研究代表者
彼末 一之
KANOSUE Kazuyuki
スポーツ科学部教授
本プロジェクトの概要と目的
スポーツにおける練習の多くはそれまで全く行ったことのない動作を円滑・迅速に行うことを目標としている。このような運動学習に関連して最近注目されているのが「ミラーニューロン」である。基本的には運動前夜など運動指令を筋へ送る神経回路の中に存在する。例えば、あるニューロンはサルが目の前のエサを「抓む」といった特定の動作を行うときに反応する。興味深いことにそのニューロンは他の個体が同じ動作をするのを「見たとき」にも同様な反応を示す。ヒトでのMRIを用いた解析では特定の動作をおこなうときに同じ動作を他の人が行うとき、友に活動する脳部位が運動前夜を中心に確認されており、「ミラーシステム」と呼ばれている。このシステムは他個体の動作を「真似る」ときの基礎となる要素と考えられている。例えば野球の練習をするとき、まずイチローの動作を真似てみる。一般的に「運動神経が良い」といわれるヒトは動作の真似が上手い。つまり新しい動作の学習はまねから始まるが、これらはそれまでなかったミラーシステムを新たに形成するプロセスと解釈されている。またこのミラーシステムは運動の「イメージ形成」にも関与していると考えられている。自分ができる動作を他人がする様子を見ると、ミラーシステムが働いてその動作をしているイメージを持ち、それは一時運動野の興奮性を変化させることは十分に考えられる。つまり、同じスポーツを見てもそれができる人間はできない人間に比べて「臨場感」をもつことができると思われる。
本研究の目的はミラーシステム形成のプロセスをヒトで検証し、その特性の個人差を解析することである。そのために体全体を使った動作(体操の技)に着目した。例えば後方転回(「バック転」と呼ばれる)は体操の選手であればいとも簡単にできるが、多くの人は生まれてから一度も挑戦すらしたことがないであろう。上で述べた仮説が正しいなら体操選手は「バック転」のミラーシステムを持ち、一方普通の人はそれを全く持っていないと考えられる。本研究ではこのような特殊な動作をモデルとして、ヒトの運動学習の過程をミラーシステムとの関係で解析する。