Waseda Weekly早稲田ウィークリー

ブラワセダ<前編>〜夫婦で思い出の早稲田を歩く〜

16年ぶりのバッティングセンターと今も通い続ける早稲田の名店メルシー

今年で結成21周年を迎えたファンクバンド「SCOOBIE DO(スクービードゥー)」のドラマー・オカモト"MOBY"タクヤさん(2000年第二文学部卒)と、労働系女子マンガの研究者として早稲田大学文学学術院で非常勤講師を務めるトミヤマユキコさん(2003年法学部卒、2012年文学研究科博士後期課程満期退学)。実はこの二人、結婚3年目の夫婦にして、早稲田の公認音楽サークル「BRITISH BEAT CLUB」の先輩後輩という間柄。野球・クイズ・ラーメン・ラジオ・パンケーキ・ネオ日本食など、「バンドマン」「大学講師」という枠組みに収まらないマルチな活躍を見せる二人に、大学周辺を散策しながら学生時代の思い出について語り合っていただきました。聞き手は、二人と親交の深いライターの清田隆之さん(2005年第一文学部卒、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)です。

タクちゃんさ……、何でのっけからバッティングセンターにいるわけ?
ここ来るの、多分16年ぶりくらいだよ!(カキーン)まったく変わってなくて、完全に時間が止まってる!(カキーン)俺、4年間も体育で野球を取ってて、東伏見のキャンパスに毎週通ってたのよ!(スカッ)授業終わると早稲田に戻ってきて、部室に荷物を置いてからここでちょっと打って、それから二文(※第二文学部)の授業に行くのが定番コースだった!(カキーン)

新目白通り沿いにある「ワセダオートテニスプラザ」にて。
20球中ヒット性の当たりは8本、4割という高打率を残したMOBYさん。

──トミヤマさんは初めてここへ?

そうですね。早稲田からいろんなルートで帰るのが趣味で、ここの前も通ったことはあったんですが、こんなに雰囲気のあるいい場所だったとは知らなかったです。それにしても、男子ってバッティングセンターに来るとみんな“オス成分”が出ますよね(笑)。MOBYも普段は穏やかな人だけど、こういうところに来るとなぜかちょっとオラつくんですよ。車の運転中にそうなる人もいるじゃないですか、あれって何なんですかね。
当時、野球の授業を担当されていたのが西大立目永(にしおおたちめ・ひさし)先生(早稲田大学名誉教授)で、この方は高校野球の名審判として有名な人だったんですよ。それである日、西大立目先生に「岡本くん、たけし軍団に入らないか?」って言われまして。
えっ、何で?
先生はかつて、珍しい名字をビートたけしさんにイジられ、クレームを言ったら自宅に招待されて仲良くなったらしいのよ。それで、「野球ができれば誰でもたけし軍団に入れるから」って(笑)。あのときたけし軍団に入ってたら今頃どうなっていただろう。
タクちゃんはクイズが好きだから(※)、『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」(1989年〜1996年日本テレビ系)に出てたかもね(笑)。ちなみに私は高田馬場の「山手卓球」派だったな〜。午後の授業をサボって、学校帰りの小学生に混じってよく卓球をやってました。

アニメ版『ピンポン』のタムラ卓球場のモデルになった「山手卓球」前にて。
レトロな店構えの前でエア卓球のポーズを取る二人。

※MOBYさんは、幼少期から『アメリカ横断ウルトラクイズ』(日本テレビ系)の大ファン。それが高じて、一時はプロのクイズ作家としても活躍していた。その実力は『全国高等学校クイズ選手権』(日本テレビ系)で作問を担当したり、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」内でクイズコーナーを行うほど。

