概要
本研究では男子中学生サッカー選手に対する15分間の方向転換技術トレーニングによる方向転換のパフォーマンスと動作の変化を検討しました。15分間のトレーニングで動作に一部変化は見られたがパフォーマンスは変化しないという結果が得られました。
(1)これまでの研究で分かっていたこと
方向転換能力はサッカーの競技力に影響する重要な体力要素の一つであり、主に方向転換テストの遂行タイムで評価されています。より詳細に分析すると方向転換動作は初期加速、減速、ターン、再加速の4つの局面から構成されており、特に減速と再加速の2つが方向転換能力に影響する要素とされていることから、減速と再加速の能力を改善させることが方向転換能力の向上には重要となります。方向転換能力には、方向転換を行う際の股関節や膝関節の屈曲、体幹の傾きといった動作が影響するとされており、これを改善するためのトレーニングの一つが方向転換の正しい動作の習得を目的とする方向転換技術改善トレーニングです。これまでの研究から、成人を対象とした方向転換技術改善トレーニングによって方向転換時の股関節や膝関節の屈曲角度が大きくなり、遂行タイムが速くなるといったパフォーマンスと動作の変化の両面への有効性が報告されています。一方、方向転換能力は成長期における幅広い年代でトレーニング効果があるとされており、特に成長期の選手は方向転換動作が未熟であることから技術改善トレーニングがより効果的であり、即座の変容に繋がる可能性があるとも考えられますが、その効果は実際に検討されてきませんでした。
(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究では成長期の選手に対して15分間の方向転換技術改善トレーニングを行うことで、方向転換のパフォーマンスや加速・減速の能力、そして方向転換の動作が急性的にどのように変化するかを検討することを目的としました。その結果、15分間のトレーニングによって方向転換のパフォーマンスや加速及び減速の能力には変化が見られなかったものの、方向転換時の股関節の屈曲角度が大きくなり、方向転換を行う足の接地時間が短くなるといった即時変化が見られました。
(3)そのために新しく開発した手法
本研究では成長期の選手に対して15分間の方向転換技術改善トレーニングを行うことで、方向転換のパフォーマンスや加速・減速の能力、そして方向転換の動作が急性的にどのように変化するかを検討することを目的としました。その結果、15分間のトレーニングによって方向転換のパフォーマンスや加速及び減速の能力には変化が見られなかったものの、方向転換時の股関節の屈曲角度が大きくなり、方向転換を行う足の接地時間が短くなるといった即時変化が見られました。
(4)研究の波及効果や社会的影響
本研究の結果から、15分間の技術改善トレーニングによって成長期の選手の動作を即座に改善することが可能であることが明らかとなりました。全体のパフォーマンスには変化が見られなかったものの、方向転換足の接地時間が短くなることはターン局面の時間が短くなることを示しており、パフォーマンスにとって有益なことです。また、方向転換時の股関節屈曲角度が大きくなることは方向転換時の安定性を増加させ、効果的かつ安全な減速に繋がることから、パフォーマンスだけでなく傷害予防にも効果があると考えられます。従って、このような即時変化は長期的なパフォーマンス向上や傷害リスク低減のための第一歩であり、ウォーミングアップのような日々のルーティンの中に技術改善トレーニングを含め、長期的にトレーニングを継続することでその後のパフォーマンスや傷害予防に対して有益であることが考えられます。本研究は15分というスポーツの現場でも用いることが容易な比較的短い時間のトレーニングでも動作を即座に改善できることを示したことで、成長期の選手を対象としたスポーツ現場におけるウォーミングアップ戦略を検討する上での一助となることが期待されます。
(5)今後の課題
本研究では15分という短い単一のトレーニングによる即時効果を検証しましたが、パフォーマンスへの明確な効果を得ることが出来ませんでした。今後は単一のトレーニング時間の長さによってパフォーマンスへの急性効果がどう変わるかを検討することに加え、継続したトレーニングによってパフォーマンスや動作にどのような変化が見られるのかを検討する必要があります。また、今回の対象者は成長期の男子サッカー選手という特性の限られた集団であることから、性別や年齢の異なるアスリートに対する急性効果に関しても検討する必要があります。
(6)研究者のコメント
スポーツの現場で成長期の選手と関わる中で生まれた、トレーニング効果に対する疑問とその根拠となる成長期の選手を対象としたデータの少なさから着想を得た研究です。15分というスポーツ現場でも実現可能な比較的短時間のトレーニングでも動作を即座に変化させることを示すことが出来た点で意義のある研究だと思います。この研究結果が成長期の選手へのトレーニングを検討する上での一助となれば幸いです。
(7)論文情報
雑誌名/Journal:Frontiers in Sports and Active Living-Elite Sports and Performance Enhancement
論文名/Title:Acute Effect of Technique Modification Training on 180° Change of Direction Performance and Kinematics in Adolescent Male Soccer Players
執筆者名・所属機関名/Authors and Affiliated Organisation:中村隼人(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・山下大地(国立スポーツ科学センター)・西海大地(早稲田大学スポーツ科学学術院)・中一尚斗(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)・広瀬統一(早稲田大学スポーツ科学学術院)
Publishment Date(Local Time):11 February, 2025
Publishment Date(Japan Time):11 February, 2025
URL:https://www.frontiersin.org/journals/sports-and-active-living/articles/10.3389/fspor.2025.1453859/full
DOI:10.3389/fspor.2025.1453859
(8)研究助成
研究費名/Research Fund:JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(主幹:早稲田大学)
研究課題名/Research Subject:成長期サッカー選手における方向転換能力の決定因子並びに発達要因の検討
研究代表者名・所属機関名/Research Representative and Affiliated Organisation:中村隼人(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科)