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書きためた日誌が原動力 プロ野球ドラフト会議で指名獲得を目指す早大院生

自分の頑張る姿で、周囲に良い影響を与える。それが僕の生きる意味

大学院基幹理工学研究科 修士課程 2年 吉村 優(よしむら・ゆう)

大隈記念講堂をバックに

プロ野球独立リーグ「徳島インディゴソックス」(以下、インディゴソックス)に所属し野球に打ち込みながら、大学院基幹理工学研究科修士課程で大学院生活を送っている吉村さん。早稲田実業学校高等部(以下、早実)の硬式野球部ではエースピッチャーとして活躍しながらも、早稲田大学では一転、米式蹴球部に入部しアメフトの道へ。大学院へ進学した今、プロ野球ドラフト会議(以下、ドラフト会議)で指名されることを目指し、再び野球に打ち込んでいます。さまざまなことに挑戦してきた分、うまくいかないことも何度もあったと語る吉村さんに、これまでに経験した挫折や、挫折から立ち直るきっかけとなった「日誌」の存在、今後の目標を聞きました。

――「野球選手としてトレーニングを積み、試合に出場しつつ大学院に通う」というのは、どのような生活ですか?

今はインディゴソックスの本拠地である徳島で生活しています。2022年に入団したインディゴソックスではシーズン中、オフは月曜日だけなんです。週に2~3試合組まれていて、試合のない日は、朝から夕方まで練習に充てています。ハードですが、4年間野球から離れていたからそれくらいやらないと、と自分に課しています。他県への遠征試合のときには朝5時に起きて、帰宅後トレーニングをして体のケアを終えると、日付が変わっていることもよくありますね。

大学院では学部時代に引き続き、自然言語処理に関する研究を行う酒井哲也先生(理工学術院教授)の研究室に所属しています。卒業論文は「相槌(づち)をうつチャットボットがオンラインブレインストーミングに与える影響」というテーマで書きました。

今はゼミも含め基本的には、オンラインで参加。直接会う機会がこれまでほぼないのは残念ですが、SNSを使って、先輩に論文の質問をしたり、同級生とお互いの状況を報告しあったりしています。修士論文は卒業論文を発展させた内容にするべく、試行錯誤中。目下の悩みは、研究に充てる時間の確保です。練習終わりで眠いときは、あえてトレーニングに出掛け、頭と体をすっきりさせ、また机に向かっています。

取材後の2022年6月2日の登板では、7回を投げて2失点7奪三振と好投。「ここをスタートに結果にこだわってやっていく」と語った

――基幹理工学部の卒業後、なぜこの道を選んだのですか。

大学3年生の頃には、当然大学院に進学するんだと自分の中で決めていました。なぜかと言われると難しいのですが、自分は小・中学校とそれぞれ受験を経験していて、毎日時間をかけて勉強するのが小さいころからの日常でした。勉強と自分は切っても切れない関係にあるのかもしれません。

大学院に入ったら研究だけに打ち込むのではなく、他のことにも挑戦したいなとは思っていました。米式蹴球部の同期が就職活動で進路を決めていくのを見ていて、自分が本気でやるなら何だろうとぼんやりと考えていたんです。プロ野球を目指す決意が固まったのは、アメフトの最後の公式戦が終わった瞬間でした。「やっぱり野球だ」と思ったんです。

しばらくは社会人野球のクラブチームで努力していましたが、ご縁があって、毎年のようにドラフト会議の指名獲得者を輩出していることで知られるインディゴソックスに移り、チャレンジを続けています。

現在使用しているグローブ

グローブにも刻んでいますが、「パイオニアになる」というのが自分のモットーです。野球をやって、アメフトに転向して、野球に再転向して、大学院で学びながらドラフト会議を目指す人なんてなかなかいないし、自分らしい決断だったなと思います。

米式蹴球部のチームメートと(吉村さんは最前列、右から5人目)。チームメートは吉村さんのことを応援してくれているという

――そもそも、大学で野球からアメフトに転向するという決断には、どのような理由があったのでしょうか。

まず、早実で野球をやりたいと思ったのは、小学2年生の時にテレビで、夏の甲子園(全国高等学校野球選手権大会)で活躍する早実のエースピッチャー、斎藤佑樹さん(2011年教育学部卒、元北海道日本ハムファイターズ)に心を奪われたからなんです。そのとき立てた目標が、「早実の硬式野球部でエースになって、日本一になる」でした。なので、大学で野球を続けるイメージは湧きませんでした。

