「大好きな早稲田を通じ、学んだことを社会のために生かしたい」
大学院人間科学研究科 修士課程 1年 小宮山 正晴(こみやま・まさはる)
大学3年生のときにMOS世界学生大会(※)2020日本代表選考で優勝、早稲田学生文化賞を受賞した小宮山正晴さん。在籍していた人間科学部では、健康福祉科学科で生活支援工学を専攻。障がい児を支援するツールに関する研究に取り組み、ヒューマンインタフェース学会では優秀発表賞を受賞しました。3年卒業を果たして大学院に進学し、学内外で活躍する小宮山さんのパソコンスキルや研究内容、そして深い早稲田愛に迫りました。
(※)Microsoft Officeスペシャリスト(MOS)という資格試験を通して、Word、Excel、PowerPointなどの技能を競う、学生を対象とした世界規模のパソコン大会。2020年度の日本代表選考には約3万6,000人がエントリーした。
――早稲田学生文化賞の受賞、おめでとうございます。受賞内容に関連して、パソコンとの出合いについて教えてください。
小学生のとき、6歳上の兄がリビングでパソコンを使っていたのをいつも見ていました。知りたい情報がすぐに出てきて、楽しいコンテンツがたくさんあるパソコンに無限の可能性を感じて、将来必ずパソコンを使いこなせる人になるぞ! と思ったのが、初めての出合いでしたね。
そんな私に、祖父がマイパソコンを買ってくれたのは中学生のとき。学校ではパソコン部に所属し、タイピングの速さと正確さを競う毎日パソコン入力コンクールに出場するようになりました。中学3年では東京都1位になって東京都知事賞をいただき、うれしかったことを覚えています。中学の3年間、コンクールに挑む中で強く影響を受けたのは、フィギュアスケート選手の羽生結弦さん(2020年人間科学部通信教育課程卒)の存在でした。常に挑戦を重ね、自分の記録を更新し続ける羽生選手の姿は、私にとって大きな勇気となりました。人間科学部を第一志望にした理由の一つには、羽生選手の存在があったんです。
写真左:小学生の頃。6歳上の兄(右)と
写真右:毎日パソコン入力コンクールでは、中学3年、高校3年、大学1年とそれぞれ異なる部門で東京都知事賞を受賞した
――羽生選手のファンなのですね。早稲田を目指したのは他にも理由があるのでしょうか。
他大学の付属高校に通っていたこともあり、そのまま進学するか別の大学を受験するかで迷っていました。内部進学を選べばそれほど苦労はないけれど、興味のある工学系を学べるかは分からない。一方で受験の道に進めば、うまくいく保証はないと。
その中で早稲田を目指す大きなきっかけとなったのは、高校2年の夏に参加したオープンキャンパスでした。応援部のパフォーマンスを見て強い衝撃を受けて、早稲田に一目ぼれしましたね(笑)。そして、「道が窮(きわま)ったかのようで他に道があるのは世の常である。時のある限り、人のある限り、道が窮るという理由はないのである」という大隈重信先生の名言に触れる機会があり、これは早稲田を受験するしかない! とそれまでの迷いが晴れたんです。
実は以前、学生部学生生活課からの紹介で、早大生の家庭教師を派遣してもらっていました(2020年3月でサービス終了)。その方々とは勉強以外にも一緒にスポーツをしたり、ご飯を食べたり、まるで家族のような付き合いをしていました。人のために全力を注いでくれる頼もしさや人情味、早稲田魂に触れて、いつしか早大生が自分にとっての憧れの存在になっていたことも、早稲田を目指す要因になったのかもしれません。
――小さいころから早稲田と縁があったのですね。入学後はどのようにパソコンと関わってきましたか。
大学1年生の春に戸山キャンパスの学生会館(30号館)で、プレートに刻まれた早稲田学生文化賞の受賞者一覧を見たんです。その中にMOS世界学生大会で受賞された方の名前があり、自分も興味のある分野だったので、この大会で賞をとり、自分の名を刻めたらという気持ちになりました。それが大会出場を志したきっかけです。
そこから大会に向け、模擬問題を何回も繰り返して、ミスなく速く課題をこなせるように約2年間準備しました。1日1時間は勉強し、大会直前には2、3時間ほど勉強していましたね。そして2020年度、日本代表選考のPowerPoint部門にエントリーしました。