というわけで唐突に高田馬場まで来たけど、せっかくなので一つ思い出の場所に寄ってもいい?
…って、ちょっとタクちゃん、道端で何してんの(笑)。
ここにはね、大学時代に通いまくってた「ディスクファン」があったんですよ! 音楽ライターの松永良平さんが当時ご夫婦で働いていらして、良質なレコードを市場価格よりも2〜3割安く、しかもお金が入るまで一週間取り置きしてくれるという良心的なお店だった。SUGAR BABE(※1970年代に山下達郎さんを中心に活動していたバンド)のオリジナル版とか、いろいろ買ったな〜。あと、この場所に100円の“エサ箱”があって、よくこうやって掘ってたのよ。のちにスクービーでCDを出したとき、松永さんにインタビューしていただいたんだけど、「もちろん君らのことは知ってるよ」って言ってくれて、すごくうれしかった。今でもたまに取材してもらってます。

──よく店に来ていた学生がプロのミュージシャンになったなんて……めっちゃいい話! 松永さんもうれしかったでしょうね。

「メルシー」にてランチ。二人ともここのラーメンが大好物。

そんなわけでユキちゃん、駆け足でいろいろ回ってきたけど、これから洋画家にして早稲田大学名誉教授の藪野健(やぶの・けん)先生に早稲田を案内していただくので、その前に腹ごしらえでもしようじゃないかということでメルシーにやってきました。
唐突に連れて来られたけど……メルシーは大好きです! ところで、藪野先生って14号館とか8号館とか中央図書館に絵画が飾ってある超有名な先生だよね? なぜそんな偉い方がわざわざ私たちのために案内役を?

──そうなんです! このふわっとした企画に「早稲田を隅々まで知り尽くしている藪野先生に、もし案内していただけたら、これほど心強いことはないのですが……?」と恐る恐るご相談したところ「学生のためなら!」とご快諾いただきまして、特別ゲストとしてご登場いただくことになりました。

ぜいたく過ぎますよそれは、畏れ多いでしょ(笑)。
それにしても、今の時代にラーメンが400円で食べられるって相当すごいことだよね。昔はそれこそ「大学近くのウマいラーメン」という気持ちで食べていたけど、実はラーメン通の間でも名店と誉れ高い店で、方南町に「蘭鋳(らんじゅ)」という“メルシーインスパイア系”のお店もある。

私がメルシーを食べるようになったのは院生になってからなんだよね。学部生の頃は“カレー期”で、「メーヤウ」のレッドカレーを一生分ってくらい食べたんだけど、大学院の友達にメルシーを教えてもらってから一気に“ラーメン期”に突入し、早稲田の先生になった今なお通い詰めています。
ワイフは一度ハマると同じもんばかり食べるんですよ。めかぶばっか食ってた時期もあったし、芋ようかんにハマった時期もあったし、アルフォートを食いまくってた時期もあった。メルシーにもしょっちゅう行ってて、フードライター・小石原はるかさんの著書『自分史上最多ごはん』(マガジンハウス)でも彼女はここを紹介しています。

「この本の他に『BRUTUS』などでもメルシーを紹介したのに、
お店の人が顔を覚えてくれません。でもそれが最高なんですよ(笑)」とトミヤマさん。

──トミヤマさんは、あゆみBooksにもよく通われてたそうですね?

そうそう、今もよく利用させてもらってますよ。あ、一瞬寄っていいですか? ここのレジ横にあるマンガコーナーはチョイスが素晴らしくて、売れセンから渋い作品まで幅広くそろってます。「マンガ好きならこれは読んでおいた方がいいんじゃないんですか?」という店員さんのメッセージを感じる(笑)。ちなみにオススメは『働かないふたり』(吉田覚 作・BUNCH COMICS)。働かない兄妹の日々を描きながら労働の問題を考えさせてくれる新しいタイプの労働マンガだと思います。

