早稲田大学の周辺は日本でも有数の古本屋街で、30店舗を超える古本屋があります。各店舗が特徴あるラインアップで、所狭しと古本が積まれていたり、アンティークショップのように本が飾られていたり…と、たたずまいも違います。今回は、早大生を代表して古本好きの学生2人にその魅力を語ってもらいました。また、2人がそれぞれよく訪れる、早稲田に店を構えて数十年の老舗「飯島書店」と、出店して6年目の「古書ソオダ水」の2店舗を一緒に巡り、古本屋の奥深い世界をのぞいてみます。読書の秋に、お気に入りの1冊を探すべく古本屋巡りをしてみてはいかがでしょうか?
INDEX
さぁ、古本の世界へ!
▼古本好きの早大生が語ります
いざ、古本屋巡りへ
▼飯島書店
▼古書ソオダ水
▼お気に入りの1冊を見つけよう!
さぁ、古本の世界へ!
古本好きの早大生が語ります
今回、早稲田大学周辺の古本屋をナビゲートする、社会科学部3年の澤井さんと文化構想学部4年の鹿島さんは、共に大学公認の文芸サークル愁文会所属で、古本屋巡りが趣味。「好きが高じて、自宅は古本だらけ」 という2人が語る、古本の魅力とは? 数多くの古本の中でも、特にお気に入りの1冊とともにその魅力を教えてもらいました。
偶然の出合いで、ストーリーが漂う古本を見つける
社会科学部 3年 澤井 崇(さわい・たかし)
文化構想学部 4年 鹿島 隆生(かしま・りゅうせい)

澤井さんは、高校生の頃通学路に古本屋があったことから、古本イベントや古書店街の神保町に足を運ぶようになった
澤井:古本の面白さは、二度と出合えないかもしれないこと。「今を逃したら、もう二度と手に入らない本を偶然見つけた」という瞬間を味わいたくて、古本屋を何軒も回ったり、レアな本も販売される古本屋のイベントに参加したりしています。
例えば、1971年に出版された『環境とデザイン』は、一瞬の出合いで見つけた古本です。今は売っていない箱付きの本が、新品の6分の1の価格で売り出されているのを見つけた時は驚きました! 購入した古本は宝物なので、手元にあるだけで自分にとっては価値があり、通読後は大切に保管しています。

早稲田は古本屋が多く安く本が買えるため、大学1年生の頃から古本屋通いを始めたという鹿島さん
鹿島:古本の良さは、前の持ち主の痕跡が残っていることですね。書き込みや折り目だけじゃなく、しおりや映画のチケットなどをそのままにして販売する古本屋も。誰かが読んだ痕跡が何重にも重なっている古本を見つけると、その本が自分の手に渡ってくるまでのストーリーを感じて面白いです。
金井美恵子さんの『岸辺のない海』がお気に入りなのですが、作中でウサギが登場する場面に、ウサギのイラストが描かれたしおりが挟まっているなど、運命的なものを感じて購入しました。金井さんはエッセーで、「しおり代わりに本の角を折っている」と書いていますが、それに倣ったのか本の角を折った痕跡も。ページを折った理由を想像しながら読んでいます。
写真左:『環境とデザイン』ガレット・エクボ(SD選書)
写真右:『岸辺のない海』金井美恵子(河出文庫)。鹿島さんは、印象に残った箇所や、いつかどこかで引用したい箇所に付箋を貼りながら読むそう。「ただ読み流すのではなく、書かれている言葉に正面から関わり合っていくための物質的な媒介として、付箋を使っている」と鹿島さんは話す
いざ、古本屋巡りへ
飯島書店
個性豊かな本棚から、自分好みの新たな1冊と出合う
まず訪れたのは、早稲田キャンパス西門の商店街を抜けてほど近くの飯島書店です。オープンは1970年。約20年前に明治通りの近くから現在の場所へ店舗を移転し、店主の飯島芳久さんと息子の芳樹さんが二人三脚でお店を経営しています。毎日お店を開けている飯島芳久さんはなんと88歳で、大学周辺の古本屋でお店に立つ店主の中では最年長。開業時は、早稲田に古本屋が集まり始めた頃で、学生が多く賃料も手頃だったことから、この土地にお店を構えたそうです。今回は、2代目で現在古本のオンライン販売や古本イベントへの出店を担う飯島芳樹さんに、お店の特徴を伺いました。

