Waseda Weekly早稲田ウィークリー

MOBY×トミヤマユキコのブラワセダ #後編 〜夫婦で思い出の早稲田を歩く〜

芭蕉の“古池”とハルキスト大興奮の聖地巡礼

今年で結成21周年を迎えたファンクバンド「SCOOBIE DO(スクービードゥー)」のドラマー・オカモト"MOBY"タクヤさん(2000年第二文学部卒)と、労働系女子マンガの研究者として早稲田大学文学学術院で非常勤講師を務めるトミヤマユキコさん(2003年法学部卒、2012年文学研究科博士後期課程満期退学)。結婚3年目の夫婦にして、早稲田大学公認音楽サークル「BRITISH BEAT CLUB」の先輩後輩だったお二人が、藪野健先生(早稲田大学栄誉フェロー・名誉教授)の案内で大学周辺を散策する本企画。後編はキャンパスを抜け出し、早稲田かいわいの名所を舞台にお届け。古地図や坂道、古い建築など、より“ブラワセダ”感の増した今回。彷徨(ほうこう)は次第に深みを増し、最後はお二人の人生論にまで飛び火しました。
聞き手は前回に引き続き、二人と親交の深いライターの清田隆之さん(2005年第一文学部卒、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)です。

今回の案内人:藪野 健先生
1943年、愛知県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科で美術史を学び、長年にわたって教べんを執ってきた早稲田大学栄誉フェロー・名誉教授。日本藝術院賞や早稲田大学大隈記念学術褒賞を受賞した洋画家でもあり、東京都現代美術館や神奈川県立近代美術館、アカデミーヒルズや衆議院に作品が収蔵され、現在は府中市美術館の館長も務める、すてきな先生。
そんなわけで先生、後編ではキャンパスを飛び出して早稲田かいわいの名所探訪が始まったわけですが…。
この森は一体、どこですか(笑)。
いいところでしょ? 大学から歩いて10分ちょっとで来られる場所にこんな見事な庭園があるなんて、本当に素晴らしいですね〜。

――こちらは、本キャン(早稲田キャンパス)から新目白通りを越え、神田川を渡ったところにある「関口芭蕉庵」です。江戸時代を代表する俳人・松尾芭蕉(1644~1694年)がかつて住んでいた場所だとか。

へえ〜。私、大学院時代からしばらく池袋の方に住んでいて、自転車通学をしていたんですが、ここの前とかしょっちゅう通っていたのに、一度も来たことがなかったです!
実は松尾芭蕉という人は、今でいえば神田川の上水道管理の現場監督のような存在でした。“テクノクラート”といったところしょうか。そのときに住んでいたのがこの辺りです。池をぐるりと一周できる「回遊式庭園」になっているのが特徴的ですね。お隣には、上水道を守る水神社があります。
芭蕉にそんなもう一つの顔があったとは、初耳でした。そして句碑もありますね。「ふる池や 蛙飛びこむ 水のをと」って……えええっ? まさか先生、あの“ふる池”ってもしかしたらこの池のことですか!?
ふふふ…どうでしょうね〜。こんなところに句碑があると、そう思っちゃいますよね。
そんなことを考えながら散策すると一層楽しいですね。

古地図を基に地域の歴史をレクチャーしてもらう一同。クイズフリーク・MOBYさんの知識欲に火が付く。

なるほど、ここの「関口」というのは、神田川の関があり、その入り口だったことから付いた地名だったんですね。
そして、さらに坂を上った辺り一帯が「関口台」です。関口の「関」は、神田上水の流れを2つに振り分けるダムの「堰」(せき)から来ています。飯田橋方面へは落差がありますから、「関口の滝」として名所になっていました。地名の由来をひもといてみると、その土地の歴史が見えてきますよね。
“ブラワセダ感”がすごい(笑)。

芭蕉庵横の急階段(胸突坂/むなつきざか)を上り切り、目白台へ。
細川家の屋敷跡で、数多くの美術品や文化財を収蔵する「永青文庫」や、
村上春樹が大学時代に下宿していた学生寮「和敬塾」などがあり、
興奮しつつ目白通りまで抜ける御一行

あれが全ての“ハルキスト”(※1)が詣でると言われる和敬塾かあ〜。
何と言ってもここは『ノルウェイの森』(村上春樹著/講談社)の舞台にもなったところだからね。ハルキストの俺としては、完全に聖地巡礼の気分ですよ! あの庭で“突撃隊”(※2)がラジオ体操してたんですね〜。
もうちょっと行くと、個人的に東京で最も美しい坂だと思う「富士見坂」があるので、そこを下って早稲田に戻りませんか?

