
(左から)山崎さん、金兒さん、島田さん
多くの大学生が在学中に一度は夢描く「海外留学」。「将来設計や“ガクチカ”のためにも留学をしたいけれど、物価高や円安の影響もあって経済的に難しい」と二の足を踏む学生も少なくないでしょう。しかし最近では、留学生向けにさまざまな返済不要の給付型奨学金が登場し、そこから資金を得るのは特別なことではありません。2023年に留学した早大生のうち、なんと約4割が受給しているというデータも! そこで今回は、留学センターお勧めの奨学金を見事獲得し、夢の海外留学を実現させた3名の早大生にインタビュー。獲得のコツや学校選びの経緯、また現地で学んだことなどを聞きました。奨学金を視野に入れ事前から計画的に準備をすれば、海外留学は憧れでなく現実のものに。見事獲得して、いざ海外へ!
INDEX
▼金兒 峻也(国際教養学部)
国内最高給付額「業務スーパージャパンドリーム財団」奨学金で米国・ニューヨーク州立大学ビンガムトン校へ
▼山崎 陽子(文学部)
大学以外の教育機関への留学でも受給可能な「トビタテ奨学金」で仏・ロワール地方のチーズ職業訓練校へ
▼島田 優美子(文化構想学部)
海外大学への出願前から受給が確約される「ハバタケ世界の空奨学金」で中国・北京大学へ
国内最高支給額「業務スーパージャパンドリーム財団」奨学金で米国・ニューヨーク州立大学へ
国際教養学部 4年 金兒 峻也(かねこ・しゅんや) ◆2021年秋~2022年秋に留学

早稲田大学戸山キャンパスにて
――留学を志望したきっかけ、その中で、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校を選んだ理由は?
両親がアンティーク家具を販売する仕事をしていて輸入品に囲まれて過ごしていたため、自然と小さい頃から海外への興味がありました。実際に中学生の頃にヨーロッパ出張に付いて行き、買い付けなどで海外のバイヤーとやり取りする姿を見て、自分も英語を使って仕事ができるようになりたいと、大学生になったら留学しようと決めました。
ニューヨークを選んだ理由は、一つにはこの街の文化が好きなこと。そして、映像と建築について学んでみたいと思っていたので、好きな映画監督ジム・ジャームッシュが住んでいることや近現代の有名な建築物も多いことも決め手になりました。
国際教養学部はほぼすべての授業が英語なので、留学にあたっては英語に慣れていたことは良かったなと思います。
―― 奨学金の申請で意識したことはありますか?
私が申請したのは、奨学金の中でも給付額が多いと言われる「業務スーパージャパンドリーム財団」です。主に海外において、芸術やスポーツ分野で活躍できる人材育成などを目的に設立されたそうです。
奨学金の申請書類や面接では、「映像と建築の二つの軸で学びたい」と留学目的を明確にしました。その上で、映像制作では機材費などがかかること、映画祭や建築物を見て回る上で同じニューヨーク州内でも交通費がかなりかかることなどを具体的に盛り込み、奨学金を活用したいとアピールしました。

申請書類の一部。付け焼き刃でなく高校時代から海外の建築やアートへの関心が強かったことなどをアピールした
―― 具体的に奨学金はどんなことに役立ちましたか?
円安が進む中、特にアメリカの物価高はえげつないと聞いていました。そんな中で、月に20万円の奨学金(北米の場合)が給付され、不安要素が軽減されましたね。アメリカ各地の建築を巡り、本物の芸術に多く触れることができたのは、奨学金のおかげです。といっても、旅するときは節約が必須でした。夜行バスなど安い運賃の交通手段を選び、安いユースホステルを利用したり、時には野宿をしたこともありました。

ニューヨークシティーを周っていたときに描いた街のスケッチ
――留学を通して、具体的にはどんな学びを得ましたか?
1年間の留学の内、前期は建築を学び、後期は映像を学ぶカリキュラムにしました。帰国前には友人にも手伝ってもらいながら短編映画を作り、大学主催の映画祭に出品したところ、学内の映画館で上映してもらうことができました。自分の作った作品を大きなスクリーンで見ることができたのは得難い経験でした。上映後にはさまざまな国籍の学生や、これまで話したことがない人からも「面白かったよ」と言ってもらえて、大きな自信になりました。

