Waseda Weekly早稲田ウィークリー

SNS生存戦略「信じてもらえる人であれ」箕輪厚介×津田大介“凡人”対談

今必要とされる、ルールを打ち破る力天才と凡人それぞれの戦い方

早稲田大学文学学術院教授でジャーナリストの津田大介さんと、『多動力』(堀江貴文/幻冬舎文庫)、『お金2.0』(佐藤航陽/幻冬舎)などのベストセラーを手掛け、「天才編集者」として出版界にその名をとどろかせている箕輪厚介さん(2009年第一文学部卒業)の対談。

「インフルエンサー」「炎上」「評価経済」などのキーワードを軸に、SNS時代の哲学について語っていただいた前編から発展し、後編ではルールを破ることの大切さや“本というメディア”に秘められた可能性、そして、これからの時代のキーワードとなる「コミュニティー」についてのお話へと展開していきます。時代の先端を見つめるお二人の目の前には、どのような未来が広がっているのでしょうか?

左から津田大介さん箕輪厚介さん

堀江貴文さんの『多動力』や、佐藤航陽さん(法学部出身)の『お金2.0』など、箕輪さんが編集された本を読んで、津田さんはどのように感じましたか?

津田
本来、生きていく上で優先すべきことが分かっている、と思いました。というのも、今の日本社会ではルールこそが最強で、そのルールの枠組みの中で思考停止になっていると感じます。しかし『お金2.0』をはじめ、箕輪さんの手掛けている本は、みんなが漠然と信じてしまっているルールそのものに対して、「これはおかしくないか?」と異議を唱えているものが多いですよね。
箕輪
ありがとうございます。僕自身、ルールを問うこと、ルールを打ち破るような人が好きなんです。
津田
誤解を恐れずに言うと、僕は法律なんてどうでもいいと思っています。法律は時代によって変わっていくものですよね。逆に言えば、法律がおかしいという人がいないと社会が変わっていかないんです。そんな意見に対して、「法律で決まっているから正しい」という思考停止には何の生産性もない。

今必要なのは、「このルールはおかしいから変えよう」という力です。そのためには正義として発言するだけでは駄目で、箕輪さんの作る本にあるような「アクの強い面白さ」も必要なのではないかと気付かされたんです。

ただ多くの読者にとって、既存のルールを疑い、それを変えようとアクションできるのは、一部の才能がある人だけでは…と思ってしまいそうですよね。

津田
そんなことはありません。僕だって、自分のことを凡人だと思っています。かつて、ライターや編集者として年間300人あまりもの人々を取材していましたが、堀江(貴文)さんをはじめ、自分が一生かかっても追いつかないような天才たちにたくさん出会いました。
そんな人々から刺激を受け、コンプレックスを感じながらも、ある時期から僕は、凡人には凡人なりの戦い方があると気付き楽になったんです。

「凡人なりの戦い方」とは?

津田
例えば、堀江さんは、世間的にはとても傲慢(ごうまん)な人間に見えるかもしれませんが、実際には“知的な謙虚さ”を持っています。というのも、自分が知らないことに関しては、それを面白がってどんどん吸収しようとする。それは、他の天才的な活躍をしている人々にも共通しています。

そんな姿勢に気付いた時、すごい人に対して思考する材料を提供する、あるいは一緒に仕事をサポートすることによってすごい人がよりすごくなる、そういった手伝いをしたいと思うようになりました。
津田
だから、自分から異議を唱えられない凡人だと思うなら、自分から率先して状況を変えられるようなすごい人を手伝えばいい。仕事として手伝うだけではなく、今やいろいろな方法もあります。例えば、クラウドファンディングで寄付をするだけでもいいでしょう。

すごい人のビジョンに共感し、それを応援するだけでも、それはビジョンの実現に向けて行動しているのと同じなのではないかと思うんです。逆に言えばどんなにすごい人でも、人ひとりで変えられることなんて、たかが知れているんですから。

「すごい人」でなくても社会に貢献できるという気付きは、これからの時代を生きる学生たちにとっても、大切なメッセージになりますね。

津田
昨年から早稲田大学文学学術院の教授に着任しましたが、僕自身、もともと研究者でもアカデミックな人間でもないので、実務を教えたり学生にチャンスを与えるようなことしかできません。そんな僕の授業で大事にしているのは、学生たちに「世界は広い」と気付いてもらうことだと思っています。
学生たちは、早稲田に入ってイキがっているかもしれないけど、世の中には信じられないくらいすごい人が山ほどいる。だから早いうちにすごい人に出会って打ちのめされる経験をしてほしいですね。そういう意味では、今の学生からするとオールドスタイルに感じるかもしれないけれど、年上の人たちと飲みに行くことも貴重な機会だと思っています。
雑誌的コミュニティーの再定義“本の権威”をハックする

インターネットを活用される一方で、箕輪さんの仕事は、本という旧来型メディアを売ることです。この時代に、本にはどのような可能性があるのでしょうか?