※1 小説家・村上春樹の熱狂的なファンの通称
※2 『ノルウェイの森』に出てくる登場人物。大学で地理学を専攻する学生で、毎朝ラジオ体操することが日課。常に学生服で、右翼学生のような格好だったため、この「突撃隊」のあだ名が付けられた。

数々の作品に登場した東京一の名坂道から見る絶景
目白通りと新目白通りの間にはかなりの高低差があって、目白台や関口台といった名前がついているのもそのためなんですが、この南北を走るラインには見晴らしのいい急勾配の坂道がたくさんあるんですよ。先ほど上ってきた胸突坂もその一つですね。崖地が山の手の特色でもあります。
和敬塾の横に出る幽霊坂も有名ですよね。私も通学路として何度か通ったことがあります。自転車通学だと、行きは景色も良くて最高なんですが、帰りは自転車を押して登らないといけないから、めっちゃキツかったなあ…。
中でも最高に見晴らしが素晴らしいと思うのが、この富士見坂です。富士山が見通せる場所に「富士見」という名が付いているのは、よく知られていますよね。
たくさんありますよね。中野富士見町とか、富士見ヶ丘とか、富士見台とか。確か渋谷の宮益坂も、かつては富士見坂と呼ばれていたそうです。
富士見坂で記念撮影。実際に立ってみると写真以上の急勾配!
市川準監督の映画『東京兄妹』にこの坂が登場するんですが、お兄ちゃんが自転車に妹を乗せ、ブレーキを掛けずに下っていくシーンがあるんですよ。
実際にやったら絶対事故りますね(笑)。でもここはホントに絶景です。調べてみると、劇場版アニメーション『時をかける少女』(監督:細田守)でもこの坂は描かれているし、『孤独のグルメ』でおなじみの谷口ジロー×久住昌之コンビが描いた『散歩もの』というマンガの表紙にもなっているようです。

『散歩もの』(作:久住昌之・画:谷口ジロー/フリースタイル)
『孤独のグルメ』同様、主人公がただひたすら東京の渋い土地を歩き回るだけの名作マンガ。

ここはY字路になっていて、左手が江戸時代からある「日無坂(ひなしざか)」です。ここを下れば早稲田へ出られるので、こちらから帰りましょう。
あっ、あれって「看板建築」ですよね? 正面から見ると洋風、でも裏は質素な和風建築という、“びんぼっちゃま”(※)的な建物(笑)。
よくご存じですね〜。関東大震災後に数多く造られた建築様式で、せめて正面だけはモダンにという商店がこぞって看板建築を採用していました。大正期の東京では商店街に看板建築がずらっと並び、なかなかシャレた風景を形成していたようです。
お金がなくても、しっかり表面はオシャレに装う。商家の美意識を感じますね。その心意気にシビれます。

※漫画『おぼっちゃまくん』(小林よしのり作/小学館)の登場人物。元上流家庭のお坊っちゃんだが没落し、家も服も前から見える部分だけ立派な装いをしている。

早稲田に戻ってくる頃には、日もとっぷり暮れていました。奥に見えるのは都電荒川線の早稲田駅。

先生も早稲田の卒業生ですが、学生のころはどこに住まわれていたんですか?
早稲田鶴巻町に住んでいたんですよ。大学から近すぎて、先生まで遊びに来られて、困ったこともありました。授業をサボって寝てたりすると大変です。お酒好きの先生は「手が震えるからビール買ってきてくれないか?」とか言われて。飲むと震えがキュッと止まってね。今じゃ考えられない話ですよね(笑)。
すごい話ですけど、そういうことが許されていたなんて、いい時代だなあと思います。

