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「未踏の世界を探求したい」アニーリングマシンを用いたアプリを作る早大院生

「社会の役に立つアプリを開発できるエンジニアを目指す」

大学院基幹理工学研究科 修士課程 2年 武笠 陽介(むかさ・ようすけ)

「量子アニーリング」という言葉を聞いたことはありますか? 無数の組み合わせの中から最適なものを選ぶ「最適化問題」はさまざまな分野で重要視されているものの、コンピューターで単純に計算すると、膨大な時間がかかります。量子アニーリングは、従来よりも迅速かつ高い精度で、最適化問題の解答を導き出せる計算技術のことで、研究者を中心に近年注目を集めています。大学院基幹理工学研究科に在籍する武笠陽介さんは、これまでに最適化問題に関するアプリを多数開発。2020年からは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)主催の事業で自身のプロジェクトが採択され、容易に人々が量子アニーリングに取り組めるようにするアプリを開発しています。そんな武笠さんから、研究内容や開発したアプリのこと、今後の目標について話を聞きました。

――武笠さんが取り組んできた研究内容について教えてください。

主に、アニーリングマシンを用いた最適化問題の解法について研究しています。これまでに取り組んできたのは、アミューズメントパークの経路最適化手法です。例えば、皆さんが東京ディズニーランドを訪れた際、せっかくならばできるだけ自分の満足度が高くなるルートでパークを回りたいと考えますよね。でも、アトラクションの待ち時間やパーク内の移動時間などを踏まえると、なかなか最適な経路は思い付きません。さらに、ディズニーランドにはアトラクションが全部で30以上あるため、組み合わせ方は膨大です。そんなときに、アニーリングマシンを用いた最適化方法を使います。2019年に、入場時刻や出場時刻、自分のアトラクションの好みなど、いくつかの条件を設定することで、自分だけの最適経路を導き出せるアプリを実際に開発しました。インターネット上で一時期話題になったこともあります!

2019年に制作した『TDR Planner』。現在Webサービスとして利用可能

――2021年4月に開催されたアプリコンテスト「Fixstars Amplifyハッカソン」で開発したのも、最適化問題に関するアプリだと聞いています。

おまかセトリ』といって、グループで最適な楽曲リストを自動作成してくれるアプリです。例えば、友達とカラオケに行ったときに、「盛り上がってるけど、この曲知らないな」とか「歌いたい曲があるけど、無難に有名な曲にしておこう」といった経験はありませんか? そんなとき、友達が全員満足できる楽曲リストがあれば理想のはず。このアプリは音楽配信サービスを介して、それぞれが使っているプレイリスト情報を取得し、さらに自分の好みを入力することで、最適なセットリストを自動で作ってくれます。

Webサービスとして運用中の『おまかセトリ』。音楽配信サービスの『Spotify』、『Apple music』と連携可能

このアプリのベースには、研究室の同期からもらったアイデアがあります。コンテストへの参加は以前から決めていたのですが、アプリの条件は「アニーリングマシンを利用していること」以外に指定されておらず、どのような内容にするか悩んでいました。そこで、研究室のメンバーに相談したところ、「カラオケの楽曲リストを最適化してみるのは面白そう」とカラオケ好きの同期から意見をもらえたんです。周りの参加者が学術的な内容のアプリを発表する中で、エンタメ的なこのアプリを開発して受賞できたのは、少し驚きましたが、素直にうれしかったですね。

――さまざまな分野の課題を解決するためにも、アニーリングマシンで最適化問題を解くことが重要になっていますね。

ANCAR』のサイト。今後もアプリのアップグレードを考えている(クリックして拡大)

その通りです。一方で、アニーリングマシンは、世界初の商用機が2011年に登場したばかりの新しい技術で、ユーザーはまだ少ないのが現状です。マシンを扱うには専門知識が必要ですし、今までのコンピューターとは異なる部分が多く、参入障壁がかなり高いんです。