私はこれまでタイピングの練習を続けてきましたが、タイピングスキルはもちろんOfficeスキルも、何かを行うための手段に過ぎません。しかし、数あるOfficeソフトの中でも、PowerPointを味方につけることで、自分の話をより説得力を持って分かりやすく、聞き手を楽しませるものにできると考えました。単なる手段であっても、それを極めることによって、結果として効率的に仕事や勉強を進められるようになります。
一方で、大学内ではタイピングスキルを生かし、障がい学生支援室でパソコン通訳という支援を行っています。これは聴覚障がいのある学生と一緒に講義に出て、先生が話したことをタイピングして文字起こしをする支援です。この活動のことを初めて知ったときには、自分が培ってきたスキルが人助けになると分かり、とてもうれしかったですね。実際やりがいを持って取り組めましたし、自分の研究テーマの決定にもつながりました。
――障がい学生支援室での活動が自身の研究につながったということですが、その内容について教えてください。
人間科学部では生活支援工学を学び、重度・重複障がいのある子どもを支援する技術として、LINE Botをベースとした「PINE(パイン)」を開発しました。
ここで言う重度・重複障がいとは、例えば肢体と知的の障がいを併せ持つというような、重程度の複数の障がいを指します。重度・重複障がいのある子ども(重度・重複障がい児)は体調が不安定になりやすく、自分で意思を示しにくいことが多くあります。しかし、重度・重複障がい児の保護者や特別支援学校の教員は、子どもたちの体調を把握しておく必要があります。体調変動に関する調査をしたところ、支援者の皆さんから寄せられた要望は、「簡易に記録を取りたい」「何らかの傾向があれば知りたい」「第三者と共有したい」という3つ。独自のアプリを活用して体調を記録する先行研究がありましたが、支援者の時間的・心理的な負担が大きく、継続的な記録が困難であるという声が上がっていました。
そこからPINEの開発につながるのですが、多くの人が使い慣れているLINEであれば、記録を取り続けられるのではないかという意見がもとになったんです。PINEにより、長期にわたって記録を取るという、支援者の時間的・心理的負担を軽減できました。さらに、得られた体調記録を分析することで、残るニーズである「何らかの傾向があれば知りたい」「第三者と共有したい」という点も解決できます。ヒューマンインタフェース学会にて、この研究を発表したところ、優秀発表賞を獲得できました。
――ところで、パソコンや研究以外で大学時代に力を入れたことはありますか。
お話ししてきた通り、入学前から早稲田が大好きだったので、在学中は思う存分早稲田愛を深めようと思っていました。早慶戦支援会(公認サークル)に入り、早稲田愛あふれる仲間たちと伝統ある早慶戦を支えたりして、より早稲田を好きになっています(笑)。個人的にも、入学前から継続して早稲田グッズを収集しています。集めたグッズを見るたびに本当に早大生で良かったと思いますし、やる気と元気をもらっています。
写真左:早慶戦支援会の親友と。右が小宮山さん
写真右:これまでに集めたグッズ。中でもワセダベアの顔が好きで、ワセダベアクッションはいつも枕元に置いているのだそう
――最後に、今後の展望を教えてください。
4月から大学院人間科学研究科に進学し、生活支援工学に対する専門知識を高めていきます。修士課程修了後は、早稲田がさらに魅力的な大学となるように、早稲田大学の職員として働くことが夢ですね。
進路を考える上で大切にしている大隈先生の言葉で、「人間が生きるのは、社会の利益のために存在するということだ。ただ生きているだけではつまらない」というものがあります。早稲田大学という恵まれた環境で学んだことを、自分の中だけで完結させるのではなく、社会のために生かしてこそ学びが生きてくると思うので、早稲田を通して社会に貢献していきたいです。
第780回
取材・文:元早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ)
2021年3月文学部卒 我妻 はな
【プロフィール】
東京都出身。立教池袋高等学校卒業。2021年3月人間科学部を3年で卒業。もともと大学院への進学を考えており、大学4年間の1年分を有効に活用すべく3年卒業を目指したという。「時間が本当に足りなかったので、無駄な時間をなるべく減らそうと意識しました。ただ、勉強も研究も課外活動も、どれもが楽しかったので、それほど苦にはならなかったです」と話す。大学内では、障がい学生支援室の支援ボランティアを務めるほか、早稲田ポータルオフィスの学生スタッフとしても活躍中。