そして大隈記念講堂前に戻り、藪野先生とはお別れの時間。

今日は本当に楽しかった。最高のメンバーでしたね。今日はこれからこまつ座のお芝居を見に行く用があるので、今度またみんなで飲みましょう。これ、私のアドレスです(笑)。
おおお! ありがとうございます。ぜひぜひ打ち上げしましょう!
今日は本当にお世話になりました。おかげで早稲田偏差値がかなりアップしました。
思い出の場所「一休」で語るMOBY×トミヤマの夫婦論
いや〜、タクちゃん。今日は朝からお疲れさまでした。藪野先生のおかげで最高の“ブラワセダ”になりましたね。
そんな一日を締めくくるには、ここしかないでしょ! というわけで、学生時代に通い詰めていた「一休」へやってまいりました。

東京メトロ早稲田駅の3b出口横にある居酒屋「一休」。
おいしいお酒と料理をリーズナブルに提供してくれるお店で、
古くから早大生たちに愛されている名店です。

──二人はサークルの先輩後輩でしたが、やはりここでよく飲んでいたんですか?

ていうか、「一休」は私たちが初めて出会った場所、と言っても過言ではないくらい、思い出の場所なんですよ。私は4月28日生まれなんですが、ちょうど大学1年生、1年浪人しているので20歳の誕生日に、部室にいた先輩たちが「明日からゴールデンウィークだから飲みに行こうぜ」って誘ってくれて、その一人がタクちゃんだったんです。それで「実は誕生日なんです」って言ったら「おおマジか!」って話になって。それが“岡本先輩”とちゃんと話をした最初の機会でした。
懐かしいね。「富山、何でも食え!」って大盤振る舞いしたんだけど、支払いは一人3000円も行かなくて(笑)。
タクちゃんは当時5年生だったもんね。1年生の私からしたら、5年生って相当大人に見えたからね。しかもすでにスクービーでCDデビューをしていて、ちょっとした芸能人と飲んでる気分だった。そもそも私が早稲田に入ったのも、敬愛していた、いとうせいこうさんや真心ブラザーズの出身校だったからという、かなりミーハーな理由だったんだけど(笑)。

──それが今じゃ、夫の寝言をTwitterにさらす妻になってるわけですもんね。そう思うと感慨深いですね。(二人のなれそめに関してはマンガ家・谷口菜津子さんの記事に詳しいので、こちらも合わせてご覧ください)

ガツ、鳥皮、ハツ、ラビオリ、いわしのみりん干しなど、
学生時代から食べ親しんだ好物を注文するMOBYさん。
何なんだ、この仲良し感は!

でもね、こんなことを言うのも変なんですけど、私たちって別にそこまで「恋愛結婚!」って感じでは正直ないんですよ。寝室も別々だし。

──えっ、そうなの!?

うん。僕はね、昔から「アン・シャーリー」(モンゴメリ著『赤毛のアン』の主人公)みたいな頭のいい女性が好きで、大人になって久しぶりに再会したとき、一発で「この人だ!」って感じで惹かれたんだけど……ユキちゃんは俺らのこと、よくサザエさんの「磯野と中島」に例えているもんね。
そうそう。どちらかと言うと同性の相棒というか、「磯野、野球やろうぜ!」的なバディ感が強いんだよね。男としてほれたというより、「この人面白い!」のほうが強い。でも、私にとってそれは一番大事な要素なんですよ。

──なるほど。恋愛感情もさることながら、人生を一緒に歩んでいく相手としていいパートナーシップを築けるかどうかって、むしろこれからの結婚においてどんどん重要になってくる要素かもしれない。

