引用」は適法です(著作権法32条1項)。例えば、他人の小説を一部引用しつつ論評する場合です。ただ、「引用」という言葉が曖昧なために、どのような場合が適法引用と言えるかは、学説や裁判例でも考え方が分かれています。結局のところ、この基準も明確でないというのが実情です。

また、最近では、インターネット上の侵害サイトへのリンク集を公開したり、いわゆる「直リンク」によって他のサイトにある画像や動画を表示したりすることが適法なのかどうか大きな話題になっていますが、これも現在の解釈論では明確ではなく、また国際的にも議論の真っ最中です。

著作権法は毎年のように改正されているのですが、技術の発展が速いため、時代に追いつくのがなかなか難しい状況にあります。

より自由に使えて、利益が還元される社会へ

2015年、東京オリンピック・パラリンピックのエンブレム撤回決定を報じるニュースを映し出す家電量販店のテレビ(共同通信)

いわゆる「歌ってみた」のように、歌謡曲を弾き語りして、その映像をYouTubeにアップすることは、JASRAC(日本音楽著作権協会)など著作権を管理している団体のライセンスによって適法である場合が多いです。もっとも、自分で弾き語りをするのではなく、CD音源をそのままアップしたり、カラオケ音源に合わせて歌う動画をアップしたりする場合は、レコード会社の権利(「著作隣接権」と言います)が別途関わってくるので注意が必要です。

著作権や著作隣接権は「独占権」ですから、著作権者は、自分の歌を他人が無断で歌うことを禁止したり、盗用された文章・画像の削除を請求したりできますが、例えば、アマチュアバンドが無料コンサートで演奏することや、図書館の本を調査研究のために部分コピーすることなどは、権利者に許諾を得ることなく、また無償で行うことができます。これは、そのように著作権を制限する規定があるからです。

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上野教授のゼミの様子。著作権に関する実際の判例などが題材となる

ただ、日本の著作権法は、このように“無許諾無償の完全自由”と“完全な独占”のどちらかの規定が多く、いわば「オール・オア・ナッシング」の傾向が強いように思います。そこで最近は、著作権という権利を、独占権から報酬請求権に変えるなどして、著作物をより自由に使うことができるようにしつつ、権利者に利益がきちんと分配されるようにするのが望ましい場合が多いのではないか、という考えが一つのトレンドになっています。

例えば、大学でも、授業で使用するために新聞記事などのコピーを配布することがありますが、今の著作権法だと、これを受講生のためにサーバーにアップすることは原則できません。そこで現在、教育の情報化に対応すべく、こうした利用を権利者の許諾なしにできるようにする法改正が準備されていますが、そこでも無料というわけではなく、権利者に使用料が支払われる制度を目指すことになっています。

また、音楽教室における音楽利用をめぐって最近紛争が生じているのは、よく知られています。そこでは音楽教室における講師や生徒の演奏について著作権が及ぶかどうかが問題になるのですが、音楽教室の社会的意義やクリエイターの権利をどちらも評価するならば、音楽教室における演奏についても、何らかの方法によって、著作物をより自由に使うことができるようにしつつ、権利者に利益が分配されるようにする方向性が一案になり得るかも知れませんね。

権利保護と自由利用のバランス

上野教授らの著書『著作権法入門』(有斐閣)

インターネットの発達によって、ブログを書いたり、Twitterでつぶやいたり、YouTubeに動画を投稿したりなど、誰でも世の中に情報を発信できるようになりました。ただ、その代わり、誰もが著作権の侵害者となってしまう可能性もあります。とはいえ、インターネットは、社会や人類が生み出した有益なものですし、人が自由に表現できる場を確保することも大切です。

そこで、最近では、プラットホーム事業者の責任を一部免除する一方で、何らかの方法で権利侵害を防ぐ義務を負わせるべきかどうかが国際的にも論点になっています。例えば、無許諾のコンテンツがアップされることを検知するシステムを動画投稿サイトに導入させるべきとする提案もあり、その是非が議論されています。

最近の著作権法の研究者は、いかに著作権を保護すべきかを研究しているわけではなく、権利保護と自由利用のバランスをどのように調整すべきかという問題意識を共有しています。権利というのは強すぎても、弱すぎてもよくないのです。授業やゼミでも、やっていることは同じことです。ときどき誤解されるのですが、法学部で行っている授業というのは、法律をきちんと順守するように学生を指導するというようなものではありません。むしろ、著作権法などの法律が社会においてどうあるべきなのか、そもそも著作権というのはいかなる根拠で認められるべきなのか、といった一見自明の問いを、あれこれ考察するものなのです。

早稲田ウィークリーからのお知らせ

大学での学びに関する教育著作権

大学での学びに関する教育著作権については、早稲田大学大学総合研究センターが詳しく解説しています。インターネット上の著作権を侵害したり、他者の著作物を利用する際のルールに違反すると、退学や停学といった厳しい処分が下されることがありますので、学生の皆さんはよく確認しておきましょう。

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