Waseda Weekly早稲田ウィークリー

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世界大学ランキングをどう読み解くか ― 「鍵は研究力にあり」早稲田大学が世界で飛躍するために

音声認識や顔表情認識、機械学習、会話を組み立てる手法など、人間と自然な会話ができるロボット「SCHEMA(シェーマ)」(理工学術院・小林哲則研究室)。複数の人と会話しコミュニケーションができる。「ICT・ロボット工学拠点」では、機械と情報・通信との融合によりイノベーションを創出する人材を育てる

中長期計画「Waseda Vision 150」において教育・研究の質の飛躍的向上を掲げる早稲田大学は、「アジアのリーディングユニバーシティ」として確固たる地位を築くため、国際競争力を一層向上させるさまざまな改革を進めています。このことが評価され、世界レベルの教育研究を行うトップ大学として文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」の「タイプA:トップ型」(以下SGU)にも選ばれています。

早稲田大学を含めた日本の大学をめぐる状況として、世界大学ランキング(※1において日本の大学のランキング低下が、昨今ニュースで大きく伝えられています。主要な世界大学ランキングの一つを発表しているイギリスの「クアクアレリ・シモンズ社(Quacquarelli Symonds)」(以下、QS)の研究分野別ランキング(※2において、2023年までに18研究分野をトップ100位に入れることを目標とした早稲田大学は、国際的に見て現在どのような位置にあり、今後いかに世界で飛躍していこうとしているのか。学生の皆さんが普段の授業や課外活動の場では接する機会は少ないと思いますが、国際競争の渦中にある早稲田大学の“戦略”について、橋本周司副総長に伺いました。

早稲田が改革を実現すれば、ランキングはついてくる
「君たちは、いい大学にいるんだよ」
橋本副総長が学生たちに一番伝えたいこと

早稲田大学副総長 橋本 周司

――世界大学ランキングについてどのように思われますか?

本学が世界の中でどの位置にいるかを認識することは、教育改革を進め、研究戦略を練る上で重要なことなので、注目はしています。しかし、ランキングを上げること自体を早稲田大学の改革の目標と考えているかというと、決してそうではありません。

早稲田大学は現在、「Waseda Vision 150」にのっとり、教育・研究に関する多くの改革を実行しています。クォーター制の導入や国際共同研究の充実などにより、早稲田大学の国際競争力が高まれば、ランキングにおいても本学が正しく評価され、おそらく上位に上がっていくのではないかと考えます。世界中の若者が大学を選ぶ際にランキングを参考にすると言われている中で、外国人学生を現在の5,084人から約2倍(2023年度目標)にしようとしている本学としても、ランキングを意識しないわけにはいきませんが、早稲田大学の国際化に向けた改革を進めて、学生にとってよりよい教育研究環境を提供することがわれわれ教職員にとって最も大事なことだと考えています。

――ランキングでは大学のどのような部分が評価されるのですか?

QS世界大学ランキングの国内順位

QSのランキングはどういう指標でどのように集計されているかが公表されており、大学の「研究力」を図る一つの指標として、「教員1人あたりの論文被引用数」が設定されています。

「研究力」を具体的に計るというのは難しい話ですが、数値化していかなければランキングが作れません。本来、研究とは論文の数が多ければ良いというものでもなく、どれだけ質の良いものを発表できるかが大事なのですが、それを計るための一つの要素として、発表された論文がどれだけ研究者の注目を浴びているかという点、すなわち「論文被引用数」が指標にされているということだと思います。

また、「教育力」に関しては、「学生と教員の比率」が採用されています。本来は教員1人あたりの学生の数が多ければ質が低いというわけではないとも思いますが、QSはこれを指標として採用しています。さらに「国際化」については、「外国人学生比率」や「外国人教員比率」を重視しています。

客観的な数値に加えて、「研究者による評判」「雇用者による評判」も指標として設定されています。また、卒業生が社会からどのように評価されているかは、いわゆる一流企業にどれだけ就職しているかということも含め、非常に大切です。先日、同じQSから卒業生に対する雇用者の評価を計る「Graduate Employability Rankings 2016」という別の指標を用いた新たなランキングが発表されましたが、ここでは早稲田大学は世界33位、国内で1位となりました。早稲田大学の立ち位置を知る上でとても重要な指標だと捉えています。

――ランキング対策として、早稲田大学が特に力を入れている点は?

医学分野の研究業績や教員数が数字として反映されやすい世界大学ランキングにおいて、医学部を持たない早稲田大学が総合ランキングを上げていくのはなかなか難しいことです。その一方で、人文社会系から理工系まで多様な学問分野を有する本学にあっては、当面の目標として、国際的な評価が高い研究分野の数を増やしていくことを掲げました。QSの研究分野別ランキングが公表している分野のうち18について、100位以内に入ることを目指しています(参考:QS World University Rankings by Subject 2016では3分野が100位内に、21分野が200位内に入っています)。世界で勝負ができる研究者が学内にいれば、海外の一流大学・研究機関も早稲田大学との共同研究を望むようになります。そのための制度や環境を徐々に整えているところです。

――早稲田大学の研究の強みはどこにあるのですか?

SGUの「Waseda Ocean構想」では「国際日本学」「実証政治経済学」「健康スポーツ科学」「ナノ・エネルギー」「ICT・ロボット工学」「数物系科学」の6つの研究ユニットを先行モデル拠点に選びました。構想推進の軸としてこれら6拠点を重点的に支援し、6拠点が包含するそれぞれの研究分野の国際競争力をさらに高めて、他の分野にも競争力向上の知見を広めていこうと考えています。選んだ6拠点はすでに世界で先進的な研究をしている大学・研究機関と交流のある分野を代表する拠点です。大学として力を入れている分野であることを明確にすることによって、さらに研究交流は深まっていますので、評価が上がることも期待できます。

――QSのランキングに対する自己評価は?

世界212位(国内9位)という数字は、早稲田大学が持っている本来の実力を考えると、まだ少し低いと感じています。医学部がないというハンディもありますが、特に先ほど挙げた6つの先行拠点に関しては現状でもかなり強いと感じています。100位以内に入る研究分野を18に広げることができれば、「総合100位以内」も視野に入ってくると思います。早稲田大学にはたくさんの優秀な研究者がいるのだから、もっと国際的なフィールドで勝負できるはずです。

――ランキングに現れない部分で重視していることは?

2014年10月に完成した3号館。ICT(Information and Communication Technology)環境や、授業の事前・事後のグループ学習を可能にするためのグループ学習室・ラーニングコモンズなどが整備されている

まずは早稲田大学から活躍する人を多く出すこと、学術界、社会からの評判を上げることなど、数字にしにくい部分をしっかりやっていくことが大事だと思っています。また、QSには「教育力」については「教員数と学生数の比率」以外に計る指標はありませんが、アクティブラーニングの導入など、早稲田大学は現在、ティーチングの改善や質の向上にも力を入れています。

――今の学生・教員についてはどのように思われますか?

昔の早稲田は「学生一流、設備は二流、教授は三流」なんて言われたものです(笑)。そういう意味では「学生一流」というのはずっと譲れないところで、設備や教員ももっと一流にしていかなければならないと思っています。早稲田は昔から良い学生が集まっていたからこそ、そこへさらに良い学生が集うという好循環がありました。最近は優秀な教員も多くなっており、今まで以上に良い学生を呼び込む力を持っていると思います。

――留学生にとって早稲田大学の魅力はどこにありますか?

国内随一の多様性を誇る早稲田大学には、世界105 カ国・地域から5,084人の外国人学生が在籍している

アメリカの有名な私立大学は年間授業料が約400万円かかるといわれています。一方で早稲田大学は約150万円(※学部によって異なる)。これとて決して安い金額ではないですが、しかしアメリカの大学とこれだけ差があって、それでいて同等かそれ以上の留学効果を本学が有しているとなると、費用対効果でメリットが出てくるのではないでしょうか。早稲田大学はアメリカのトップ大学とも協定を結んでいます。早稲田大学に籍を置きながら、さらに海外留学することもできる。留学生にとっても、大きなメリットがあるといえます。早稲田大学に行くということは「日本に行く」ということでなく、「世界に行く」という入り口。そういうことが言える大学になってきていると思います。

―学生たちに一番伝えたいことは何ですか?

