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てまりで地域を活性化! 盛り上げ役として活躍するまでの道のり

転がるてまりのように、動き続けて見つけた“自分だけの縁”

「はれてまり工房」館長 佐藤 裕佳(さとう・ゆか)

東京・北千住の「はれてまり工房」にて

全国各地で伝承され、「丸く収まる」「縁をつくる」などの意味から大切な人への贈り物とされてきた伝統工芸品「てまり」。その魅力を発信する拠点「はれてまり工房」の館長を務める佐藤裕佳さんは、人間科学部出身だ。てまりを通してさまざまな地域を盛り上げたいと語る活動の原点には、早稲田大学在学中に自ら立ち上げた秋田県の盛り上げ企画と、いくつもの「縁」があった。

「将来、地域を盛り上げる」ために選んだ人間科学部

てまりに吊り紐などの装飾を施した「本荘ごてんまり」が特産品で、全国で唯一のてまりの祭典「全国ごてんまりコンクール」の開催地でもある、秋田県由利本荘市出身の佐藤さん。2021年10月には中央競馬最高峰レースの一つ、天皇賞(秋)のパドック装飾を担当し、東京競馬場をてまりで彩るなど、古来より愛されるてまりの魅力を再構築し、未来へつなげようと奮闘している。

そんな佐藤さんが早稲田大学を志望したのは、「将来、出身地の秋田と東京のパイプ役になって盛り上げたい」という思いからだった。

「そのために必要なことは何かを考え、複合的な視点で学べる早稲田大学の人間科学部を選びました。人間科学部は文系、理系問わず、学問領域の垣根を越えてさまざまなことが学べる学部です。それが自分には合っているし、自分に必要なものではないか、と思ったんです」

ただ、高校時代までの佐藤さんは消極的で引っ込み思案と、目指していた“盛り上げ役”とは縁遠い存在。そんな彼女を変えたのは、所沢キャンパス祭実行委員会での取り組みだった。

「新入生歓迎会で出会った先輩方に引かれて実行委員になったのですが、とにかく熱い人たちばかり。その熱をもらって私のやる気にも火がついた感じです」

所沢キャンパス祭には両親も来てくれた。「父が『東京での大学時代が楽しかった!』と言っていたので、大学進学の際は上京しようと思ったんです」

実行委員として、出展団体との渉外活動の他、来場者のための掲示物や装飾の考案などを担当。このときから「潜在的な魅力をどうすれば顕在化できるか、最大化できるか」を考える日々だったという。

「所沢キャンパスはちょっと迷路のような、初めて来た人には分かりにくい構造なんですよね。そこで、迷わないための掲示物をいろいろ考えました。所属していた宮崎正己先生(早稲田大学名誉教授)の感性工学のゼミで学んだ行動心理学の考え方がすごく役立ちましたし、出展団体の方も来場者もどうすればより楽しめるかを、仲間と一緒に作り上げていく過程はとても楽しかったです」

こうした取り組みで培った行動力と企画力を武器に、大学3年の秋、佐藤さんは元々の夢だった「秋田を盛り上げる役」としてある活動をスタートさせる。それが秋田応援プロジェクト「秋田Cheers」だった。

「大学3年の夏に帰省したとき、高校時代の同級生と『いずれ秋田に戻って子育てしたいよね』という話題になったんです。ただ、そのためには秋田でどう働き、どうやってお金を生み出していくか。さらには、都会からお金を引っ張ってくる方法も考えなきゃいけない…と話が膨らんでいきました。そこから、『自分たちにもできることがあるんじゃないか』と考え、立ち上げたのが『秋田Cheers』でした」

てまりのイヤリングも、はれてまり工房のオリジナルアクセサリー

応援するだけでなく、プレーヤーとして何が残せるか

「秋田Cheers」を作ったといっても、最初はもちろん手探りの状態。自分たちには何ができるのか…そんな考えを巡らせていたとき、偶然にも秋田の物産展が東京スカイツリーで開かれることを知り、佐藤さんはダメ元で電話をかけ、何かできることはないかと自らを売り込んだ。

「いきなり電話をかけて、すごく怪しまれましたね(笑)。それでもお手伝いさせていただけることになり、秋田に関するアンケート集計を行いました。また、『秋田Cheers』のSNSアカウントを作り、秋田の情報を見つけたら自分たちの言葉にして発信してみよう、といったことも始めていきました」

もちろん、単発の活動だけでは意味がないことは佐藤さん自身も理解していた。また、気に掛けてくれた先輩からの「“頑張っている風”だけじゃダメだよ」という叱咤(しった)激励も新たなモチベーションになったという。