飯島書店で。左から澤井さん、初代店主の芳久さん、鹿島さん
鹿島:飯島書店では、どんなジャンルに力を入れていますか?
飯島:文学系や娯楽系、実用書など、読んで楽しめて役に立つ本を中心にそろえています。お客さんに興味を持ってもらうために、人気のある本や新入荷の本はなるべく店頭に出しています。お店にずっと同じ本が並んでいるとつまらないと思いますし。また、興味を持って手に取ってもらっても高いと買いづらいので、学生でも買いやすい値付けにしているんです。そうすることで、「新品だと価格が高すぎて買えない」という学生が、読書に親しみやすくなるきっかけになれば。
澤井:有り難いです! 古本屋は棚の並べ方にも個性が出ますが、何か意識しているのでしょうか?
飯島:自分が読んで面白かった作家さんの本を、まとめて並べるようにしています。例えば、1950年~1990年代に出版された松本清張さんのミステリー小説は今読んでも面白いし、最近のミステリー小説にも影響を与えていると思います。そういった影響力のある名作を学生にも読んでほしいですね。また、同じ人から一式で買い取った本はセットにして、最初は同じ棚に並べることもあります。一見するとジャンルがバラバラでも、前の持ち主と同じ趣味嗜好の人にはその棚が心に刺さることがあるんです。
鹿島:飯島書店の棚には、いろいろな人の趣味嗜好が反映されているんですね。
飯島:そうですね。古本屋の棚を眺めていると、探していたもの以外の気になる古本も見つかるはずです。ネットでも本が買える時代ですが、だからこそ古本屋で本を探してみてほしいなと思います。
写真左:「学生が本に興味を持ってくれれば」と、2冊で100円という破格の価格で売られているワゴン。「サービスだ」と芳樹さんは話す
写真右:松本清張の本が並ぶ棚
澤井
私は工学系の勉強をしているのですが、工学系や理学系の本が置いているのがうれしいポイント。実は、お気に入りの『環境とデザイン』も飯島書店で購入しました。雑誌が置かれているコーナーも飯島書店ならではだと思います。
古書ソオダ水
自由に過ごせる店内で、本と一緒にただ時間を過ごす
続いてやってきたのは、早稲田キャンパス北門を出てすぐ右手のビル2階にある「古書ソオダ水」。2018年にオープンした新顔です。外看板の横に設置された均一棚のラインアップに引かれ、店内に足を踏み入れる早大生の姿も。古本で埋め尽くされた店内には、古本屋になじみがない人も楽しく過ごせるようにと、オリジナルグッズのステッカーやTシャツなども並びます。店主の樋口塊さんならではの、お店作りのこだわりとは?

古書ソオダ水の店内にて。写真左から樋口さん、澤井さん、鹿島さん
鹿島:棚に並べるジャンルに、こだわりはありますか?
樋口:特になくて、基本的に買い取った本は全て並べています。できるだけ自由に、全部の棚をそれなりに見てほしいので、お勧めの棚は作っていないんです。ただ、自分の好きな詩歌の棚は、例えば同じグループや同じ年代で活動していた詩人をまとめるとか、どこに出しても恥ずかしくない並びにしています。その棚を見た人が、「今まで詩に全く興味がなかったけど、ちょっと読んでみようかな」と思うかもしれない。そんな期待はありますね。
澤井:店内中央のマガジンラックで、ZINE(ジン)(※)も販売しているんですね!
樋口:そうです。実際は、うちの店だとZINEはなかなか売れないし、あんまりもうけがなくて。でも本を売るのって、利益があるからだけではないですよね。お客さんからしてみたら、他で扱わないZINEを買えたらうれしいかな、と思って置いているんです。
澤井:詩歌やZINEなど、古書ソオダ水だからこそ手に入る本を探しに来る早大生もたくさんいますよ。お店をどのように活用してほしいですか?
樋口:授業の空きコマに、暇つぶしの場所として使ってもらえたらなと。古本屋での経験が役立つわけじゃないけど、人生は無駄なものが多い方が楽しいはず。大学の周辺にこれだけ古本屋が集まっているのは早稲田の特徴でもあり、貴重なことだと思うので、学生時代にたくさん利用していただけたらと思いますね。もちろん、卒業してからもどんどん本を売って、買ってほしいです。
(※)個人やグループが自由に制作し、少部数で発行した小冊子。
写真左:店内の様子。樋口さんの好きな音楽を流していて、ゆっくりとした時間を楽しめる。本棚の中には、樋口さんが手作りした棚もある
写真右:店舗前の道路にある、看板と均一棚
鹿島
古書ソオダ水には、図書館の行き帰りによく寄っていますね。詩歌の棚はもちろん、人文学系の古本や専門書が充実しています。海外文学のコーナーもお勧めです!
お気に入りの1冊を見つけよう!
古本屋で自分の興味関心を見つけて、新しい世界の扉を開く

飯島書店にて。鹿島さんは、自分の部屋に古本を積みすぎて床にひびが入るほどだそう
ひと口に古本屋といっても、特徴やこだわりはさまざま。何軒も回ってみて、その違いを知るのも楽しそうです。まだ古本屋へ入ったことのない人も古本好きな人にも伝えたい、お気に入りの1冊を見つけるための古本屋の活用方法を2人に聞きました。
鹿島:まずは、ずらっと並んだ本の背表紙を眺めることから始めてみてください。古本屋は、新刊書店や図書館などには置いていない本とも出合える場所です。背表紙を眺めるだけでも、新しい世界を知ることができると思います。
澤井:自分にとって古本屋は”興味の羅針盤”のような場所。そこで棚を眺めていると、「自分はこんなジャンルに興味があるんだ」と思いがけない方向に針が向くことも。そのためには、まず足を踏み入れることが大事です。勇気が出ないときは、誰かと一緒に行くと楽しいと思いますよ。
店舗情報
<飯島書店>
【住所】東京都新宿区西早稲田2-9-16
【TEL】03-3203-2025
【営業時間】10:00〜18:00
【定休日】日曜日
<古書ソオダ水>
【住所】東京都新宿区西早稲田1-6-3 筑波ビル2A
【TEL】03-6265-9835
【営業時間】11:00~20:00
【定休日】水曜日
【Mail】[email protected]
【X】@kosho_soda_sui
取材・文:流石 香織
撮影:布川 航太
【次回フォーカス予告】11月11日(月)公開「合理的配慮」