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経営者の顔を持つ建築家 「泊まれる茶室」をオープン

二つ以上の専門性を持つということ

株式会社SEN 代表取締役/建築家 各務 太郎(かがみ・たろう)

江戸情緒が残る人形町の街にひときわ目立つ、スタイリッシュな和風建築。「禅」をテーマにしたカプセルホテル「hotel zen tokyo」を手掛けた各務太郎さんは、早稲田大学理工学部建築学科卒業後、株式会社電通、ハーバード大学デザイン大学院を経て、32歳にして話題のホテルの経営者となった。異色の経歴にも思えるキャリアだが、その根底には学生時代から続くひたむきな建築への情熱があった。

建築と広告 その意外な共通点

高校時代に見たテレビ番組でガウディ(スペイン出身の建築家、1852-1926)に憧れ、建築家を志した各務さん。ガウディの研究者である入江正之氏(早稲田大学名誉教授)に学ぶため、早稲田大学に入学した。

「サークルには入らず、ひたすら建築に没頭する毎日でした。週に5日は大学で過ごして、模型を作ったり図面を描いたり。ほぼ“住んで”いましたね(笑)」

建築に情熱を傾ける学生時代を過ごした各務さんだが、卒業後は広告の道に進むことを決心する。実は建築と広告には、共通点が多いのだという。

卒業論文発表直前の入江研究室にて(左から3人目が各務さん)

「私は建築を建てるまでと建てた後、両方をデザインできる建築家になりたいと思っていました。建築って建築家の手を離れた後でも100年、200年とそこに存在しているんです。建築を建てた後のデザインというのは、その街のブランディングであったり、そこで暮らす人たちのビジョンを作ることであったりと、実は広告コミュニケーションの領域なのでは、と思っていました。

また、映像を作ることと建築を作ることは、その思考プロセスがほとんど一緒なんです。例えば、映画でオープニングからストーリー展開を経てエンディングを迎えるという構造は、入口からさまざまな部屋を通り出口に向かうという建築の体験と同じ。双方に共通しているのは、そこにシナリオがあるということです。学生時代は、建築を映画にしたらどうなるか、あるいは、この映画を建築にしたらどうなるかということを研究していました。そこで、映像や都市をダイナミックに使って大きなシナリオを描ける広告業界を目指すようになったんです」

問題発見も問題解決も自分でできる建築家になりたい

電通で約3年半コピーライターとして主にCM企画を担当した後、学生時代からの悲願でもあった憧れの建築家レム・コールハースに学ぶべく、米国のハーバード大学デザイン大学院に入学。都市における極小空間の研究に打ち込んだ。

「今、世界中の都市で地価が高騰しています。その解決策として極小空間があり得るのでは、と考えたのです。日本には、新宿のゴールデン街や漫画喫茶のように、空間としては極小でありながら、豊かな体験ができる場所がたくさんあります。そのルーツを探っていくと、千利休(安土桃山時代の茶人)にたどり着きました。禅の空間は狭ければ狭いほど自分と向き合う余地が生まれる、という彼の言葉をヒントに、もしかしたら狭くてもスイートルームのような体験ができるホテルが作れるんじゃないかという考えに至り、カプセルホテルを作りたいと思うようになりました」

留学において、ビジネスアイデアだけでなく、多種多様な留学生との交流を経て得たものも大きかった。

「授業のグループワークで高層ビルを設計していると、あるクラスメイトが『どうしてこのビルにはお祈りの場がないの?』と言ったんです。それは、日本で設計活動をしていたら決して思いつかない観点でした。建築も含め、あらゆるデザインの目的は問題解決ですが、問題発見の観点がいかに多いかということこそが、デザイナーとして大事なことだと考えています。その意味では留学生活を通じてその引き出しを広げられたことには大きな意味がありました」

(写真左)ハーバード大学でのプレゼンテーションの様子(右側で立っているのが各務さん)
(写真右)ハーバード大学卒業式(中央が各務さん)

ハーバード在学中に着想したアイデアを具現化すべく、帰国後は株式会社SENを設立し、自身で設計したカプセルホテル「hotel zen tokyo」をオープン。しかし、クライアントワークを主とする建築家ではなく、自ら資金を集めてホテルを立ち上げるという、厳しい経営の道をあえて選んだのはなぜなのだろうか。

「デザイナーは本来、自ら問題を発見して、それを解決する仕事のはずです。ところが来た仕事を受けるだけの建築家では、腕の見せ所である肝心の問題発見の瞬間をクライアントに丸投げしていることになると思ったのです。自分でお金を集めて、自分が問題だと思うことを、自分で解決する建築家になりたいという強い思いから会社を創業しました」

天井が高く、従来のカプセルホテルのイメージを覆す広々とした造り(写真提供:hotel zen tokyo)

いつかはこのホテルを日本全国、そして世界の大都市に広げていきたいという夢を持ちつつ、今は自らフロントに立ったり、備品を補充したりと“現場”仕事もこなす毎日だ。しかしそうした地道な仕事に、早稲田大学で学んだことが生きているという。

「早稲田の建築学科は、彫刻を作ったり絵を描いたりと、自分の手を動かすことを重視する教育でした。それもあって、このホテルの装飾品や内装の一部には、私が丹精込めてDIYしたものもあります。これなら自分で作れるかもしれない、という肌感覚は、学生時代に手を動かしたからこそ得られたことでした」

壁面上部の装飾(写真提供:hotel zen tokyo)

経営者、建築家、コピーライターなどさまざまな能力を生かし、早稲田大学の社会人向けプログラム「WASEDA NEO」でも講師を務めるなど、活躍の場を広げる各務さんが、キャリアに悩む学生に伝えたいことは何だろうか。

「専門性を二つ以上持つことを目標に動いてみるといいと思います。少し前の時代であれば、ひとつの強いスキルがあればそれで十分食べていけるという時代でした。ところが今は、いかに他人と異なる引き出しを持っているか、いかにいろいろな人の観点に立てるかが大切な時代になってきていると思っています。得意なことや、目指している業種を主軸にしつつ、それに加えてもう一つ、掛け算をしたときにまだ見ぬ希少価値が生まれるようなスキルに常にアンテナを張っていると、面白いキャリア形成ができると思います」

ホテルの地下1階にあるバーラウンジ「TAIAN」。鉄の茶室のオブジェが設けられている

取材・文=小堀 芙由子(2009年、政治経済学部卒)
撮影=山口 貴弘

【プロフィール】

東京都出身。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、株式会社電通に入社。コピーライター/CMプランナーとして数々のCM企画を担当。2014年電通を退職後、2017年米国・ハーバード大学デザイン大学院にて都市デザイン学修士課程修了。2018年株式会社SENを創業し、2019年2月に東京・人形町に“泊まれる茶室”をコンセプトとした「hotel zen tokyo」をオープン。第30回読売広告大賞最優秀賞、第4回大東建託主催賃貸住宅コンペ受賞、他受賞歴多数。早稲田大学社会人向け事業育成プログラムWASEDA NEO講師。著書に『デザイン思考の先を行くもの』(クロスメディア・パブリッシング)

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