

『ドラゴンクエスト』の生みの親・堀井雄二さんへの現役早大生インタ ビュー企画第 2 弾。今回は、早稲田大学卒業後フリーライターだった堀 井さんがゲームクリエイターになった経緯から、『ドラゴンクエスト』シ リーズの開発に至ったエピソードなどをたっぷりと。中でも印象的だっ たのは「人生はロールプレイング」というせりふ。それは、ちまたにあ ふれる半可通で聞こえのよいフレーズなどではなく、世界に誇るロール プレイングゲームを生み出し、決して他人に“ロールプレイングできない人生”を歩んできた堀井さんだからこそ言い得た、実のある言葉でした。 「人生の主人公は自分」「経験が未来を創る」「面白いシナリオを描く」 など、人生を切り開いていくための示唆に富むお話になりました。

石原 景太(いしはら・けいた)さん(基幹理工学部 3 年・早稲田コンピュータエンタテインメント幹事長)
- 石田
- そもそも、漫画家志望からライターになった堀井さんが、ゲームデザイナーになったのはなぜですか?
- 堀井
- 27歳くらいで「これからはマイコン(マイクロコンピュータ。集積回路に実装されたコンピューターシステム・プロセッサーのこと)だ!」という記事を読んでコンピューターを買い、『信長の野望』や『スタートレック』のゲームのプログラムで遊んでいるうちに、自分でもパソコン用の占いゲームなんかを作って、友人に遊んでもらったりしていました。
- 内野
- それは趣味としてですか?
- 堀井
- そうですね。そしてライターとして当時のエニックスが始めたゲームプログラムのコンテストを取材する時に、僕も事前にテニスゲームを作って応募しておいた。授賞式に行ったら、僕のゲームも入選していてね。そこで出会ったのが今、スパイク・チュンソフト(ゲームメーカー)代表の中村光一くん。後に二人で『ドラゴンクエスト』を作ることになるんです。もう30年以上前ですが。
- 向山
- そうした経緯の中で、学生時代の経験でお仕事に生かされたものには、何がありましたか?
- 堀井
- 漫画を描いていたことは、『ドラゴンクエスト』に結構結び付いていますよ。せりふだけでシナリオを進めることや、読みやすくて、なるべく短く面白いせりふを書くことは、漫画の吹き出しのせりふと同じ。だらだらさせないで、一つ一つの会話をドラマチックに組み上げていく。その感覚は、漫画で身に付きました。

向山 航(むこやま・わたる)さん(商学部 3年、漫画研究会幹事長)
- 内野
- 私は『ドラゴンクエスト』のキャッチコピーも大好きで『ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君』の「見渡す限りの世界がある」なども、堀井さんが考えられたのでしょうか?
- 堀井
- そうですね。それはライター時代の経験がすごく役立っていますね。ちなみに、僕が最も『ドラゴンクエスト』らしいと思うのは、『ドラゴンクエストⅦ エデンの戦士たち』の「人は誰かになれる」です。
- 内野
- 『ドラゴンクエスト』は新作ごとに新しいアイデアが詰め込まれていますが、普段からメモを書きとどめたりされるのでしょうか。
- 堀井
- いや、しないです。意外とね、その時その時の感覚で考えていて(笑)。シナリオも書き出すと速いですが、そこまでテンションを上げるのに時間が掛かりますね。「さて書こう!」と始めたはいいものの、書き出すまでに5時間くらいぼけーっとすることもありますね(笑)。
- 石田
- 1作のシナリオを書くのに、どのくらいかかるものですか?
- 堀井
- 今は、シナリオ量も膨大なのでスタッフを使っても1年くらいかかるんですが、初期は本当に速かったです。初代の『ドラゴンクエスト』は1カ月くらいでした。
- 石田
- 初期のファミコンカセットもパソコンゲームも、メモリの容量が少ないのでテキストの分量にもかなり制限があったと思いますが?
- 堀井
- そうそう、だからどんどん削るんです。僕が最初に作った『ポートピア連続殺人事件』なんかは、使える容量が32KBしかない。そこで助詞を削ったり、フレーズを丸ごと切り詰めたりして収めました。その方が、文章がキュッとしてテンポが良くなるんですね。その苦労のおかげで、『ドラゴンクエスト』でも面白い言い回しがたくさん生まれましたよね。


- 石原
- こうしてお話を聞いていくと、堀井さんが学生時代から経験されたことの全てが、今につながっている気がします。
- 堀井
- そうですね、自分でも運は良かったと思います。ゲームの仕事を始めたのがちょうどコンピューターの創成期。そこから性能がどんどん上がっていったので、いろんなアイデアを具現化できた。『ドラゴンクエスト』も、『ドラゴンクエストⅠ』はロールプレイングのエッセンスだけを集約しましたけど、その後ハードが進化して容量が増えたおかげで、『ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々』ではパーティプレイを実現させることができ、『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ・・・』では転職ができるようになりました。さらに、『ドラゴンクエストⅣ導かれし者たち』ではシナリオを章立てにしたり、『ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君』では3Dで表現した見渡す限りの世界が作れました。今でこそ当たり前ですが、2004年当時は画期的なことだったんです。

