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心理学の知見を取り入れ機能向上 アプリで心のセルフケアをサポート

「自分の研究や専門領域を捉える視野が広がった」

大学院人間科学研究科 修士課程 2年 武井 友紀(たけい・ゆき)

2020年5月、人間科学学術院の熊野宏昭研究室株式会社Hakaliによる共同研究の下、心のセルフケアを気軽に行えるスマートフォンアプリ「Awarefy(アウェアファイ)」がリリースされました。精神医療と身体医療の双方に臨床心理学を適用した「新世代の認知行動療法」により、短期間で大きな効果を上げることを目指した研究を行っている熊野研究室。同研究室に所属する武井友紀さんは、心理学を学ぶ学生の立場からアプリの改良や機能向上に携わっています。具体的なアプリへの関わり方や、今後の展望などを聞きました。

――まずは、武井さんが熊野宏昭研究室に入ったきっかけを教えてください

中学校入学時から漠然と医療分野に興味があり、将来は人の心に焦点を当てたアプローチを行う臨床心理士として、心理面で困り感を抱えている方を直接支援したいと考えていました。そこで臨床心理学を学ぶことができ、臨床心理士として活躍している卒業生も多い人間科学部に入学しました。臨床心理学の研究室は複数あるものの、医療分野での仕事とマインドフルネスへの関心があったことから、行動医学を研究する熊野研究室を選びました。

――熊野研究室と株式会社Hakaliの共同研究で開発した「Awarefy」とは、どのようなアプリですか。

アプリ「Awarefy」の画面。ユーザーが日々入力する感情や心身のコンディションに関する情報は、グラフで視覚的に表示される(株式会社Hakali提供)

認知行動療法の一種である「ACT(Acceptance and Commitment Therapy)」などの心理療法の理論を背景に、誰でも簡単に心のセルフケアができることを目的として作られたアプリです。ユーザーが日々感じたことやコンディションをチャットボットに対話形式で入力できる「感情メモ」、蓄積された「感情メモ」を定期的に分析し「感情レポート」を作成する機能、ユーザーが朝と夜に自分自身の「ココロとカラダ」の状態を入力することで心と体の推移をモニタリングできる機能の他、マインドフルネス瞑想(めいそう)(※)を体験できるオーディオガイドも搭載しています。セルフケアアプリは数多く存在しますが、私たちの研究室が共同開発や監修を行うことで、効果が実証済みの心理療法を取り入れている点がAwarefyの強みです。コンテンツは今後さらに増やしていく予定です。

(※)今、この瞬間に意識を向けた瞑想のこと

――では、武井さんがAwarefyに携わることになった経緯を教えてください。

あるイベントでの熊野先生の講演をきっかけに、データ分析・活用に関する企画などを行っているHakaliの方から提案を受け、2019年11月に共同研究がスタートしました。私自身が最初に関わったのは、アプリがリリースされる前に、心理学を研究する学生の立場から使用感や意見を聞かせてほしいとのお話があり、そのインタビューに参加したときです。2020年5月のリリース後、再度インタビューに参加したところ、今後もアプリの改良に携わりませんかといったお話をいただき、それから継続的に関わっています。

――現在、Awarefyに関して具体的にはどのようなことをしていますか。

2019年、夏のゼミ合宿の様子(右端が武井さん)

アプリに生かすための心理学の知見を、Hakaliの社員の方々と共有する勉強会を2週間に1回、毎回1時間ほどオンラインで開催しています。ACTやマインドフルネスの効果や、それらの心理療法が臨床でどのように活用されているか、臨床心理学の研究や臨床の中でアプリがどのように使われているのかといったことについて、論文や書籍から得た情報を集約しお話ししています。これまで学んできた心理学の知識の中から、社員の方のニーズに合ったものをピンポイントで紹介することに苦労していますが、勉強会で扱う内容がアプリにどう生かせるかという点を意識して臨んでいて、勉強会でお伝えした内容は実際にアプリに反映していただいています。

勉強会の他にも、音声コンテンツを心理学の視点からチェックしたりもしています。アプリという、時と場所を選ばずに利用しやすい媒体を通して臨床心理学の知見を提供することで、ユーザーの方が日常生活を少し楽にするコツやきっかけをつかんだり、QOL(Quality of Life、生活の質)を向上させたりするお手伝いができたらうれしいですね。

Awarefyは「感情レポート」の作成や音声ガイドの配信など様々な機能を搭載。使いやすさにこだわってデザインされている(株式会社Hakali提供)

――Awarefyに携わることで自身の研究活動にはどのような影響がありましたか。

私は卒業論文から現在執筆中の修士論文に至るまで「メタ認知療法」(※)をテーマに研究を続けていますが、Hakali社員の方とアプリに関わることで、自分の研究や専門領域を捉える視野が広がったと感じています。例えば、普段大学院で研究をしているときは心理療法の「効果」に着目しがちですが、社員の方から「取り組みやすさ、普及しやすさ」といったビジネスの観点でのコメントを聞くことで、複数の視点から自分の研究テーマについて検討できるようになりました。また、支援を長く継続していくためには、相談者であるクライエントの負担や状態像はもちろん、心理士側の負担や安定性についても考えていく必要があることを学びました。

(※)認知をコントロールする認知である「メタ認知」に働き掛ける心理療法

――最後に、今後の展望を聞かせてください。

アプリに関しては、科学的視点からの効果検証に携わっていきたいです。効果や有用性を示せれば、それをアピールすることができると考えています。また、これまでの研究で心理尺度の作成を行ってきた経験を生かし、Hakaliが推進する心理に関わる指標の開発に携わったり、コンテンツの開発会議やアプリの効果検証に関する会議への参加を増やし、よりニーズに合った内容を勉強会で扱えるようにしたりしたいです。アプリの登録ユーザーはリリースから約半年の11月時点で約2.5万人と順調に増えていますが、何事もやりっ放しにしないことがとても大切で、ユーザーの方に継続して利用してもらう工夫も重要です。もっと多くの人に広まってほしいですし、将来的には、カウンセリングの補助的なツールとして臨床場面でも使っていただけたらと思っています。

修士課程修了後は、引き続きアプリの開発や改良に携わりつつ、医療の分野をメインに臨床心理士として活動していきたいと考えています。これまでの経験を生かし、カウンセリングを通して心理面での問題でお困りの方に直接アプローチしつつ、悩みを抱えているものの専門機関へ相談に行きにくい方や、自分の気持ちの揺れ動きに興味がある方に対してはアプリを介したアプローチができればと思っています。こういったアプローチによって、関わった方々の心理的幸福感を上げることに貢献していきたいです。

学部の卒業式の日に、熊野先生と

第777回

取材・文:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
政治経済学部 2年 山本 皓大

【プロフィール】
広島県出身。県立横浜翠嵐高等学校卒業。高校時代に友人がメンタルヘルスの問題で学校に行けなくなってしまった際、何もできず悔しい思いをしたと同時に「誰かが病気になった場合、本人のみならず周りの人も悲しい思いをする」と実感した。この経験から、心理面で困っている人を直接関わって支援したいと考えるようになったという。人前での発表は苦手だったが、Hakali社員との勉強会を重ねることでプレゼンテーション能力が大いに鍛えられたそう(写真は2019年の「第26回日本行動医学会学術総会」。優秀演題賞を受賞した)。

熊野宏昭研究室Webサイト:https://www.kumanolab.com/
アプリ「Awarefy」:https://www.awarefy.app/
株式会社Hakali:https://hakali.co.jp/

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