箕輪
旧来型メディアか新型メディアかどうかは、単なるデバイスの違いに過ぎないですよね。『多動力』がNewsPicks(※ニュース共有サイト)で配信されれば最先端っぽく見えて、紙に印刷されれば古くさく見えますが、デバイスやプラットフォームの形態は、それぞれの良さが違うだけ。

ただ、本にはいまだに「権威」という魔力があります。スマホ上に無料でお手軽な情報やコンテンツがあふれればあふれるほど、アナログによる魔力は強まっていく。LINEやメールが全盛の中で、あえて送る〝手書きの手紙〟に魔力が宿るのと似ていますね。ただ、本の魔力を利用するためには、人のリアルな営みを観察し、インターネットとうまくコラボレーションしなければならない。ただ「本はいいよね」「紙はいいよね」というノスタルジーに酔っても意味が無いし、今の社会は情報量が多すぎるので、どんなにいい本を出版しても発見すらしてもらえなくなっています。

本は作った時点で終わりなのではなく、売り方や周辺の仕掛けまで考えることが今の編集者の役割だと思っています。そこでまず僕が考えたのは、編集者自身がインフルエンサーになればいい、ということなんです。

箕輪さんは常々、本を売るためには、著者だけでなく編集者もネットで影響力を持つ必要があるとおっしゃっていますね。

箕輪
宇野常寛さん(※評論家・批評誌『PLANETS』編集長)に「箕輪さんは本の権威をハックしている」と言われたんですが、まさにそんな感じだと思います。みんなが漠然と「本はすごい」と思い込んでいる状況の中、実際的にどこが「すごい」と言われているのか、どのように届けたらいいのかを常に考えていますね。

例えば、ネットの世界では、本はファッションアイテムのような力も持ちます。「○○さんの本を買いました」と発言することが、一定のコミュニティーの中で「お前分かってるね」と思われるグッズにもなり得ます。本の中身はもちろん大事ですが、それと同時に世の中にどのように広めていくか、という文脈づくりもとても大事なんです。

では、具体的にはどのようにネットの力を利用されているのでしょうか?

箕輪
常にコミュニティーを作る、ということを意識していますね。なぜ『多動力』や『お金2.0』などが売れたのかといえば、もちろん内容の良さや時流に乗っているということもありますが、ニューズピックスとやっている「NewsPicksアカデミア」という有料コミュニティーがあり、会員には自動的に本が送られるような仕組みになっているんです。

現在、会員数は3,000人程度ですが、ネットリテラシー(※Web上の情報を読み解く能力)があり、影響力がそれなりにある人が読むことで、ネット上で自然にバズ(※盛り上がり)が生まれます。そこで話題になると、そのコミュニティーに入っていない人にも「何か面白いことが起こっているな」と思われて広がっていくんです。情報が溢れているので、まずどっかのコミュニティの熱狂を呼ばないと、世間から発見されません。
津田
箕輪さんがネットを駆使してコミュニティーと接続しているのは、実はとても雑誌的だと思います。かつての雑誌は、コミュニティービジネスの側面を強く持った文化であり、読者との共犯関係を作ることで成立していました。だから、雑誌のコラムを書くときは、「その雑誌を好きな人」に向けて書くことができる。つまり、雑誌は読者を選べていたんです。

その一方で、ネット上の記事は読者を選ぶことはできません。それが、今のネットと雑誌との一番大きな違いです。ただ、出版の人にはコミュニティービジネスという意識が低かったから、雑誌は衰退の一途をたどっています。箕輪さんはかつての出版文化が持っていた「コミュニティー」という価値を再発見し、ネットを使ってつなげているんですね。
ジャーナリズムの行く末 権威からコミュニティーへ

今後も「コミュニティー」という枠組みはますます重要になっていくのでしょうか?

箕輪
Twitterのように、前後の文脈を全く知らないで突っかかってくる人がいる場所は、単純にコスパが悪いし面倒くさい。そうなったら、前後の文脈を知っている人同士で閉じたコミュニティーを作ったほうが効率的です。レストランで仲間と楽しく食事をしているのに、隣のおじさんがいきなり「お前の考え方は無礼だ」みたいに口を挟んできたら面倒なのと一緒ですよね(笑)。

オンライン上ではだんだんとそのような閉じられたコミュニティーが形成されつつあります。僕がやっている「箕輪編集室」というオンラインサロンにも350人の会員がいて、ここでは同じ価値観を共有しているから誤解されることを恐れずに、安心して発言することができる。しかし、同じ内容をコミュニティーの外で言ってしまったら、炎上することもあるでしょう。
津田
あまりにもディスコミュニケーション(※相互不理解)になり、他人に対して突っかかっていくことがデフォルトになっている今のネット状況を考えると、コミュニティーで閉じていかなければ応答するコストばかりが膨らんでいく。コミュニティー化の流れは必然でしょうね。
だから今、独立して何か面白いことをやろうとしている人は、みんながそれぞれに場を作り、コミュニティーを形成しようとしています。今後、自分を成長させたい、質が高い情報を手に入れたいという人は、お金を払ってでも手に入れるようになり、無料で粗製乱造された情報を読んでいる人との格差が広まっていくことになるのではないでしょうか。

かつてはネットリテラシーによる格差が語られていましたが、今ではネットの中のどんなコミュニティーに所属しているか否かによっても新たな格差が生まれていく、と。

津田
ただ、その一方で、コミュニティーが持っている価値観の良さが、そのコミュニティーの中でしか享受されないのはとてももったいないと思っています。前編でもお話しましたが、箕輪さんには“猛獣”たちを社会に接続させる能力がある。その能力を生かし、コミュニティーのエッセンスを社会とつなげていくような活動をしてほしいと思いますね。
そういった意味で、これからは複数のコミュニティーに所属する人が強いと思います。特に若い世代で「何を信じていいか分からない」と感じる人こそ、多くのコミュニティーをのぞいて情報を得た方がいいんじゃないでしょうか。

コミュニティー化の流れを踏まえて、津田さんの主戦場であるジャーナリズムの形も変わっていくのでしょうか?

津田
現代は、これまでジャーナリズムがとってきた「世の中に真実を教えてやっている」「社会の向かうべき矛先を示している」という態度に対して反発が広がっている時代です。昨年、ニュースを見ていて面白いと思った現象があるのですが、フェイクニュース(※事実に基づかないニュース)と指摘され、エビデンス(※証拠)を示されても、むしろフェイクニュースを信じる確率が3割程度上昇してしまうんです。つまり、ニュースももはや事実か否かではなく、“信仰”の問題と言えます。

事実ではなく「信じたいもの」が優先されてしまう。

津田
一方で別の調査では、間違いを指摘してくれる相手が友達であるなら間違いを認める確率は上がるという結果もありました。「○○さんが言ってるんだから正しいかもしれない」と考えるのは、日常でもよくあることですよね。

もちろん正確な情報を届けることに対して、ジャーナリズムが培ってきた倫理や技術は変える必要はありません。けれども、これまでマスメディアは、読者とどのような関係を築いていくかについては、ほとんど考えてきませんでした。

だからジャーナリズムも、概念から考え方を改めて、単にファクト(※事実)を機械的に示すだけではなく、情報を届ける相手とどのような関係を築くことができるのかを考えていくべきだと思います。
箕輪
ジャーナリズム論ではないんですが、情報の届けてとして感覚的に大切だと思うのは「信じてもらえる人であれ」ということ。SNSがインフラ化し、ネットにこれだけ情報が集まっていると、本当の意味での「360度評価」の世の中です。

つまり成果はもちろん、その過程や私生活に至るまで、筋が通っているか否かを見られるから、嫌なヤツは成功しなくなってきた(笑)。真面目で誠実で立派な人であるという必要はないけど、その人らしく筋が通っているかは大切です。だから、前編のインフルエンサーの話ではないですが、ただ格好ばかりのセルフブランディングをしていても意味がなくて。自分は一体何者なんだ、ということを問われる。そして、これは普遍的な問いであって、現実とネットがこれまでにも増して、いよいよ近づいていっている気がしますね。
プロフィール
箕輪 厚介(みのわ・こうすけ)
幻冬舎・編集者。1985年東京都生まれ。2010年双葉社に入社、女性ファッション雑誌の広告営業としてイベントや商品開発を手がけ、雑誌『ネオヒルズジャパン』(与沢翼責任編集長)を制作。2014年から編集部に異動し、見城徹『たった一人の熱狂』、堀江貴文『逆転の仕事論』などを担当。2015年幻冬舎に入社。堀江貴文『多動力』、イケダハヤト『まだ東京で消耗してるの?』、佐藤 航陽『お金2.0』、落合陽一『日本再興戦略』など話題作を作りながら、各媒体でのコラム執筆、講演、オンラインサロン運営、堀江貴文大学校で特任教授、無人島やランジェリーショップのプロデュースなど、“編集者”の枠を拡大し多方面で活躍中。2017年10月合同会社波の上商店を設立。2018年1月末に設立する、株式会社CAMPFIREと株式会社幻冬舎の共同出資会社・株式会社エクソダス取締役に就任。
https://naminoueshoten.com/gyoumu-naiyou/
津田 大介(つだ・だいすけ)
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学文学学術院教授。大阪経済大学情報社会学部客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ニュース・スーパーバイザー。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)、『「ポスト真実」の時代』(祥伝社)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
http://tsuda.ru/
取材・文:萩原 雄太(はぎわら・ゆうた)
1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。
http://www.kamomemachine.com/
撮影:加藤 甫(かとう・はじめ)
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