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情報系の国際会議で、学部生の論文が最優秀研究論文賞を受賞
Wed 15 Apr 26
Wed 15 Apr 26
2026年2月、米国で開催されたWSDM 2026にて、基幹理工学部4年(※)の武樋力哉さんの論文が「Best Full Research Paper Award」を受賞しました。
本記事では武樋さんへのインタビューを通じ、研究の成果と受賞に至ったプロセスをお届けします。
※3月25日取材時の学年。武樋さんは2026年3月末に本学を卒業しました。
検索アルゴリズムの評価手法に、独自視点でアプローチ
基幹理工学部 情報理工学科4年の武樋力哉さんは、酒井哲也教授(理工学術院)の研究室に所属し、自然言語処理や機械学習、強化学習、情報検索などを研究しています。2026年2月に国際会議「WSDM 2026」へ参加し、提出した論文「Diversification as Risk Minimization」が「Best Full Research Paper Award」の受賞を果たしました。
WSDM(Web Search and Data Mining) は「CORE Rankings※1」でAランクに位置づけられる、情報研究分野を代表する国際会議です。WSDM 2026の論文採択率は約16%であり、Best Full Research Paper Awardは799件の応募から1件が選出される最優秀研究論文賞。学部生の論文が最優秀評価を獲得するのは特異なケースです。受賞後のインタビューで武樋さんが伝えたのは、今回の成果に至るまでの道のりを支えた、恩師たちへの感謝でした。
「研究経験の浅い私に大きなチャンスをくださり、ご指導いただいた早稲田大学の酒井哲也教授、カーネギーメロン大学のFernando Diaz教授、コーネル大学やNISTの研究者の方々に大変感謝しています」
Best Full Research Paper Awardを受賞した武樋さん
今回採択された武樋さんの研究内容は、検索アルゴリズムに対し、新たな手法を提案するものです。
「検索エンジンのユーザーは、結果に対する“意図”を備えています。例えばウェブで『Apple』と検索する際、“赤い果物”と“世界的テック企業”、どちらを想定するかはユーザーにより異なる。そこで検索エンジンは、多様なユーザーの意図を想定し、両方の結果をバランスよく表示します。どのような結果を、どのように含むべきか。最適なアルゴリズムの設計方法が長年研究されてきました。私が提案したのは、その新たな手法です」
意図の可能性が複数にわたるクエリ※2において、人気の高い意図がランキングなどの上位に反映され、少数派の意図を持つユーザーが満足できない問題は、検索結果を関連度順に表示する設計に起因します。この問題に対処する手法が、多様化アルゴリズムであり、現在まで主流とされてきました。しかし武樋さんは、多様化アルゴリズムにおいても十分な数学的検証がされておらず、特定の条件下では機能しない点に着眼。新たな視点から検証方法の改善を提案したのです。
「多様化アルゴリズムも実は、関連度順に表示する手法と同等の問題に陥っていることを、簡単な数式変形と実験で証明できました。このギャップに対処するため、『少数派の意図を持つユーザーも満足できる』という多様化の真の目的を、直接的に目的関数に落とし込む手法を提案したのが、私の論文の主旨です。この手法が検索エンジンに実用化されれば、ユーザー体験の向上に貢献できると期待しています」
※1…CORE(The Computing Research and Education Association of Australasia)が運営する、コンピュータ分野における主要な会議の評価を提供するランキング。A*が最高。
※2…情報検索を実施するための入力文
撮影=西早稲田キャンパス 酒井研究室
海外での大学院進学を視野に入れ、学部3年より研究を本格化
世界の研究者が注目する課題に対し、学部生にして指針を示した武樋さんですが、どのような進路を歩んできたのでしょうか。
「幼い頃から好きだった科目は、数学と体育。また海外生活も長く、英語のベースはありました。早稲田大学本庄高等学院からの進学の際、将来的に海外で活動する選択肢を残したいという思いから、同校の生徒として初めて、授業がすべて英語で行われる基幹理工学部情報理工学科(CSCE)の英語学位プログラムを選択。政治経済学部とも迷っていたほどで、大学入学時は情報系の知識や技術があったわけではありませんでした」
