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生活の中のストレスを認知行動療法で解決する

人間科学学術院 教授 嶋田 洋徳(しまだ・ひろのり)

東京都生まれ。1996年早稲田大学大学院人間科学研究科修了。広島大学総合科学部、新潟大学人文学部を経て現職。博士(人間科学)。公認心理師、臨床心理士。専門は、認知行動療法、健康心理学。日本認知・行動療法学会理事長、日本ストレスマネジメント学会理事長。著作に、編著『認知行動療法事典』丸善出版(2019)、監訳『集団認知行動療法の理論と実践』金子書房(2018)、編著『60のケースから学ぶ認知行動療法』北大路書房(2012)、ほか

私たちの健康的な日常生活を営む上で、しばしば「心理的ストレス」がその障壁になります。私たちは、ストレスの元になる「ストレッサー」を生活の中で経験すると、さまざまな心理的、身体的な変化である「ストレス反応」を表出します。適度なレベルの心理的ストレスは私たちのパフォーマンスを高める作用がありますが、過剰なレベルになってしまうと、心身の健康を損ね、QOL(生活の質)を低めてしまい、さらには、さまざまな不適応行動や症状を引きおこしやすくなることが知られています。

そこで心身の健康を保ち、不適応行動や症状を予防するためには、生活の中の心理的ストレスを適切にコントロールすることが必要になってきます。その方法を体系化したものは「ストレスマネジメント」と呼ばれ、今やこの専門用語は一般的な言葉にもなっています。ストレスマネジメントというと、まず思いつくのは職場のストレスかと思います。実際に、毎年職場でストレスチェックを受けている方も多くおられると思います。しかしながら、これまでの研究によって、ストレスの悪影響は勤労者ばかりではなく、小さな子どもから高齢者まで、同じように理解、支援が可能であることが分かってきました。

このストレスマネジメントを考える際には、大きく2つの方向性があります。その1つは、職場や学校、施設などの環境側の改善を行って「ストレッサー」そのものをなくそうとする考え方です。もう1つは、個人の側のストレスに立ち向かう力(ストレス耐性、レジリエンスなど)を強めようとする考え方です。臨床心理学的な観点からは、特に個人の側の支援が行われ、伝統的には、リラクセーションなどを用いて、ストレス反応を直接的にコントロールする方法が用いられてきました。最近は、伝統的な方法に加えて、認知行動療法と呼ばれる心理療法の原理に基づき、物事のとらえ方を柔軟にすること、多様なコーピング(対処)スキルを身につけて、ストレッサーの質に応じてコーピングを使い分けることに主眼をおいた「認知行動療法型ストレスマネジメント」が体系化されるに至っています。

認知行動療法の特徴は、当面の問題を解決することができるのみならず、不適応状態から適応状態に改善するプロセスをも行動科学的に理解しようとするところにあります。すなわち、認知的方法や行動的方法を用いることによって、普段からストレス耐性を高め、さまざまな不適応行動や症状の問題を予防することが可能になります。この点に着目した東京都教育委員会は、高等学校の学校設定科目用の認知行動療法型ストレスマネジメントの教科書を作成するに至っています(嶋田他、2017)。

また、最近のストレスマネジメントに関する研究の関心の1つは、一般論としてのストレスマネジメントプログラムの適用だけではなく、どのように個に応じたコーピングの適用を促すのかにあります。実際に、ある人たちにとっては「パーっと飲みに行く」ことが有効なコーピングになりえる一方で、ある人たちにとっては、それがかえってストレスを増幅してしまう場合もあります。さらに、同じ人であっても、特定のコーピング方略の効果が、いつも同程度の効果を持つとは限りません。そこで、認知行動療法型ストレスマネジメントでは、「セルフ・モニタリング」という方法を用いて、その人に合った機能的なコーピングを見つけていくことを試みます。

セルフ・モニタリングは、どのようなストレッサーに対してどの程度のストレス反応が生じているのか、そこでどのようなコーピングを用いてどの程度ストレス反応が軽減したのか(そして他の悪影響が生じていないか)を具体的に記録していきます。そして、それを支援者と共に俯瞰的に整理することによって、自らのコーピングに対する気づきを深めることによって個に応じた検討ができます。

実際に中学生を対象とした実践研究でも、その効果がある程度確認されています(野中他、2019)。また、セルフ・モニタリングは、従来からワークシート(紙の表)に書き出す方法が多く使われてきましたが、最近は勤労者を対象にスマートフォン用のアプリケーションを用いて、自らのそれまでのコーピングの有効性のデータベースから、その時に用いることが推奨されるコーピングを本人にフィードバックする研究も進めています(田中他、2019)。

この他にも、認知行動療法型ストレスマネジメントに「マインドフルネス(今この瞬間の現実に気づきを向けて、それをあるがままにしておく心のありさま)」や「セルフ・コンパッション(自分自身に思いやりを持つ態度)」などを組み合わせた場合の効果の検討も多く行われており、今もなお多くの実践研究が行われています。

文献

野中俊介・原剛・尾棹万純・森田典子・嶋田洋徳(2019).セルフ・モニタリングがストレスマネジメント教育におけるコーピングレパートリーの獲得に及ぼす影響 Journal of Health Psychology Research、113-121.
嶋田洋徳・根本豊・石垣久美子(2017).マイ・ライフ・デザイン:自立へのナビゲーション 東京都教育委員会
田中佑樹・石井美穂・岡島義・野村和孝・嶋田洋徳(2019).コーピングの柔軟性の獲得を促進するスマートフォンアプリケーションを用いたストレスマネジメントの効果 第11回日本不安症学会学術大会抄録集、107.

※当記事は「WASEDA ONLINE」からの転載です。

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