法学学術院教授 江泉 芳信(えいずみ・よしのぶ)
私がラグビーを始めたのは大学1年のこと。私たちは戦後のベビーブーム世代の名残であり、過酷な受験戦争を経験しました。そこで大学では思い切りスポーツを楽しみたいと思い、早稲田大学「GW(ジーダブ)ラグビークラブ」に入ったのです。経験者の多いチームで素人の私は厳しい練習で苦労しましたが、1年もたつと仲間についていけるようになりました。
ラグビーはチームスポーツの典型ではありますが、それぞれのポジションには独自の役割があり、ボールの動きに応じて最適の選択を瞬時に判断して動かなければなりません。相手チームの状況、仲間のポジションを分析しつつ、アタック、ディフェンスを繰り返します。基本的な約束事はチームとして決められているのですが、個人の判断でチャンスとピンチを読み取って動くラグビーセンスが備わると、常にボールのところに顔を出してくるプレーヤーになれます。
私がたたき込まれたのは、フォワード(FW)とバックス(Bks)の役割が明確に区別されていた時代のプレーでした。FWはボールを確保してBksに渡してトライにつなげるという役割でした。私のポジションはフッカー、2番でした。スクラムの一番前にいる3人の真ん中で、スクラムハーフ(9番)の投入するボールを足で後方に送り出します。専門職であり、マイボールは必ず確保しなければなりませんし、FW8人の力をまとめてスクラムを組み相手FWと競います。与えられた役割を全うすることは当然で、それができないと相手チームにボールを渡すことになります。どんなことがあっても自分の役割を逃げることはできません。その上で、自らの判断でチームメイトのサポートにあたります。それができると仲間からの信頼が生まれます。
走ってくる相手にタックルするのは怖いものですが、私が逃げるとチームメイトに負担をかけてしまうので、恐怖を責任感で押し殺してタックルします。
この分業論が崩れたのは、今から20年ほど前、オーストラリアでスーパーラグビーの試合を見たときでした。後に日本でもプレーをした名スクラムハーフ(9番)のジョージ・グレーガンがFWの中に飛び込んでプレーし、FW1列目のスクラムの専門家がBKsプレーヤーに交じって走り、相手のタックルをかわすためにパントをあげて相手プレーヤーを抜き去るのを見たのです。
今年はラグビーワールドカップ日本大会が行われ、日本代表(Brave Blossoms)の大活躍でラグビーファンがまた急増しています。世界のトッププレーヤーのプレーを間近に見ることができたし、10月26日のイングランド対ニュージーランド戦はエディ・ジョーンズの率いるイングランドが大躍進で、日産スタジアムはイングランドファンの声援で手にしたビールが振動するほどでした。私は、今はテレビ観戦がメインとなってしまいましたが、これを機にラグビー文化が日本で定着してほしいものです。