それでも、アニーリングマシンは非常に有益な技術ですから、多くの人に広めていくべきだと僕は考え、『ANCAR』というアプリを開発しました。このアプリは、アニーリングマシンのユーザー層拡大とユーザー育成を目的とし、多少の知識があれば、気軽にアニーリングマシンを試しながら、ノウハウを学べるようになっています。例えば、従業員の予定を考慮して自動でシフトを生成する「シフト自動作成ツール」というものがあります。このツールの仕組みを説明するには複雑な数式や理論を用いる必要がありますが、『ANCAR』内で実際にツールを動かすことで、仕組みを感覚的に理解できます。

実は、このアプリ開発ができたのは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が主催する「未踏ターゲット事業(※)」で昨年、僕のプロジェクトが採択されたから。2021年度も引き続き、この事業でANCARに関するプロジェクトが採択されたので、よりユーザー目線のアプリにすべく、ユーザーが独自のコンテンツを追加できる機能の追加など、未完成な部分の開発を進めていく予定です。

(※)IT人材の発掘や育成を目的とした支援事業。テーマが採択されると、専門家からの指導や助言を受けながら、プロジェクトを実施することができる。

――多くのアプリを既に開発していますが、いつから開発に興味を持ったのでしょうか。

学部生時代には学科の友人たちとバーベキューを楽しんだことも(左から2人目が武笠さん)

本格的にプログラミングを始めたのは大学に入ってからです。高校時代はWordやExcelなどの最低限のソフトウエアを扱うくらいでした。大学入学直後、1年次の春学期にプログラミングの授業があって、そこで初めて興味を持ったんです。ちょうどその頃、Webサイト制作などを行っている『ナガセ広報研究所早稲田オフィス』でアルバイトを募集していることを知って、そこで1年間アルバイトをしながらプログラミングについて学びました。その後も、ベンチャー企業などのインターンシップに参加しながら、本格的なアプリ開発の技術を身に付けていきました。

――武笠さんが考えるアプリ開発の魅力について教えてください。

自分のアイデアを形にして発信できることに魅力を感じます。特に専門的な内容を扱っている場合、アイデアの伝え方は非常に重要です。例えば、研究成果を誰かに伝える際に、本当は価値のある結果でも、表現の仕方次第で相手に全く伝わらないことが結構あるんです。ただ、それはすごくもったいないこと。たとえ専門的な内容だとしても、価値ある情報を分かりやすく伝えることが大切だと考えています。僕にとって、その表現方法の一つがアプリ開発なんです。実際に、開発したアプリを通じて僕の研究に興味を持ってもらえたり、新しいアイデアが生まれることもあります。

そして何より、僕はものづくりが好きなんです。アプリを作っていると、誰もやったことのないことに取り組んでいるという気持ちになれて、とても楽しくなります。「世界中でこれを作っているのは自分だけなんだ!」という誇りを得られるところが、アプリ開発の一番の魅力だと思いますね。

写真左:研究室では学生同士で電子黒板を用いて討論することも多い
写真右:自宅のデスクの様子。基本的に自宅で研究を進めるという

――今後の進路はどのように考えていますか。

修士課程を修了した後は、ソフトウエアエンジニアとして民間企業に就職する予定です。アニーリングマシンと関わる機会は少なくなりますが、これまでの経験は自分の中でアイデアの引き出しとして残り、今後の人生の糧となると思っています。また、研究でつらかったときを乗り越えたり、学外でのプロジェクトに参加できたのは、早稲田で得た人脈のおかげ。開発の経験や人との縁を生かしながら、社会の役に立つさまざまなものを作り上げていくのが今後の目標です。

第791回

取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
法学部 2年 佐久間 隆生

【プロフィール】

埼玉県出身。市立浦和高等学校卒業。理工系学問の基礎教育を重視し、入学試験時ではなく、2年進級時に学科選択ができる点に魅力を感じ、基幹理工学部に入学。現在は、情報理工・情報通信専攻の戸川研究室に所属。漫画を読むことが趣味で、『週刊少年ジャンプ』(集英社)のファン。特に、SFアクション漫画『ワールドトリガー』にはまっているという。

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