名前
桑原 夏子 (KUWABARA, Natsuko)
取得学位
博士(美術史)
HP (URL)
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資格
講師
研究テーマ
地中海世界における聖母晩年伝図像の形成・伝播と機能について
聖母晩年伝とは、キリストの母、聖母マリアの地上での最後の日々、死、そして天上における栄光化を扱った一連のエピソードです。この画題群は9世紀から15世紀末にかけて地中海地域全域の聖堂を飾ってきました。しかし聖母マリアの晩年について、聖書には記述がありません。マリアは431年のエフェソス公会議において神の母と認められ、それがきっかけとなり、彼女の晩年について結末の異なる複数の偽書が記されました。聖母はどのように亡くなったのか、その後、魂と体は、共に天にあげられたのか否かという問題は、20世紀半ばまで議論され続け、その間、各時代・各地域において、それぞれ異なる見解が信仰的真実として受け入れられてきました。そのため、聖母晩年伝がどのように表され、どのように受容されたのかという問題は、文献学・宗教学・歴史学とも関わるものです。美術史における主題や形の伝播のあり方を探るという問題にとどまらず、それぞれの時代・地域における死生観や宗教観の理解、あるいはイメージを利用した政治的権威の発揚のあり方など、研究の射程は文化・社会・政治理解にまで及ぶ点で高い重要性のあるものです。
本研究の狙いは2点あります。1つ目は、現存する63点の偽書について、各時代・各地域にいずれの偽書が伝わり、それが図像の成立にどのように関係したのかを明らかにすることです。2つ目は、偽書を参照して制作された聖母晩年伝作例が、どのような目的で制作され、どのような絵画・彫刻装飾と共に表され、どのような意味を紡いでいたのかを詳らかにし、地中海地域各地における聖母晩年伝の機能(役割)を明らかにすることです。
Monthly Spotlight
[Monthly Spotlight]は研究員にスポットをあて、研究内容とそのビジョンを毎月紹介していくコンテンツです。
地中海地域におけるキリストの母「聖母マリア」の晩年を描いた絵画の研究
略歴
【略歴】
2022年4月ー現在:早稲田大学高等研究所 講師
2019年4月―2022年3月:日本学術振興会特別研究員SPD(早稲田大学文学学術院)
2019年1月―2019年3月:オランダ大学機関美術史研究所ポスドク
2016年10月―2017年6月:ロベルト・ロンギ美術史研究財団フェロー
2014年9月:マックス・プランク美術史研究所サマースクール研究員
2013年11月―2018年3月:イタリア、フィレンツェ大学博士課程(博士号取得)
2011年10月―2012年9月:イタリア政府給費留学生
2010年4月―2013年9月:慶應義塾大学 文学研究科博士課程(単位取得満期退学)
2008年4月―2010年3月:慶應義塾大学 文学研究科修士課程(修士号取得)
2004年4月―2008年3月:慶應義塾大学 文学部 美学美術史学専攻(学士号取得)
【教歴】
2020年4月―2020年9月:青山学院大学 文学部 非常勤講師
2019年4月―現在:慶應義塾大学 文学部 非常勤講師
2019年4月―現在:共立女子大学 文芸学部 非常勤講師
研究項目
美術史、図像学、聖母晩年伝、イタリア、中世・ルネサンス美術
主な研究業績
- “Sull’iconografia della Storia della Vergine nel ciclo trecentesco di Fossa”, in L. Pezzuto & M. Maccherini, Santa Maria ad Cryptas. Storia, arte, restauri, Roma, 2021, pp. 74-83.
- 「「聖帯を持つ聖母の魂」図像についての基礎的研究」、『芸術学』、23号、2020年、41―60頁
- 「クレシェンザーゴのサンタ・マリア・ロッサ聖堂内陣壁画―聖母晩年伝と葬礼美術との関わり」、『美術史研究』、57号、2020年、47―56頁
- 「ムッジャ・ヴェッキア、サンタ・マリア・アッスンタ聖堂の説教壇研究」、『鹿島美術研究』、36号、2019年、47―56頁
- 「セスト・アル・レゲナ、サンタ・マリア・イン・シルヴィス修道院付属聖堂身廊交差部北壁装飾研究―福音書記者ヨハネ伝の再構成」、『早稲田大学イタリア研究所研究紀要』、8号、2019年、1―24頁
- 「北イタリアのジョッテスキー「スクロヴェーニ礼拝堂内陣の画家」と「セストの聖母晩年伝の画家」の比較研究」、『芸術学』、21号、2018年、23―37頁
- 「最古の聖母晩年伝壁画のテキスト研究―ローマ、フォルトゥーナ・ヴィリーレ神殿あるいはサンタ・マリア・デ・セクンディチェリオ聖堂壁画(八七二年―八八二年)」、『美学』、68巻、2017年、25―36頁
- 「ラクイラ近郊フォッサ、サンタ・マリア・アド・クリプタス聖堂北壁装飾研究―聖母晩年伝図像を手がかりに」、『美術史』、182号、2017年、201―216頁
- “Gli affreschi della fine del Duecento in Santa Maria Rossa di Crescenzago: gli ultimi giorni della Vergine e un’insolita scena di esequie nel presbiterio”, Contesti d’Arte, vol. 1, 2016, pp. 40-55.
- 「トリエステ近郊ムッジャ・ヴェッキアの聖母晩年伝壁画―イタリアにおける聖母晩年伝図像生成初期の様相の再検討と終末思想」、『西洋中世研究』、8号、2016年、118―138頁
趣味 関心
おいしいものを食べること、旅行、ホットヨガ、温泉に入ること、読書、散歩、ハイキング、ボクササイズ、海水浴、ピアノを弾くこと、水鳥観察、ピクニック
所属学会
美術史学会
美学会
西洋中世学会
地中海学会
ICOM日本委員会
早稲田大学美術史学会
三田芸術学会
受賞歴
2019年6月:第2回西洋中世学会ポスター賞(オーディエンス賞)
2019年6月:第1回西洋中世学会賞
2019年1月:フィレンツェ大学出版会最優秀博士論文賞第2位
2018年5月:第16回美術史学会論文賞