Waseda Weekly早稲田ウィークリー

News

ニュース

鷲津先生に聞く! 日々の「食」から考える持続可能な社会とは?

2026年度の「教えて! わせだ論客」のテーマは「食」。複数の専門家の視点から、食について考えます。第3回のゲストは、「環境の産業連関分析」を専門とする鷲津明由教授(社会科学総合学術院)です。経済学の分析手法を環境問題に応用し、近年は「食」と「農」を軸にした持続可能な地域づくりを研究している鷲津教授に、「食」が私たちの社会や環境とどうつながっているのかを伺いました。

私たちの食生活とCO₂排出にはどのような関係がありますか?


私たちの消費行動が引き起こすCO₂排出の三大要因を、産業連関分析を用いた環境家計簿で分析すると、食費、光熱費、交通費と分かります。日々の「食」にどのくらいのCO₂排出が関与しているのかを把握することは、持続可能な社会への移行を考える上での入り口となります。

INDEX
▼「産業連関分析」を環境問題の評価に応用する
▼「京檸檬(れもん)プロジェクト」に見る「食」と「地域づくり」の好循環
▼「食」から出るCO₂の削減は、地域づくりが鍵
▼「食」は持続可能な社会への移行を考える入り口になる

「産業連関分析」を環境問題の評価に応用する

鷲津先生のご専門である「環境の産業連関分析」とは、どのような研究分野なのでしょう?

「産業連関分析」とは、ある産業の生産活動が、他の産業にどのような波及効果をもたらすかを分析する手法です。例えば、自動車の生産が増えると、自動車メーカーだけでなく、鉄鋼、ガラス、物流、広告、販売店など、さまざまな産業にも需要が広がります。こうした「産業と産業のつながり」を数値で把握するのが産業連関分析です。もともとは経済学の分析手法で、高度経済成長期には「自動車産業の育成には、どれだけの電力や鉄鋼の基盤が必要か」などの経済計画を作る目的で使われていました。

これが環境分析に応用されるようになったのは、1990年代のことです。1992年の国連環境開発会議(リオ・サミット)以降、CO₂排出が世界的な課題となり、製品をつくる過程全体の環境負荷を評価する「ライフサイクルアセスメント(LCA)」が注目されました。例えば、自動車を1台つくるのに、どれだけのCO₂が出るのか。これを算出するのに、産業連関分析を用いれば、サプライチェーン(※1)上で発生する間接的な排出を含めたCO₂排出量を推計できます

※1 原材料の調達から製造、物流、販売を経て、最終的に消費者へ商品やサービスが届くまでの一連の流れ

私はもともと経済学が専門で、産業連関分析をLCAに応用する研究を続けてきました。産業連関分析は「食」と「環境」の関係を読み解く上でも優れたツールです。食品産業と農業、流通は密接に結び付いており、そのつながりの中でのCO₂排出量を算出できれば、日々の「食」の持続可能性を評価することも可能になります。

「京檸檬プロジェクト」に見る「食」と「地域づくり」の好循環

最近、特に力を入れている研究テーマについて具体的に教えてください。

私は現在、赤尾健一先生(社会科学総合学術院教授)たちとともに、環境省の環境研究総合推進費の助成の下で「地域を主体とするサスティナブル社会への移行方法論の構築:地域循環共生圏事業の発展的な拡大にむけて」という研究に取り組んでいます。現在の地域社会は、住人の高齢化や買い物弱者、耕作放棄地など、さまざまな課題を抱えています。そこで、環境省は地域の人々や企業を巻き込んだボトムアップ型の「地域循環共生圏」づくりを進めています。これは、地域資源を活用して、環境・経済・社会を統合的に向上させようという考え方です。その中で、最も話題になりやすいトピックとして、「食」と「農」が挙げられます

地域循環共生圏に参考となる事例として注目しているのが、京都の地場企業や農家が連携して行っている「京檸檬プロジェクト」です。京都には耕作放棄地が増えている一方で、インバウンド観光によるオーバーツーリズムという課題もあります。外国人観光客の需要を生かして、この二つの問題を同時に解決しようという仕組みです。

本来レモンは温暖な地域で栽培されますが、京都では冬の寒さの影響で、完全に熟す前の青いうちに収穫せざるを得ません。そこで、その青いレモンを逆手にとって「京檸檬」としてブランド化しました。そしてこのプロジェクトで重要なのが、果汁加工を手掛ける「株式会社日本果汁」。同社は“困りごと”を抱える全国の農家の皆さんからさまざまな果実を集め、搾汁・果皮の加工・エキス抽出という三つの生産ラインを計画的に稼働させることで、多種多様な商品を効率的に生産しています。