自主製作映画のワンシーン。金兒さん自身が出演
―― 帰国後、留学の経験はどのように生かされていますか?
ニューヨークでたくさんの建築物に触れたことで刺激を受け、帰国後の2023年4月からダブルスクールで早稲田大学芸術学校に通い始めています。
よく、「留学すると価値観が変わる」という決まり文句がありますが、僕が感じたのは「価値観が増える」ということ。ニューヨークは移民も多く、さまざまなバックボーンを持つ人が集まっているので、多様な価値観に触れることができる。自分も外国人扱いをされることがほとんどなく、その無国籍感は不思議と心地良かったです。
写真左:留学生仲間とハロウィンパーティーを開催した。現地での思い出の一枚
写真右:帰国後に入学した早稲田大学芸術学校の作品展覧会で。文京区谷中の住宅案を制作した
大学卒業後は広告代理店に就職が決まっていますが、その仕事を通してなのか、プライベートなのか、いつかまたニューヨークに戻りたいと思っています。かなうなら、ニューヨークと東京の二拠点生活ができたらいいですね。
留学センターから一言
海外留学にはさまざまな奨学金がありますが、この奨学金の受給額は、月額15万円または20万円(金額は留学先によって異なる)に加え、一時金が15万円または25万円と、他の奨学金に比べて多いため、獲得できれば金銭的に大きな助けとなります。募集人数は年間700名で、早稲田からは2023年は51名応募し、30名がこの奨学金を獲得しているので、受給の可能性は多いにあります。ぜひチャレンジを!
大学以外の教育機関への留学でも受給可能な「トビタテ奨学金」で仏・ロワール地方のチーズ職業訓練校へ
文学部 3年 山崎 陽子(やまざき・ようこ) ◆2023年秋~現在留学中

職業訓練校での授業中
―― 山崎さんの留学先は大学ではなく職業専門学校ですが、留学の経緯を教えてください。
私は幼少期からチーズが大好きで、将来はチーズの作り手と食べ手の「架け橋」になりたいと思っています。そのための「チーズ留学」として、チーズ消費量が日本の10倍を誇るフランス行きを決意しました。
早稲田の文学部に入ったことで、フランス語やフランス文学にも触れることができたことはいい準備になりました。やりたいことがあることで、大学での学びにもいい影響が生まれていたと思います。
こちらに来て3カ月は語学学校で学び、それ以降、週3日は職業訓練校「Campus des Métiers (キャンパス デ メティエ)」でチーズの熟成や販売方法などを学び、週2日はチーズ専門店「ロドルフ・ル・ムニエ」のインターンとして日々チーズに囲まれています。また、学校や職場だけでなく、街の普通のスーパーのチーズ棚でさえもバラエティー豊かなチーズがズラリ。いつもその充実度に驚いています。チーズの本場で生活することだけでも刺激的な毎日です。

チーズ専門店でインターン中
――奨学金の申請で意識したことはなんですか?
海外留学の奨学金は大学への留学を対象にしたものがほとんどで、私の場合は文部科学省が展開する官民協働の奨学金「トビタテ! 留学JAPAN」が唯一と言っていい、申請可能な奨学金でした。
申請書類に書くべきことは主に留学計画で、私にとってそれは自分の好きなことをまとめる作業だったのであまり苦ではなく、むしろ重視したのは面接です。自分の気持ちを短い時間で的確に伝えるため、私の場合はスケッチブックに図や表を手描きし、とにかく私のチーズ愛を分かってもらおうとしたのが良かったのかなと思います。
チーズ愛をアピールした奨学金の面接でのプレゼン資料
――奨学金のありがたみを感じるのはどんなときですか?
今、ものすごい円安なので、フランスでは何を買うのも高額です。普通に暮らしているだけでも奨学金は本当にありがたいですね。
また、せっかく自由に往来できるEU圏にいるのだから、欧州各国の食や文化に触れることで留学の効果がさらに上がると考えています。この半年でイギリス、スペイン、イタリア、チェコ、オーストリア、スイスを訪れ、それぞれの国の食文化を堪能しました。その渡航費としても奨学金はとても重宝しています。
写真左:冬季の名物モンドールチーズ。贅沢にそのままオーブンで焼いてフォンデュに
写真右:チーズの食べ比べ。バゲットも外がカリッ、中はもっちりで美味しい!
――留学を検討している人にアドバイスをお願いします。
海外留学は未知のことばかりで、不安に感じることも多いと思います。でも、現地に行ってみると意外となんとかなるものです。
私の場合、フランスに来た当初は簡単な単語や文法が分かる程度でしたが、毎日フランス語に触れる環境にいると、なんとなく聞き取れるようになってきました。幸いなことに学校も少人数クラスで、周りの皆さんが助けてくれます。準備万端に越したことはありませんが、できない自分ができないまま行くことで、助けてくれる周囲の優しさや日本で何不自由なく生活できることのありがたみにも気付けます。
そして重要なのは、留学で何を学ぶか、何をしたいかのテーマがしっかりあること。私は好きなチーズに囲まれて生活できているので、大変なことでも楽しみながら取り組めています。1つ明確なテーマがあると留学がとても充実したものになりますし、奨学金も獲得しやすいように思います。