- 石原
- 常に最前線を目指されていたんですね。そういう堀井さんは、誰でもコンピューターに触れ、誰でもゲームを作って発表できるようになった今の状況をどのようにご覧になっていますか?
- 堀井
- 発表の場はたくさんありますが、逆に注目されるのは難しいですね。WCE(早稲田コンピュータエンタテインメント)の皆さんは、1本のゲームを何人で作っていますか?
- 石原
- プログラマーとグラフィッカーとサウンドの3人一組で1年に1本、ゲームを作っています。ただ、なかなか画期的な作品は作れていません。面白いアイデアは堀井さんや先輩方が、もうやり尽くされた感じがします。
- 堀井
- 今は何でもできるので、驚きをどこに出すか、工夫が必要でしょうね。『ドラゴンクエスト』も主人公に自分で名前を付けて、それをキャラクターが呼んでくれるのは、初めてのことでした。そういう初めての体験があると、ユーザーさんは興奮してくれるんです。
- 石田
- 確かにそうですね。
SNSは、リアルが影響される
ロールプレイングゲームそのもの
- 堀井
- その意味で、最近新しかったのがSNS。僕はTwitterやFacebookもゲームだと思っているんですよ。自分がやったことに対して、リアクションがあるし、うそを書いてもいい(笑)。まさにロールプレイングゲームですよね。自分のプロフィールというものを装備して、ネットの世界に冒険に出るんだから。
- 一同
- あぁ!!
- 堀井
- しかも、その冒険の結果、自分のリアルも影響される。実に面白いゲームですよ。だから皆さんはまってらっしゃるんだと思います。それに対抗するゲームを作るのは、結構難しい(笑)。
- 内野
- それを打破するには、どういう発想が必要でしょうか?

- 堀井
- 発想を転換して、いかに意表を突くドラマを盛り込むかでしょうね。例えば『ドラゴンクエストⅢ』だと、イベントで宿屋で目が覚めて誰もいなくなっていたら驚くだろう、いきなり自分が王様にされたらびっくりするだろうとか。いたずら心に近いかもですね(笑)。
- 石原
- そこにも、漫画の経験が生きているのですね。そしてもう一つお聞きしたいのが、堀井さんから見て僕らのように、学生でゲームクリエイターを目指す人はどう見えますか?
- 堀井
- うん、ぜひ頑張ってほしい。今は、すごく道は険しいですが、逆に言うと少人数で作るゲームには、可能性もあると思うんです。少人数ならお金を掛けずに作品を世に出せますからね。
- 石原
- 僕はスマートフォンを利用した手軽なVR(仮想現実)ゲームを作りたいんですが、堀井さんはVRをどう捉えていらっしゃいますか?
- 堀井
- すごく興味はあります。あの没入感はすごいです。女の子がすぐ近くにいるようなゲームもありますが、現実に帰って来なくなる人がいるんじゃないかな? と思いますよ(笑)。漫研のお二人は、どういう作品を描いていきたいですか?
- 向山
- 僕は今ではもっぱら読む方が専門なので…。
- 内野
- 私は漫画の原作を書くのですが、本を集めている所が1カ所しかない世界で、特殊な力を持つ本たちを悪漢から守る主人公のお話を構想しています。
- 堀井
- それは面白そうですね。ゲームっぽい設定だから、WCEと協力してゲームにしてみたらいいんじゃないですか?
- 石原
- いいですね! ぜひお願いします。
- 内野
- お話が出来上がったら、考えたいと思います。


- 石田
- 先ほど、今はゲーム作りが難しいとおっしゃっていましたが、堀井さんは今後のゲームは、どういう方向に向かうと思われますか?
- 堀井
- 期待されているのは、ゲームをやることでリアルが影響されるものだと思います。さっきSNSの話をしましたけど、ゲームをやることで何かとつながって、自分の世界がちょっと広がるとか、成長できるとか。
- 石田
- 通信プレイができる『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』やオンラインゲームの『ドラゴンクエストⅩ オンライン』は、その考えから生まれたのですか?
- 堀井
- そうですね。『Ⅸ』はまさにそうでしたね。皆さんが地図を探すために、ニンテンドーDSを持って街に冒険しに出て行った。バーチャルがリアルを侵食した瞬間でしたよね。それにもともと『ドラゴンクエスト』は、コミュニケーションツールでした。解法やヒントを友達同士で共有し合った。それが『Ⅹ』でネット上になったわけですね。だから、僕がこれから作るものも、SNSのような人同士のつながりがありつつ、シナリオをちゃんと楽しめるゲームがいい。

- 石原
- 今開発中と伺っている最新作『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』も、新しいことにチャレンジされているのですか?
- 堀井
- そうですね。きっと皆さんに驚いてもらえる、新しくてより面白い『ドラゴンクエスト』になると思いますので、楽しみにしていてください。
- 向山
- 最後に、大先輩から早大生に学生時代にやっておくといいことを、アドバイスいただけますか?
- 堀井
- そうですね。学生さんは、まだたくさん時間が残されているうらやましい存在です。その時間を有効に使って、外に出て人と付き合い、いろいろなところへ行き、いろいろな人を見てほしい。その経験が全部、実になって将来を変えていけるはず。自分の人生の主人公は、他の誰でもなく自分自身です。それこそ…人生はロールプレイングゲームなので、この先どうなっていくか、自分が主人公の面白い人生のシナリオを、描いていってほしいと思います。

- 堀井 雄二(ほりい・ゆうじ)
- 1954年、兵庫県生まれ。1978年、早稲田大学第一文学部卒業。フリーライターとして活躍中に、ゲームデザイナーの道を歩み始める。アクションゲームが主流だった時代に、独特なゲームを手掛けて成功を収める。その後、ロールプレイングゲーム(RPG)『ドラゴンクエスト』シリーズを世に送り出し、日本のRPGの礎を築くと共に、現在もゲーム業界に多大な影響を与えている。