『早稲田ウィークリー』では、「居酒屋巡り」をフィールドワーク兼ライフワークにしている橋本健二教授(人間科学学術院)にお酒の楽しみ方について寄稿いただきました。お酒との付き合い方はそれぞれですが、このような先輩の意見も一つの参考に、自分との適度な距離を測る機会にしてみましょう。
人間科学学術院教授 橋本 健二
早大生よ うまい酒を飲め いい居酒屋へ行け
大学に入り、20歳の誕生日を迎え、酒に親しみ始めた君たちに、声を大にして言いたいことがあります。第一に「飲むなら、うまい酒を飲みなさい」、第二に「つまらない店で飲むのはやめて、いい居酒屋を探して飲みなさい」。この二つです。私の本職は社会学で、特に格差社会の研究が専門です。しかし第二の研究テーマがあって、それは酒と居酒屋です。むしろ世間的には、こちらの方で知られているかもしれません。
日本の貴重な財産である酒文化・居酒屋文化は、いま危機的状況にあります。日本酒の製造量は、1970年代に年間180万キロリットル近くに達してピークを迎えましたが、その後は急落し、現在では55万キロリットルと3割程度に減ってしまいました。居酒屋の数は、例えば東京都の場合、1996年には2万5,000軒近くあったのに、2012年には1万8,000軒を切っています。たしかにマスコミで取り上げられる日本酒の人気銘柄は売り上げを伸ばしているし、居酒屋めぐりのテレビ番組も花盛りですが、現実は厳しいのです。
なぜこうなったか。一つは業界の努力不足、もうひとつは若者たちが酒文化・居酒屋文化に親しまなくなったことではないでしょうか。この両者が相互作用を起こし、負のスパイラルを起こしてしまったと考えられるのです。
一時期、日本酒業界はもうけ主義に走り、低コストのまずい酒ばかり造っていました。成人になった若者たちが、そんな酒を飲まされて日本酒によくないイメージを持ち、日本酒から離れていきました。個性のないチェーン居酒屋が増えました。飲み放題3,000円などと称して、低コストのまずい酒とまずい料理を出し、1時間半もすると注文を受け付けず、2時間ぴったりに追い出すという、もうけ主義の店が多くなりました。学生たちも手間がかからないからか、こんな店で飲み会をやるようになり、優れた居酒屋文化に親しむこともなく、居酒屋離れを起こしていったのです。こうして酒文化・居酒屋文化は継承者を失いつつあります。
酒と居酒屋は、日本の貴重な文化遺産です。いい居酒屋ならば、専門の料理店に決してひけをとらない料理を、よりすぐりの酒とともに、格安で出してくれます。あるいは、いい酒販店を探して良質の日本酒を買い求めて家で飲んでみてはどうでしょう。店ならば一杯600円から800円ほどになる酒を、半額くらいで楽しむことができます。
酒と居酒屋についての情報は、ネットで、あるいは雑誌の特集記事などで、簡単に手に入れることができます。酒歴の最初の段階でいい居酒屋へ行き、いい酒を飲めば、きっと日本の酒文化・居酒屋文化の魅力に目覚めるでしょう。ぜひ君たちにも、この素晴らしい文化の継承者になってほしいのです。
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