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“やりたいことがない”から始まったアパレル起業 COHINA・田中絢子

思い付いたらやってみる。やりたいことは全部やり尽くした方がいい。

COHINAブランドディレクター 田中 絢子(たなか・あやこ)

南青山にあるCasa COHINA Aoyamaにて

150cm前後の小柄女性の日なたというコンセプトの下誕生したファッションブランド「COHINA(コヒナ)」。代表の田中絢子さんは、身長148㎝。早稲田大学の校友であり、ブランドを立ち上げた2018年1月当時、まだ政治経済学部に在学中だった。田中さんはどんな大学時代を過ごし、いかにして学生起業家となったのか。その原点を聞くと、「大学入学当初、将来やりたいことは特にありませんでした」という意外な答えが返ってきた。

見つからないのなら、自分で作らないと!

「高校時代から世の中のさまざまなことに興味があった反面、『何をしたいか』は明確にはなかったんです。そこで、法律や教育など一つの専門性に絞るのではなく、『世の中を広く見られる場所』として政治経済学部に進学しました」

入学後の田中さんの原動力も、さまざまな人と環境に触れて見聞を広げること。1年時には早稲田祭運営スタッフ(公認サークル)に参加。100人を超える組織で多様な価値観に触れると、2年時には友人と共に学生団体「Bela Virino」を創設。フィリピンのセブ島で、貧困層の子どもたちにメークやファッションを通じて自己表現の場を提供する活動を行った。

「重視したのは、ただ支援するのではなく、“体験として残る”国際協力にすること。現地の子どもたちが自己表現をきっかけに自信を持ち、将来の夢を語るようになるなど、『人の可能性が広がる瞬間』を何度も目の当たりにした、貴重な体験でした」

写真左:2013年4月、入学式で友人たちと(中央が田中さん)
写真右:早稲田祭運営スタッフでの活動の様子(前列右から3人目が田中さん)

フィリピン以外にも、ブラジルでのスラム街の子どもたちを支援するボランティア活動や、バングラデシュでのIT企業へのインターンに参加した田中さん。しかし、世界各地で多様な経験を重ねてもなお、「これだ」と思える進路には出合えなかった。

「そこで思ったんです。これだけ世界を見て、さまざまな体験をしても、『自分の生涯を懸けたい』と思える仕事や会社はなかった。これは見つかるものではなく、自分で作らないとダメなんだと、起業を決意しました」

(上段)大学2年時、ブラジルでのボランティア活動の様子。世界中から集まった学生たちと共に、異文化交流プログラムの企画の他、コスメを通じた交流も行った。右上は最後列右から2人目が田中さん。(下段)大学4年時、バングラデシュでの様子。平日はIT企業でインターン、週末は子どもたちとボランティア活動をする日々を送った

こうして将来の方向性がおぼろげながら見えてきた田中さん。ただ、起業するにしてもどんなテーマ・専門性で勝負すべきかはまだ定まっていなかった。

「やりたいテーマがまだ見つからないなら、一度就職してみるのも一つの手かなと思いました。将来の選択肢が広がりそうな会社であれば、就職すること自体にも意味はあるはず。そう考えて内定をもらえたのがGoogle日本法人でした」

就職先も決まって、卒業まで半年。田中さんはこの学生生活の残りわずかな期間で起業しようと決意した。

「限られた時間でできることは何かと検討した起業アイデアの中で、私自身が当事者意識を持って挑めるテーマが『低身長・小柄女性のためのアパレルブランド』でした。私は身長148cm。服の選択肢が少ないことにずっと悩んできましたから」

といっても、当然ながらアパレルの専門知識はゼロ。デザインも工場探しも全てが手探りだったが、インターネットやSNSを駆使し、大学生活で培った関係性もフル活用していった。

「自分はデザイナーではないし、服飾出身でないことは最初から分かりきっていたこと。知識を深める努力もしましたが、それよりも大事なことは、詳しい人にお願いさせていただくスタンスです。友人のそのまた友人のお母さまがパタンナー(※1)だと分かれば、どうにかお願いして1着分だけ協力いただくなど、時には学生らしい勢いと無鉄砲さも大事にしました」

※1 デザイナーが描いたデザイン画を基に、服の設計図である型紙(パターン)を作成する専門職

また、早稲田のつながりで生まれた人間関係も大きな助けになったという。

「費用面では、早稲田の先輩から紹介いただいた連続起業家(※2)の中川綾太郎さん(商学部出身)に事業計画をプレゼンテーションして、出資してもらいました。といっても、最初に出した事業計画書は『こんなもうからないビジネスでどうするの?』と厳しい評価で突き返されました」

