早稲田大学とミステリとの深い関係
文化構想学部4年 堀ノ内 雅貴(ほりのうち まさたか)公認サークル ワセダミステリクラブ会員
森下雨村編集の『新青年』誌に掲載された江戸川乱歩「二銭銅貨」が国内初の本格的創作ミステリといわれていますが、実は雨村・乱歩共に早稲田大学の出身です。戦後、乱歩は母校にミステリの愛好会を望み、彼を顧問、鈴木幸夫教授(千代有三)を会長として1957年に仁賀克雄が「ワセダミステリクラブ」を設立。翌年には会誌『PHOENIX』が創刊され、現在では文学フリマで頒布しています。早稲田祭では乱歩顧問の仲介で作家講演会を主催し、これも現在まで続いています。創立者の仁賀克雄をはじめ、クラブ設立当初から出身者が翻訳・評論・編集で活躍しており、探偵小説誌『幻影城』の島崎博編集長や海外ハードボイルド紹介の功労者・小鷹信光もOBです。80年代後半~90年代には当会や京都大・同志社大・立教大などの学生サークル出身者が相次いで小説家デビューし、「新本格ミステリ」と呼ばれるブームをけん引しました。クラブではSF・ホラー・ファンタジーといった近接ジャンルも扱っており、その分野で活躍する出身者も多く、また、クラブ所属者以外でも早稲田大学出身のミステリ関係者は多士済々です。
早稲田大学出身のミステリ小説家
【戦前】
海野十三/金来成/国枝史郎/妹尾アキ夫/平林初之輔/水谷準/三津木春影/森下雨村
【戦後】
阿刀田高/生島治郎/井沢元彦/打海文三/遠藤武文/岡村雄輔/香納諒一/河合莞爾/日下圭介/倉阪鬼一郎
笹倉明/篠田真由美/曽根圭介/蘇部健一/高橋克彦/多島斗志之/月村了衛/中町信/七河南/貫井徳郎
乃南アサ/藤田宜永/船戸与一/降田天/水上幻一郎/村瀬継弥/矢野龍王/結城昌治/連城三紀彦
【ワセダミステリクラブ】
江戸川乱歩(顧問)
千代有三(初代会長)
彩坂美月/大藪春彦/折原一/恩田陸/霞流一/北村薫/栗本薫/田中文雄
明神しじま/森晶麿/森川楓子/森谷明子/山口雅也
他、多数
※ここでは、ミステリと捉えられる作品の発表者をミステリ小説家と定義する。
絶対に外せない乱歩傑作選
「心理試験」
名犯人・蕗屋清一郎と名探偵・明智小五郎の頭脳勝負。
「湖畔亭事件」
レンズ越しの幻惑的光景と目撃を言い出せぬ苦悩。
「押絵と旅する男」
旅の途上で出合う蜃気楼(しんきろう)のような極上の幻想怪奇譚。
※いずれも複数全集に収録。
ワセダミステリクラブ選書 ジャンル別お薦め作品
【本格】 『凶笑面蓮丈那智フィールドファイルⅠ』
北森鴻/新潮文庫/562円
異端の民俗学者・蓮丈那智と助手の内藤三國が調査するのは、鬼の登場する祭祀(さいし)や、村に伝わる秘仏、奇妙な面、そして――殺人事件。那智が民俗学的な謎を解明するとき、現代の事件の謎も明らかになる。その謎同士のリンクが大きな魅力だ。
【幻想】 『三月は深き紅の淵を』
恩田陸/講談社文庫/720円
早稲田大学教育学部出身の著者が書物好きへと贈る幻想ミステリ。同名の幻の本『三月は深き紅の淵を』をめぐる異なる四つの物語に、戸惑いながらも魅了されること間違いなし。姉妹作の『麦の海に沈む果実』『黒と茶の幻想』もお薦めだ。
【日常の謎】 『トオリヌケキンシ』
加納朋子/文藝春秋/1,512円
他人からは少し理解されにくい困難やつらさを抱え込んだ人々に訪れる、六つの奇跡の物語。彼らが懸命に生きる日常の中での謎に答えが与えられたとき、心に救いがもたらされるのだ。苦しみとそこからの救済が効果的に描かれた短篇集である。
【青春】 『七つの海を照らす星』
七河迦南/創元推理文庫/950円
児童養護施設・七海学園を舞台に繊細な技巧で紡がれた連作短篇集。特殊な事情を抱えながらも青春を送る子どもたちの思いを、新人保育士の春菜と児童相談所の海王さんが、謎を解くことでくみ取っていく。著者は早稲田大学第一文学部出身。