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成長期野球選手のパフォーマンスの発達様式とは?

概要

本研究では、6〜14歳の成長期野球選手235名に対して球速(投球)、スイングスピード(打撃)、30m走(走力)、バランス能力を示すmodified star excursion balance test(Modified-SEBT)、全身パワーを示すmedicine ballスロー(MBスロー)の測定を行い、縦断研究※1により野球選手のパフォーマンス発達様式を調べました。30m走、MBスローは年齢とともに発達が認められた一方で、球速とスイングスピードは12〜13歳を境にパフォーマンス発達が緩徐になることが明らかとなりました。

(1)これまでの研究で分かっていたこと

全米ストレングス&コンディショニング協会(National Strength and Conditioning Association)の運動能力発達に関するポジションステートメントによると、成長期に十分な競技スキルと筋力を発達させることは、成長期だけでなくその後のスポーツキャリアにおける障害発生リスクを低減するために不可欠であることが示されています。これまでに投球や打撃のバイオメカニクス研究が野球選手の年齢や競技レベル問わず盛んに行われてきましたが、成長期の野球選手に求められる運動能力がどのように発達するかに関して調査した研究はありませんでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

欧米ではサッカーやバスケットボールでは育成プログラム開発を目指した研究が盛んに行われております。本邦は野球強豪国であり、かつ幼少期から競技を開始する選手も少なくないことから、我々は野球のパフォーマンス発達に関する知見を日本から発信する必要があると考えておりました。本研究は、P(prevent injury)S(strength body and skills)E(enhance performance)challengeと題した、メディカルスタッフとリトルリーグのコーチと連携しながら継続してきた活動の一貫よって得られた知見です(https://sports-for-social.com/sports/pse_challenge/)。本研究では球速(図1-A)、スイングスピード(図1-B)、30m走のタイム(図1-C)、modified-SEBT、1kgのMBを用いた後方スロー(図1-D)を、縦断的に測定し、潜在発育曲線モデル※2を用いて各パフォーマンス指標の発達様式を検証しました。

図1. 球速(A)、スイングスピード(B)、30m走(C)、MBスロー(D)の測定風景

 

932名の成長期野球選手のうち、235名557回の測定が解析対象となり、図2のような結果が得られました。30m走(図2-c)とMBスロー(図2-e)は年齢に伴ってパフォーマンスの発達が認められた一方で、球速(図2-a)、スイングスピード(図2-b)は12〜13歳ごろから発達の程度が緩やかになるパターンが確認されました。

 

図2. 球速(a)、スイングスピード(b)、30m走(c)、Modified SEBT(d)、MBスロー(e)の発達様式

(3)研究の波及効果や社会的影響・今後の課題

本研究は野球に関連するパフォーマンス指標の発達様式を明らかにした初めての報告です。体格や筋力などと関連する30m走のタイムやMBスローは年齢と共に発達した一方で、野球競技特異的な動作を含む球速・スイングスピードの発達が12-13歳から緩やかになるという発達様式のギャップがあることがわかりました。すなわち、野球競技特異的な課題では12-13歳に十分に発達しきれない要因がある可能性を示唆しております。実際、成長期野球選手の投球・打撃の動作の特徴を調べた研究によると、それぞれの動作中の体幹部の回旋のタイミングが異なることが示されています。” Adolescent awkwardness(青年期に生じる身体操作のぎこちなさ)” という言葉があるように、動作獲得の過程で年代特異的なエラーが生じてしまっているのかもしれません。また、該当年代の野球選手は投球側の肩・肘にかかる負荷が大きく、かつ投球肩・肘障害の発生率が高いこと、さらに腰部障害の有病率が高いことが示されています。特に12〜13歳におけるパフォーマンス発達の停滞を見逃さないようにする取り組みが、成長期以降のパフォーマンス向上やスポーツ障害予防のために重要になると考えられます。

(4)研究者のコメント

PSE challengeの目標の一つに「野球版の競技パフォーマンス発達様式」を示したいという思いがありました。まずは複数年に及ぶメディカル&フィジカルチェックを継続することに対して理解いただいた各リーグのコーチや保護者に心より感謝いたします。発育途上のアスリートの「ケガを防ぎ、身体やスキルを強化し、パフォーマンスを向上する」ことを普及していくにあたり、まずは基準となるようなデータを知ることが重要と考えております。実際に12〜13歳が一つのターニングポイントになることが示されました。本研究の結果をもとに、成長期野球選手を取り巻く監督、コーチ、アスレティックトレーナーなどの方々には、特に該当年代の選手の動作の変化や振る舞いにより注意を払って指導いただくことが望ましいと考えます。最後に、本研究の測定実施に協力してくださった先生方、作成にあたり様々ご助言いただいた先生方に感謝申し上げます。

(5)用語解説

※1 縦断研究
特定の個人に対して継続的な追跡調査を行い、同じ参加者から繰り返しデータを収集する研究デザインのことを言います。

※2 潜在発育曲線モデル
経時的データに対して使われている統計手法であり、時間の経過に伴うある変数の軌跡をモデル化する手法です。

(6)論文情報

雑誌名:Journal of Sports Sciences
論文名:Developmental patterns of athletic performance and physical fitness in youth baseball players: A longitudinal analysis
執筆者名(所属機関名):筒井 俊春(早稲田大学スポーツ科学学術院)、坂田 惇(トヨタアスリートサポートセンター)、中村 絵美(順天堂大学保健医療学部)、渡邉 大輝(早稲田大学スポーツ科学学術院)、坂槙 航(早稲田大学スポーツ科学研究科)、前道 俊宏(早稲田大学スポーツ科学学術院)、鳥居 俊(早稲田大学スポーツ科学学術院)
掲載日時(日本時間):2024年10月21日
掲載 URL:https://doi.org/10.1080/02640414.2024.2416777
DOI:10.1080/02640414.2024.2416777

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