教育で日本を、世界を変えたい
NPO法人 EdFuture 代表 中村 柾(なかむら・まさき)

早稲田キャンパスにて
早稲田という学びの庭を巣立っても、人生での学びは続く。国際教養学部の校友・中村柾さんもまた、学生時代も卒業後も学び続けてキャリアを広げてきた人物だ。コロナ・パンデミックでは学部当時の留学経験を生かして独自のオンライン学習を構築。その後も米国スタンフォード大学院などで学び直し、現在は留学希望者に新たな学びの場を紹介する教育NPOに従事している。その「学び」への原動力とは?
「海外教育実習の旅」で学んだ日本の教育の良さと問題点
「中学生の時、友人に勉強を教えたら実際にその子の成績が伸びて、すごく感謝されたんです。自分が誰かに貢献できることがうれしかったですし、教育の道に進もうと思った原点です。大学進学にあたっては、海外の教育現場も学びたいと考え、海外留学が必須で教員免許も取得できる国際教養学部を選びました」

海外の教育現場を知りたい…。その思いから、大学入学後は苦手だった英語の勉強にもより一層励み、学部の留学生とも積極的にコミュニケーションを重ね、留学への準備を進めた中村さん。1年後には早速、米国インディアナ州へ。その「学びの旅」は想像もしない広がりを見せていった。
「アメリカでは教育実習の体験もできて、日米の教育現場の違いを目の当たりにできる刺激的な日々でした。その興奮と感動をお世話になった恩師に伝えたところ、『じゃあ、他の国にも留学して教育実習してきたら?』と、アフリカ南部の国スワジランド(現エスワティニ王国)の学校を紹介されたんです」
中村さんの「海外教育実習の旅」はアフリカでも終わらず、インドや中米ホンジュラスなど、まさに世界規模に。当然、日本では考えられない出来事も経験できたという。
「スワジランドでは、自分が受け持ったクラスの担任が体罰問題で解雇され、新任が着任するまでの間、教育実習生の私が臨時担任になったことも。これは衝撃的でしたね。こうした経験のおかげで、各国の教育現場がどう違うか、日本の教育システムがいかに優れているかにも気付くことができました」

アフリカでの教育実習にて、現地の子どもたちと
一方で、日本の教育が明らかに後れを取っていた点、それはオンライン対応だった。
「私が留学した2015年時点で、アメリカでは小学生に1人1台ずつパソコンが無償で支給され、宿題はオンライン提出。動画編集の授業もありました。日本がこの状況になるのは何年先なのか…」
そんな思いを抱えたまま、大学卒業後は地元・千葉県松戸市で中学校の教員になった中村さん。だが、教員3年目の2020年、コロナ・パンデミックという外圧によって、日本にも強制的にオンラインの波がやってきた。
「教育の現場はもう大混乱でした。私はアメリカでオンライン授業を経験していましたが、ほとんどの教員や生徒、教育関係者にとっては未知の出来事。学校におけるオンライン授業の活用は遅々として進みませんでした」
そこで中村さんは、「ノウハウを知る自分が率先して始めよう」とSNSも活用して子どもたちに学びの機会を提供するサービス「オンライン寺子屋」を構築。この取り組みは「ICT夢コンテスト総務大臣賞」受賞という反響を呼んだ。

