Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

News

ニュース

建築のチカラを探る―都市を解釈し、文明を解釈する ジュリアン・ウォラル 助教 (2010年4月当時)

  • ジュリアン・ウォラル(Julian Worrall)助教(2010年4月当時)

建築―具体性と抽象性をつなぐもの

渋谷やお台場といえば、みなさんはどんなイメージを思い浮かべますか。渋谷といえば「若者」というように集まる人からイメージを連想することや、お台場といえば「海」というように地理からイメージを思い浮かべることもできます。街の印象を形作る要素は無数にありますが、その中でも私は実在する建築から街のイメージを抽出しています。
私の専門は建築学や都市学です。建築を専門にしているというと、理系の印象をもつ方がいるかもしれません。確かに日本では建築が工学に分類されているように、複雑な計算や幾何学の知識など理系的な要素が求められています。ただ、英語圏では建築が芸術や人文科学に位置づけられており、建築に携わる人には理系の知識に加え、もっと別の力が必要だと考えられています。
たとえば、建築家はクライアントの思いをカタチにする翻訳家といえます。「ぬくもりを感じる家」「都会的でおしゃれなビル」といったクライアントの抽象的な「イメージ」を具体的な設計図や建築物へと翻訳するからです。建築家にはクライアントのイメージに近い建築物を作り上げる能力が必要とされます。
一方で、私の研究では建築家とは全く逆のことをしています。つまり、具体的な建築物やその集合体である都市から抽象的な「意味」を見いだしているのです。
具体性と抽象性。この二つの世界をつなぐのが建築であり、この二つの世界を自由に行き来する力こそが建築に携わる人に必要なのです。

建築から見えてくるもの―表参道の調査を通して

今年、私は『英文版 東京現代建築ガイド』という本∗を出しました。テーマは東京の現代建築です。この本の出版にあたり100近くの建築を調査し、さまざまな地域の意味づけを行いました。
「意味づけ」とはどういうことなのかを、表参道の調査を例にご紹介しましょう。原宿駅と青山通りを結ぶ表参道には表参道ヒルズやルイ・ヴィトンをはじめとする高級ブランドの壮麗な建築が並んでいます。その一方で、交差する明治通りにはユニクロやH&M、ZARAといった、いわゆるファストファッションの気取らない店が軒を連ねています。私にはこの二つの通りがファッションショーのランウェイ(モデルが歩く通路)に見えたのです。自らのコンセプトにあったショーに参加するように、それぞれのブランドが二つの通りに店を構えているからです。そしてファッションショーでは一番前の席に力のあるバイヤーやセレブリティが座るように、どちらの通りにも最前列には世界的に力のあるショップが並び、奥に行くにしたがってローカル色の強いブランドになっていました。「裏原宿(通称:ウラハラ)」と呼ばれる地域はまさに、これから世界進出をねらうローカルなお店の集まりともいえるでしょう。
表参道という地域を丁寧にひもといていくと、ファッション界の二つの軸を意味する大通りが交差しており、その力関係やグローバル性といった経済的意味をも見いだすことができるのです。

prada-1 dior
表参道を彩るグローバルブランドの建築 (左:PRADA 右:Dior)提供/ジュリアン ウォラル

建築が果たす役割―建築論と建築史からの探究

表参道の例が物語るように建築は街を構成する一つの要素であり、その組み合わせによって街のイメージが形作られます。建築は街の表情を映し出す鏡ともいえるのです。ただ私は、もっといろいろな面から建築が果たす役割を考えていきたいと思っています。
一つは建築意匠論や建築設計論など、建築論からのアプローチです。例えば「公共空間はどうあるべきか」という都市の課題に対して、建築はどう応えるのか、どう貢献できるのかといった役割です。建築は社会を映すだけではありません。社会の課題を解決する糸口にもなりうるのです。
もう一つは建築史からのアプローチです。都市の歴史についての研究を通じ、建築の移り変わりから人々の生活や文化の移り変わりが見えてきました。時代とともに変わりゆく建築は社会の変化を映します。そして過去の歴史は将来的に都市が進むべき姿をも明らかにするのです。建築の歴史を研究するうちに、建築が現在そして未来における都市のあるべき姿を提示するという役割を担っていると考えるようになりました。
つまり、建築は街の表情を映すだけでなく、社会の課題を解決し、将来的な都市の理想像を描くこともできるのです。私は都市建築の調査を通じて、最終的には都市の文明解釈論・文明展開論につなげていきたいと考えています。

建築の可能性―社会を映し、社会を変える

作家は文字を通して様々な分野に影響を与えていますが、私は建築家にも社会全体に影響を与え、貢献する力があると考えています。利用するツールが文字か建築かの違いだけなのです。

建築には都市計画を構築する行政的役割や建設による経済的役割、そして完成した建築が担う社会学的役割があります。
貢献できる分野は広範囲にわたり、建築家の実社会における影響力はある意味で作家以上だと私は考えています。そしてこの多岐にわたる役割こそが建築の可能性なのです。世界に類をみない大都市、東京。そして発展のめざましいアジアの都市を研究することで、あらたな文明解釈論が展開できるはずです。私はこの建築に秘められた可能性を引き続き探究していくつもりです。

book_cover

* ジュリアン・ウォラル 他、『英文版 東京現代建築ガイド』 講談社インターナショナル、(2010)

 

取材・構成:大石かおり/松井尚哉
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/wias/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる