「不自由のある形式がことばの新しさを生む」
文化構想学部 3年 阿部 圭吾(あべ・けいご)
「31音という制限が生む新しいイメージこそが短歌の魅力」と語る文化構想学部3年の阿部圭吾さん。現代歌人協会主催の公募による短歌大会「第47回全国短歌大会」での大会賞受賞や、所属する公認サークル「短歌会」の代表として参加した「大学短歌バトル」(*1)で優勝を果たした実績もあります。そんな阿部さんに、短歌の魅力や学生生活について聞きました。
*1 全国の大学短歌会18団体から、予選を勝ち抜いた8団体が、日本の伝統文芸競技「歌合(うたあわせ)」で、短歌の腕を競い合う大会
――短歌を書き始めたのはいつ頃から、またどんなきっかけがあったのでしょう?
中学・高校と文芸部に所属し小説を書いていたのですが、小説の執筆に行き詰まったときの息抜きとして短歌や俳句を書き始めたのがきっかけでした。高校2年生のときに「全国高校生短歌大会(短歌甲子園)」の存在を知り、短歌に関心のなかった友人をなんとか説得して一緒に参加しました。当日会場には同年代で魅力的な短歌を書く人が大勢おり、そのことに衝撃を受けてのめり込んで行きました。
――短歌というと、昔のことばで書かれていて取っ付きにくいイメージもありますが、どんな風にして短歌と親しんでいったのでしょうか?
最初は『かんたん短歌の作り方』(枡野浩一著、筑摩書房)という本を読むところから始めました。「かんたん」とは言っていますが、作るのが簡単という訳ではなくて、簡単なことば、日常で使っているようなことばで短歌を作るという意味です。学校の授業で習う短歌は、古風で難しいことばを使っているイメージがあったので、こうした発想がとても新鮮でした。今でもどちらかと言うと、口語で書かれた現代の歌人の作品を中心に読んでいます。
――阿部さんが感じている短歌の持つ魅力とは何ですか?
短歌の魅力は、自分が普段使っていることばに、知らなかった側面を発見できることだと思います。日常生活の中では気付くことができなかったけれど、短歌のかたちにすることで、その語の持つ新しい魅力を引き出せることがあります。魅力的な短歌に出合ったとき、たった一首で自分が今まで持っていたイメージが塗り替えられたり覆されたりすることがあり、そんな新鮮な驚きを感じるとともに、もしかしたら自分でもそんな短歌を作れるかもしれないというわくわく感が湧いてきます。
短歌は31音という制限がありますが、制限があるからこそ、その枠を突破する楽しみみたいなものがあります。31音だと、自分が伝えたいことがたくさんあっても全部は詰め込めないし、全部詰め込めたとしても散漫な印象になってしまって読者には伝わらない。でも、だからこそ自分が本当に伝えたいことの核となるものをどう表すかを意識し、そのためにどのようなことば選びや語順にしたら良いかを考えていきます。そうして推敲(すいこう)して出来上がった作品でも、読者によって思いも寄らない解釈が生まれて…。矛盾しているようですが、それもまた短歌の魅力の一つだと捉えています。
――創作はどのように行うのですか?
短歌の主な形式としては、何十首かをまとめて題名をつけて「連作」として発表することが多いのですが、一つのまとまった作品として連作を編むときは、机に向かって考えることが多いです。普段は電車の中や歩いているときに浮かんだフレーズや着想を手掛かりにして一首一首雑多に作っていて、そこでできた歌をもとに、テーマを決めて連作に取り掛かるなどしています。着想をかたちにしていく方法は人それぞれかと思いますが、僕の場合は頭の中に何か伝えたい情景や感情があって、それを読む人にどうやって伝えるか、という意識で作品を作っています。
――そのようにして作られた阿部さんの作品をここで一首ご紹介いただけますか。
水族館(すいぞっかん)、と言うとき君の喉元を光りつつゆくイルカのジャンプ
この歌は水族館を詠んだ「手のひらの海」という連作の冒頭の一首です。自分が「すいぞくかん」と言うときに「っ」という促音が入ることに気が付いて、そこから着想しました。自作解説は慣れていないので少し難しいのですが、「っ」という跳ねる音とイルカがジャンプする瞬間の動きや跳ね上がる水、そして声を出すときの喉の動きなどさまざまなイメージの重なり合いを感じていただけたらうれしいです。水族館には何か特有の空気感があるように感じていて、この歌で始まる連作はそれを描きたいと思い作りました。
――サークル活動や授業など学生生活はどのように過ごしていますか?
所属している短歌会の活動では、匿名でお互いの作品を評し合う合評会(歌会)をメインに、勉強会や、歩きながらさまざまなモチーフを見つけ、それをもとに歌を作る吟行(ぎんこう)などを行っています。歌会では他の人の視点が入ることによって自分が気付かなかったことに気付けたり、新たな解釈で自分の歌がより良くなるといったこともあります。サークルには評がうまい方も多く、韻律が歌の内容と合っているかや、助詞の使い方などさまざまな面から議論し合うなど、多くの刺激を受けています。
同様に授業でも文芸・ジャーナリズム論系で履修している「メディアと文芸2」(東直子非常勤講師)では、受講生が詠んだ歌を発表し合う歌会が毎回楽しみですし、「短詩型表現1・2」(伊藤比呂美教授)では、短歌や俳句よりも詩の創作をしている人が多いため、普段短歌をやっている仲間同士とは違った意識でことばを扱っていることが分かり、とても勉強になります。
――今後のことについて、展望を教えてください。
興味のあることがたくさんあり、まだ明確な展望はつかめていないのですが、今年から翻訳のゼミに所属しているので、そこでもまた新たな刺激を受け、さまざまな可能性を探っていけたらと思います。短歌をはじめとすることばについてはこれからもより真摯(しんし)に向き合っていきたいと思っていて、いつか自分の文体をしっかりと持ち、自分が満足できる歌集を作ることが目標です。何より自分が好きだと思うものを作り続けて、それを誰かに読んでもらうことができたらうれしく思います。
第730回
【プロフィール】
千葉県出身。渋谷教育学園幕張高等学校卒業。ゴールデンウィーク最終日の5月6日には短歌会で「文学フリマ」にも初めて参加し、サークル会誌『早稲田短歌 48号』の販売を行った。短歌の他、翻訳にも興味があり、昨年他大学の友人と参加したニュース字幕を翻訳する「学生字幕翻訳コンテスト」では最優秀賞を受賞した。趣味はNetflixでの洋画鑑賞。またジェットコースターが好きで、いつか世界ランキング上位のジェットコースターを制覇するのが夢という意外な面も。