Waseda Weekly早稲田ウィークリー

学生注目!

ケーブルが勝手に直る? 自己修復する電気配線を開発した大学院生

新しいデバイスやシステム、サービスを実現させ、産業界で活躍する人間になりたい

大学院基幹理工学研究科 博士後期課程 2年 古志 知也(こし・ともや)

顕微鏡を使わないと見えない「マイクロ」や「ナノ」といった小さな世界。その小さな世界で起こる特有の現象を用いて、理工学術院准教授・岩瀬英治研究室に所属する古志知也さんは、き裂を自己修復する電気配線を開発し、この技術を応用した新しいデバイスを作ろうと研究しています。

この研究により、日本機械学会マイクロ・ナノ工学部門主催の2015年度第7回マイクロ・ナノ工学シンポジウムで若手優秀講演表彰を受賞したり、マイクロ工学分野で最上位と言われる国際学会、30th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems(MEMS 2017)で発表したりするなど、国内外で注目されている古志さんに、研究拠点の一つである西早稲田キャンパス近くの「工房」にて、研究内容や今後について話を聞きました。

――研究テーマ「自己修復する電気配線」について教えてください。

自己修復する様子を解説

一言で言うと、「生じたき裂を自ら修復する電気配線」の研究をしています。例えば、スマートフォンの充電ケーブルはずっと使っていると断線してしまうことがありますよね。これは、使っている中で、ケーブルに曲げや伸縮変形が生じてしまうためです。これまでは、配線の材料を伸縮性のある導電性ゴム材料にしたり、金属配線の形状をバネのような形状にしたりするなど、配線の材料や形状を工夫することで、曲げや伸縮変形に強い配線をつくろうとする研究が多くなされてきました。しかし、それでも配線というのはどうしても切れてしまう。そこで、私が所属する岩瀬研究室では「断線しても(自ら適切に)直ればいい」と視点を変え、自己修復する電気配線を実現しようと考えました。

私は岩瀬研究室の1期生で、学部4年のときに岩瀬先生とこの研究を始めたのですが、気付けば5年目に突入しました。

――早稲田大学基幹理工学部にはなぜ進学したのですか?

小さいころからものづくりに興味があり、ブロック玩具やプラモデルの組み立てが好きでしたし、牛乳パックや新聞紙でおもちゃを作って友達と遊んでいました。だから将来的には「ものづくりに関する分野に進みたい」という漠然とした考えはあったものの、大学進学の時点で細かい学科までを絞ることができませんでした。早稲田の基幹理工学部は1年生で基礎を学び、2年生になるタイミングで学科を選択するというシステムが魅力的で進学しました。そして、1年間学んだ中で一番興味を持った機械科学・航空学科を選びました。

――研究を続けてきて、これまでに失敗や途中で投げ出したくなるようなことはありましたか?

一つのことにのめり込むと、それしか見えなくなるくらい集中するという性格もあってか、投げ出したくなることはありませんでした。研究を始めた当初は、実際に配線が自己修復したかどうかをなかなか確認できなかったので、条件を変えたりするなど、試行錯誤しながら実験していました。また、研究室の1期生ということで、研究のアイデア出しから、修復理論の構築、実験サンプルの製作・評価までの全てを自分で考えながら進めていったので、大変ではありましたが、とてもいい経験になりましたし楽しかったです。

岩瀬研究室のメンバー(写真手前中央が岩瀬先生、左隣が古志さん)

――学部を卒業し、現在は大学院の実体情報学博士プログラムに在籍していますね。

今年1月に米国ラスベガスで開かれた国際学会に出席。英語で発表を行った

学部生のころは、いわゆる図面を引いたりする「設計」に興味を持っていたのですが、研究室に配属されてからはアイデアを出して原理検証をする「研究」の方が面白くなり、将来は研究開発職に就きたいと考えて実体情報学博士プログラムへ進みました。

今の時代において、新しいデバイスやシステム、サービスを実現するためには、同じ専門分野の人々が集まっただけではできなくて、いろいろな専門分野や文化、言葉など、多様なバックグラウンドを持った人々がみんなで協力していく必要があると考えています。

このプログラムでは専門分野を超えて多くの人と交流できる機会があるので、自分の専門分野を極めるのはもちろんのこと、その他の知識も兼ね備えた「T字型人間」になることができると思います。ワークショップも多いので、研究者としてだけでなく社会人としても重要である、ディスカッション能力やコミュニケーション能力も培うことができ、時代に即したカリキュラムが充実しているなと感じています。

――最後に、研究の今後の展開とこれからの目標を教えてください。

発表では、相手の立場に立って「分かりやすく」を心掛けている

学部の卒業論文では本当に修復するのかという原理検証を行っていた研究も、デバイス応用の段階まで来ています。今は簡単な構成のデバイスですが、博士課程の残り2年で複雑な構成のデバイス内で配線の自己修復を実現させることが目標です。具体的には、伸縮するディスプレーや絆創膏(ばんそうこう)型の生体情報モニタリングデバイスのような、伸縮電子デバイスへの応用です。

また、この4月からインターンとして、ドイツ・ベルリンにあるフラウンホーファー研究機構の「信頼性・マイクロインテグレーション研究所」(Fraunhofer IZM)に約4カ月間研究滞在します(取材は2017年3月)。インターン先は複雑な構成のデバイスを作る技術が優れているので、そのノウハウを習得して自分の研究に応用できたらと思っています。

そして将来は自分自身が開発した新しいデバイスやシステム、サービスを実用化させ、それを世界中の人たちに使ってもらいたいと考えています。博士課程を修了するまでにしっかり勉強し、自分が活躍できそうなところを見極めて企業や研究所といった、いわゆる産業界で活躍できるような人間になりたいです。

第669回

【プロフィール】

福島県出身。県立安積黎明高等学校卒業。博士課程教育リーディングプログラム「実体情報学博士プログラム」(専門分野の枠を超えた博士課程前期・後期一貫した学位プログラム)に所属。日本学術振興会特別研究員DC1。日本機械学会マイクロ・ナノ工学部門主催2015年度第7回マイクロ・ナノ工学シンポジウム若手優秀講演表彰、2015年度日本機械学会三浦賞、2015年度小野梓記念学術賞などを受賞。

ギタリストのエリック・クラプトンが好きで、学部時代はバンドサークルに所属。今も休日にはギターを弾いてリフレッシュしているとのこと。

◆関連ニュース
「き裂を自己修復する金属配線を金属ナノ粒子の電界トラップを用いて実現」
https://www.waseda.jp/inst/nanolife/news/2016/09/27/1083/
https://www.waseda.jp/top/news/22187

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