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心を動かし、人と人をつなぐ スポーツ観戦の力を探る

特集:WASEDA's Global Campuses

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Mon 02 Nov 26

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Mon 02 Nov 26

運動することが心身の健康につながることは広く知られています。一方、スポーツを「観る」ことは、 人の心にどのような影響を与えるのでしょうか。スポーツ観戦とウェルビーイングの関係を研究する佐藤晋太郎教授に、スポーツ観戦がもたらす効果について聞きました。

佐藤晋太郎 スポーツ科学学術院 教授

スポーツ観戦は「脳の筋トレ」。習慣化で「喜びを感じやすい脳」に

日本の「運動実施率」は長年横ばいで推移しており、週に1回以上運動をする20歳以上の人は約半分にとどまっています。 健康のために「もっと運動しましょう」と働きかける研究も重要ですが、運動が苦手な人や忙しい人にとって、習慣化は容易ではありません。そこで私たちが着目したのが、誰でも手軽にアクセスできる「スポーツ観戦」と、近年注目を集める「ウェルビーイング」の掛け算です。

スポーツをすることとウェルビーイングの向上には、強い関連があることが分かっています。さらに近年は、スポーツを観ることにも、心の健康につながる可能性があることが脳科学の研究から見えてきました。

観戦中に好プレーを見ると、脳内の血流が活発になり、喜びや満足感に関わる報酬系の領域が反応します。これは筋肉のトレーニングと全く同じ仕組みです。素晴らしい体験によって脳に血流が送り込まれる経験を何度も繰り返すと、喜びを感じる脳の特定部位が発達し、結果として日常の中でも「楽しさや幸せをキャッチしやすい脳」へと変化していくのです。スポーツ観戦は、ネガティブに傾きがちな心を健やかに保つための、手軽で効果的な「脳の筋トレ」だと言えます。

同じ空間で観戦するだけで、言葉を交わさなくても心拍は重なる

研究室では、アンケートによる主観的な調査に加え、脳波や心拍、表情筋、発汗などの生体反応を測定するアプローチを取り入れています。社会科学の分野ではアンケート調査が一般的ですが、回答の手間がかかるため、回答者の意欲が低下し、信頼性の低いデータが混入する場合もあります。

こうした限界を克服し、人間のありのままの反応を捉えるために、私たちは「生体反応」と「アンケート」を統合して多角的に人間を理解する「マルチモーダル分析」を推進しています。言葉による回答と身体の変化の双方を見ると、観戦中の心の動きをより丁寧に読み取ることができます。

この方法を用いた研究で注目しているのが、観戦者同士の心拍が同調する現象です。2025年3月に埼玉スタジアムで行われたサッカーのワールドカップ予選では、観客に心拍計を着けてもらい、観戦中の反応を調べました。その結果、もともとの友人同士よりも、初対面の人同士のグループで、心拍の同調が強く見られました。

同じ場所で一つのプレーに反応する体験には、言葉を交わさなくても人と人をつなぐ側面があることが分かったのです。この結果は、デジタル化やAIが急速に浸透する社会において、人々が同じ空間で体験を共有する意味を、改めて考えさせます。

「自分の心が動くこと」に主体的に関わってほしい

スポーツに勝敗はつきものですが、今後は、勝負に負けた時にもたらされる価値、敗戦から学ぶラーニング効果などを科学的に解き明かしていく予定です。この分野はまだ研究が進んでいない、未開拓のフィールドのため、力を入れていきたいです。

また、スポーツを「応援すること」が人に与える影響についても、研究を深めたいと考えています。応援する人の心がどのように動き、それがウェルビーイングにどうつながるのかを明らかにしていきたいです。

命に関わるような医療や介護が「守りの福祉」だとすれば、スポーツのような「あってもなくてもいいけれど、あると人生が豊かになるもの」はいわば「攻めの福祉」の一つとも考えられます。多くの人々が、楽しみながらスポーツに関わることで幸福感を高め、健康な状態を維持できる。研究を通して、そういったサポートをしていきたいと思っています。

また、スポーツの世界では、選手だけでなく、コーチや栄養士など、多くの人がチームを支えています。観客や応援団も、スポーツを成り立たせる大切な存在です。 学生の皆さんにも、社会が示す一つの正解に自分を合わせるのではなく、他者を応援する気持ちを持ち、自分自身の心が動く場所や活動に関わってほしいと思います。その中で、自分なりの役割や充実感を見つけることができるのではないでしょうか。

PROFILE

北海道教育大学教育学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。米フロリダ大学でPh.D.を取得した。米国・カナダの大学で教員や研究者を務め、2019年に早稲田大学へ着任。専門はスポーツ&エンターテインメントマネジメント。

 

早稲田大学Podcasts 佐藤先生出演回
>>「博士一歩前」vol.15