品川にある、秋田のアンテナショップ「あきた美彩館」にて。自らお菓子を販売した

「次は何か結果が出ることをしようと考え、2016年2月にはバレンタイン企画として、秋田のお菓子を東京で売るイベントを開いたんです。クラウドファンディングをして資金を募り、地元のお菓子メーカーにも協力いただき、秋田の銘菓詰め合わせを販売する企画にしました」

メディアの取材も受け、購買者の反応も上々と、成功を収めたといえるこのバレンタイン企画。ただ、佐藤さん自身は盛り上がったからこそ、逆の気付きも得ることができた。

「寝る時間も削って、イベントも盛り上がって、自分たちも頑張ったと思ったのですが、イベントは一過性のもの。終わってしまうと、『自分たちは結局、秋田のために何か残せたのか?』と考えてしまって…。そこを突き詰めると、今後はただ応援して盛り上げるだけでなく、プレーヤーとして魅力的なものを一から作り上げ、そこに賛同してくれる人を増やすことが人生の目標になるんじゃないか、と感じました」

プレーヤーとしていかに主体的に関わるか。その観点から、マーケティングやWebの知識を増やすべく、卒業後はWebマーケティング会社に就職。また、仕事をする傍ら、プライベートではインターネット番組のディレクターとして秋田や東北の情報発信を続けていった。

「大学4年のとき、卒業式で秋田の伝統工芸品を身に着けたいと思い、地元の職人の方と交流させていただいたんです。そのことがきっかけで、全国的にてまり職人が減少していて、あと10年もすれば文化として成り立たなくなるかもしれない、と知りました。そこで、インターネット番組の局長に『てまりの文化が無くなりそうなんです』と話してみたら興味を持ってもらえて、てまりとの縁もそこから段々深まっていきました」

卒業式で髪に挿した、本荘ごてんまりのかんざし

てまりを深く知るために自分でも手作りするようになり、職人の話にも耳を傾け、てまりの魅力にどんどん引かれていった佐藤さん。ついに会社を退職し、社会人3年目の夏から、はれてまり工房の館長として東京と地元・秋田の二拠点生活をしながら、てまりの普及・振興に努めている。

はれてまり工房内には至る所にてまりが飾られている

「やりたいことはたくさんあります。国内だけでなく、海外にもてまりを広めていきたいのが一つ。また、実はてまりの歴史的背景をまとめた文献がほとんど残されていないため、全国を回って各地のてまり文化について話を聞き、整理したいと思っています。知れば知るほど、民俗学としてのてまりの奥深さに気付かされます。『はれてまり』の名前も、民俗学者・柳田國男さんの提唱した『ハレとケ』からいただいたもの。人間科学部の授業で学んだ民俗学が今に生きているんです」

写真左:2020年1月には、ラオスでてまり作りの指導を行った。工房に併設する「はれてまりカフェ」でラオス産のコーヒー豆を多く扱っていることが、ラオス訪問のきっかけの一つになったという
写真右:2022年2月に開催した「てまりっこ会」。はれてまり工房では、てまりファンを「てまりっこ」と呼んでいる

引っ込み思案だった高校時代とは一転、てまりが転がるかのように動き続けたことで世界が広がっていった佐藤さん。その経験から、現役学生にも「自分の世界を広げてほしい」とエールを送ってくれた。

「一見、無駄な時間と思えても、自分の考え方次第で有意義なものに変換できます。そのためにも、まずは自分で楽しむことから始めてみてはいかがでしょうか。そして、一つの人間関係に固執しないこと。さまざまなコミュニティーに顔を出してみると、もっと世界は広がるんじゃないかと思います」

初めての部下でもある、デザイナーの船山紘子さんと

取材・文:オグマナオト(2002年第二文学部卒業)
撮影:布川 航太

【プロフィール】
秋田県由利本荘市出身。2013年、早稲田大学人間科学部に入学。卒業論文のテーマは「秋田美人」。卒業後、Webマーケティング会社を経て、現在は東京・北千住にある「はれてまり工房」の館長に。てまりの新しい使い方を提案し、「てまりを未来に連れていく」活動に励んでいる。また、結婚を機に東京と秋田の二拠点生活を開始。「以前は、都会と比べて秋田では、日々の暮らしや将来の選択肢が限られるように感じていましたが、選択肢をどう増やせるかを私自身で今後試していきたいですね」

はれてまり工房Twitter:@HAReTEMARI_fac
はれてまり工房Instagram:@haretemari_factory

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