早稲田松竹での上映会「はじめての映画たち」に運営スタッフとして参加して
文化構想学部 4年 堀川 恭平(ほりかわ・きょうへい)
「映像制作実習Ⅰ・Ⅱ」は基幹理工学部に設置されたオープン科目で、通年、週1回2コマ続きの授業の中で学生が映画の企画を作り、脚本を書き、撮影・編集、そして上映までを行う実習形式の授業です。指導教員は映画研究者の土田環先生(理工学術院専任講師)、そして映画監督の是枝裕和先生(理工学術院教授)です。
授業は年明け1月10日(火)、大隈記念講堂で無料公開した作品上映会をもって締めくくられたのですが、その後、授業で制作された作品のうち2本が、東京・高田馬場にある名画座「早稲田松竹」で一般興行として上映されることになりました(タイトル:「はじめての映画たち 特別編“名画座×大学”早稲田大学映像制作実習コラボレーション上映」)。私はこの上映を進めていく担当を務めました。これはチケットを来場者に買っていただくという点で、大隈記念講堂での無料上映会とは異なるプロジェクトでした。また、映画館をレンタルして自主作品を上映する「貸し館上映」とも異なり、名画座のプログラムとして他の商業作品と併映されるため、そのことに対する責任と、それに見合う動員が必要でした。
是枝先生はこの授業に関して「制作者の養成講座」ではないとおっしゃっていますが、映像制作者を目指している自分としては、「それではなぜ、授業という枠からはみ出るようなプロジェクトに取り組むのだろうか」と不思議に思っていました。「養成講座」ではないのであれば、自分がこの授業から学ぶべきものは一体何なのだろうと悩みましたが、上映ぎりぎりまでその答えはよく分かりませんでした。
上映前日にトラブルがありました。試写の時、上映する作品の一つに音声のミスが見つかり、再編集が必要になったのです。本来であればあってはいけないミスで、そのようなことがないように日程を組んでいたにもかかわらず、私たちの認識の甘さで起こってしまいました。上映当日の朝までにその部分のみ再編集することになったのですが、これも時間に間に合わず、さらにその作品の学生監督は一部再編集をしたことで音声のバランスが気になり、作品全体の音声を編集してきていました。このことで、名画座の担当の方からきつくお叱りを受けました。
この時私には、これが叱責(しっせき)というより、憤りのような感情に感じられました。そして同時に、奇妙な言い方になりますが、その憤りに感銘を受けました。それはその憤りが、その方の上映に対するプライドであると感じたからです。
上映をするにあたって、チケットを買って見に来てくださる観客の方に、保証されていないもの、つまり試写を一度もしていないものを見せるわけにはいかない。学生の自主上映ではなく、名画座でプログラムを組み、上映することに対する責任感がその憤りにはあったのです。再編集をしたデータで上映してほしいと言った監督や私たちは、その責任をしっかりと理解していませんでした。
結局、試写担当の方が偶然にも当日も来てくださっていて、もう一度スクリーンチェックまでしてから上映に臨むことができましたが、この一件は強く印象に残っています。「養成講座」ではない授業で自分が学ぶべきことは何なのか、少し分かったような気がしました。
この授業では、さまざまな面で“授業”という枠を超えた活動を行います。授業時間外に何時間も作業したり、学外の関係者と交渉を行ったり、多くの時間を費やす必要があります。映画を作り、見てもらうという一連の作業の中には、制作者が必ず背負わなければならない人間関係や責任があるのです。
それを経験でき、私にとってとても学びの多い場となりました。2017年度以降も多様な学生が集まり、そのような場が広がっていけばいいなと思います。