社会人の間で「学び直し」への関心が、かつてないほど高まっています。
人生100年時代の到来や、Society5.0に象徴される社会構造の変化の中で、仕事に関する専門的な知識やスキルをアップデートすることは、もはやキャリア形成に欠かせない要素となりました。
本記事では、変化の時代を生き抜くためのリカレント教育の意味や、リスキリングとの違いを解説しながら、早稲田大学日本橋キャンパスで展開している「WASEDA NEO 」で学べる具体的な講座を紹介します。

I.「リカレント教育」とは? ― 社会人が人生をより豊かにするための“学び直し”
リカレント教育とは、学校教育を終えて社会に出た後も、それぞれのタイミングで教育機関や社会人向け講座に戻り、仕事に必要な学びや、時代のニーズに対応した知識・スキルを身につけることを指します。
語源となる“recurrent”には「循環する」「くり返す」という意味があり、人生の中で必要に応じて就労と学習を交互にくり返すことに由来しています。
つまり、リカレント教育は「学校を卒業したら勉強は終わり」ではなく、「生涯にわたって、学びを人生のサイクルの一部として取り入れる」考え方なのです。
学びの時期やキャリアを柔軟に設計する時代へ
文部科学省は、人生100年時代やSociety5.0の到来を見据え、社会人の学び直し(リカレント教育)を生涯学習政策の重要な柱として位置づけています。
働き方や産業構造が急速に変化する現代においては、これまでのように教育→仕事→引退という単線的な人生モデルから、一人ひとりが自分の関心や状況に応じて、学びの時期やキャリアを柔軟に設計するマルチステージ型の生き方へと移行しつつあります。
これからは、誰もが人生の節目ごとに学び直しを通じて、新しい可能性を広げ、自らの生き方をより豊かにしていく時代だと言えるでしょう。
リカレント教育とリスキリングの違い
近年、「リスキリング(Reskilling)」という言葉も注目されています。
経済産業省ではリスキリングを、「新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること」と定義しています。
背景にあるのは、AI・デジタル技術の進展によって、仕事の内容や社会人に求められる能力が急速に変化しているという現実です。たとえば、DX推進に向けてプログラミングやデータ分析を学ぶというように、デジタル化とともに新たに生まれる職種や、業務の進め方が大きく変化する職業に対応するためのスキル習得を指すケースが増えています。
一方で、リカレント教育には、リスキリングのように職務と直接結びつかない、より幅広い教養や学び直しも含まれます。ビジネススキルに限らず、社会課題の理解や文化・哲学といった分野の学びを通じて、自身の視野を広げることもリカレント教育の一環です。
両者はいずれも学校を卒業した後に学ぶという点では共通しています。
ただし、リスキリングが企業の成長戦略の一環として企業主導で行われる人材教育であるのに対し、リカレント教育は、個人が主体的に学びたい分野を選び、自らの意思で教育機関などを通じて学び直すことを指します。
つまり、リスキリングが「企業のための学び」であるなら、リカレント教育は「自分の人生をより豊かにするための学び」と言えるでしょう。
Ⅱ. なぜ今、リカレント教育が注目されているのか
リカレント教育が注目される背景には、社会の構造変化、技術の進化、そして働き方の多様化があります。こうした社会や技術、働き方の変化が重なり合い、「学び直し」はもはや一部の人だけのものではなく、誰にとっても欠かせないテーマとなっています。

平均寿命の延びと人生100年時代の到来
日本人の平均寿命は年々延び、人生100年時代が現実味を帯びています。
人生100年時代や少子高齢化の時代を迎えたことにより、年齢に関係なく長く働き、社会参加し続けることが当たり前になりつつあります。
人生が長くなった分、働く期間も増え、人生の節目ごとに新たな学びを取り入れることが自然な流れとなってきました。そうした長寿社会の中で、自分自身の市場価値を維持・高めるため、また新たなステージにチャレンジするための仕組みとして、リカレント教育はますます重要性を増しています。
IT技術の急速な発展とスキルの変化
AIやIoTなどの技術革新が進む中で、社会や産業のあり方は大きく変化しています。
新しい職業が生まれる一方で、企業が求めるスキルのライフサイクルは短くなり、かつての一度学べば一生使える知識というものはもはや存在しなくなりつつあり、自らのスキルを継続的にアップデートすることが、キャリアを守るためにも不可欠になっています。
こうした流れが、リスキリングやリカレント教育の必要性を押し上げているのです。
働き方の多様化とマルチキャリア時代
これまでの日本社会では、一つの組織で定年まで働き続ける「シングルキャリア」が一般的でした。
しかし、バブル崩壊以降、企業が社員に安定したキャリアパスを保証することが難しくなり、終身雇用制度の限界が指摘されるようになりました。
こうした変化の中で、自らのキャリアを自分の手で築くという働き方が求められる時代に変わりつつあります。この流れを象徴するのが、「マルチキャリア」という考え方です。
マルチキャリアとは、一つの企業や職務にとどまらず、複数の仕事や役割を組み合わせながらキャリアを形成する生き方を指します。
たとえば、企業に勤めながら個人で活動する副業や、複数の職務を並行して行うパラレルワーク、
さらに、専門知識やスキルを活かしてNPOや地域団体に貢献するプロボノなどがその代表例です。
リカレント教育は、こうした個人主導のキャリア形成を支える基盤として、貴重な学び直しの場になっています。
学び直しを通じて、自分の得意分野を磨いたり、新しい分野に挑戦したりすることで、仕事や人生の幅を広げることができるのです。
Ⅲ. 社会人が学び続ける意義とは
社会人の学び直しは、仕事で必要な知識やスキルを身につけるためだけのものではありません。
そこには、年齢や肩書に関係なく、学びを通じて自分自身を再発見し、社会とつながるという意義があります。業界や世代の異なる人々と触れ合い、異なる価値観に触れたり、これまでの自分の考え方を見直したり、新たな発想や視点を得ることができるのです。

異なる業界や世代の人と出会い、価値観を広げられる
社会人の学びの場では、年齢も職業もバックグラウンドも異なる人々が集まります。
たとえば、企業の管理職、スタートアップの若手、行政職員、子育てをしながら働くビジネスパーソンなど、目的も動機もさまざまです。
異なる視点や価値観の人たちと共に学ぶ経験は、単に知識を得るだけでなく、物事の捉え方が広がり、キャリアを超えた人間的な豊かさを育む時間でもあります。
興味・関心を出発点に、自由に探究することができる
社会に出てからの時間は、どうしても求められる役割に重きを置きがちですが、学びの場は、忙しい日常の中で忘れかけていた自らの興味・関心を思い出すきっかけになります。そこでは、知的好奇心を刺激しながら、自由に探究することもできるでしょう。
学び直しは、仕事の延長線ではなく、自分を再発見する行為と言えます。
学びは、社会をより良くする力になる
自分の関心や得意を追求することが、誰かを喜ばせたり、社会の課題を少しでも改善したりすることにつながる。それが学びを通じて得られる、最も大きなやりがいと言えるでしょう。
学びによって得た知識や気づきは、個人の内側にとどまりません。
職場での課題解決や新しいアイデアの創出に活かされるだけでなく、地域や社会活動への参加など、社会をより良くする行動へと広がっていきます。
学び直しの魅力は、単なるスキルアップではなく、自分だからこそできる貢献の形を見つけられることにあります。
Ⅳ. 社会人の「学び直し」を実現する拠点WASEDA NEO
WASEDA NEOは、異なる知や経験が混ざり合い、思いがけない出会いや発想が生まれる共創の場をつくることを目指しています。
その理念のもとで展開されるプログラムは、社会・産業・技術を題材に、第一線で活躍する講師と、産業や業種の枠を超えた受講者が共に未来を探究する構成になっています。
社会人一人ひとりが、自らの興味関心を軸に多様な人とつながり、新しい価値を生み出す――。
その実践の場こそが、WASEDA NEOの提供する講座群です。
ここでは、社会やビジネスの最前線に立つ講師陣と共に学ぶ、多彩なプログラムの一部をご紹介します。

ビジネスの現場で使える力を鍛える実践的なプログラム
WASEDA NEOでは、ビジネスの現場で即戦力となる実践的なプログラムを数多く開講しています。
マーケティングやデータサイエンスなど、時代の変化に対応した学びを体系的に習得できるのが特徴です。
- 早稲田マーケティングカレッジ
先進的なマーケティング手法をプロジェクト学習、ワークショップなどを通じて学習。「次世代のマーケターとしての総合力」を磨きます。 - データサイエンス実践講座
理論編と実践編を融合し、データサイエンスをビジネス課題に活かす能力を鍛える構成。データサイエンティストの理論と技術を習得します。

感性・創造性を磨く講座も充実
WASEDA NEOでは、ビジネススキルにとどまらず、感性や人間力を高めるための講座も数多く展開しています。
その代表が、早稲田リーダーシップカレッジ、キャリア・リカレント・カレッジ、Life Redesign Collegeです。いずれも、社会人が“これからの生き方・働き方”を主体的に描くための学びを提供しています。
- 早稲田リーダーシップカレッジ
権限によらないリーダーシップを育み、他者の力を引き出すリーダーシップ開発者を養成するプログラムです。理論と実践を行き来しながら、組織での共創力を高めます。 - キャリア・リカレント・カレッジ(CRC)
ミドル・シニア世代が自らのライフキャリアと向き合い、所属組織に依存しない自律的なキャリア設計を学ぶプログラムです。異業種交流を通じて視野を広げます。 - Life Redesign College(ライフ・リデザイン・カレッジ)
人生の後半期を豊かにデザインするために、「いきがい」と出会うことを目的としたプログラムです。クラスワークを通じてコミュニティを促進しながら自身の経験や関心を再発見します。
Ⅴ. まとめ ― 学びは、いつからでも始められる
社会の変化が加速する今、学びはもはや学生時代だけのものではありません。
新しい知識やスキルを得ることは、変化に適応するためだけでなく、自分の可能性を広げ、人生をより豊かにしていくための力です。
学びは常に、次の可能性を開く扉です。その扉を開く勇気があれば、キャリアの途中でも、人生の後半でも、新しい自分に出会うことができます。遅すぎる学びはありません。
興味や関心を出発点に、学び直しを通じて新たな世界を広げていく。
WASEDA NEOは、そんな挑戦を続けるすべての社会人を応援しています。
