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足で稼ぐベーカリーカフェ経営者、右脳思考生かし地域に愛される店作り

「経営における成功とは、最後まで這いつくばってやるかやらないかの違い」

商学部 4年 田井 隆之(たい・たかゆき)

現役早大生でありながら、遠く離れた広島の地で2019年2月にベーカリーカフェ「SAN-HITORI(サンヒトリ)」をオープンした商学部4年の田井隆之さん。中学生の頃からの夢であったプロサッカー選手になることを諦めたことから、自分にできることは何かを真剣に考える中、たどり着いたのが起業だったそうです。現役大学生経営者という話題性からテレビや雑誌にも取り上げられ、わずか半年の間に広島に2店舗目を出店するなど大躍進を遂げています。そんな一見順風満帆に見える起業の裏側や、早稲田大学で学んだことをどのように経営に生かしているかについて話を聞きました。

――在学中にベーカリーカフェを開いたきっかけは?

父が地元山口県で会社を経営しており、新規事業で飲食業をやることになったことが始まりでした。中国地方最大の都市である広島市の、もともとパン屋だった居抜き物件で、機材なども引き継いで使えるということもあり、自然とパン屋をやることに決まりました。では経営を誰がするかという段階で、自分がこれまで大学で勉強してきたことを実践としてできる場所があるならと立候補しました。

――もともとパン屋さんになりたかったということではないのですね。

サッカーに打ち込んでいた高校時代(手前のグローブをはめている選手が田井さん)

中学生時代、「サンフレッチェ広島ジュニアユース」に約400人の中の15人に選抜されて入団し、もともとは本気でプロサッカー選手になることを目指していました。ですが、自分のポジションだったキーパーをプロとしてやっていくには身長が決定的に足りず、早稲田のア式蹴球部に入ろうとした際もその事実が立ちはだかりました。特殊なポジションであるがゆえに、他のポジションへ転向することも難しいため、気持ちを切り替え新たに活躍できるフィールドを探すことを決意しました。

その後何ができるかを真剣に考える中で、自分がそれまでの人生でさまざまなチャンスをもらっていたので、今度は何か与える側に回ることで恩返しがしたいと考え、その手段が起業であると思いついたんです。当初は起業自体に憧れがあり、分野は問わないと考えていましたが、今では四六時中パン屋のことばかり考えていますね。一口にパンと言っても、ソフト系からハード系まで種類も豊富なことや、パン屋の他にもスーパーやコンビニなどでも買えるため、出店場所によっても売上が大きく変わることなど、ビジネスとしても奥深いと感じています。最近では友達と出掛けているときでも、無意識にパン屋に気を取られていることも多いらしく、よく突っ込まれています(笑)。

――経営やパンに関することなどはどのようにして学んだのですか?

大学では内田和成先生(商学学術院教授)のゼミで競争戦略について学んでいます。内田先生はボストンコンサルティングの日本代表を務めたこともある方で、僕にとっては憧れの人です。ゼミを選ぶときには既に起業を念頭においていたため、学ぶのであれば実学をやっている先生のところで学ぶのが一番早いと思っていました。内田ゼミでは実際に存在する企業を取り上げて仮想コンサルティングを行うなど、マーケティング、経営、会計まで実践的に幅広く学んでいます。

内田教授の著書『ゲームチェンジャーの競争戦略』に関する学生による発表の様子

パンに関しては、都内のパン屋をひたすら巡って、どのように経営しているのかを直接店長に聞いたりしました。普段からゼミでも「足で稼げ」、「相手の納得感を引き出す右脳思考で行け」ということを、口を酸っぱくして言われています。経営は実際に始めてみるとどうしてもエラーが出てくるので、経営の本を読みあさるなど、準備段階でできることは徹底してやりました。

――現役の学生と経営者の二足のわらじは大変では?

普段は東京にいるため、毎日の売り上げ報告はLINEで受け取っているのですが、売り上げが芳しくない場合でもすぐに駆けつけて手立てを打つことが難しいので、遠くで一人モヤモヤした気持ちを抱くことも多いです。でも、東京の刺激のある環境の中だからこそ思いつくアイデアもありますし、現場から離れているからこそ見えてくる視点もあります。学生という立場から下に見られることもありますが、社会経験で身に付く余計な知識が邪魔をしないことで、アグレッシブにいろいろな人に会いに行けることや、少しくらい無茶をしても「一生懸命勉強中です」というスタンスでアタックしていけるのは強みだと考えています。

(左)2019年10月には国内最大規模の「広島パンフェスタ」にも出展。このイベントで一押し商品のクリームパンが50分で100個完売したことが話題になり、お店の集客にもつながったという
(右)現役早大生経営者という話題性もあり、複数の雑誌にも取り上げられた。自分の話したことが丁寧にまとめられており、感動したという

――経営にあたり心掛けていることはありますか?

