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デジタルと現実世界で活動 ある早大生が追い求めるジャーナリズムとは

「誰しも偏りがある。中立的立場ではなく、事実に対してフェアに」

教育学部 4年 海野 律人(うみの・りひと)


早稲田大学公認のイベント企画サークル「qoon」で幹事長を務めていた海野律人さん。HIVがひとごとではないことを知ってもらうためにコンドームの無料配布を企画するなど、社会問題をテーマに多角的なアプローチからイベントを行ってきました。現在は、情報の正確性・妥当性を検証するファクトチェックの普及やガイドラインの制作などを行うNPO法人ファクトチェック・イニシアティブで、インターン生として活動しています。民族差別や外国蔑視などといった排外主義に問題意識を持ちながら、東京近郊で行われるデモ・街宣の現場に足を運んでフィールドワークを行い、団体として、個人として行動し取材を行う海野さんに、インターンへの参加経緯や活動を通しての学びを聞きました。

※インタビューはオンラインで行いました。

――排外主義に対する問題意識はいつから持っていますか。

僕らは幼いときからインターネットが身近にある、デジタルネイティブ世代。僕自身も小中学生の頃からTwitterなどのSNSをよく見ていて、そこに排外主義が存在するということを何となく感じていました。そして大学に入ってから新聞をよく読むようになって、ヘイトスピーチを実際に行う人たちを知り、自分の目で確かめてみようと思ったんです。実際にデモや街宣の現場に足を運んだ時は、ネット上だけの話ではないことにかなり衝撃を受け、そこで問題意識が明確になりました。

――NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(以下、FIJ)でのインターンを始めたきっかけを教えてください。

デモや街宣の現場に行く際に必ず持っていくカメラと、排外主義を勉強する中で影響を受けた本である『ネットと愛国』(講談社+α文庫)。忌避されがちな対象に真正面から取材をしていく著者でジャーナリストの安田浩一さんに圧倒されたという

2018年の沖縄県知事選です。排外主義はデマと結び付きやすい傾向があり、排外主義を加速させる原因としてデマがあると思います。排外主義を勉強するなら、差別を正当化するためのデマがなぜ生まれたかを知らなくてはいけないと考えていた時に沖縄県知事選が行われていて、そこでデマが拡散されていたのを、メディアを通して目にしました。そのような中で、情報の真偽検証をサポートしている活動団体としてFIJを知り、自分も参加してみたいと思いました。

――FIJの活動を通してどんな気付きがありましたか。

FIJはTwitterなどで話題になっている事柄の中から誤情報と思われるものを見つけると、連携しているメディアパートナーへその情報を提供します。インターン生である僕も情報提供を行っています。実際に自分が提供した情報を元にメディアパートナーが調査を行い、誤情報が正された記事をTwitter上で目にしたのですが、それに対してかたくなに誤りを認めず、反論を投稿している人がいました。「バックファイア効果」と言って、誤りを指摘されることで逆に誤りへの思い込みが激しくなる現象です。

このように合意に至れない方々が一定数いるという悲しい現実があった一方で、デマがはびこっている状況に問題意識を持っている方々もたくさんいることを知りました。例えば、ファクトチェックされた記事をデマが拡散しているところへ率先して紹介してくれるんです。実際にそのような方々が、SNSを使って個々のデマに対して、「それ間違っていますよ」と言うようになってきていることが励みになりますし、ありがたい話です。

FIJ公式Webサイトより(https://fij.info/activity/tech-support)※クリックして拡大

――情報を読み取る時に気を付けていることはありますか。

ニュースを目にした時に、自分が「よかった」と思う情報にはあえて注意するようにしています。例えば「新型コロナウイルスは大したことない」という情報が出たとして、それを見た時に僕は「ああ、やっぱり大丈夫じゃん」とうれしくなってしまうと思うんです。それらの情報が正しい場合もあるかもしれませんが、このように自分が望んでいる情報や、自分にとって都合の良い情報にはチェックが甘くなってしまいます。逆に、自分にとって都合の悪い情報だと、怪しいんじゃないかとチェックしますから。そういう意味でも心理的に隙ができるのが、自分にとって都合の良いニュースなんですよね。

――では、情報を配信する際の心掛けについて、活動を続ける中で変化はありましたか。

差別的な表現に気を付けています。また、自分が使用する表現がどのような副作用を持っているか考えないといけないと思っています。イベント企画サークル「qoon」の活動でビラやポスターを制作する際には、社会問題に関心がない人にどうやって届けるのか、人を集めるために、どうすれば人の目に留まるかばかりを考えていました。しかし、FIJでの経験を通して、それが適切な表現であるかも気にするようになりました。時に人を傷つけかねないリスクや加害性について考えるようになったのです。物事に対してはいろいろな意見がありますし、尊重しなくてはいけない意見もあります。だからといってアクションしなくていいのか、アクションを起こすことで新たな何かを起こすのか。行動を起こすときには腹を決めなくてはいけないと思うようになりました。

2018年のWASEDA LGBT ALLY WEEK(qoon、GSセンター、ICC共催)にて(右端が海野さん)

――海野さんのルポは、客観的な文章を書いているような印象を受けました。これからもルポは書き続けますか? 今後の目標も聞かせてください。

僕は逆に偏りはあるという前提で書くことが大事だと考えています。人間が書く以上は、何かしらのバイアスが掛かっていると思うのです。3年の終わりに書いたルポを後輩に発表した際に、フィードバックの中で「中立的に書いている」と言われたことがありましたが、別に僕は中立的に書こうとしているわけではありません。偏りをなくすというのも無理ですし、中立という態度も取れないと思っています。例えば、何かをスケッチする時って、どんな方向からでもスケッチできる、無限に描き方があって真ん中の基準はないんですよね。それは取材も一緒のように思います。偏りがないポジションは絶対にない。ただ、自分自身が問題に対してどう思っているかを自覚し、そして事実に対してフェアに書くようにしています。

今、卒業制作としてこのルポの続編に取り組んでいるので、しっかり書き上げたいです。また卒業後は、記者としてマスコミ業界に就職予定なので、その前の基礎固めとして残りの学生生活でしっかりと勉強をしたいですね。

2019年にジャーナリズムNGO・ワセダクロニクル編集長の渡辺周さん(右)と、『週刊金曜日』発行人の植村隆さん(中央)を招いて開いたシンポジウム「さよならマスメディア」(qoon主催)では、司会を担当した

第768回

取材・文:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
教育学部 4年 川名 美希

【プロフィール】
東京都出身。成蹊高等学校卒業。入学当初は大学生活に対して刺激がないと思っていたと語る。しかし、1年の秋学期に学科の中でも難しいと言われる授業の一つ、「マスコミュニケーション概論II」が思いのほか面白かったことで、メディアやジャーナリズムを本格的に勉強するようになったそう。情報収集には普段からTwitterを使用しており、その際は、関連した情報を同時に見るのが便利なTweetDeckを活用しているという。
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