商学学術院教授 谷本 寛治(たにもと・かんじ)
これまでいくつかの大学から客員教授として招聘(しょうへい)され授業を担当する機会がありました。特にドイツにはこれまでベルリン自由大学に3度、ケルンビジネススクールに1度滞在したことがあります。ドイツの研究をしている訳でもなく、ドイツ語を学んだこともないのですが、たまたま国際会議で知り合った先生たちと縁があり、それぞれの大学で私の専門であるBusiness and Society、CSRについて、大学院生対象の授業を夏学期あるいは冬学期通期で担当しました。
ドイツの大学でも英語の授業を増やしており、ケルンビジネススクールなどは全ての授業を英語で行っています。滞在中は共同研究を進めたり、若手研究者から相談を受けたり、また他国の大学のセミナーに呼ばれ研究発表をしたりと、忙しい日々でした。いずれの大学でもアパートと研究室、PCなどを用意してもらうなど、丁寧なサポートをしていただいたおかげで、何の不自由も感じることなく過ごすことができました。
週末の楽しみは、友人とのテニス、サッカー・ブンデスリーガの観戦、オーケストラの鑑賞など、どれも思い出深いものです。特にドイツでバッハ、ベートーヴェン、メンデルスゾーンなど当地の作曲家の曲を、地元のオーケストラの演奏で聴くことができたことは幸せでした。ベルリンフィルの演奏会には毎月のように通いました。アパートから30分もあれば行ける距離でしたし、日本での公演とは違いチケットは安く買えます。サイモン・ラトルやマリス・ヤンソンスの指揮の時には最前列の席に座り、彼らの表情や息づかいまで感じることができました。
またケルンでは年末に聴いたバッハのクリスマス・オラトリオも印象深かったのですが、尊敬するリカルド・ムッティが指揮するバイエル放送交響楽団によるヴェルディのレクイエムを聴くことができ幸運でした。4人の独唱、100人の混声四部合唱という構成でした。ヴェルディのレクイエムはオペラ的な要素があり(沢山のオペラを書いたヴェルディですから)、教会で静かに聴くと言うより、モーツァルトのレクイエム同様、コンサートホールで派手に演奏することに向いた曲です。
演奏会が終わってホールに出てきたら、「ムッティがサインをします」という張り紙があるのに気付き、迷わず列に並びました。20分程すると楽屋から出てきて、流れるようにサインを始めました。私の番になった時「今日のヴェルディの演奏は素晴らしかった」と英語で声を掛けた後、日本語で「ありがとうございました」と言うと、「来年日本に行くよ」と英語で答えてくれました。彼と初めて交わした短い会話でした。