そんなとき目に留まったのが、米式蹴球部。練習を見学したら、部員みんながとにかく楽しそうだったんです。入部は直感で決めましたね。野球からアメフトに転向して、うまくいかなくて挫折したこともありましたが、監督はじめメンバーが励ましてくれたこともありました。アメフトが好きで、仲間のことも愛する、いいチームでした。

高校3年の夏に初めてエースに。副キャプテンとしてチームをまとめ試合に臨んだが、甲子園出場はかなわなかった

――米式蹴球部時代には挫折を経験したとのことですが、どのように立て直したのですか。

日誌の存在が大きいです。大学1年の終わり頃、自分はパスを的確に出すことを求められるクォーターバックというポジションなのに、ボールを全然うまく投げられず悩んでいました。強みである強肩を生かせず、とてもつらかったです。さらに、基幹理工学部で必修の実験科目と部の練習時間がかぶってしまい、練習にもなかなか参加できないという状況に。このまま4年間続けてその先に何があるのかと自問自答して、自分を見失っていました。

そのとき、以前からコーチングでお世話になっている方から、「できたことに目を向けられるように、その日の行動一つ一つに意識して取り組めたかを日誌に記録して、結果につなげていこう」と言われたのがきっかけで、書き始めました。前日に1日のテーマ(ページ最上部)とその日の計画、四つのToDo(ページ最下部)を記入して、当日夜には、実際の行動履歴、アメフトでうまくいったこと、人間的に成長できたこと、今日もしやり直せたらどうしたいか、そのヒントになった言葉・出来事を毎日30分かけて書いていましたね。日誌を書き続けて、自分のことを肯定的に捉えられるようになり、4年間アメフトに励むことができました。

大学時代の日誌の1ページ。吉村さんは「今でも、日誌を書いて自分と向き合わないと一日を終えられません」と話す(※クリックして拡大)

――今でも日誌は毎日書いていると聞きました。

書いてはいるのですが、インディゴソックスでも挫折を経験して、書く内容を大きく変えました。これまでは、「一つ一つの行動を意識して改善していけば、結果はおのずとついてくる」と信じてきたんです。これは早実時代、和泉実監督(1984年教育学部卒)や先輩方から学んだことであり、大学時代にアメフトで、日誌を書きながら積み上げてきた成長スタイルでした。でもドラフト会議では、プロセスは評価してもらえません。結果で見せるしかないんです。

「結果を出せばいい」とはいうものの、インディゴソックスでプレーする中で、それは自分が苦手にしていることだと気付かされました。今まで通り準備して試合に出ても、思うように結果が残せなかったんです。

振り返れば「早実の硬式野球部で日本一」や「アメフトで日本一」という目標はいずれも達成できなかった。今回の競争相手は、あと少しでドラフト会議で指名されるところだった人たちばかり。プロセスだけに目を向けていては今回も、本当に手に入れたいものは得られないんじゃないかと思ったんです。

一つ一つの行動を意識して改善することはもう自然にできるので、次は、結果と向き合って感じた自分の素直な感情を日誌に吐き出そうと決めました。「悔しい」「気持ちが折れそう」と日誌に書くような苦しいときもありますが、最近は自分を鼓舞するような言葉が出るようになってきました。内面の大きな変化だと思います。

2022年5月の日誌の1ページ。「何もできない自分がもどかしくて悔しかった」という率直な言葉と、「毎日デカいチャレンジをして、自分を変えていく」「プライドは捨てる」といった強い言葉が並ぶ(※クリックして拡大)

――最後に、吉村さんの今後の目標を聞かせてください。

まずは今年秋のドラフト会議で指名を受けることが目標です。決して平たんな道のりではないと思いますが、僕が挑戦しているのを見て、「自分も頑張ろう」って思ってくれる人が1人でもいたら幸せです。周囲に良い影響を与えること、それが自分の生きる意味だと思っています。

第820回

【プロフィール】
1998年、東京都生まれ。早稲田実業学校中等部から同高等部に進学後、硬式野球部に投手として入部。2年生の夏にベンチ入りメンバーとして甲子園でベスト4を経験。3年次には、副キャプテン・エースとして活躍した。卒業後は早稲田大学基幹理工学部に進学し、米式蹴球部へ入部。4年次には副キャプテンとしてチームを統率、クォーターバックとしてチームを甲子園ボウル(全日本大学アメリカンフットボール選手権大会決勝戦)へ導いた。大学院基幹理工学研究科修士課程へ進学後、社会人野球のクラブチームREVENGE99に入団し、本格的に野球を再開。2022年1月に独立リーグ・徳島インディゴソックスへ入団。趣味は読書。小説が好きで、伊坂幸太郎の作品はほとんど読んだそう。イチローさんのように自分の哲学を語れるような野球選手になりたいと話す。

Twitter: @yuyoshimura2

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