僕としても、この人と公私を共にしたいという思いがあったんですよ。今のスクービーはインディーズバンドとしてやっていて、僕はドラムでありながらマネージャーもやっている。経理なんかも他のメンバーがやっているんですよ。ユキちゃんも同じように独立して好きな仕事をやっていて、その頑張りを見てるとすげえ刺激になるし、語弊を恐れずに言うと「この逸材をしっかり育てなきゃ」という思いもある。
私もよく結婚当初は「バンドマンと結婚して大丈夫なの?」って心配されたんですよ。バンドマンって、美容師、バーテンダーと並んで“付き合ってはいけない3B”に数えられる職業なので(笑)。でも、たまたまバンドやっていて音楽業界にはいるけど、実態としては“ちゃんとした社会人”って感じなんです。仕事として成り立たせるために、ドラム以外の役割もきっちりと全うしてるし、何より情熱を持って続けている。それに実績として、20年以上も食べていけてるわけだしね。そこは本当に尊敬してます。
あ、ありがとうございます!
私がやっている大学講師という仕事も、外から見ると何かちゃんとした職業に見えるかもしれないけど、非常勤の場合、実際は身分も収入も不安定で、実態はイメージとかけ離れています。でも私はとにかく好きなこと・楽しいことだけをやって生きていきたいタイプなので、自分の食いぶちは自分で稼ぎつつ、「こんな面白い人に会った」とか「あいつはムカつく」とか、日々のことをああだこうだしゃべりながら愉快に暮らしていきたいなと思ってて、タクちゃんはそういう“茶飲み友達”として最高に優秀なんですよ。

恋バナ収集がライフワークの桃山商事・清田に、プライベートなことまで根掘り葉掘り聞かれるトミヤマさんとMOBYさん。

茶飲み友達と言えば、嫌いな人とか、嫌いなお店とか、嫌いなブランドとか、嫌いなモノが似てるのはデカいよね。
そこが一番大事かもね。とにかく結婚相手は「茶飲み友達として優秀かどうか」で決めるべし! って、こんなめちゃくちゃな結論でいいのか(笑)。

──今日はどうもありがとうございました!

「一休」の大将にサインを求められ、大喜びのMOBYさん。「故郷に錦を飾った気分です!」

ブラワセダMAP

その他、大学構内については「早稲田キャンパスMAP」を参照ください
https://www.waseda.jp/top/access/waseda-campus

プロフィール
藪野 健
1943年、愛知県生まれ。洋画家、日本藝術院会員、二紀会副理事長。早稲田大学栄誉フェロー・名誉教授。広島大学名誉博士。早稲田大学大学院文学研究科で美術史を学び、早稲田大学、武蔵野美術大学などで、長年にわたって教べんを執る。著書に『東京2時間ウォーキング』(共著・中央公論新社)『絵画の着想―描くとはなにか―』(中央公論新社)『プラド美術館 名画に隠れた謎を解く』(中央公論新社)『早稲田風景~紺碧の空の下に~』(中央公論新社)などがある。現在は府中市美術館の館長も務める。
オカモト"MOBY"タクヤ
1976年、千葉県生まれ。4人組ファンクバンド「SCOOBIE DO」ドラム兼マネージャー。2000年、早稲田大学第二文学部卒業。早稲田大学在学中にスタートしたバンド活動が2015年に20周年を迎え、日比谷野外大音楽堂で記念ライブを敢行。野球とクイズとラーメンをこよなく愛し、年間80本のライブで全国を回りながら、草野球やクイズ研究にも精を出す日々を送る。
トミヤマユキコ
1979年、秋田県生まれ。研究者・ライター。2003年、早稲田大学法学部卒業、2012年、同文学研究科博士後期課程満期退学。早稲田大学などで少女マンガを中心とするサブカルチャー関連講義を行う。マンガ・ファッション・フードといったテーマを中心に、雑誌『ESSE』や『文學界』、ウェブメディア「タバブックス」「女子SPA!」「AM」などで連載を持つ。著書に『パンケーキ・ノート おいしいパンケーキ案内100』(リトル・モア)がある。
清田隆之
1980年、東京都生まれ。文筆業。2005年、早稲田大学第一文学部卒業。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。大学在学中に桃山商事を立ち上げ、これまで1000人以上の悩み相談に耳を傾ける。現在はそれをコラムやラジオで紹介し、雑誌『精神看護』やウェブメディア「日経ウーマンオンライン」などで連載。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)がある。
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