オンライン寺子屋で授業をしている様子
「『オンラインで授業を受けたい人はいますか?』とSNSで募集をかけたところ、どんどんシェアが広まり200人近い申し込みがあって。教える側も私だけでなく、賛同してくれる教員が50人近く集まって、気が付いたらかなりの反響をいただきました。試行錯誤の日々の中で何とか頑張れたのは、自分の海外経験を生かしたいという使命感。その一方で、『もっと教育とテクノロジーを学び直したい』と考える契機にもなりました」
失敗や苦労は「人生の成長痛」 人生100年時代の働き方・学び方
こうして米国への大学院留学を決意した中村さん。中学校の教員として教壇に立ち、生徒の受験対応をしながら、自らの受験勉強にも励むという激務の日々を乗り越え、見事、いくつもの名門大学院に合格。その中から、まずはスタンフォード大学の教育大学院へ。その後、ハーバード大学の大学院でも学びを深めた。
「オンラインの次はVR、バーチャルリアリティーだと考え、まずはVRに強い研究室があるスタンフォードで学びました。ハーバードでは、アメリカで校長先生になれる免許を取得しました」
写真左:スタンフォード大学院でVRの研究をしている様子
写真右:2024年5月、ハーバード大学院の卒業式にて
現在、中村さんはボストンの教育委員会で働きながら、自ら立ち上げたNPO法人EdFutureで代表理事を務め、海外留学を希望しながらも機会に恵まれない若者への支援の輪を広げている。
「教育で日本を、世界を変えたいと本気で考えています。おかげさまで留学支援の輪はどんどん広がって、1年目に10人の留学サポートから始まったプロジェクトは、2年目には早稲田大学アントレプレナーシップセンターとの提携も実現。3年目はアメリカ大使館の後援も受けて留学先もさらに広がりを見せるなど、地域も人数も年々拡大して、今は日本各地の自治体との連携の動きも進んでいます」
EdFutureのプログラムで、米国の学校に短期留学した高校生たち(左)と、自由の女神を訪問した時の一枚(右)
大志を抱き、未来へと突き進む中村さん。順風満帆なようでいて、実際には失敗や壁にぶつかることも多いというが、そこで思考を止めない強さがさらなる推進力を生む。
「失敗も悔しい経験もたくさんありましたが、その失敗から何を学ぶか、どうすれば次はうまくいくのか、改善のサイクルに回していく。いつも『ピンチはチャンス』と思っていますし、失敗でへこたれない強さみたいなものは自分の中にあるのかもしれません」
これから社会に旅立つ卒業生にも、困難な出来事を乗り越える強さを身に付けてほしいとエールを送る。
「いかに自分が夢中になれること、得意なことに出合えるか。それは働いてからでも遅くありません。人生100年時代、働き方も生き方も多様になるからこそ、5年後10年後にも目を向けられるか。つらいことや大変なこともあるでしょうが、それはきっと、『人生の成長痛』。何かを学んでいる証拠だと思って、自分が夢中になれることに果敢に挑んでください。いろんな経験を積んでおくことが、人生の糧になるはずです」
そして、在学中の学生に向けても、こんなメッセージを残してくれた。
「やっぱり、世界に目を向けておくことは大事だと思います。学生時代はお金がなくとも、時間は社会人に比べれば圧倒的にあります。その時間を有効活用して、格安旅行でも情報収集からでもいいので、世界に視野を広げてほしいです」
視野を広げる経験は、世界を旅する以外にも方法はある。
「せっかく早稲田大学という多様性の宝庫にいるのだから、この場をどう生かすか。積極的に他学部の人とも交流してほしいですし、ぜひ、教授とも仲良くなっておくべき。自分の興味がある分野の専門知識を持つ人に出会える機会というのは、卒業後はなかなかありません。授業以外でも積極的に質問して、いろんな人とつながっておくことは、人生においてとても有意義だと思います」
取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒業)
撮影:石垣 星児
【プロフィール】

早稲田キャンパス11号館前にて
1994年、千葉県出身。2018年、早稲田大学国際教養学部卒業。在学中に米国、アフリカ、インド、中米の学校で教育実習を経験。卒業後、日本で4年間の公立中学校教員を経て、スタンフォード大学院とハーバード大学院に留学。現在はNPO法人EdFutureの代表理事として、若者の学びを支援している。マサチューセッツ州校長免許保持。ボストン市教育委員会指導主事。
NPO法人EdFuture/ワールド寺子屋:@npo_edfuture