入学後はサークル活動でテニスに没頭していた武樋さん。本格的に情報分野の研究をスタートしたのは、学部3年からだったといいます。
「2年生の冬、あるきっかけで大学院留学の説明会に参加し、米国の大学院に関心を抱きました。すぐに研究を始めたいと思うとともに、情報理工学科では3年生から選択できるプロジェクト研究の研究室を選ぶ時期でした。それは同時に、世界的にAIが盛り上がり始めたタイミング。自分のポテンシャルを最大限発揮できる分野に進みたいと、AIの研究を志しました。米国での大学院進学を視野に入れ、同分野で優れた成果を出している酒井先生の研究室を選びました」
研究室に入った後、酒井教授の指導のもとで情報検索に関する研究を開始。知識が無い中で、論文を読み漁る日々がスタートします。1本目の論文が国際学会会議「SIGIR-AP」※3に採択されるとともに、米国・コーネル大学の研究者に師事する機会にも恵まれ、少しずつ経験を重ねていきました。
「大学3年の秋からは1年間休学し、『NIST(米国国立標準技術研究所)』という米国の機関で、客員研究員として活動しました。情報検索分野の権威である研究員らのもとで論文執筆や研究を行い、研究者としてのノウハウを身につけました。プロジェクトにおける実験やアルゴリズム構築を一任されることも多く、LLM※4など専門領域の視野も広げられたと感じます」
米国滞在時の武樋さん
帰国後はNISTでの成果が、情報検索の最高峰(CORE Rankings A*ランク)の国際会議「SIGIR2025」に筆頭著者論文として採択。また、コーネル大学と博報堂テクノロジーズとの共同研究でも筆頭著者論文が同じく国際会議「ICLR2025」(CORE Rankings A*ランク)で採択されるなど、成果が目に見えるようになります。さらに、サイバーエージェントでの研究インターンに取り組むとともに※5、情報分野でトップクラスに位置づけられるカーネギーメロン大学の教授とのコラボレーションに挑戦しました。
「米国の大学院に進学するためには、研究実績と推薦状が必要であることを踏まえ、自らのアイデアを論文として国際会議で発表する活動に軸足を置きました。カーネギーメロン大学の Fernando Diaz 先生にアイデアを評価頂いた時は、本当に嬉しかったです。プロジェクトを2025年2月に始動し、二度ほど研究アイデアを断念するなど紆余曲折を経て、8月に論文を提出。この論文が、WSDMで受賞したものです。論文の内容は、他のさまざまな研究活動からもヒントを得ました」
現在は、NVIDIA AIにて研究インターンシップにも参加するなど、積極的に活動する武樋さん。9月からの大学院進学に向け、着々と準備を進めています。
「複数の米国大学院の博士課程から合格をいただき、現在進学先を検討中です。LLMなどの分野は現在米国が主戦場であり、世界的テック企業と大学の共同研究も活発です。この環境を活かし、世界に大きなインパクトを与える研究成果を生み出したいと思っています。博士号を取得し、自分の力を発揮できる米国企業での研究職というキャリアプランを描いていますが、最終的には日本に戻りAI技術の進展に貢献したいです」
※3…「ACM(Association for Computing Machinery)」が主催する、情報検索分野の国際会議。主にアジア太平洋地域を対象としている。
※4…大規模言語モデル
※5…ICLR2026共同筆頭著者として採択
早稲田大学では小野梓記念賞や情報理工学科での学科賞を受賞した
“迷った時は、選択肢が増える方へ”。チャンスを生かし、世界に挑戦してほしい
知識や経験を持たない領域に飛び込み、成長していった武樋さんに、早稲田の仲間たちへのメッセージをいただきました。
「私が意識していたのは、『進む方向に迷った時は、選択肢が増える方を選ぶこと』です。そしてポテンシャルを最大化できると信じた領域で、全力を尽くしてきました。早稲田大学には、学生の挑戦を後押ししてくれる柔軟で充実した研究環境や、サポート体制があると感じます。自分が飛び込んだ領域に全力で取り組むことで、思ってもみないチャンスが訪れることがあります。チャンスを生かし、世界を恐れず、挑戦してほしいです」