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【報告】人間科学研究交流会 2024 年12月4日(水)17:00~17:45 第 82回 人間科学学術院 助手 国吉 瑞穂【 戦前期における岩手県海外移住史-1898~1941 A History of Overseas Migration from Iwate Prefecture in the Prewar Period, 1898-1941】

演題:戦前期における岩手県海外移住史-1898~1941

Subject:A History of Overseas Migration from Iwate Prefecture in the Prewar Period, 1898-1941

話題提供者::人間科学学術院 助手 国吉 瑞穂

概要:

1898(明治31)年から1941(昭和16)年および1952(昭和27)年から1970(昭和45)年までの期間、岩手県からは約3,500名が移民として海外に渡った。本研究は、岩手県民の海外移住の全容を解明することを目的とした基礎研究である。本発表は、戦前期の岩手県人が、いつの時代、どの地域からどの国へ、どのような人たちが、何をしに、なぜ、どのようにして海外に渡ったのか、移民研究の5W1H(When, From where to where, Who, What for, Why, How)に沿って明らかにすることを目指した。
戦前期の海外移民の数、出身地、渡航先、渡航目的、渡航時期等は、「布哇國移民人名簿」、「海外渡航者名簿」、「海外旅券下付表」等の資料を参考にした。その数は約2,700名であった。この他に、新聞「岩手日報」の紙面調査を該当期間分行い、時代背景、移民募集広告等、海外移住関連記事を参考にした。
渡航時期および渡航先について、最初に確認されたものは、1898(明治31)年のハワイへの出稼ぎ移民であり、彼らがその後1921(大正10)年までの期間に呼寄せた家族を含めると移民の数は約100名であった。メキシコへの移住は1898(明治31)年に始まり、1937(昭和12)年までの間に約20名の渡航が確認された。アメリカ合衆国本土への渡航者数は1899(明治32)年から1928(昭和3)年で約300名とブラジルに次いで多い。東南アジア諸国(オランダ領東インド、フランス領インドシナ、フランス領ニューカレドニア、英領北ボルネオ、ボルネオ、シンガポール、ジャワ島、スマトラ島、ビルマ、フィリピン等)への渡航は1910(明治43)年から始まっており、1941(昭和16)年までの移住者数は約90名であった。さらに、少数であるが1911(明治44)年から1937(昭和12)年の期間にカナダへの移民約50名も確認された。戦前期の海外移住者約2,700名のうち、約2,200名がブラジルに移住している。ブラジルへの移住は1918(大正7)年に始まり、1940(昭和15)年まで続いたが、約8割が1930(昭和5)年から1935(昭和10)年の期間に移住している。アメリカ合衆国本土、ハワイ、東南アジア諸国へは単身、ブラジルへは家族単位での移住が主流であった。
出身地については全体的な傾向として、北米や東南アジア諸国に渡航する者は盛岡市、花巻町、水沢町、一関町と人口が多い町およびその周辺から出ており、ブラジルへの移住者は岩手県内全域から出ていること、県南地域に集中していることが明らかとなった(図1~図3参照)。ブラジル移住者が県全域から出ている理由の一つは、海外移住奨励活動である。ブラジルを紹介する映画会、ブラジル移住成功者による講演会、海外移住行政に携わる人による海外移住相談会が1929(昭和4)年から1940(昭和15)年の期間、県全域で継続的に行われた。

岩手県は北海道や県外への出稼ぎ、北海道への移住が主流の地域であるが、その中であえて海外移住を選択した背景には相応の理由があったと推測される。移住理由については、政治的、経済的、文化的諸要因などが複合的、重層的に絡み合って特定することは難しいが、ブラジル移住が1930(昭和5)年から1935(昭和10)年に集中した理由については、この時期に岩手県を襲った自然災害(干ばつ、冷害、凶作、不漁、地震、暴風被害等)や不景気が要因として考えられる。

今後、分析を進め海外移住に至った要因を解明していき、併せて移民を多く輩出している「移民県」との違いや特徴、岩手県ならではの特性等を明らかにしていきたい。


引用文献:

(1)外務省『熊本移民合資会社移民渡航認可報告一件 第1巻~第4巻』(3.8.2.96)

(2)外務省『移民取扱人経由ノ渡航者名簿一件』(3.8.2.318)

(3)外務省『移民取扱人ヲ経由セル海外渡航者名簿』(3.8.2.38)

(4)外務省『本邦移民取扱人関係雑件 海外興業株式会社 海外渡航者名簿 第1巻~第46巻』(J.1.2.0.J3-1-1)

(5)外務省『海外旅券下付(附与)返納表進達一件』(3.8.5.8)

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