あゆみBOOKSに入るなり、マンガ研究者らしく、まっすぐオススメマンガのコーナーへ進むトミヤマさん。

早稲田を知り尽くす案内人、ついに登場
MOBYさん、トミヤマさん、今日はよろしくお願いします。
今回の案内人:藪野 健先生
1943年、愛知県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科で美術史を学び、長年にわたって教べんを執ってきた早稲田大学栄誉フェロー・名誉教授。日本藝術院賞や早稲田大学大隈記念学術褒賞を受賞した洋画家でもあり、東京都現代美術館や神奈川県立近代美術館、アカデミーヒルズや衆議院に作品が収蔵され、現在は府中市美術館の館長も務める、すてきな先生。
よろしくお願いします! 藪野先生のご登場で、一気に“ブラワセダ”感が出てきました。私は学部生から今に至るまで17年間も早稲田に通ってるのに、大学のことも街のこともよく知りません。今日はいろいろ勉強させていただきます!
ではまず、大隈記念講堂に登りませんか?
からの…… ドン!!!
…って、先生! ここマジの頂上じゃないですか!
見晴らしがいいでしょ? サンシャイン60、椿山荘、旧田中角栄邸、日本女子大学、東京ドーム、文京シビックセンターなど、近隣の名所が一望できます。実はここから教室も丸見えなので、学生たちがちゃんと勉強してるか見るとしましょう(笑)。

――通常は時計塔内に立ち入ることはできないので、かなり貴重な体験ですね!

藪野先生がここにいると、塔の門番みたいで中世ヨーロッパ感がすごいです。
もはや、ジブリ映画の域!
ははは。大隈記念講堂は1927(昭和2)年にできた建物ですが、関東大震災がなければもっと早くに完成していたんですよ。震災前の計画では、今より1.5倍ほどの大きさで、1万人の収容も考えられていたそうです。先端を見ると早稲田の「W」になっていて、その下の四つ葉は大隈家の家紋「裏梅剣花菱」です。建築的にはイタリアのロマネスク様式を思わせますし、ゴシック様式でもある折衷主義になっています。
これってもしや、上棟式のときの看板ですか? めちゃくちゃキレイに残ってますね。90 年近く前のものには全く見えない。
大隈記念講堂の建設に関わったさまざまな人の名前がありますね。当時の総長である高田早苗、ここを設計した佐藤功一、東京タワーを設計した内藤多仲、明治生命館を設計した岡田信一郎など、そうそうたる顔ぶれです。
これ、どこかに飾らないといけないレベルのものじゃないですか! こんなところに横たえておいていいのだろうか……。
何か、ますます「早稲田に入ってよかった!」って思えてきました。歴史を知ると愛校心が高まっていきますね。

「すげえ! スマホの壁紙にしよう!」時計室の中に入り、あまりの美しさに大興奮のMOBYさん

歴史の息遣いを体感?キャンパスに残る伝統の痕跡
次は早稲田キャンパスを歩きましょうか。まず紹介したいのが、1号館のアイドル・茶太郎くんです。今日は寒くて箱の中に入っていますが、夏なんかは外に出てみんなに愛嬌(あいきょう)を振りまいてます。

先生が「まだ2歳くらい?」と聞くと、職員から「6歳くらいだったかと…??」との返事が。年齢すら諸説あり過ぎる、謎の猫・茶太郎。

この1号館西側入り口の円柱は、実は旧正門に使われていた柱を円形にして保存したものなんですよ。当時の正門は、今の正門と南門の間にある小さな扉の辺りにありました。
これは現在の大隈銅像の横にある、大正天皇が皇太子時代に植えられた月桂樹です。ここで学んだ学生が社会に貢献し、勝利と栄光のシンボルである月桂冠を頭の上に掲げられるようにとの思いが込められています。
ホントだ! 「御手植樹」と書いてありますね。私は法学部の出身なんですが、校舎の目の前に月桂樹があったこと、全く知りませんでした。4年間も通っていたのに……。
月桂樹ってローリエですよね。カレー好きにはおなじみの香りがします。
あれは何だか分かりますか?
あのかわいい箱みたいなものですか? 何だろう……?
実はあれ、ハトの家なんですよ。というのも、昔は校舎が木造で、そこにハトが巣を作って暮らしていたそうなんですが、コンクリート造りの校舎に改装され、ハトが住めなくなってしまった。そこで、代わりに作ったのがあの家だそうです。昭和初期まで使われていた校舎の灰色がかった緑色を模しています。
優しい……。昔の早稲田、やることがめちゃめちゃシャレてますね。デザインも素晴らしい。
次は會津八一記念博物館に行きましょう。ここは旧図書館だった建物で、早稲田大学理工学部を卒業後、弱冠24歳にして助教授となった建築家の今井兼次先生によって設計されました。中には横山大観・下村観山という日本を代表する画家が合作で描いた「明暗」という壁画があります。これがすごく面白いんです。
実はこの絵、こうやって近づいていくにつれて、「暗」から「明」に視界が開けていくというつくりになっているんです。思うに、勉強せず視野の狭い学生に対し「図書館で勉強すれば世界が見えるようになるよ」というメッセージになっているんじゃないかな(笑)。
鑑賞者が移動することを前提に描かれているわけですね。こんなに面白い絵なのに、今まで一度も見たことがなかったなんて!
いや〜、先生。それにしても知らないことだらけでした。大隈記念講堂も本キャン(※早稲田キャンパス)も学生時代からなじみのある景色ですが、そこにある歴史や由来を全く知らずに通っていたのが、何かもったいないことのように思えてきました。
ちなみにこの辺りは、寅さんシリーズの40作目『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』(※1988 年公開の映画)のロケで使われたんですよ。
それ、授業で聞いたことあります!
ちなみに僕、7月6日の“サラダ記念日”生まれなんですよ。俵万智(※1985年第一文学部卒業)さんが歌った、「この味がいいねと君が言ったから 七月六日はサラダ記念日」でおなじみの。
その情報は、どうでもよ過ぎる(笑)。

