「頑張っていれば良い結果は出せると信じて練習をする」
人間科学部 4年 西口 直輝(にしぐち・なおき)

所沢キャンパス101号館前にて
2024年アジア大学武術選手権大会に日本代表として出場し、太極拳5位・太極剣1位という目覚ましい成績を収めた西口直輝さん。太極拳とは、競技スポーツ、そして生涯スポーツとして老若男女が楽しめる中国伝統武術の一つで、太極拳愛好家は世界で1億5,000万人もいるといわれています。日々太極拳・太極剣に向き合う西口さんに、競技を始めたきっかけや学生生活での学び、今後の展望などを聞きました。
――太極拳・太極剣はどのような競技ですか。
太極拳は、長拳・南拳と並ぶ中国伝統武術の一つで、ゆったりとした動きが特徴です。試合では、10点満点で表現力やジャンプ、バランスの難易度に応じた点数で競う、演武中心の競技です。そして太極剣は、太極拳の動きを基礎にして拳の代わりに剣を使用する、いわば太極拳の応用として位置付けられています。
――競技を始めたきっかけは何ですか?
親の転勤の都合で、小学校3年生から4年間上海に住んでいました。引っ越してすぐに、何か「中国らしいこと」がしたいと思い、日本人学校の友人と一緒に軽い気持ちで、小学校のカンフークラブに参加したことがきっかけです。カンフークラブでは長拳に取り組みましたが、だんだんと上達し、長拳が「楽しい」と感じるようになって。また、長拳を通して中国の人々や文化に触れる中で、自分自身の視野の広がりと成長を実感し、日本に帰国後も長拳を続けようというモチベーションにつながりました。
その後、中学生の時にコーチから「動きの特徴的にも性格的にも太極拳の方が合っている」とアドバイスをもらい、長拳から太極拳へ種目を変更したんです。
写真左:武術を始めたての頃に上海の教室で撮影したもの
写真右:小学校4年生の時にカンフークラブのメンバーで少林寺に行った際の様子。上段左から2番目が西口さん
――2024年アジア大学武術選手権大会太極剣の部で優勝した時のことを教えてください。
初出場の大会だったため力試しの気持ちで出場したのですが、まさか自分が優勝するとは思っていなかったので、喜びよりも驚きが先行しました。優勝した瞬間は実感が湧かなかったのですが、試合後、両親と話しているうちに、ひしひしと優勝したことを感じました。
今振り返ると、太極剣は2種目目であったため、肩の力を抜いて堂々と演武できたことが良い結果につながったと思います。日本には武術のプロ制度がないため、練習環境や時間の面では他国の選手に劣りますが、自分は毎日往復4時間かけて練習場に通い、練習前の自主練や大学の空き時間を使ったトレーニング、移動中の動画研究など、あらゆる工夫で練習時間を確保し、自分の演武を磨き続けました。そうした積み重ねが他国の選手との差を縮め、優勝という結果をつかめたと感じています。
写真左、中央が西口さん。中国・ハルビンで行われた2024年アジア大学武術選手権大会で優勝した際の様子
――大会優勝以前にも競技を続けている中で困難が多くあったと思います。どのように乗り越えましたか?
「日々頑張っていれば良い結果は出せる」と信じてひたすら練習を続けました。8~18歳までのジュニア時代は、実力が足らず、全国大会に行けないことも多々ありました。だんだんと成績が伸びてきて国際大会が目指せそうになった時期に、新型コロナウイルス感染症が流行してしまって。その時に、「頑張ってきたことを発揮できる場所がない中で、結果が出ないからといって頑張らないのは違う」と思ったんです。そう信じて競技を続けていたら、有り難いことにアジア大学武術選手権大会の日本代表選手に選ばれることができました。明確な目標や頑張ってきたことを発揮できる場所がなくても、努力は続けるべきだと感じました。

2020年高校2年生の時に、所属チームの大阪武術隊で表演会をした写真 。上段中央が西口さん
そしてこのように競技を続ける根底には、「周囲の期待や応援に応えたい」という思いがあります。また、「日本ではまだマイナースポーツである太極拳を多くの人に知ってもらいたい」という気持ちも原動力につながっています。太極拳の魅力は、競技スポーツとしても生涯スポーツとしても楽しめる点です。70代、80代の高齢の方でも太極拳を楽しむことができますし、そのような魅力を知ってもらえると、やりがいを感じ、続けていて良かったと思えます。
――早稲田大学人間科学部に進学を決めた理由や、大学での学びが競技に生きていると感じることはありますか?
元々運動が好きで、筋肉や人体の構造に興味がありました。また高校生の時に、太極拳をはやらせたいという思いで社会学や心理学にも興味を持った経緯から、生物学や社会学、心理学など、文系・理系問わずに横断的に学ぶことができる人間科学の学問を学びたいと考えるようになったんです。
早稲田での学びで太極拳に生きていることは、GECで開講している中国語コミュニケーションの授業です。受講生の約半分が日本語を母国語とせず、TA(ティーチング・アシスタント)は全員中国出身の方々で、この授業を通して中国の文化や言語への理解がさらに深まりました。中国の国際大会に行くと実際に中国語を話す機会があるため、授業での学びが役立っていると実感します。
――今後の目標を教えてください。
競技に関しては、2025年の世界選手権と、2026年のアジア競技大会に日本代表として出場したいです。現在太極拳はオリンピックの種目ではないのですが、いつかオリンピック競技に採用された時に出場できたらいいなと思っています。
大学生活では、原太一教授(人間科学学術院)のゼミに所属しており、ザクロに含まれるウロリチンという成分について研究しています。ゼミでの活動にも力を入れているため、まずは5月の学会に向けて研究成果をしっかり出したいです。現在は就職活動を行いつつ、大学院への進学も考えているのですが、いずれにせよ、太極拳は続けていきたいです。

2024年の所沢キャンパス祭にて、所属ゼミが企業と共同開発した甘酒の販売を行った。左が西口さん
第898回
取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
社会科学部 3年 米田 菜々美
【プロフィール】
兵庫県出身。大阪教育大学附属高等学校池田校舎卒業。早稲田大学下駄っぱーず(公認サークル) に所属しており、戸山キャンパス学生会館でよく活動している。休日はSNSで見つけたご飯屋さん巡りをして過ごしている。好きなワセメシは、炭火焼丼専門店「どんぴしゃり」。試合前の緊張した場面では、Mrs. GREEN APPLEの『私は最強』を聴いて、気持ちを高めるのがルーティン。
Instagram:@wushu_naoki