ひと月のうち、広島にまとまった期間滞在できるのは1週間ほどですが、その期間はお店のことを率先してやるようにしています。その際に意識するのは「リーダー」と「ボス」の違いです。「ボス」は上から指示を出す役割ですが、「リーダー」は自分が先頭に立って率先してやっていることを見せる役割だと考えています。僕は「リーダー」にならないと人はついてこないと考えてやっています。例えば店頭でのビラ配りや呼び込みなどは周辺の他店では行っていない取り組みなのですが、スタッフにお願いする際には、自分が率先してやって見せています。もちろん自分もビラ配りなどやったことはなかったのですが、とにかく行動して見せる。皿洗いなども全部やります。これはサッカー時代から泥臭くやってきたことに通じていると思います。加入していたサッカーチームはかなりレベルが高かったのですが、他のメンバーより練習量を多くすることで、何とか食らいついていったという自負があります。

(左)昭和の名残のある店の外観。たまに行くおしゃれな”ブーランジェリー”ではなく、通える”街のパン屋”として親しまれていってほしいとの思いがあるという
(右)現在10名のスタッフを抱え、それぞれの強みを生かした店舗運営を心掛けているそう。写真は前身のパン屋から引き続き働いてくれているという心強い2名のスタッフと(右が田井さん)

――早稲田大学での学びが今につながっていることはありますか?

サッカーと同様に経営も泥臭いものだと思っています。いざやってみるとうまくいかないことだらけなのですが、それをどこまで妥協せずに深掘りしてPDCA(※)を回せるか。それによって、お客さんが喜んでくれるか、またビジネスとして成功するかが決まるはずです。そこを最後まで這いつくばってでもやるというところは、早稲田大学の”在野精神”と通じているかなと思っています。僕の地元山口県は、ユニクロ創業者の柳井正さん(政治経済学部卒業)の出身地でもあるので、中学生のときから早稲田に憧れがありました。憧れだった大学に実際に入学でき、現在周囲には起業を志す人が大勢いることや、先日広島稲門会の集まりで挨拶をする機会をいただけたおかげで、お店に足を運んでくださる方もいるなど、大学で得られたことは勉強だけではなく、こうした人との縁の部分も大きいと実感しています。

※Plan→Do→Check→Actの4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善するサイクルのこと。

――今後の展望を教えてください。

試行錯誤に3カ月間を費やした渾身のクリームパンは、共同開発したパティシエの名前と同じ「純」と名付けたそう

経営に関しては、この夏に広島市の隣にある大竹市の病院内に2店舗目としてレストランカフェを出店しました。店名の「サンヒトリ」は、この地で30年以上営業していた前身のパン屋である「サンエトワール」の「サン」を残し、一人でも多くの方に愛されるようにと「ヒトリ」を付けた名前です。まずは広島県内の地域で愛されるお店を目指しています。

ゆくゆくは、飲食に限らず、コンサルタントや営業で独立することなど、いろいろと考えています。最終的な目標としては、自身の会社でサッカーチームを持つことです。サイバーエージェント(FC町田ゼルビア)やメルカリ(鹿島アントラーズ)などの例にもあるように、サッカーチームを持つことは顧客を増やすことにもつながっていくんです。一度は諦めたサッカーの夢ですが、違う形で関わりを持つことができればと考えています。

第748回

【プロフィール】

山口県出身。野田学園高等学校卒業。「SAN-HITORI」では季節によって目玉商品を変えており、12月からは東京のシェフとコラボレートした冬季限定フェアを行う予定。「接客で満足は変わる」をモットーとしており、人と人との感情の交流など、味以外の部分での魅力発信を心掛けているそう。「パンをおいしいと思ってもらえるとうれしいですが、人を目当てに通っていただけたらさらにうれしいです」と語る。

趣味は旅行と温泉巡り。通っていた高校は街中に足湯があるような場所だったため、温泉が身近な存在だったという。地元の湯田温泉の他、草津、箱根、伊東、熱海など関東の名湯はほぼ制覇。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日はほぼ毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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