専門学校の先生や仲間たちと。左から4人目が山崎さん
留学センターから一言
「トビタテ奨学金」は、「学生が自ら留学計画を作成」することと「多様な実践活動を支援」することを特徴とした奨学金プログラムです。やりたいことがあれば、海外大学でなくても、山崎さんのように専門学校でもOK。募集人数は年間250名で、早稲田からは2023年は71名が応募し13名が奨学金を獲得しています。また、トビタテ留学JAPANの事務局が、受給者の帰国後の継続的な学びをするためのプラットフォームを提供しており、無料でSDGsやアントレプレナーシップなどのさまざまな分野を、同じく「トビタテ」を受給している学生たちと学ぶことができるのも、メリットの一つと言えるでしょう。
海外大への出願前から受給が確約される「ハバタケ世界の空奨学金」で中国・北京大学へ
文化構想学部 3年 島田 優美子(しまだ・ゆみこ) ◆2023年秋~現在留学中

北京大学の国際寮にて
―― 北京大学への留学を志望した動機を教えてください。
私が留学を決意した理由は三つ。まずは、幼稚園の頃から続けてきた書道の探究です。中国は書道の本場ですし、特に北京大学なら技術面はもちろん、知識の面でも学びを深められると思い、高校時代から志望していました。
二つ目は、リーダーシップの向上です。日本でもさまざまなイベントでリーダーシップを発揮してきたつもりですが、それをもっと国際的な視野で身に付けたいと考えました。
三つ目は応用的な語学力を養うこと。書道の探究のため、中国語には高校以前から触れてきましたが、より一層ビジネス的な中国語を学びたいと思いました。私は早稲田実業出身なので、高校3年のときから早稲田大学の留学制度を調べていて、北京大学ならダブルディグリー制度でより高いレベルを目指せることも魅力でした。

大学2年次に、北京大学の書道展に出品した縦90㎝横242㎝の力作
――島田さんは早稲田大学独自の「ハバタケ世界の空奨学金」を活用されています。申請で意識したことは?
申請書類では、留学の目的やどんなことをしたいか、順序立てて分かりやすくまとめることを意識しました。ただ、文字数制限もあるので、伝えきれない熱量は面接でしっかりアピールする。私の場合は面接に書道作品を持っていき、どれだけ書道を学びたいかをアピールしました。
「ハバタケ世界の空」は、留学の出願前に選考から結果発表までが終わる予約採用型奨学金です。留学に対して不安があっても、この奨学金を獲得することで自信を持って準備を進められることが大きなメリットだと思います。
――北京大学では日々、どのような学びを得ていますか?
大学では国際関係学部に所属。周囲に国際問題に関心のある人が多く、授業でもサークル活動でも、国際的な人材になるための第一歩を踏み出せるような学びを得ています。また、大学以外でも現地の人たちと積極的に交流することを心掛けています。
例えば、所属している書道サークルは、ただ書くだけで終わりません。仲間や教授と一緒にイベントや博物館を訪ねることで、日本で学んだ書道とは違う領域での経験を深めています。

国際政治学の授業風景
――残りの留学期間でやってみたいことは?
イベントに参加するだけでなく、自分で主催してみたいですね。そもそもの動機である「国際的なリーダーシップの向上」にもつながりますので、授業で学んだことを生かした討論形式のイベントや、書道を多くの人に体験してもらえるようなイベントの開催を考えています。
また、自分自身の書道作品を通し、日本と中国の書道の違い、文化的な違いをまとめた本を出版したいと考え、実際に日本の出版社とも打ち合わせを重ねています。帰国した後は就職活動も待っていますが、この留学で学んだコミュニケーション力やリーダーシップ、書道や語学力を活用できるような場で尽力していきたいです。

安くで美味しい本場の中華料理は、留学生活の強い味方だそう
留学センターから一言
「ハバタケ世界の空奨学金」は、経済的な理由で海外留学が困難な学生を対象に、留学の出願前に選考から結果発表まで行う給付型の学内奨学金で、2023年度は6名の早大生が受給しています。奨学金を見込んだ留学費用の資金計画を可能にすることによって、より多くの学生に留学を実現してもらえたらと考えています。この他、同じ予約採用型奨学金として「早稲田の栄光奨学金」もあります。経済的な理由で留学に二の足を踏むのは本当にもったいない。数多くの奨学金を紹介できますので、ぜひ一度留学センターに相談に来てください。
取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒業)
【次回フォーカス予告】5月6日(月)公開「ハラスメント防止特集」