とにかく「君たちは、いい大学にいるんだよ」ということを分かってほしいですね(笑)。早稲田大学には多様な人々がいるので、学生自身が受け身にならずに活動していけば必ず報われる大学です。一生の友達ができるし、起業やボランティア団体の立ち上げもできる。留学の支援プログラムも多彩です。大企業などで偉くなった卒業生がたまに「大学時代は勉強しなかった」と話しますが、彼らは授業以外で学んだことが多いのだと思います。そのような類いまれな環境に加えて、今は対話型、問題発見・解決型の少人数授業や体験型の授業などを拡充し、そのための設備も充実させています。学生たちは勉強すればもっとチャンスが増えていくし、大学で学んだことを生かして社会で大きな成果を得る学生も増えていくと思います。早稲田大学が持っている本来の力を発揮すれば、より優れた研究成果を発表し、より多くの優れた人材を輩出できる大学になっていくと思います。

【プロフィール】

橋本 周司(はしもと・しゅうじ)。早稲田大学副総長。理工学術院教授。1970年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。1979年東邦大学講師、1989年同助教授、1991年早稲田大学助教授を経て、1993年より早稲田大学理工学部教授。専門は計測・情報工学。理工学術院長、理工学部長、理工学研究科長などを歴任。2010年11月より早稲田大学常任理事に就任。

※1世界大学ランキングは、本稿で取り上げているQS以外にも、イギリスのタイムズ社が発表している「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE) 世界大学ランキング」や、上海交通大学による「世界大学学術ランキング」、USニューズ誌による「Best Global Universities」など、複数のランキングがある。

※2イギリスの「クアクアレリ・シモンズ社(Quacquarelli Symonds)」が公表しているランキング。研究分野別ランキング2016(QS World University Rankings by Subject 2016)は、42の専攻分野について、7万6,798名の研究者と4万4,426名の雇用主の評判に加えて、論文数や引用数、抄録・引用文献データベースなどを基に集計。分野別ランキングは2011年より毎年公開されている。

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世界展開を見据えた戦略「Waseda Ocean構想」6モデル拠点

漢字をくずした書体として『源氏物語』をはじめ日本の多くの古典で使用されている「変体仮名」。文学学術院はアメリカのUCLAと共同で変体仮名の美しさを再発見し、読み方をゲーム感覚で身につけられる無料スマートフォンアプリを開発しました。「国際日本学モデル拠点」は、真にグローバルな視野から日本文化を捉え直すという理念を実現します

2014年9月、「スーパーグローバル大学創成支援事業」の「タイプA:トップ型」に採択された「Waseda Ocean構想~開放性、多様性、流動性を持つ教育研究ネットワークの構築~」は、世界に向けて大学を開放し、ダイナミックな頭脳の国際的流動の中で、教育研究の質と量の飛躍的向上を目指しています。

「Waseda Ocean構想」は、世界の7つの海が一つにつながっているように、世界の先導的な大学と早稲田大学が一つにつながり、世界中の優れた研究・教育者と優れた学生たちが自由に往来する場をイメージしたものです。10年で10万人のグローバルリーダー輩出を目標に掲げています。

早稲田大学は「Waseda Ocean構想」を実現するために、国際的に評価が高い6つの研究ユニット(1. 国際日本学、2. 実証政治経済学、3. 健康スポーツ科学、4.ICT・ロボット工学、5.ナノ・エネルギー、6.数物系科学)をモデル拠点として選定し、先行的に集中投資を行い、それぞれの研究分野における国際的な存在感を高めようとしています。各モデル拠点は、有力大学との共同研究・教育を進めること、国際基準の学位審査を行うこと、学生の個別ポートフォリオ構築、学部・大学院一貫教育の試行、研究・教育で得た知見および制度を該当する研究科・学部へ普及、などを推進しています。

1.国際日本学拠点

2.ICT・ロボット工学拠点

3.実証政治経済学拠点

4.健康スポーツ科学拠点

5.ナノ・エネルギー拠点

6.数物系科学拠点

◆関連リンク
スーパーグローバル大学創成支援事業

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