※2 起業と事業売却(M&A)や株式公開(IPO)を繰り返し、新たな事業を次々と立ち上げる起業家のこと

それでも田中さんは諦めず、事業計画を練り直して再提出した。

「最初の事業計画書では、『まずは100万円が目標』としていました。学生目線で考えると、100万円売り上げることだって未知の世界。でも、ビジネスとしては通用しません。現実の延長線ではなく、もっと高い視座で考えて『100億円』と目標を引き上げて再提案したところ、出資してもらえることになったんです」

小さな1着から始まったブランドの挑戦

卒業を間近に控えた2018年1月、ECサイトで「COHINA」の販売をスタート。発売初日、1着の商品が売れた。

「誰も知らないブランドですから、最初は『友人の誰かがご祝儀で買ってくれたのかな?』と思いました。でも、全く知らない一般消費者の方が1着8,900円の値段を払ってくれていたんです。その事実に震えるほど感動しました。小さな体に合う服を求めている人はちゃんといたんだ、求められているんだと、大きな自信になりました」

「COHINA」創業時の写真。当時から現在まで、Instagramでのライブ配信は毎日している(左)。オフィスで行ったイベント時の一枚(右)

実際、「COHINA」の魅力はSNSを通じて少しずつ共感が広がり、立ち上げから数カ月で在庫がなくなるほどの反響を得ることに成功。見事なローンチを果たした。一方でそれは、卒業後に「新入社員」と「ブランド代表」を兼業する、激務の始まりも意味していた。

「平日の9時から夕方までは会社員。朝と就業後、そして週末は『COHINA』の代表という日々で、大げさではなく、寝る時間もほぼありませんでした。ただ、マーケティングも広告もブランディングも何も分からない状況で、“早く人に喜んでもらえる仕事をしたい”という意識が根幹にあったからこそ、ブランドは続けつつ、Googleというプロフェッショナルが集まる環境でビジネスをイチから学べた経験は大きかったです」

写真左:Google入社時のシンガポール研修での一枚
写真右:韓国での買い付けの様子で、袋の中には服が詰まっている。当時、週末は「COHINA」の仕事で海外へ行くこともしばしば

その後、成長し続ける「COHINA」の活動に専念するため、入社から1年2カ月でGoogleを退職。田中さんの全てのリソースを注ぎ込んだブランドの勢いは止まるところを知らず、その後実店舗も展開。現在(2026年4月)、常設店舗は3店舗で、これからまた増えていく予定だという。オンライン販売やSNS展開で成長してきたブランドは今、さらに一段違うフェーズへと飛躍している。

「『COHINA』の販売当初、競合ブランドは三つくらいだったのが、一時は100ブランドに達し、“小柄向けブランド戦国時代”といっても過言ではない状況にもなりました。今ではそこから落ち着きましたが、その戦国時代を生き抜くにはどう差別化していくか。学ぶべきこと、大変なことは多いです」

そんな学びの場として、早稲田のつながりが今も生きている。

「早稲田起業家養成講座では、卒業後も何度となく講師をさせていただきました。そこでは、メルカリの山田進太郎さん(2000年教育学部卒)、CARTA HOLDINGSの宇佐美進典さん(1996年商学部卒)など名だたる企業のトップ経営者が講師として参加されていて、同じ早稲田の後輩だからと私の事業相談にも乗っていただけます。最近では私よりも若い世代の起業家も増えてきて、『私もうかうかしていられない』と刺激を受けるコミュニティーです」

「早稲田起業家養成講座」での様子。2021年度から2024年度の間、起業家として講師を務めた

そのさらに下の世代である現役学生に向けては、「やりたいことは全部やり尽くした方がいい」とエールを送る。“やりたいことがなかった”からこそ起業に至った田中さんらしく、“やり残し”をなくすことの重要性を強調する。

「思い付いたら全部やってみる。それは、勉強でも留学でもアルバイトでも、起業でも何でもいいんです。消化しきれないものがあると、自分の気持ちに素直になれなくなってしまいます。多様な人と出会えて、挑戦できる環境がある早稲田なら、新たな一歩も踏み出しやすいはず。その先に、きっと新しい道は広がっています」

 

取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒業)
撮影:布川 航太

【プロフィール】

1994年神奈川県生まれ。2018年、政治経済学部在学中に、小柄女性向けアパレルブランド「COHINA」を創業。同年卒業後、Google日本法人に入社するとともに、「COHINA」のブランドディレクターとしても活躍。2024年8月にThe SAZABY LEAGUE 株式会社に事業譲渡。田中さんの信念に共感して集まった社員の多くは身長150cm前後で、「世界で最も平均身長の低い会社かもしれません」と笑う。

X:@ayako_cohina
Instagram:@ayako_cohina

COHINA
X:@cohina_official
Instagram:@cohina.official
Webサイト:https://cohina.net/

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