さらに、京都を拠点にするグローバル企業である「宝酒造株式会社」が、この京檸檬を使ったクラフトチューハイを手掛けています。大企業が得意とする規模の経済(※2)を生かしながら、ご当地の素材をブランド化する。一般的なチューハイが1本200円ほどのところ、京檸檬チューハイは400円ほどで、観光客が多く訪れるお土産屋さんなどで売れています。耕作放棄地の活用、地域創生、フードロスの最小化、日本文化の世界への発信など、このプロジェクトには地域の課題を解決するサステナブルな要素が詰まっています

 ※2  生産規模を拡大することで製品一つあたりのコストが低下し、利益率や競争力が向上すること

「京檸檬プロジェクト協議会」の仕組み(鷲津先生作成資料より)と、京檸檬を使ったクラフトチューハイ「寶CRAFT」<京檸檬>(※クリックして拡大)

「食」から出るCO₂の削減は、地域づくりが鍵

そもそも先生は、なぜ「地域づくり」に関心を持つようになったのですか?

出発点は、産業連関分析を使った「環境家計簿」の研究です。1990年代は、製品をつくる過程を見直す「持続可能な生産」が注目され、生産現場の効率化が大きく進みました。生産現場の効率化や省エネには、ICTを活用した「スマート化」が大きく貢献します。ところが2000年代に入ると、「生産による環境負荷は改善されたのに、消費による環境負荷が見直されていない」と指摘されるようになります。そこで私は、産業連関分析を使って、消費者が排出するCO₂を調べました。

産業連関分析を用いた環境家計簿は、家庭で使う電気・ガス・水道・ガソリンによるCO₂排出ばかりでなく、服や食べ物などの一般的な消費財を作る過程で排出されるCO₂も分析することができます。すると、私たちの消費行動が引き起こすCO₂排出の三大要因は、食費、光熱費、交通費でした。光熱費や交通費は省エネ機器や再エネの活用で減少傾向なのに対し、食費が引き起こすCO₂排出は、なかなか減る兆しが見えません。以前、中学生から「どこまで我慢したら、環境にやさしい消費者になれますか?」と聞かれ、はっとしたことがあります。エコ消費を目指すと、どうしても「我慢」がついて回る。だからなかなか進まないのです。

そこで私が研究したのが「スマート化」、つまりマネジメントの効率化についてです。例えば、ファミリーレストランのレジで売れた商品情報が、瞬時に工場の生産計画や物流計画に反映される。人が我慢しなくても、ICTの力で自然に環境負荷が下がっていくような仕組みが実際に運用されています。ただ、それだけでも解決しきれません。そこで最終的に行き着いたのが、「食」と「農」のサプライチェーンそのものを組み直す「地域づくり」でした。

「食」は持続可能な社会への移行を考える入り口になる

「環境の産業連関分析」の専門家である鷲津先生にとって「食」とは?

「食」は、環境・経済・社会の全ての課題が集約された、最も身近なテーマだと考えています。私は、産業連関分析から出発し、環境家計簿や「スマート化」を経て、「地域づくり」の研究にたどり着きました。「京檸檬プロジェクト」のような「食」と「農」のサプライチェーンを軸にした地域づくりに、持続可能な社会を実現するヒントがあると考えています。

つまり、「食」はサステナビリティ・トランジション(持続可能な社会への移行)を考える入り口になります。普段何気なく食べているものが、どこから来て、どれだけの環境負荷を生んでいるのか、一度たどってみてほしいです。例えば、ある日の買い物にどれだけのCO₂排出が関与しているかを考えてみるだけでも、世界の見え方が変わってきます。

最後に早大生にメッセージをお願いします。

現在、政府は企業に対して、有価証券報告書などにおけるサステナビリティ情報開示の義務化を進めています。これにより、自社の製品やサービスに起因する環境負荷軽減に積極的な投資を行う企業が高く評価され、企業価値の向上につながるようになります。皆さんも就職活動をする際には、各企業の公表するサステナビリティ情報を見て、企業が持続可能な社会の構築に大きく貢献しようとしている現状をぜひ確認してみてください。

サステナビリティ・トランジションは、まさに現在進行形の課題です。環境問題を「自分ごと化」する第一歩として、まずは目の前の「食」に目を向けてみてください。そして、学生時代に環境問題を多角的に学び、持続可能な社会の実現に貢献できる人材になってほしいと願います。

鷲津 明由(わしづ・あゆ)

社会科学総合学術院教授。慶應義塾大学経済学部卒業。同大学院経済学研究科修士課程修了。同大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(商学)。東海大学教養学部専任講師、早稲田大学社会科学部助教授などを経て現職。専門は、計量経済学(産業連関論)、環境経済学。スマート社会技術融合研究機構(ACROSS)次世代科学技術経済分析研究所所長。

担当授業:「産業構造論」、「経済学入門 1〔ミクロ経済学〕B」、「カーボンニュートラルと社会(学部生用)

取材・文:丸茂 健一
撮影:石垣 星児

早稲田が分かる大学公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/weekly/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる