Waseda Weekly早稲田ウィークリー

「空気を読む人が弱くなる」けんすう×佐久間Pのコロナ禍で変わる企画力

緊急事態宣言は解除されたものの、新型コロナウイルスがもたらしたパンデミックによって外出自粛を迫られ、仕事や学校はおろか人と会うこともままならないような状況が続く中で、人々の生活は一変。早稲田大学では春学期の授業は全てオンラインで実施、サークルは8月1日まで対面での活動自粛が決定されています。そんな、かつてないパンデミックの影響は、人々の行動だけでなく仕事、生活の場面における価値観にまで及んでいます。

『ゴッドタン』『あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜』『ウレロ☆未確認少女』(以上、テレビ東京)などのテレビ番組のプロデューサーや演出を務め、テレビ東京の社員でありながらラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)のパーソナリティーも務める佐久間宣行さん(1999年早稲田大学商学部卒)と、のちにKDDIが買収することになる「nanapi」などのWebサービスを手掛け、現在はマンガ新刊情報や無料情報、最新ニュースなどを届けるWebメディア「アル」を展開する「けんすう」こと、古川健介さん(2006年早稲田大学政治経済学部卒)。

彼らは、これまで秀逸な企画によって人々を楽しませ、動かしてきた人物。しかし、人々の価値観が変わる中で、求められる企画も変わってくるのではないでしょうか? そこで5月末、お二人がこのコロナ禍をどのように見つめ、どのようなアイデアを練っているのかをオンラインで伺いました。

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「論理」が「空気」に勝る時代

「論理」が「空気」に勝る時代

この取材を行っている5月末現在、多くの企業がリモートワークを導入し、外出の自粛も続いています。この状況をお二人はどのようにご覧になっていますか?

けんすう
僕は 新しく何かを始める人にとってはチャンスとなる時代 だと思っています。特に学生など、これまでの社会では弱かった立場の人や持たざる立場の人ほど、これから強くなっていく のではないでしょうか。

そもそも人の進化って、技術の進化よりも圧倒的に遅いんです。技術的にはできるけど、まだ人間が追い付いていなかったサービスはたくさんあります。例えば、オンラインで取材を受ける、というのは技術的には10年以上前から可能でしたが、実際に取材を受けるようになったのは、この4月くらいからでした。

今回のコロナ禍によって、5年かかると言われていた「人間側の進化」が数カ月までに短縮された。その意味では、今すごいチャンスが到来している のではないか、と考えています。
古川健介さん
「けんすう」こと古川健介さん
佐久間
そうですね。新しいことを仕掛ける人にとっては、このルールチェンジはチャンスとなり得ますよね。しかし、その一方で僕は、一概にチャンスだとは思えていない部分もあります。

2011年に起こった東日本大震災のときには、映画館の客足が震災前の水準まで回復するまで5年ほどかかりました。今回も、ライブハウスに観客が戻ってくるには、もしかしたら6〜7年の時間が必要になるかもしれない。

これまで素晴らしい作品を生み出してきたクリエイターや、それを支えてきた人々は長期間にわたって苦しまなければならず、その中にはコロナ禍を乗り越えられずにつぶれてしまう人もいる でしょう。
佐久間宣行さん
佐久間宣行さん

確かに、特にエンターテインメントの世界では、これまで良質な作品を作ってきたアーティストや、それを支えてきた環境がピンチに追い込まれていますね。一方、佐久間さんが仕事をしているテレビの世界では、どのような変化を迎えているのでしょうか?

佐久間
4月頃だと、テレビを制作する側ではリモート収録で何か新しいことをやろうという気持ちが高まっていましたが、視聴者のマインドとしては、そんな新しい動きに対して拒絶する反応もあったような気がします。あくまで感触でしかありませんが、新しいものよりも、名作の再放送を見たいという気持ちの方が強かったのではないでしょうか。

各テレビ局では『JIN -仁-』『下町ロケット』(以上、TBS)、『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ)など、ヒット作の再放送が行われていましたね。

佐久間
今回のコロナ禍では、ほぼ全員が日常を奪われた被害者 となった。だからこそ新しいものではなく、日常と変わらないものを見せてくれという要望が強かった のではないかと思います。ソーシャルディスタンスドラマ(※リモートによる安全な撮影を考慮して制作されたテレビドラマ)のような新しい形式のものが支持を集めた、という印象もあまりありませんよね?

エンタメ系に関して言えば、新しいものが求められるようになってきたと感じられたのは、ようやく5月に入ってから。ただし、スピード感を持って勢いで作ったものよりも、クオリティーや物語が考え抜かれたもの、今のこの状況でこの手法だからこそできるものが支持されていたと感じます。

テレビ番組ではありませんが、5月下旬に開催されたお笑いトリオ・東京03のリモート単独公演『隔たってるね。』や、打ち合わせから本番まで1回も会わずに活動するフルリモート劇団・劇団ノーミーツの『門外不出モラトリアム』などは、リモートの状況と合致した素晴らしい企画だと思います。

5月27日にYouTubeの「東京03第2チャンネル」で生配信され大きな反響を呼んだ、お笑いトリオ・東京03のリモート単独公演。
https://www.youtube.com/channel/UCS3CwPRTu0xE_9lKlr5Kz_w

「もしこの生活があと4年続いたら」をテーマに、入学からフルリモートのキャンパスライフを送り、卒業を間近に控えた大学生たちの物語を描く長編演劇作品。
https://nomeets2024.online/

では、そのような状況を経て、人々の価値観も変わったのでしょうか?

佐久間
この数カ月、芸能人による政治的発言の是非やセックス産業についての発言の問題、そしてリアリティーショーのあり方やそれを巡るSNSでの誹謗中傷など、古い価値観がさらけ出されましたよね。これまで「なあなあ」で済まされてきたようなことが、明確に「よくないこと」となってきた。今後、人々の価値観は変わり、活躍するタレントも変わってくるでしょう。

これまでは、バラエティー番組では「空気を読む人」が強かった。だから、タレントは空気が壊れることを言わないし、セクハラ発言があっても受け流してきたし、スタジオの空気を盛り上げる「ガヤ芸人」たちが必要とされてきたんです。

けれども、今後は空気を壊しても自分の意見を論理的に言える人、セクハラ発言に対して「それつまんないですよ」と言える人が求められるのではないかと思います。
けんすう
弊社の株主にキングコングの西野亮廣さんがいるのですが、コロナになってから彼のオンラインサロンには数万人単位で入会者が増えているそうです。彼の場合、テキストでも音声でもしっかりと言語化をすることができる。そういった人のニーズが上がっているんでしょうね。

普通の会社の仕事でも、オンラインでミーティングをすると、これまで上座に座ってとても偉そうな存在感を出していた人が、存在感をなくしてしまう。みんなが画面上で横並びになることで、雰囲気を出せる人よりも、論理的に言語化できる人の方が会議の主導権を握り、影響力を持つことができるようになっています。

もしも、いま学生だったら何を企画するか

もしも、いま学生だったら何を企画するか

では、Webを中心にサービスを手掛けるけんすうさんの視点からは、コロナ禍によってどのような変化があったと感じられますか?

けんすう
これまでも、テレビを見ながらLINEを使ったり、YouTubeを見ながらTwitterを使うといった「ながら視聴」がありましたが、その傾向が一層強くなっているように感じます。

オフラインでやっていた「生の体験」ができないため、体験としての密度を求めるために複数のメディアを同時に横断する。僕自身、音声配信をすることもあるのですが、そこでは、面白い話をするとあまり受けがよくないんです。
「アル」
けんすうさんが2019年にスタートしたWebメディア「アル」では、さまざまなマンガ情報が毎日更新され、マンガファンが集うコミュニティーとなっている。
https://alu.jp/

「面白い話が受けない」とは?

けんすう
別の言葉で言えば、集中して聞く必要がある濃密な話は受けない。それよりも、「ながら聞き」をしながら、同時並行で別のことをできるコンテンツの方が人気があります。フリクションレス、つまり摩擦が少なくサラリと摂取できるコンテンツをいくつも重ねるような感覚が求められている のではないでしょうか。

そして、そんな フリクションレスの優位性は、コンテンツだけでなく、サービスにおいても同様 です。

一般的にWebサービスでは「ネットワーク効果」が高いものが強いとされてきました。 つまり、Wordを使っている人が多いからみんなWordを使うし、みんながLINEを使っているからLINEを使う。

けれども、例えば今回大躍進した「Zoom」の場合、Zoomをインストールしていなくても使うことができる設計になっていて、URLを送れば手軽に使うことができます(PC利用時)。必ずしも ネットワーク効果が高くなくても、誰でも簡単に利用できる、そんなフリクションレスな仕様によって、Zoomというベンチャー企業はGoogleやMicrosoftに対抗することができた んです。

摩擦がないコンテンツが求められるのと同じく、サービスも摩擦をなくしていく。

けんすう
今、自分が手掛けているマンガのサービス「アル」でもそんな変化を意識しています。ここで今の「私を構成する5つのマンガ」を画像にしてTwitterで共有する企画を行ったところ、2日間で62万人もの人々が参加しました。

自分を構成する5つのマンガを選んでTwitterで画像をシェアできる「#私を構成する5つのマンガ」サービスは、多くの漫画家も参加しTwitter上で話題となった。
https://alu.jp/elementsOfMe/0T2kdyPIe1k8h6rcIhLF

けんすう
また、5月末から始めた「アルペイント(仮)」という機能は、絵を描く人が匿名でイラストのお題を募集し、描いたイラストをTwitterでシェアするもの。同じイラストサービスでも、pixivであれば、pixivの中にアカウントを作らなければならなかったのを、Twitterという既存のネットワークに乗ってストレスなく参加できる ようにしたんです。

そうして、既存のネットワークにフリクションレスに乗りながら、既存のネットワークを侵食していくというイメージでサービスを作っています。

Twitter上でお題を募集し、リクエストに沿った絵を描いて投稿するアルの新サービス「アルペイント(仮)」
https://alu.jp/paint

では、もしけんすうさんがこの渦中で早稲田の学生だったら、どんなサービスを企画していると思いますか?

けんすう
そうですねえ…。Zoomなどのオンラインでの集まりに適した若者を派遣するサービスを立ち上げたら面白いかなと思いました。例えば、オンライン飲み会にギャルを呼んだり、いわゆる“チャラ男”に「コール」をしてもらったりして、場を盛り上げてもらうとか。
佐久間
わはは。
けんすう
もしかしたら、真面目な会議の風向きを変えるために、偉い人相手でも物怖じしない破天荒な学生を一人呼んで新しい発想を生み出す、なんていう需要もあるかもしれません。

オンラインだからこそ、気軽に学生を派遣できますね。

けんすう
あと、これからのポイントはオンラインで面白い人と、オフラインで面白い人って違うというところ。話すタイミング、相づちのタイミング、場の盛り上げ方も、オンラインでは異なっているように感じます。

そんな感覚に明確な証拠はありませんが、こういうサービスを立ち上げるときに大事なのが「オンラインとオフラインでは求められる面白さが異なるんです」と言い張って注目を集め、ノウハウを身に付けていくこと。

そうして例えば「オンライン飲み会への盛り上げ要員派遣」というカテゴリでトップを取ることができれば、テレビなどの他のメディアからも注目を集めるでしょう。学生の場合は、稼げる稼げないは関係なく、社会の注目を集めるだけでも十分に価値があるんです。
佐久間
僕が学生のころには、仲のいい友達が「胴上げ同好会」というサークルを作っていましたよ。
けんすう
それ、覚えてます!
佐久間
そいつらは「胴上げのテクニックがあります」と言い張ることで、結婚式での胴上げや、広告での胴上げ、テレビの仕事などをこなし、めちゃくちゃ人気になった。そういう企画は 学生だからこそできること ですよね。
けんすう
学生がどこかの会社やサービスのモノマネをしても、本物よりクオリティーが低い企画ができるだけ。学生だからこそ作れる一番クオリティーの高いものを狙った方がいい ですよね。

早稲田で出会った「モンスター級の才能」たち

早稲田で出会った「モンスター級の才能」たち

早稲田大学在学中の佐久間さん

一方、佐久間さんが今学生だったら、どのような企画を考えているでしょうか?

佐久間
今、僕が学生だったら、オンラインで見ることができる映画や演劇などのキュレーションサイト を作ってるんじゃないかな。今、オンラインで見られるものが乱立していて、見逃してしまうものがとても多いんです。オンラインでやっているものを束ね、エンタメの後押しになるようなことをしていたでしょうね。

佐久間さんはラジオでも、よくカルチャー関連のトークをしていますが、大学生のころから映画や演劇などを見ていたんですね。

佐久間
僕は福島県いわき市の出身なのですが、地元にいたころから映画、音楽、演劇などがとても好きだったんです。ただ、今でこそ地方にいても文化を享受することはできますが、当時はネットも未発達で、東京との文化格差が大きかった。

だから、大学で学ぶために上京したというよりも、ミニシアターや演劇を見るために東京に出てきたという意味の方が強かった ですね。早稲田に合格し、一人暮らしを始めると、授業を受けるよりも先に鴻上尚史さんや三谷幸喜さんのチケットを取っていました。

学生時代にはサークル活動などは行っていたのでしょうか?

佐久間
大学2年生までは広告研究会に所属 していました。大学でやりたいことも特になく、新歓で最初に勧誘されたから入ったという理由です。広告研究会は当時から100人以上が所属する大所帯で、まるで会社みたいにコピーを書く部門、イベント部門、CM部門などと分かれていたのですが、1〜2年生のころは営業担当としてスポンサーを見つけてくるのが仕事でした。しかし、この仕事があまりにも大変で「こんなことやりたいんじゃない! 映画や演劇が見たいんだ」と思って辞めてしまったんです。
大学時代の佐久間さん
仲間と共に野球早慶戦の応援をする大学時代の佐久間さん(後列左端)
佐久間
途中で辞めてしまいましたが、当時、広告研究会にはずばぬけた才能を持つ人ばかりが在籍していて大きな影響を受けました。ドラマ『テセウスの船』(TBS)などを手掛けている大映テレビの渡辺良介、日本テレビに在籍して映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』や、DREAMS COME TRUEのコンサートをプロデュースしている依田謙一。それに『ゆれる』がカンヌ国際映画祭に正式出品された映画監督の西川美和といった同期たちは、日常の雑談から既に面白かった。

入学当初は、自分で何かを作ることにも興味があったのですが、彼らの姿を見て「東京って、こんなにレベルが高いのか…」と思い知り、楽しむ側になろうと決めましたね。今から振り返ると、将来のカンヌ映画祭出品監督なんて相手が悪すぎたと思いますが(笑)。
けんすう
モンスター級の才能たちに囲まれていたんですね!
プロフィール
プロフィール

佐久間 宣行

佐久間宣行(さくま・のぶゆき) 1975年、福島県生まれ。1999年、早稲田大学商学部卒業。テレビ東京プロデューサー。2005年から続く深夜バラエティー『ゴッドタン』のほか、『あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜』『ウレロ☆未確認少女』など数々の人気番組を手掛ける。『ゴッドタン』から誕生した「キス我慢選手権」「マジ歌選手権」などはリアルイベントでも大盛況となる人気企画。ニッポン放送『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』ではラジオパーソナリティーも務める。@nobrock

古川 健介(けんすう)

古川健介(ふるかわ・けんすけ) 1981年生まれ。2006年、早稲田大学政治経済学部卒業。マンガ情報共有サービス「アル」代表取締役。浪人時代に受験情報掲示板「ミルクカフェ」を開設したのち、早稲田大学在学中には現「したらば掲示板」を運営していた株式会社メディアクリップの代表取締役となる。2007年、株式会社リクルート在職中(2009年退社)に「nanapi」運営元会社を起業。その後も数々のサービスを立ち上げる起業家。@kensuu

取材・文:萩原 雄太

1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。http://www.kamomemachine.com/
編集:横田 大、裏谷 文野(Camp)
イラスト:日向 山葵
デザイン:中屋 辰平、林田 隆宏
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