──後編は再びキャンパスを抜け出し、藪野先生と早稲田かいわいの名所を散策。古地図や坂道、はたまた恋愛トークまで飛び出して、より“ブラワセダ”感の増した次回(12/14更新)、乞うご期待!

14号館にある藪野先生の絵画。タイトルは「集り散じて」。美術界で“藪野ブルー”と呼ばれている澄んだ青色が特徴的。
空に光るのは大熊座(=大隈)とカシオペア座(=形がW)。早稲田愛が凝縮された美しい作品です。
ブラワセダMAP

その他、大学構内については「早稲田キャンパスMAP」を参照ください
https://www.waseda.jp/top/access/waseda-campus

プロフィール
藪野 健
1943年、愛知県生まれ。洋画家、日本藝術院会員、二紀会副理事長。早稲田大学栄誉フェロー・名誉教授。広島大学名誉博士。早稲田大学大学院文学研究科で美術史を学び、早稲田大学、武蔵野美術大学などで、長年にわたって教べんを執る。著書に『東京2時間ウォーキング』(共著・中央公論新社)『絵画の着想―描くとはなにか―』(中央公論新社)『プラド美術館 名画に隠れた謎を解く』(中央公論新社)『早稲田風景~紺碧の空の下に~』(中央公論新社)などがある。現在は府中市美術館の館長も務める。
オカモト"MOBY"タクヤ
1976年、千葉県生まれ。4人組ファンクバンド「SCOOBIE DO」ドラム兼マネージャー。2000年、早稲田大学第二文学部卒業。早稲田大学在学中にスタートしたバンド活動が2015年に20周年を迎え、日比谷野外大音楽堂で記念ライブを敢行。野球とクイズとラーメンをこよなく愛し、年間80本のライブで全国を回りながら、草野球やクイズ研究にも精を出す日々を送る。
トミヤマユキコ
1979年、秋田県生まれ。研究者・ライター。2003年、早稲田大学法学部卒業、2012年、同文学研究科博士後期課程満期退学。早稲田大学などで少女マンガを中心とするサブカルチャー関連講義を行う。マンガ・ファッション・フードといったテーマを中心に、雑誌『ESSE』や『文學界』、ウェブメディア「タバブックス」「女子SPA!」「AM」などで連載を持つ。著書に『パンケーキ・ノート おいしいパンケーキ案内100』(リトル・モア)がある。
清田隆之
1980年、東京都生まれ。文筆業。2005年、早稲田大学第一文学部卒業。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。大学在学中に桃山商事を立ち上げ、これまで1000人以上の悩み相談に耳を傾ける。現在はそれをコラムやラジオで紹介し、雑誌『精神看護』やウェブメディア「日経ウーマンオンライン」などで連載。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)がある。
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